捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

素敵な目覚め

 布団の効果は抜群だった。
 安眠、快眠、そして素敵な目覚め。
 藁で寝ていた頃と比べると格段に素晴らしい朝を雄太は迎えていた。

「いやあ、布団はいいな。あれは売れるレベルだよ」

 朝食の平焼きパンを齧りながら、雄太はそう力説する。
 ちなみにベルフラットの育てた麦で作ったパンだが、雄太の記憶にあるふわふわパンとは別物だ。
 確かフワフワにするにはイースト菌がどうのこうのというのは知っているのだが、そのイースト菌をどうやって手に入れるのかはイマイチ思い出せない。

「そんなにか。だとすると、交易品として考えてもいいかもしれないが……それ程羽根の量を用意できるわけでもないか」
「交易品?」

 コロナの言葉に雄太がそう聞き返すと、コロナはパンを食べる手を止めて頷いてみせる。

「そうだ。今すぐというわけではないだろうが、いつかこの村が外と交流するのであれば交易も発生するだろう。通常はそうして自分の村に足りないものを得る、のだが……」

 言いかけて、現在のミスリウム村の状況を思い出しコロナは黙り込む。

 食糧、完全自給。
 家具類、完全自給。
 生活用品、今のところ不足なし。
 贅沢品、需要無し。

「……足りないものが思いつかんな。あえて何かを挙げろというのであれば酒類だろうが……」
「酒、かあ。そういえばこっち来てから飲んでないな」

 地球に居た頃はビールを馬鹿みたいに飲んでいた気もするが、あれはどちらかというとストレス解消でもあっただろう。
 こちらに来てからは、嗜好品としての酒を求める事は無かった。

「あんまり必要とも思えないけど……コロナは酒好きだったりするのか?」
「いや、特に嗜む事はないな。祭りの時に振る舞われたものを付き合いで飲む事はあるが……」
「あー、確かに祭りっていうと酒ってイメージはあるな」
「ああ。保存も効くから交易品として酒は人気だ」

 なるほど、そういう意味では酒造に手を出してもいいのかもしれないと雄太は思う。
 ご当地ワインとか地ビールとか、そういうのは確かによく聞いていた。
 問題があるとすれば、雄太にはその辺りのスキルは一切無いということくらいだろうか。

「……誰か、酒造に関する権能とか」
「ないわ……」
「ねえよ、んなもん」
「ご期待に沿えなくて悪いけど、ないわね」

 邪神三人娘は全員が首を横に振るし、ガンダインはいつも通り朝食の場には居ない。
 となると、諦めるしかなさそうではある。

「じゃあ、酒に関しては保留だな」
「そうなるか」
「でも、そうか。交易品かあ……」

 外貨獲得手段としては、確かに真っ当だし必要だ。
 現在現金の獲得手段はフェルフェトゥの稼ぎに頼っているが、それはあまりよろしくない。
 この村が本当の意味で自立しようというのであれば、村からお金を生み出さなければいけないのだ。

「交易しようってんなら、ある程度数を出せるのは大前提だよな?」
「そうとも限らん。数を絞り高級品として提供する手法もある。だが……」

 そう言って、コロナは村を見回す。

「……正直、温泉の入湯料や井戸の水の使用料でやっていける気がしないでもない」

 どちらもフェルフェトゥの力の籠った聖水だし、効果はコロナもその身で実感している。
 この村にいると感覚が狂いそうになるが、本来聖水とはそんな溢れる程存在するものではないのだ。
 神の力を受けた聖なる水であり、小瓶に入れて売るような代物なのだ。
 
 さらに言えば、野菜もベルフラットの力が篭められている。
 金属製品もバーンシェル製だ。
 こんなに神々の手掛けたものが溢れる場所など、他にはない。

「いや、それも正直どうなんだろうなあ」
「だが必要になるぞ。無料などと言えば永遠に居座る人間も出かねない」
「そうか……っていっても、相場なんて分かんないしな」

 なにしろ、相場を理解する前に金を奪われて王都から追い出されている。
 なんか金貨とか銀貨とかがあるよな、程度の認識しか雄太は持っていない。

「皆は分かるか?」
「いや、相当高くていいとは思うが……」

 コロナは、そう言って考え込む。
 正直に言って、こんな聖地に滞在する相場など存在しない。
 邪神や精霊がいる以上は戦いにもならないだろうが、奪いに来ようとする者が居てもおかしくないのだ。

「私が考えといてあげるわ。売り物については……そうね。ユータの努力次第では面白いモノが出来ると思うわよ?」
「え、俺?」

 思わず自分を指差す雄太に、フェルフェトゥは笑う。

「そうよ。気付いてるか分からないけど、ユータの魔力は結構なものになっているのよ?」
「む、確かに」

 コロナも雄太を見て、それに同意する。
 体力も凄まじいが、秘めたる魔力も相当なもの。それがコロナの雄太に対する評価だ。

「……ということはフェルフェトゥ殿。魔具をユータ殿に作らせるおつもりか?」
「その通りよ」

 何かを納得したコロナだが、雄太は疑問符を浮かべたままだ。

「え? いや、魔具って……前にバーンシェルがくれた細工道具みたいなもの、だよな?」

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