捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~
世界樹の下で
巨大な木。
世界樹の森の中にあっては他の巨大な木々に阻まれ見えなかったその威容が、雄太達の前にある。
ひっくり返りそうな程に背を逸らしても、まだ全容の見えぬ巨大さ。
外から見ればそれと分かるその巨大な姿は、この場にあっては近すぎて逆に分からない。
まるで壁のようなその姿を、雄太は驚きと共に見上げた。
「これが……世界樹……」
魔力が理解できるようになった今だからこそ、その凄まじさが雄太にも理解できる。
眩いばかりの魔力が世界樹に集い、また放出されていく。
この場に居るだけで、どんな魔法でも使えそうな。
あるいは、此処に居るだけで何処までも強くなれそうな万能感。
そんなものを感じて、ぼうっとして。しかし、肩に置かれた手の感触にハッとする。
「しっかりして、ユータ。惑わされてるよ」
「え、あれ?」
酔いが覚めるように急速にハッキリしてきた意識に、雄太は自分を呼ぶテイルウェイへと振り返る。
「今のって……なんかすっげえ気持ちよかった気がするんだけど」
「ユータは私に溺れてたのですよ」
「へ?」
何やら怪しげな事を言うセージュを雄太は見上げるが、その後を苦笑するテイルウェイが引き継ぐ。
「世界樹の放つ魔力に酔ってたんだよ。普通の場所では有り得ない程に濃厚だからね、あまり長居すると体内の魔力を全部取り替えられちゃうよ?」
「え……それって不味くないか?」
「そうだなあ。今までの人間・ユータは居なくなるかもしれないね。代わりに何か凄いユータになるかもしれない」
「え、怖……」
「別に怖くないのですよ!」
言いながら、セージュは雄太の頭をペシペシと叩く。
「そもそもエルフ共が此処に来たがるのだって、世界樹の魔力に浸かって自分を変容させる為なのです!」
「そうなのか?」
「なのです。まー、コロナを見る限りその事は忘れられてるっぽいですけど。世界樹の魔力……つまり世界を循環する魔力に身体を浸す事は、自身の可能性を拓く事なのです。その結果、この辺に生きる連中は魔獣化するのです」
「その理屈でいうと俺も魔獣化しそうなんだが……」
雄太がそう言うと、テイルウェイが「それはないよ」と笑う。
「人間は拡張性の高い種族だからね。たとえば何処かから普通のヒューマンを連れてきてもハイヒューマンになるくらいなんじゃないかな?」
「なんかまた分かんない単語が出てきたけど……凄いのかソレ」
「凄いんじゃないかな? まあ、僕達基準からすれば誤差だけれども」
そりゃ神と比べればそうだろうと雄太は思うのだが、なるほどとも思う。
つまるところ、ジョニーみたいに巨大化する危険性はないらしい。
「でも、それだったら俺が長居しても問題ないんじゃないか?」
「んー……」
「うーん」
しかし、雄太の質問にテイルウェイどころかセージュまで唸ってしまう。
「え、な、なんだよ」
「ユータは……そうだなあ。どうだろうなあ。どうなんだい?」
「今のところ、四人の邪神が加護を与えてるのですよ。あとさっき、何気にお前も加護与えたですよね?」
「ハハッ。それに加えて君の祝福か。こりゃハイヒューマンで済むか分からないね?」
なんだか聞き捨てならない言葉も聞こえてきて、雄太は思わず口を挟む。
「え、ちょっと待て。テイルウェイの加護? それにハイヒューマンで済むか分からないって……」
「僕の加護については気にしなくていいよ。とにかく、そうだね。今のユータは普通の人間に比べると大分可能性が広がってるってことかな?」
「可能性、ねえ……」
「恐らくはユータの魂が何処に惹かれてるかに依存するはずだけど。試してみるかい?」
何か怖い事を言われた気がして、雄太は思わず首を横に振る。
「やめておく。なんか嫌な予感するし」
「ハハッ、そうかい? 僕は意外に悪い結果にはならないんじゃないかと思えてきたけど。君の近くにいるのは邪神ではあるけど、悪神ではないしね?」
「私に惹かれれば何も問題ねーのです」
セージュが言いながら雄太の髪を引っ張るが、それはさておき。
「……ちなみにセージュに惹かれたらどんな風になると思ってるんだ?」
「勿論私の隣に立つに相応しい素晴らしいものになるのです!」
「たぶん精霊に近い何かになると思うよ。半精霊……いや、亜精霊とかそんな感じかなあ。ひょっとすると「人間の精霊」みたいな不可思議なものになる可能性も……」
「よし、早く枝拾って帰ろう」
なんかよく分からないが人間をやめる事が確定っぽいと雄太は慌てて周囲を見回す。
将来的な話はともかく、今は人間をやめる気はないのだ。
「いいじゃないですかユータ。精霊生活もきっと楽しいですよ?」
「今人間やめる気はないんだよ……」
「ハハッ、まあ将来的な話はともかく、こういうのは覚悟も必要だしね。それに精霊になるとも限らな……」
「黙れです邪神」
セージュに睨まれてテイルウェイは肩をすくめるが、なるほど。
あの邪神達の誰かに惹かれたなら、精霊ではなく別の何かになるのだろうと雄太は思う。
人間をやめて、そういう別の何かになる。
それもある意味楽しそうだとは思うのだが……今は、まだ。
