捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~
星空の下で2
「え? でも……」
「いい? 「見える」時点で神官としては最上級なのよ?」
「なら触れたらもっと上ってことじゃないのか?」
疑問符を浮かべる雄太の額を、フェルフェトゥは額を指で弾きながら溜息をつく。
「あのね、ユータ。自分達の常識を覆す「オンリーワン」への態度が、歓迎や許容だと思ってるのかしら?」
「どういうことだ?」
「察しが悪いわねえ」
だからダメなのよ、と言うフェルフェトゥに雄太は思わずムッとするが、自分が世渡りがあまり上手くないことは自覚があるので黙って先を促す。
「その先にあるのは「排除」よ、ユータ。自分達の利権を侵すものを彼等は容認しないわ。具体的に言うなら……詐欺師として処刑されるか、受け入れた振りして毒殺ってところね」
「うげっ……まさかそんな」
「だってそうでしょう? 突然現れた「自分達より凄い」奴。目障りな事この上ないじゃない」
なるほど、有り得ない話じゃないと雄太も思う。雄太の能力は別に強くなるわけでもなければ広く万人にに証明できるわけでもない。
神様の側から協力があれば話は別だろうが……それはつまり、単体で完結しないということでもある。
フェルフェトゥの言う通り、邪魔だと思われれば簡単に排除されてしまう。
それこそ、初日に王都から追い出されたように……だ。
「あー……まあ、俺が強いってわけじゃないしなあ」
「それに、ね。善神や悪神に目をかけられたとしても、然程幸せにはなれないわよ?」
「ん? なんでだ?」
「だって、あいつ等にとっては雄太は「大勢の中の一人」よ? 私みたいにユータを甘やかすと思う?」
「む」
確かに、立派な神殿で崇められている神様が雄太を養ったりという光景はあまり思い浮かばない。
「多少は大事にしてくれるでしょうね? で、同じ神官に虐められて……そんな生活、したかった?」
ある意味でそれは「成り上がり物語」の黄金パターンではあるだろう。
あるだろうが……今の雄太の答えは簡単だ。
「あー……いや、ないな。うん、ない。ストレス溜まりそうだし」
思い返せば、今はストレスとは無縁の生活だ。
ギスギスした中で生活したいなどとは、微塵も思わない。
「でしょう?」
「だな」
確かに雄太の持っている能力は、凄いものなのだろう。
しかし、それを武器にすることが必ずしも正しいというわけではない。
言ってみれば、ただそれだけの話なのだ。
「で? どうして突然そんな事考え出したのかしら?」
「んー……セージュがな、俺の力は結構凄いって言うから。そういうのを活かす道もあったのかなー……ってな」
「あの駄精霊。ロクなこと言わないわね」
チッと舌打ちするフェルフェトゥに、雄太は苦笑する。
「セージュは悪くないだろ。俺が色々考えちゃうだけだって」
「そんなことを考えても良い事なんてないわよ?」
「それはセージュにも言われた」
分かっていても考えてしまうのだ。
「なんだろうな。過去を振り返っても意味が無いのは分かってるんだ。こんな「もしも」なんて、意味はない。セージュの言うように「何処にも繋がらない」のも分かってる。それでも考えるのは……」
「考えるのは?」
「……確認作業、なのかもしれないな」
今が大切であると、今が間違ってないと信じ直す為の確認作業。
自分を理解して、その先へと歩む為の儀式。
「あのまま王都に居るよりも、今の方が幸せだって。そう確認する為のものなのかも、とは思う」
実際、今の雄太は幸せだ。
足りないものばかりが多くて、倒れるまで動くことも多い。
けれど、充実している。毎日を「楽しい」と強く感じているのだ。
「地球でも死ぬほど働くってのはザラだったけど……何だろうな、何が違うんだろうな」
達成感?
やればやる程出る成果?
