捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~
初めての来訪者9
「倉庫……これか。鍵をかけていたほうがいいようにも思うが……このニワトリ達の方が余程優秀かもしれないな」
「俺もそう思う……というより、流石に鍵は造り方が分からない」
何かカチってなるのは分かるんだけどな……と呟く雄太に驚きつつも、コロナは納得したような気持ちになる。
買うのではなく、作る精神が根付いている。
それは、このヴァルヘイムで生きるのに必要な強さだ。
「食料が必要って言ってたし、後で頼んで用意しておくよ」
「ああ、助かる。頼むというのは、フェル殿のことだな?」
「ん? まあ、そうだけど」
フェル、というのがフェルフェトゥの事であることくらいは雄太も聞かなくても分かる。
しかしコロナが固そうな人間であることも事実で、フェルフェトゥをあだ名で呼ぶとも思えなかった。
だから、とりあえず雄太もフェル呼びにのってみることにする。
「フェル……は、頼りになるから。きっと全部いい感じに整えてくれると思うんだよな」
「ふむ。助けられた時も思ったのだが……フェル殿は奥方か?」
「ぶっ!?」
思わぬ台詞に雄太はバランスを崩して躓きそうになり、走り込んできたジョニーの身体にモフッと埋もれる。
「あ、ありがとう……」
「コケ」
気にすんな、とでも言ってそうなジョニーから離れると、雄太はコロナへと視線を向ける。
「お、奥方って……」
「なんだ。違うのか? てっきりそうだと……ああ、そうか。まだ式をあげていないのだな?」
「い、いやいや。それ以前に恋人とかじゃ……」
「そうなのか?」
不思議そうなコロナに、雄太は何故そんな考えに至ったのかと思うが……同居している事実を考えると、あまり否定できない事にも気付く。
しかも、ベルフラットも同じ部屋で寝起きしている。これがバレるとハーレム男扱いされても明確に否定できない。
実際にはそんなハーレム男呼ばわりされるような事実は一切ないとしてもだ。
「……うん。そうだぞ?」
「何か怪しいな……そういえばフェル殿は小さいが、まさか結婚適齢期に達していないのでは……」
「それはない」
あやうく危険な疑惑をかけられそうになった雄太は即座に否定するが、実際に嘘は言っていないはずだ。
フェルフェトゥも神であるなら、人間とは比べ物にならない年であるはずだ。
実際に何歳であるかなど、聞くつもりもないが。
「そう、か?」
「ああ。ていうか、俺は今のところ恋人も居ないし独身だし」
言いながら微妙にダメージを受ける雄太だが、あらぬ疑惑を受けるよりはいくらかマシだと自分を納得させる。
「だが、この村を開拓する仲間なのだ。多少は思うところもあるだろうに」
「ん? んん……」
それを言われると実に厳しいものはある。
あるが、そういう点で考えると……やはり色んな点で難しいんじゃないかとも思ってしまうのだ。
「そういうのは……いてててっ!? こらセージュ! 髪引っ張るな! 抜ける、ハゲる!」
急にグイグイと髪を引っ張り始めたセージュを雄太は慌てて掴むが、セージュは雄太の髪を離さない。
冗談ではない。髪は長い友達なのだ、まだ別れるつもりはない。
「ユータに一番近いのは私なのですよ!?」
「とりあえず髪離せ、セージュ!」
「ヤです!」
「なんでだよ!?」
なんとかセージュの手から髪をどうにかしようと頭の上で手を動かす雄太と、その手に蹴りを入れながら髪をグイグイと引っ張るセージュを見て、コロナは思わずプッと吹き出してしまう。
「は、ははは……あはは! 凄いなユータ殿は! 精霊様とそんな……くっ、ふふふ!」
「笑い事じゃないから! セージュ、待て! それ以上引っ張ると危険だ! 話し合いをしようじゃないか!」
「私の事が一番好きって言えです!」
「えっ。それはうーん……いででで!?」
見かねたらしいジョニーとキャシーがセージュを両脇から突くが、セージュは「きゃー」と叫びながらも中々雄太の髪を離さない。
「こ、このニワトリ共! 霊化した私に触れられると思うなですよ!」
セージュがそう叫ぶとコロナの目からはセージュが消えるが、同時に引っ張られていた雄太の髪がぱさりと雄太の頭の上へと戻る。
「よし、ナイスだジョニー、キャシー!」
雄太はその瞬間に身をサッと屈めるが、すぐに再度実体化したセージュが雄太の髪を掴もうとして……しかし一瞬早くジョニーにパクリと咥えられる。
「ぐわー、です! このニワトリ! どこまでも私の邪魔をするつもりですね!? ユータの契約相手といえど容赦しないですよ!?」
「はいはい、そこまで。セージュの事は普通に好きだから」
言いながら雄太がジョニーの嘴に手を伸ばせば、ジョニーはセージュをパッと離す。
その瞬間に雄太はセージュをそっと……しかし頭に飛び掛かられないように掴み、見つめる。
「一番がどうこうとかいうのは、とりあえず置いとこう。な?」
いつの間にか倉庫の裏から見てるベルフラットの視線が怖いから、とは言わない。
セージュも視線を悟ったのか「うわ、重い女が見てるです……」と呟いてはいたが。
「ふふ……ユータ殿は本当に好かれているのだな」
「そう、だな。凄く嬉しいとは……思ってる」
雄太としてはそれ以上言及するわけにもいかず、笑って誤魔化す。
けれど、嫌われていないと感じられるのは……それは、素直に嬉しかったのだ。
だから、誰が一番とかいうのは誤魔化しても。
嬉しいという事実だけは、否定しなかった。
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