捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

階段を作ろう3

「……よし、出来た! いい感じの階段だぞ!」
「おおー」

 夕方頃に完成した階段を見て、セージュがその小さな手で拍手をする。
 フェルフェトゥは途中で何処かに行ってしまったが、先程から夕食の良い香りが漂ってくる。
 ちなみに昼食はハムと野菜のサンドイッチであった。

「お、ようやく階段完成ってところか」

 何処に行っていたのか、気楽な調子で歩いてきたガンダインは出来あがった階段を見てほうほう、と頷く。

「結構頑丈そうな階段だな。いいじゃねえか」
「だろ?」

 雄太も満足そうに階段を見上げ、自分の今日の成果を確認する。
 たくさんの石を積み上げ接合材で固めた階段は不格好ではあるかもしれないが、どっしりとした重量感を持っている。
 この後、二階部分を作っていかなければならないわけだが……クレーンがあるわけでもないので、フェルフェトゥかセージュに運搬を手伝って貰う必要がありそうだ。

「セージュ、明日も協力頼むな」

 そう雄太が頼めば、セージュは自慢げに胸を張って笑顔を浮かべる。

「仕方ないですねえ。ユータに頼りにされたなら応えてあげるのも精霊の務めですよね」

 満足そうなセージュに雄太も笑いつつ、伸びを……しようとして、背中のシャベルが邪魔な事に気付く。
 筋トレマニアのシャベルを外して地面に突き刺し、思い切り伸びをして。
 それによって一気にやってきた疲労感に思い切り崩れ落ちる。

「お、おお……?」
「うわわ、ユータ!?」
「おー、なるほど。神器外すとこうなるんだな」
「言ってる場合ですか! 手伝えです!」

 なるほどなるほど、と頷いているガンダインにセージュが怒鳴り、疲労で動けなくなった雄太の顔をぺしぺしと叩く。
 しかし雄太は気絶しているわけではなく疲労で動けないだけなので、そうされても非常に困る。

「手伝えったってなあ……ああ、こいつだって男に運ばれるのは本望じゃないだろ」
「むむ……っ」

 確かにガンダインは見た目が筋骨隆々の男だ。
 そんなのに運ばれるのは、安心ではあるかもしれないが絵面的にキツそうだとセージュは思う。
 雄太だって望んでいない……かもしれない。本人はさっきから動けないので反応は確かめられないのだが。

「分かったです。それなら……!」

 セージュの身体が光に包まれ、雄太と最初に会った時の大人な女性の姿に戻る。

「……これで問題はありませんね」
「おう、ねえんじゃねえかな」

 笑うガンダインを睨みつけると、セージュは雄太を抱え上げる。
 いわゆるお姫様抱っこであり、これはこれで雄太が嫌がりそうな……というよりも実際に動けないなりに嫌がって「うう……」という声が響いてくる。

「もう、何が不満なんですか。動けないんですから、少しは我慢してください」
「動けるようにしてやりゃいいんじゃねえのか?」
「動けるように……って。回復魔法はあくまで怪我を治すものですよ?」
 
 セージュは確かにそういう系統の魔法が得意ではあるが、疲労を癒す魔法なんてものはない。
 そんな事も分かっていないのかという意味を込めてセージュが睨めば、ガンダインは肩をすくめる。

「そうじゃねえよ。この村には疲れを癒してくれる施設があんだろうよ」
「疲れを……ああ、温泉ですか」
「ああ。あの温泉はフェルフェトゥの聖水だからな。疲れを完全回復ってわけにゃいかねえが、多少は元気を取り戻す効果がある。そしたら夕飯食って眠りゃ、明日には治ってるだろうよ」

 ……確かに一理ある。雄太は倒れて夕飯も食べないままに寝ている事があるが、人間は三食食べるものだと聞いている。
 そもそも、雄太の活動エネルギーと消費エネルギーはつり合っていない。
 セージュや邪神達のように自然からエネルギーを補給しているというわけではないのだから、その辺りはしっかりしないといけない。
 となると、温泉で元気を取り戻すというのは合理的な手段だ。

「まあ、一人じゃ入れねえだろうからな。手伝ってやりゃいい」
「そうですね……溺れられても困りますし」
「や、やめ……」

 やめてくれ、と雄太が言いかけるが、ガンダインの咳払いがその音を掻き消してしまう。

「ほれほれ、行った行った。夕飯の時間になっちまうぜ」
「ええ」

 セージュは雄太を抱えたまま温泉の方へと向かっていき……そこで、ピタリと足を止めて振り返る。

「そういえば、先程から風の権能を発動させているようですが……一体何を?」
「ん? いや。ちーとばかし、な。気にする事じゃねえよ」

 ベルフラットに聞かれたら面倒そうだから音を遮断してるんだよ、とは言わない。
 聞かれたら最後、自分がやるとばかりにやってくるだろうし……そうなると雄太の貞操が少しばかり危ない。
 勿論そうなる前にフェルフェトゥかバーンシェルが止めに来るだろうが、こんな場所で邪神同士の争いをされてもつまらない。
 いや、そんな理由で邪神が本気でやり合うというのも面白そうではあるのだが……ガンダインとしてはもっと別の理由でやってもらいたい。

「……まあ、いいですけど」
「おう。俺はユータの造ってくれた階段の調子を確かめてるからよ」

 ニヤニヤと笑うガンダインに雄太が「この邪神」と口の動きだけで言ったような気がしたが……「んー、聞こえねえな」と。
 ガンダインは、そう言って背を向けた。

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