捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

続アラサークエスト8

 そして、更に夜は更けて。
 マントを寝具に眠ってしまった雄太を見ていたテイルウェイは、自分に向けられた視線の主へと視線を向ける。

「……一応聞くけど、僕に何か用かい? 世界樹の精霊」
「お前は何を考えてるです、邪神」

 警戒する響きのあるセージュの声に、テイルウェイは軽く肩をすくめてみせる。

「何って? 僕は僕のしたい事をしてるだけさ」
「他の邪神共みたいにユータを手に入れようとしているわけでもなく、その割には加護を与えたり力を貸したり……近づきたいのかそうでないのかすらも分かんねーのです」
「なるほど」

 雄太の側にいる他の邪神は色々やっているのだろうな……などと思いながらテイルウェイは頷く。
 確かに雄太を手に入れれば楽しいだろうが、テイルウェイはそうするつもりはない。

「僕にはユータを手に入れてどうこうしようってつもりはないよ。その先には破滅しかない……そういうものをユータに背負わせるつもりはないんだ」
「その割にはゴヴェルを滅ぼしたですよね」
「ゴヴェルか……」

 何かを思い出すように、テイルウェイは目を細める。

「あの頃は、僕も自分の権能を制御できるものと信じてた。僕に頼り切らない仕組みが出来る事で、破滅を回避できると思ってたんだ」
「ケッ、神の権能がそんなに便利なら今頃世界は神の好き放題になってるのです」
「全くその通りだね」

 セージュの乱暴な言葉にしかし、テイルウェイは苦笑交じりの同意で返す。

「神の権能は強力であるほど融通が利かない。一部の例外を除けば、これ程傲慢な力もないと思うよ」

 だから、とテイルウェイは続ける。

「僕はユータと関わりはしても、深入りするつもりは一切ない。こうして偶に会う友人程度のポジションを保つつもりさ」
「……まあ、それならいいですが……」
「それより僕も聞きたいな。今ユータの住んでる村には幾つか神の気配があるけど……混ざってよく分からなくなっててね。今は誰がいるんだい?」

 テイルウェイの質問に、迷うことなくセージュはフェルフェトゥ達の名前を伝える。
 別に隠す事でもないし、隠す意味もセージュには感じられないからだ。
 そして聞いたテイルウェイは難しそうな顔で唸ってみせる。

「……なるほどね。中々癖の強いのが集まったものだ。でもまあ、その面子ならユータがどうにかなるって可能性も低いかな? ベルフラットは少し性格的に心配だけど」
「畑の件が無かったらあの邪神、私が追い出してるのです」
 
 ケッと毒づくセージュだが、それに関してはテイルウェイも消極的ながら同意せざるを得ない部分はある。
 邪神といっても幅はあり、「腐れし泥のベルフラット」は性格だけでいえば悪神に近いものがある。
 畑などを担当しているということは、彼女の権能もいい方向に働いているのだろう……とテイルウェイは納得する。

「まあ、一番驚いたのはフェルフェトゥだけどね。彼女がそこまで一人の人間に入れ込むとは思わなかった」
「あの邪神が村を始めたのです。聞けばユータを最初に保護したのもあの邪神という話ですから、そこだけは認めてやってるのです」
「ユータの才能を思えば不思議な話ではないね。たぶん他の邪神でも同じ事をしただろうさ」

 それこそベルフラットでも、バーンシェルでもだ。ガンダインはどうか分からないが……。
 善神でも悪神でも、雄太の才能を知れば抱え込もうとするだろうとテイルウェイは思う。

「ユータが鍛えられているのは、その辺りの理由もあるのかな?」
「スキルの件もあるのです」
「まあ、あるだろうね。でもそれなら、フェルフェトゥがバーテクスをブッ飛ばしに行けばいいだけの話だとも思うよ」
「……バーテクスなら私も知ってるですよ。アイツ、相当に強い善神のはずですけど」

 時空の神バーテクス。勇者召喚をも可能とする権能を持つ善神の事を思い出しながら、セージュは苦い顔をする。
 ミスリウム村にいる邪神も強力な連中が多いが、時空を操る権能を持つバーテクスをどうにか出来るとはセージュには思えなかった。

「出来るさ。フェルフェトゥ……「暗い海のフェルフェトゥ」だろう? 僕の知ってる彼女であるなら、バーテクスくらいは一捻りだよ。善神悪神を含めても、彼女に正面から勝てるような奴は中々思いつかないな」

 その言葉に、セージュは信じられないといった顔をする。
 ミスリウム村にいるフェルフェトゥから感じる魔力は強力ではあっても、それ程常識を逸脱したものではなかったはずだ。

「……あの邪神、そんなに強力なのですか?」
「強いよ。それ以上の事は僕から話す気はないけどね」

 言いながら、テイルウェイは雄太へと顔を向ける。
 安らかに眠っている雄太は、まだまだ目覚めそうにはない。

「その彼女が、神具を与えてまでユータを育ててるんだ。たぶん、自衛の為の力っていう側面もあるんだと思うよ?」
「……ちなみに、お前はフェルフェトゥに勝てるですか?」

 そんなセージュの問いに、テイルウェイは意外そうな顔をして……やがて、真剣に悩むような表情を見せる。

「どうかな……初撃で何もかも消し飛ばすくらいのを叩き込めばいけるかもしれないけど。やったことないし最終的な被害を考えると、あまり想像したくはないかな……?」
「絶対にやるんじゃねーですよ」
「勿論だよ」

 そんな物騒な事を寝ている雄太の前でセージュ達は話しているが……勿論、雄太の耳に届く事はない。
 ジョニーの羽毛に埋もれていた雄太は、幸せな雲の布団の夢を見ていた。

「んー、ふわふわだ……」
「コケー……」

 世界樹の精霊と光の邪神という絶対安全な見張り役に見守られながら、雄太は朝までをゆっくりと過ごすのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品