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捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

とあるエルフの旅路

 そのエルフは何故私が、という気持ちでいっぱいだった。
 未踏地域ヴァルヘイム。その不毛さ故にほとんど開拓の進まぬその場所の、更に先。
 肥沃な緑溢れる、モンスターでもないのに強力に育った「世界樹の守護者」達のひしめく世界樹の森への旅路を命じられたのだ。

 ある日、空からヴァルヘイムへと降り注いだ光。
 ほとんどの人間が気付かなかったらしいそれを、「静謐の森」のエルフの長老が感じたのだ。
 恐らくは何らかの神の力であるだろうというそれが何故ヴァルヘイムに降り注いだのかは誰も分からない。
 しかし、きっと何かがあったのだろう。

 そしてもしそれが、世界樹に何らかの影響を及ぼそうとする悪神の企みであったなら。
 そう考えたエルフ達による会議は紛糾し、四人のエルフの若者を選び出した。
 すでに廃れている「世界樹への礼拝の旅」などという建前まで持ち出して、だ。
 そのうち一人は体調を崩したことで「今は俺に来るなということだ」とのたまい、あと二人は互いをパートナーとした結婚を宣言して祝儀代わりに旅を免除された。

「許せん……何がお前なら大丈夫だよ、だ! どいつもこいつも私を何だと思ってるんだ……」

 エルフの年は、今年で168。千年以上の時を生きるエルフとしてはかなりの若輩だが、それでもエルフの国リーンセルトの騎士なのだ。
 凄まじい快挙だと当時は褒められはしたが、その後ついた綽名は「オウガエルフ」だった。

 まあ、その後それを広めた奴を見つけ出して「お前を引き裂いてやろうか」と暴れて泣き声が枯れるまでボコボコにしたのは悪かったかもしれない。
 その事件で綽名が「ブラッドオウガ」になったのは……まあ、我慢はした。したのだ。
 惚れた男に告白した後「許してください」と土下座されたのも我慢しよう。
 そのくらいで怒るほど狭量ではないつもりだった。

 戦果をあげて王から「ブラッドナイト」の称号を賜ってしまったのもまあ、我慢できる。
 血のような真っ赤な鎧を賜った事だって、栄誉と思えた。そう思い込んだ。
 しかし、その結果がこれである。
 体調不良だの結婚だのというが、絶対に自分と旅をしたくないだけだ……と女は知っている。
 モンスター討伐でオウガを素手で引き裂いて血を絞ったらしい、とかいう噂が流れているせいだ。
 もちろん流した奴は見つけて謝罪させている。平和的にだ。
 ちなみに平和的の基準は刃物を抜いたか否かである。

 ともかく、王直々に命令されてしまっては断れるわけがない。
 この任務を終えれば願いを一つ叶えるとまで言われている。
 真っ赤な鎧ではなく真っ白な鎧をお願いしてイメージの一新を狙う予定である。

「しかし……きつい……」

 未踏地域ヴァルヘイムは乾いた土地だ。
 雨もほぼ降らないと言われており、ひび割れた大地が続くような場所だ。
 何度も開拓されようとしては諦められ、あちこちに打ち捨てられた村の残骸があるといわれている。
 進退窮まった盗賊連中ですら近づかないとされる、そんな場所。
 なんとか頑張って開拓しようとしている場所でも水が出ず、自然と心が荒んで一夜の宿すら断られる始末だ。

 そして、すでにヴァルヘイムに入ってから二十一日目。持ってきた水は節約しているからまだあるが、心許ないのは確かだ。
 馬を使えば歩くスピードは短縮できても補給が出来ないから馬がもたない。
 渇きには強いとされるバジリスクですら、このヴァルヘイムには音を上げるという。
 故に、世界樹の森までの道を踏破しようと思えば歩きしかない。
 そんな、まるで修験者のような旅路。実際に試練の旅とも呼ばれ、これを成し遂げれば高い地位を約束されるとすら言われている。
 王が「願いを叶える」と女に言ったのも、決してその場限りの話ではないのだ。
 
 だが、そうだとしても。この旅は想像以上に辛い。
 この乾いた場所を乗り越え世界樹の森に辿り着けたとしても、消耗しきった体力で「世界樹の守護者」達の中を抜けていかなければならない。
 およそ七百年程前の情報でもかなり厳しかったと聞いているから、今もそれは変わらないだろう。
 そんなものが待っているとなっては鎧を着て行かないわけにもいかず、その鎧の重さが更に彼女を消耗させる。

「ああ、くそっ。くそっ……まさか皆、私が死ねばいいと思っているんじゃないだろうな」

 そんな被害妄想まで漏れ出てくる始末だ。
 普段の彼女であれば絶対に口に出さないであろう、そんな言葉すら漏れ出る程に消耗し、渇いている。
 ぐらりと倒れそうになる感覚を感じ、それでも女は踏み止まる。
 まずい。太陽呪だ。渇きと暑さによってかかりやすいとされるソレの予兆を感じ、腰の水袋を開ける。
 温くて不味い水で口を僅かに潤し、歩く。

 日陰など期待できそうにもない。
 夜になるまで歩いて、そこで僅かに体力を回復させるしかない。
 眠るわけにはいかない。どんなモンスターが出るともしれないのだ。

「歩かねば……大丈夫だ。もう少し歩けば、きっと世界樹が見える……そうすれば……」

 ぼうっとする頭。意識にかかろうとするもやを振り払いながら歩く。
 拙い、太陽呪だ。なりかけている。
 しかし、これ以上水を消耗しては。
 葛藤する女の前に現れたものは。

「なんだ、あれ。建物……村……こんな、場所に……?」

 いや、それだけではない。
 女の目に見えるものが確かなら、木が生えている。
 まさか、水が。水が出ているのか。

「は、はは……ははは!」

 笑いが漏れる。助かったと、助かると。
 思わず涙が零れてくる。

「あそこまで、あそこまで歩けば……!」

 重い身体を引きずり、エルフの女は歩く。
 一人の人間と邪神達の暮らす、その村へ。

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