捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~
神殿と信仰
もしコロナとは違う……本当の意味での来訪者が来るようになった時、目玉となるようなものを作るという意気込みが雄太を発奮させ、今までにない工夫をさせていたのだ。
それは組み立て式の柱の本格導入もそうだが、今回の建設の為に足場を組むようになったのも大きい。
雄太の記憶にある建築現場のものを参考に……とはいっても、あの長年工夫された結果の安定性が真似できるはずもないので、ベルフラットの力で固定して貰うというズルはしているのだが。
それでも足場の導入により、今までのようなアクロバットな感覚に頼らない作業が可能になったのは事実だ。
集会場をも超える村一番の建物として建設中の神殿はその形を見せ始め……雄太は、その内装に思いを馳せ始めていた。
「ユータ、何考えてるですか?」
「ん? 内装をどうしようかと思ってな」
「内装ですかー」
「ああ。こっちの神殿がどんな風か分からないからアレだけどさ」
雄太の居た日本は宗教に関しては大らかな風潮があり、お寺と神社を「似たようなもの」と捉えているような……まあ、神仏習合とかいうものも昔あったので仕方ないのかもしれないが、そういう風な人もいた。
ともかくお寺なら仏像があったし、神社なら鏡のような「ご神体」があったりした。
これが海外のものになると偶像崇拝を禁じていたり像があったりと色々複雑になってくるわけだが……本当に色々なパターンがある。
この世界でもこの世界の信仰独自のものがあるはずなのだから、それに合わせるべきだろうと雄太は考えていたのだが……セージュは難しい顔になる。
「んー……そうは言っても、ユータが作ってるのは邪神共皆を祀る神殿ですよね?」
「セージュも祀るぞ。エルフは精霊信仰なんだろ?」
「む、それは嬉しいですけど複雑ですね。あと問題も更に複雑になるです」
「そうなのか?」
「ですよ」
むずかしーです、と言うセージュに雄太は作業の手を止めないまま「ふーむ……」と唸る。
「俺の居た所だと合祀っていって、色んな神様を一つの所で祀ってたりしたんだけど。こっちだとそういう風習はないのか?」
「ないと思うですよ。基本的に善神悪神邪神問わず、他の奴を嫌がるです。此処が特殊なのです」
「へえ?」
雄太からしてみれば、それはなんとも不思議な感覚だ。
決して仲良しというわけではないが、邪神達はそれなりに上手くやっているように見えるからだ。
「そうは思えないけどなあ……」
「あいつ等の事言ってるなら、ユータを中心に纏まってるだけなのです。居なくなったら瓦解すると思うですよ?」
「そりゃ責任重大だな……」
苦笑しながら雄太は石を積む。
「まあ、その辺はなんとかなるとして……まさか石像置くわけにもいかないしな」
コロナが来た時にフェルフェトゥ達が必要に応じて人間のフリをしていたのは記憶に新しい。
だというのに神殿に彼女達そっくりの像を置くわけにもいかないだろう。
「その辺は私も知らないのです。ユータの好きにすればいいと思うです、が……」
と、そこでセージュは「んん?」と首を傾げる。
「どうした?」
「いえ、何か頭の隅に引っかかったような……んー」
腕を組んで悩むポーズでふわふわと流れていくセージュをそのままに雄太は作業を続けるが、やがて響いた「あ!」という声に思わずその手を止めてしまう。
「な、なんだよ。思い出したのか?」
「そういえば私を拝むエルフが何か持ってた気がするですよ」
「何かって何だ?」
「んー……なんかこう、ペンダントみたいな……?」
ペンダント。そう聞いて雄太が連想するのは、数珠や十字架のような信仰の道具のようなものだ。
いわゆるシンボルというやつだが……セージュのはっきりしない反応から察するに、紋章の類であるかもしれない。
「その辺はコロナに聞いてもいいかもしれないな。たぶん信仰のシンボル的なものだろうし。そういうのを最奥に全員分並べてもいいかも」
「ユータはかなり挑戦的な事を言うですねえ……」
「いやほら、やっぱり皆仲良くしてほしいしさ?」
全員分の小部屋に分けるという手段がないでもないが、それはそれで何だか寂しい気もするのだ。
出来れば仲良くしてほしい、と。雄太はそう思うのだ。
「まあ、既存のものに寄せる必要もないですしね。ユータの好きにするといいと思うです」
「別に教祖の類になるつもりはないんだが……」
「だとしてもこの村で祭祀を司るのはユータなのですよ? やりたいようにやるといいのです」
「む」
確かにその通りではある。
少なくとも雄太は「フェルフェトゥの神官」という立場だ。
他の邪神から雄太がどういう立場なのかはハッキリ聞いていないので微妙な所ではあるのだが、誰か一人代表者を出せと言われたら……やはり雄太だということになるのだろう。
「祭祀ねえ。お祭りとかいいよな。今の規模でやっても仕方ないけど」
「やればいいじゃないですか」
「いや、ああいうのは人数がいるから意味があるものだろ?」
雄太の頭の中にあるのは、日本の縁日のような屋台が並ぶお祭りだ。
流石に邪神とセージュ含めて7人では少しばかり寂しいというものだろう。
「なんかむずかしーですね」
「まあな」
言いながら、雄太は作業を続けていく。
そもそも信仰されていない邪神にシンボルなんてものが無い事に気付いたのは、その少し後であった。
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