捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

初めての来訪者

「な、なんだあ……?」

 神殿建設の為に石を積んでいた雄太は、積みかけの壁の上から「それ」に気が付いた。
 なんだか遠くの方からヨロヨロと歩いてくる鎧姿の誰か。

「よっ、ほっ……と!」

 慣れた動きで地面へ降りると、その誰かが来る方向へと走り出す。
 不健康のスキルが反転してから身体能力が僅かに上がった気がするが、フェルフェトゥに言わせれば普段の肉体労働による鍛錬の結果がきちんと出るようになった結果……であるらしい。
 走り、その途中で鍛冶場から出てきて伸びをしているバーンシェルを見つける。

「お、ユータか! 聞け、実はだな」
「あ、バーンシェル。悪い、今ちょっと何か妙なのがこっち向かっててさ」
「妙なのだあ? ああ、確かに匂うな。こいつぁ……」
「そんなわけで行かなきゃ! 後でな!」
「あ、おいコラ!」

 走り去ろうとする雄太を追いかけ追いつき、バーンシェルは併走する。

「一人で突っ走るんじゃねえよバカ!」
「え? あー、いや。悪い」
「ったくよお……」

 言いながらも、二人はすぐに村の端まで辿り着く。
 丁度温泉のある辺りだが、ヨロヨロと歩いてきた全身鎧の何者かは雄太を見ると「あ……」と呟いて膝をつく。

 血のように真っ赤な全身鎧を纏い、荷物袋を背負い腰に剣を帯びた……何者か。
 それを見て、雄太は横のバーンシェルへと顔を向ける。

「……冒険者ってやつか?」
「どうだかな。アタシにゃ騎士にも見える。つーか、こいつ……」
「突然の御無礼、ご容赦頂きたい。私は……」

 言いかけて、全身鎧はぐらりと倒れて地面に横たわる。

「な、なんだあ!?」
「あー、太陽呪だな。フェルフェトゥの奴呼んでこい。こういうのはアイツが一番対処できる」
「へ? 太陽呪?」
「ヴァルヘイムは基本的に乾いてんだろ? かかりやすいんだよ」
「熱中症みたいなもんか。てことはヤバいじゃないか! おーい、フェルフェトゥー!」

 慌てて走っていった雄太を見送ると、バーンシェルはしゃがみ込んで全身鎧の兜をとる。
 そこからぴょこんと出てきた尖った耳を見て「あー、やっぱりか」と呟く。
 エルフ。自然と生きるというお題目を掲げ、神よりも精霊に対する信仰が強い種族だ。

「ふーん? ホワイトエルフか。体力ねえだろうに、無茶しやがるぜ」

 エルフは大別すれば二種類に分かれる。
 肌が白く魔力操作に長けたホワイトエルフ。
 肌が浅黒く身体能力の高いブラックエルフ。
 ホワイトエルフは文官や魔法士になり、ブラックエルフは戦士や騎士になるというのが一般的だ。
 目の前で倒れているエルフは、間違いなくホワイトエルフだ。
 輝くような金の髪と、白い肌。日焼けしないというから、他の種族からしてみれば実に羨ましい話だろう。

 着ている鎧は、それなりに良い出来のようだ。
 細工物としては上々で、幾つかの魔法がかけられ実戦で使うにも問題ないだろう。
 まあ、どちらかというと儀礼用に近いようにも思えるが……元々エルフの武具はそういうものが多い。
 納得できない格好で死地に向かうのをエルフは何よりも嫌がるのだ。
 死ぬからかもしれないからこそ、自分を飾っておきたい。
 そう考えるのがエルフ的思考であり、それ故に儀礼用の装備も実戦級に仕上げてしまう。
 ある意味ではドワーフをも超える偏執狂だろう。

「ちょっと、そんなに引っ張らないでちょうだい?」
「おーい、連れてきたぞー!」

 慌てたようにフェルフェトゥの腕を引いて走ってくる雄太と、困ったように引っ張られてくるフェルフェトゥ。
 その転びそうにも思える足取りを見てバーンシェルは「何かわい子ぶってんだ」と言いたくなるが、それをぐっと抑える。

「ほれ、フェルフェトゥ。こりゃお前の担当だろがよ」
「あら……太陽呪ね。いいわ、ユータ。家まで運んでちょうだい?」
「あ、ああ……って、へ? 耳が……エルフなのか?」
「おう、ホワイトエルフだ」

 すぐに女である事にも気付いた雄太は「いいのかな……後でセクハラとか言われねえかな……」などと言いながらもエルフの女の肩と膝の辺りへと腕を差し込む。

「よ……っと!」

 腰に負担をかけてぎっくり腰を発動させないようにゆっくりと持ち上げ、雄太はエルフの女を抱き上げる。

「おー、やるじゃねえかユータ。結構重量があるはずなんだがな」
「はは……まあ、このくらいならいけるみたいだ」

 バーンシェルの見立てでは、エルフの女の鎧はミスリルと鉄を混ぜたもの。
 純ミスリルよりは対魔法能力が下がり、物理的な防御力も下がってしまう。
 更には重量も増えるので「良い出来」ではあっても、あまり良い鎧とはいえない。
 その割には細工やかけられた魔法はそれなりだが……その辺りがどうにもアンバランスに思える。
 まるで、そう。豪華な調味料をたっぷりと使い手間暇かけたクズ肉のステーキのような、そんな感じだ。
 エルフが作ったと言われれば納得いくのだが、同時に首を傾げるような……鍛冶に携わる者として、何か気持ち悪いものを感じさえする。

「……ま、いいか」

 どうせ治療の間に鎧も外すだろうし、その時ゆっくり見ればいいか……とバーンシェルは二人の後をついていく。

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