それもそうだろう。けれど、それだけではない気もする。
雄太は横に座っているフェルフェトゥを眺める。
「なにかしら?」
「ん、いや」
もし、フェルフェトゥに出会えなかったら。
もし、フェルフェトゥが雄太を拾わなかったら。
そんな「IF」を考えそうになって、雄太はそれを鼻で笑う。
「……フェルフェトゥ」
「なあに?」
「ありがとう」
「突然ね」
そう、確かに唐突過ぎる。言われたほうだって困惑するだろう。
けれど、フェルフェトゥの顔にはそうした困惑は浮かんではいない。
「……ユータは、そういう人間ってことね」
「え」
「人間も神も、大別するなら2つに分けられるわ」
それは「振り返る」者と「振り返らない」者。
振り返らない者は単純だ。前だけを見て、どんどん突き進んでいく。
それは大抵の場合は前向きとかポジティブとか表現されて、良いモノであるとされる。
振り返る事はネガティブで悪とされるのだ。
「私も大筋では賛成よ。でも、振り返る事が必ずしも悪というわけでもないわ」
セージュも言ったように、「何処かに繋がる」なら振り返る事は意味がある。
たとえば、「こうすればああなっていた」とか「此処はこう改善すべきだ」とか。
そして、あるいは……もっと単純に「何かに気付く」とかだ。
「振り返らない者は気づかない。でも、振り返る者は色々なものに気付くわ」
落とした大切な何かに気付く者もいるだろう。
掴むべき何かに気付く者もいるだろう。
それは様々だ。そして、それらに共通する特徴は「学ぶ」ということだ。
振り返らない者には永遠に手に入らないソレは、本人を強く大きく成長させる。
「で、今回ユータは何を振り返って「ありがとう」という結論に至ったのかしら?」
「あー……いや、ほら。フェルフェトゥに拾われた事が俺の分岐点だったからさ。そこから色々助けられて……まともにお礼も言ってなかった気がするし」
「ええ、そうね?」
クスクスと笑うフェルフェトゥに、雄太は自分が物凄く不義理な人間であるような気がして言葉に詰まりそうになる。だが、それでももう一度言わねばならないと口を開く。
「だから、ありがとうって。そう言わなきゃいけないと思ったんだ」
「そう」
雄太にそう短く答えると、フェルフェトゥは雄太の肩に自分の身体を預けるようにして肩をぶつけてくる。
「ねえ、ユータ」
「ん?」
「ユータは今、幸せってことでいいのかしら?」
「ああ」
その答えは、迷う必要すらない。
「間違いなく幸せだ」
「そう」
それは良い事だわ、とフェルフェトゥは呟く。
見上げた星空は気のせいか、先程よりも美しく輝いていて。
雄太は、今の幸せを強く噛み締めた。
「いい? 「見える」時点で神官としては最上級なのよ?」
「なら触れたらもっと上ってことじゃないのか?」
疑問符を浮かべる雄太の額を、フェルフェトゥは額を指で弾きながら溜息をつく。
「あのね、ユータ。自分達の常識を覆す「オンリーワン」への態度が、歓迎や許容だと思ってるのかしら?」
「どういうことだ?」
「察しが悪いわねえ」
だからダメなのよ、と言うフェルフェトゥに雄太は思わずムッとするが、自分が世渡りがあまり上手くないことは自覚があるので黙って先を促す。
「その先にあるのは「排除」よ、ユータ。自分達の利権を侵すものを彼等は容認しないわ。具体的に言うなら……詐欺師として処刑されるか、受け入れた振りして毒殺ってところね」
「うげっ……まさかそんな」
「だってそうでしょう? 突然現れた「自分達より凄い」奴。目障りな事この上ないじゃない」
なるほど、有り得ない話じゃないと雄太も思う。雄太の能力は別に強くなるわけでもなければ広く万人にに証明できるわけでもない。
神様の側から協力があれば話は別だろうが……それはつまり、単体で完結しないということでもある。
フェルフェトゥの言う通り、邪魔だと思われれば簡単に排除されてしまう。
それこそ、初日に王都から追い出されたように……だ。
「あー……まあ、俺が強いってわけじゃないしなあ」
「それに、ね。善神や悪神に目をかけられたとしても、然程幸せにはなれないわよ?」
「ん? なんでだ?」
「だって、あいつ等にとっては雄太は「大勢の中の一人」よ? 私みたいにユータを甘やかすと思う?」
「む」
確かに、立派な神殿で崇められている神様が雄太を養ったりという光景はあまり思い浮かばない。
「多少は大事にしてくれるでしょうね? で、同じ神官に虐められて……そんな生活、したかった?」
