話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

村の名は

 村の名前。
 ツキバヤシ村は却下だが、そうなると雄太は月林の姓を失う事になる。
 それが問題かというと……正直、あまり未練はない。
 しかし、そうすると今度は選択肢は無限に広がってきてしまうのだ。

「村の名前、かあ……」
「もしいずれ町の規模になったら、それがそのまま町の名になるな」

 コロナの補足に、更に悩む。
 つまり、あまり牧歌的な名前をつけると後で後悔しそうだということだ。

「んん……」

 村の特徴を表しているものがいいだろう。
 しかし、この村の特徴とはなんだろうか?
 水が出る? 違う、そんなものは特徴じゃない。

「特徴……この村の特徴……邪神と……精霊……?」
「それだけ聞くと神代の楽園のようだな」

 コロナはそんな事を言いながら食事を進める。
 感想も言うし求められれば助言もするが、新参のコロナは決して意見は出さない。
 自分でそう決めているだけに、コロナは気楽なものだ。

「神代の楽園、ねえ」

 そういうものに該当する名前は、雄太も幾つか思いつく。
 有名どころでエデン、極楽、ヘブン、アヴァロン……どれも仰々しくて、あまり村の名前には向いていない。
 というか、ユータ・ゴクラクだとかユータ・ヘブンとか名乗りたくない。
 もっと何か響き的に気軽でサクッとした名前がいいように思うのだ。

「うーん……なあ、フェルフェトゥ」
「駄目よ、自分で決めなさい? これもまた貴方の仕事よ」
「そう言われるとなあ……」

 ひょっとすると、楽園がどうとか考えるからいけないのかもしれない。
 もっと何か……キラキラと輝くような何かはないだろうか。

「ジュエル……違うな。シャイニー……うーん……ゴールデン……?」

 段々と迷走してくる雄太を全員が微笑ましいものを見る顔で見守るが、その口元にベルフラットが切った果物をそっと近づける。

「今すぐ決めなきゃいけないわけじゃ、ないわ……さ、食べて?」
「あ、ああ。ありがとう。でもなあ……んー」

 果物をシャクシャクと食べながら、雄太は悩む。
 ゴールデン、というのは却下だが着眼点としては悪くない気がする。
 黄金のような日々、とか黄金時代とかいうように、黄金とは輝ける何かの象徴なのだから。

「黄金、ねえ……」
「金属系がいいならミスリルとかオリハルコンも中々価値が高いぞ?」
「そっか、何も金にこだわる必要はないもんなあ」

 ミスリル。オリハルコン。
 そういえばオリハルコンは神の金属だとかファンタジーではよく聞くが、この世界でもそうなのだろうかと雄太は考えて……一番そういうのに詳しそうなバーンシェルへと視線を向ける。

「なあ、バーンシェル」
「んだよ」
「オリハルコンって、やっぱり神の金属だったりするのか?」
「人間にゃ、そう言われてんな。でもありゃ珍しいってだけで普通に金属だぞ」

 つまらなそうに言うバーンシェルに、コロナが何とも微妙な顔をする。

「バーンシェル殿、オリハルコンにその言い様は……」
「金属は金属だって言ってんだろ。別にどの神もオリハルコンを特別愛してるわけじゃねえよ」

 希少で、素晴らしい性能を持っているから人間の間で「神の金属」と呼ばれているだけであって、特別に神がオリハルコンを造り出したわけではないのだ。

「嘘だと思うんなら、土の神か金属の神辺りを探して聞いてみろ。きっと微妙な顔すんぞ」
「そのような事を言われても……」

 コロナは困ったような顔をするが、当然だ。
 神霊化した神に話しかけられるような才能はコロナにはないし、神殿に行ったところで姿を現してなどくれないだろう。

「オリハルコン、かあ……」

 神の金属。その名前を使ってもいいだろうが、やはり少し仰々しいだろうか?
 だとするとミスリル、だろうか。

「なあ、ミスリルってのは神の金属って呼ばれてたりは……」
「流石にそこまでではないが、聖なる金属と呼ばれてはいるな」
「ただの金属だぞ、あれも」

 コロナの説明にバーンシェルが補足するが、そこは聞き流してなるほど、と雄太は頷く。
 神と精霊のいるこの村は、確かに「聖なる」というイメージは合いそうだ。
 まあ……神には「邪」がつくのだが「悪」ではないので平気だろう。
 流石にそのまま使うのは何なので、少しばかり変えてみれば……。

「ミスリウム、ってのはどうだろうな」
「ふーん?」
「ミスリルの「聖なる」にかけたわけだな。確かに神の金属と呼ばれるオリハルコンからとるよりはいいかもしれんな」

 フェルフェトゥは相槌程度だが、コロナは乗り気な様子でそう頷く。

「いいと思う、わ」
「別にいいんじゃね?」

 ベルフラットとバーンシェルからもそんな返答を受け、雄太は大きく頷く。

「よし。なら今日からこの村はミスリウムに決定だ!」
「ならユータの名前は今日からユータ・ミスリウム……というわけね」

 楽しそうに笑うフェルフェトゥに雄太はそうだな、と答える。

「というわけで、今日からユータ・ミスリウムってことになる。よろしく頼む」
「うむ、よろしく頼む」
「素敵よ、ユータ」
「何も変わらねえけどな」

 コロナやベルフラット、バーンシェルに祝いの言葉を……いや、バーンシェルのは違うが、ともかく祝いの言葉をかけられて雄太は照れたように頭を掻く。
 
 こうして、名無しの村はミスリウム村へと変わり……月林雄太はこの日、ユータ・ミスリウムとなった。
 それは一つだけ残った元の世界との繋がりの、完全な決別でもあった。

「捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く