捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~
反転現象
「え……?」
バキン、ゴキンと。何かが折れて割れるような音がする。
バチン、バチンと。放電するかのように、雄太の身体から何かが溢れ出る。
「ユ、ユータ!? それは……」
セージュが慌てたようにやってくるが、フェルフェトゥが素早く掴み取る。
「離せです!」
「いいから、見てなさい」
ジタバタするセージュをそのまま捕まえているフェルフェトゥの近くへと、ベルフラットもやってくる。
「……始まるのね」
「そうよ。いよいよ始まるわよ……反転が」
「反転……!? てことは、これって……!」
「ええ、そうよ」
放電する雄太へと、フェルフェトゥは笑う。
「喜びなさい。貴方の努力が、報われようとしているわ」
「う、うわ……っ」
ガシャン、と。何かが破滅的に砕ける音と共に雄太からの放電が止まる。
だが、それでは終わらない。
何処か遠くからの輝きがそのまま雄太へと目掛けて飛来し……けれど、村の上空で何かに弾かれて消失する。
「無駄よ、バーテクス。今更慌てたってダメ。貴方の呪いは反転する。ユータの中は、もう私達で満たされているのだから」
「……やりかえす?」
「放っておきなさい。無駄と分かればもう手出しは出来ないわ」
「……そう」
放心したようにぼうっとしている雄太の元へと、フェルフェトゥの手から抜け出したセージュが飛んでいく。
「ユータ! 大丈夫ですかユータ!」
「あ、バカ……」
「へっ?」
フェルフェトゥの声にセージュが振り返ったその瞬間、雄太の中へと魔力が流れ込んでいく。
放出したものを戻すかのように物理的な風を伴うそれは、「ひゃー」と叫ぶセージュを巻き込み雄太の顔にペチンとぶつける。
「いてっ!?」
その瞬間に魔力の流入は止まり、意識を失っていたかのように見えた雄太が覚醒する。
「なんだこれ……セージュ……?」
「わあ、ユータ! 大丈夫だったですか!?」
「え。いや、何が……?」
そんな2人の様子を見ていたフェルフェトゥとベルフラットだったが……やがてベルフラットが身をかがめ、フェルフェトゥに小声で囁く。
「……貴方はどう思うのかしら」
「さあ。予想と違う形になってるのは確かね」
ベルフラットへとそう答えると、フェルフェトゥも雄太の元へと歩いていき、雄太につままれていたセージュを奪い取ってポイッと捨てる。
「ひゃー」
「あっ」
「アレはいいの。とりあえず反転おめでとうユータ。身体の調子はどう?」
「あ、ああ。すこぶる良いように思えるけど……何か変わったのか?」
「そうねえ……」
フェルフェトゥは雄太をじっと見ると、その身体の中に新たに生まれたスキルを読み取る。
「不健康が反転して、変なのが混ざってるわね」
何処となく不機嫌そうなフェルフェトゥに疑問符を浮かべたベルフラットが雄太を見た後に、何かを理解したように眉を顰めるが……雄太としては何が何だか分からない。
「なあ、セージュ……お前は何か分かるか?」
「え? んー……あ!」
「分かるのか?」
「分かるですよ、ふふふ……」
ふよふよと飛ぶセージュと、不機嫌そうなフェルフェトゥとベルフラット。
何故そんな感じなのか。一体「不健康」がどう変わっているというのか。
「おい、セージュ」
「そこの邪神共に聞けばいいじゃないですか」
「馬鹿、なんか今聞いたら怖そうだろ!」
明らかに不機嫌な二人に声をかけるのが躊躇われて雄太がそう言うと、セージュはうふふ、と笑う。
「仕方ないですねえ。ユータの不健康とかいうスキルは「祝福受けし健康」になったですよ」
「……祝福? それでなんで、あの二人が不機嫌になるんだよ」
「それはですねえ。神だったら「加護受けし」になるからであって、祝福だと私達精霊からだから……なのです」
「あー……」
なるほど、と思う。つまりセージュ一人の手柄みたいな形になってしまったということなのだろう。
それは確かにフェルフェトゥ達としてはあまり気分が良くないに違いない。
「えっと……大丈夫だぞ? フェルフェトゥとか、あと皆のおかげだって分かってるし」
「そんな事は知ってるのよ。そこのソレが余計なことしたのが気にくわないの」
フェルフェトゥの予想では、雄太のスキルは全能力を低下させる「不健康」から全能力を上昇させる「超健康」になるはずだった。
それだけの事を雄太はしていたし、あの場でセージュが混ざらなければ実際そうなっていただろう。
しかしセージュの魔力が多大に混ざって「祝福されし健康」となったことで、その効果は大きく変わった。
その効果は「全ての原因による能力低下の防止。呪詛、病気、毒の無効化」である。
これはこれで相当に強い効果であることは間違いない。
しかしフェルフェトゥの加護によって病気や呪詛の類が防げてしまう以上は意味のあまり無いスキルとなってしまったのも確かだ。
万が一フェルフェトゥの加護を抜けてくるようなものがあれば役に立つだろうが……。
「……はあ、まあいいわ。とりあえず一つは反転させた。あと一つはもう少しかかりそうだけど……」
「でも、前には進めたよな」
「そうね」
雄太の言葉に、フェルフェトゥは頷いて。雄太は、ゆっくりと拳を握る。
「なら、もう一つだって反転させてみせるさ」
「そ、前向きで良い事だわ」
「素敵ね、ユータ。私からもおめでとうを……」
「アンタは畑よ。倉庫出来たんだから、やる事はいっぱいあるでしょうが」
ベルフラットを引きずって畑へと連れて行きながら、フェルフェトゥは気付く。
祝福されし健康の効果……全ての原因による能力低下の防止。呪詛、病気、毒の無効化。
そう、「全ての原因による能力低下」。
これがもし……「老化による能力低下」も含まれるとするならば。
「やっぱりタチ悪いわね……精霊は。無邪気に病んでるんだもの」
「何の話、かしら」
「なんでもないわ。ユータとはこれからも長い付き合いになるかもしれない……ってことかしらね」
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