「えーと、枝、枝……なんかぶっとい木が倒れてるばっかりだな?」
世界樹の森の中にあっては他の巨大な木々に阻まれ見えなかったその威容が、雄太達の前にある。
ひっくり返りそうな程に背を逸らしても、まだ全容の見えぬ巨大さ。
外から見ればそれと分かるその巨大な姿は、この場にあっては近すぎて逆に分からない。
まるで壁のようなその姿を、雄太は驚きと共に見上げた。
「これが……世界樹……」
魔力が理解できるようになった今だからこそ、その凄まじさが雄太にも理解できる。
眩いばかりの魔力が世界樹に集い、また放出されていく。
この場に居るだけで、どんな魔法でも使えそうな。
あるいは、此処に居るだけで何処までも強くなれそうな万能感。
そんなものを感じて、ぼうっとして。しかし、肩に置かれた手の感触にハッとする。
「しっかりして、ユータ。惑わされてるよ」
「え、あれ?」
酔いが覚めるように急速にハッキリしてきた意識に、雄太は自分を呼ぶテイルウェイへと振り返る。
「今のって……なんかすっげえ気持ちよかった気がするんだけど」
「ユータは私に溺れてたのですよ」
「へ?」
何やら怪しげな事を言うセージュを雄太は見上げるが、その後を苦笑するテイルウェイが引き継ぐ。
「世界樹の放つ魔力に酔ってたんだよ。普通の場所では有り得ない程に濃厚だからね、あまり長居すると体内の魔力を全部取り替えられちゃうよ?」
「え……それって不味くないか?」
「そうだなあ。今までの人間・ユータは居なくなるかもしれないね。代わりに何か凄いユータになるかもしれない」
「え、怖……」
「別に怖くないのですよ!」
言いながら、セージュは雄太の頭をペシペシと叩く。
「そもそもエルフ共が此処に来たがるのだって、世界樹の魔力に浸かって自分を変容させる為なのです!」
「そうなのか?」
「なのです。まー、コロナを見る限りその事は忘れられてるっぽいですけど。世界樹の魔力……つまり世界を循環する魔力に身体を浸す事は、自身の可能性を拓く事なのです。その結果、この辺に生きる連中は魔獣化するのです」
「その理屈でいうと俺も魔獣化しそうなんだが……」
雄太がそう言うと、テイルウェイが「それはないよ」と笑う。
「人間は拡張性の高い種族だからね。たとえば何処かから普通のヒューマンを連れてきてもハイヒューマンになるくらいなんじゃないかな?」
「なんかまた分かんない単語が出てきたけど……凄いのかソレ」
「凄いんじゃないかな? まあ、僕達基準からすれば誤差だけれども」
そりゃ神と比べればそうだろうと雄太は思うのだが、なるほどとも思う。
つまるところ、ジョニーみたいに巨大化する危険性はないらしい。
「でも、それだったら俺が長居しても問題ないんじゃないか?」
「んー……」
「うーん」
しかし、雄太の質問にテイルウェイどころかセージュまで唸ってしまう。
「え、な、なんだよ」
「ユータは……そうだなあ。どうだろうなあ。どうなんだい?」
「今のところ、四人の邪神が加護を与えてるのですよ。あとさっき、何気にお前も加護与えたですよね?」
「ハハッ。それに加えて君の祝福か。こりゃハイヒューマンで済むか分からないね?」
なんだか聞き捨てならない言葉も聞こえてきて、雄太は思わず口を挟む。
「え、ちょっと待て。テイルウェイの加護? それにハイヒューマンで済むか分からないって……」
「僕の加護については気にしなくていいよ。とにかく、そうだね。今のユータは普通の人間に比べると大分可能性が広がってるってことかな?」
「可能性、ねえ……」
「恐らくはユータの魂が何処に惹かれてるかに依存するはずだけど。試してみるかい?」
何か怖い事を言われた気がして、雄太は思わず首を横に振る。
「やめておく。なんか嫌な予感するし」
「ハハッ、そうかい? 僕は意外に悪い結果にはならないんじゃないかと思えてきたけど。君の近くにいるのは邪神ではあるけど、悪神ではないしね?」
「私に惹かれれば何も問題ねーのです」
セージュが言いながら雄太の髪を引っ張るが、それはさておき。
「……ちなみにセージュに惹かれたらどんな風になると思ってるんだ?」
「勿論私の隣に立つに相応しい素晴らしいものになるのです!」
「たぶん精霊に近い何かになると思うよ。半精霊……いや、亜精霊とかそんな感じかなあ。ひょっとすると「人間の精霊」みたいな不可思議なものになる可能性も……」
「よし、早く枝拾って帰ろう」
なんかよく分からないが人間をやめる事が確定っぽいと雄太は慌てて周囲を見回す。
将来的な話はともかく、今は人間をやめる気はないのだ。
「いいじゃないですかユータ。精霊生活もきっと楽しいですよ?」
「今人間やめる気はないんだよ……」
「ハハッ、まあ将来的な話はともかく、こういうのは覚悟も必要だしね。それに精霊になるとも限らな……」
「黙れです邪神」
セージュに睨まれてテイルウェイは肩をすくめるが、なるほど。
あの邪神達の誰かに惹かれたなら、精霊ではなく別の何かになるのだろうと雄太は思う。
人間をやめて、そういう別の何かになる。
それもある意味楽しそうだとは思うのだが……今は、まだ。
「えーと、枝、枝……なんかぶっとい木が倒れてるばっかりだな?」
コメント