ある意味でそれは「成り上がり物語」の黄金パターンではあるだろう。
あるだろうが……今の雄太の答えは簡単だ。
「あー……いや、ないな。うん、ない。ストレス溜まりそうだし」
思い返せば、今はストレスとは無縁の生活だ。
ギスギスした中で生活したいなどとは、微塵も思わない。
「でしょう?」
「だな」
確かに雄太の持っている能力は、凄いものなのだろう。
しかし、それを武器にすることが必ずしも正しいというわけではない。
言ってみれば、ただそれだけの話なのだ。
「で? どうして突然そんな事考え出したのかしら?」
「んー……セージュがな、俺の力は結構凄いって言うから。そういうのを活かす道もあったのかなー……ってな」
「あの駄精霊。ロクなこと言わないわね」
チッと舌打ちするフェルフェトゥに、雄太は苦笑する。
「セージュは悪くないだろ。俺が色々考えちゃうだけだって」
「そんなことを考えても良い事なんてないわよ?」
「それはセージュにも言われた」
分かっていても考えてしまうのだ。
「なんだろうな。過去を振り返っても意味が無いのは分かってるんだ。こんな「もしも」なんて、意味はない。セージュの言うように「何処にも繋がらない」のも分かってる。それでも考えるのは……」
「考えるのは?」
「……確認作業、なのかもしれないな」
今が大切であると、今が間違ってないと信じ直す為の確認作業。
自分を理解して、その先へと歩む為の儀式。
「あのまま王都に居るよりも、今の方が幸せだって。そう確認する為のものなのかも、とは思う」
実際、今の雄太は幸せだ。
足りないものばかりが多くて、倒れるまで動くことも多い。
けれど、充実している。毎日を「楽しい」と強く感じているのだ。
「地球でも死ぬほど働くってのはザラだったけど……何だろうな、何が違うんだろうな」
達成感?
やればやる程出る成果?
それもそうだろう。けれど、それだけではない気もする。
雄太は横に座っているフェルフェトゥを眺める。
「なにかしら?」
「ん、いや」
もし、フェルフェトゥに出会えなかったら。
もし、フェルフェトゥが雄太を拾わなかったら。
そんな「IF」を考えそうになって、雄太はそれを鼻で笑う。
「……フェルフェトゥ」
「なあに?」
「ありがとう」
「突然ね」
そう、確かに唐突過ぎる。言われたほうだって困惑するだろう。
けれど、フェルフェトゥの顔にはそうした困惑は浮かんではいない。
「……ユータは、そういう人間ってことね」
「え」
「人間も神も、大別するなら2つに分けられるわ」
それは「振り返る」者と「振り返らない」者。
振り返らない者は単純だ。前だけを見て、どんどん突き進んでいく。
それは大抵の場合は前向きとかポジティブとか表現されて、良いモノであるとされる。
振り返る事はネガティブで悪とされるのだ。
「私も大筋では賛成よ。でも、振り返る事が必ずしも悪というわけでもないわ」
セージュも言ったように、「何処かに繋がる」なら振り返る事は意味がある。
たとえば、「こうすればああなっていた」とか「此処はこう改善すべきだ」とか。
そして、あるいは……もっと単純に「何かに気付く」とかだ。
「振り返らない者は気づかない。でも、振り返る者は色々なものに気付くわ」
落とした大切な何かに気付く者もいるだろう。
掴むべき何かに気付く者もいるだろう。
それは様々だ。そして、それらに共通する特徴は「学ぶ」ということだ。
振り返らない者には永遠に手に入らないソレは、本人を強く大きく成長させる。
「で、今回ユータは何を振り返って「ありがとう」という結論に至ったのかしら?」
「あー……いや、ほら。フェルフェトゥに拾われた事が俺の分岐点だったからさ。そこから色々助けられて……まともにお礼も言ってなかった気がするし」
「ええ、そうね?」
クスクスと笑うフェルフェトゥに、雄太は自分が物凄く不義理な人間であるような気がして言葉に詰まりそうになる。だが、それでももう一度言わねばならないと口を開く。
「だから、ありがとうって。そう言わなきゃいけないと思ったんだ」
「そう」
雄太にそう短く答えると、フェルフェトゥは雄太の肩に自分の身体を預けるようにして肩をぶつけてくる。
「ねえ、ユータ」
「ん?」
「ユータは今、幸せってことでいいのかしら?」
「ああ」
その答えは、迷う必要すらない。
「間違いなく幸せだ」
「そう」
それは良い事だわ、とフェルフェトゥは呟く。
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