捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

鐘楼の意味って

「はあ? 鐘だあ?」
「……そういう反応になるよなあ」

 結局反対しきれず……というよりも反対する理由も見つからずにバーンシェルの鍛冶場にやって来た雄太の説明に返されてきた反応は、怒るではなく「訳が分からない」といった感じのものだった。

「つーか、なんで鐘楼作る話になってんだよ。お前が造ってたのは集会場だったろうが」
「いや、俺もそう思うんだけどな。フェルフェトゥまで乗り気だからさ……」
「ほー?」

 溜息混じりの雄太に、バーンシェルは考え込むように顎に手を持っていく。
 その姿は中々に絵になっており……雄太も機会があれば真似しようと考える。

「鐘、なあ……まだ時期としちゃ早ぇとは思うんだが……いや、だからこそってことかあ?」
「ん? ひょっとして、何か心当たりでもあるのか?」
「心当たりっつーか……まあ、心当たりはあるな。つーか説明されなかったんかよ」

 呆れたような口調のバーンシェルに、雄太は「いつものことだよ」と肩をすくめてみせる。

「んー……そうだな。言ってみりゃアレだな。縄張りの主張だ」
「縄張りィ?」

 なんだかヤンキーじみた言葉に雄太は訝しげな顔をするが、バーンシェルから返ってきたのは「おう」という真面目な返事だ。

「お前、神の区分については説明受けてるか?」
「区分ってあれか? 邪神と善神と悪神とかいう。それとも水神とか火神とかいうやつか?」
「邪神とかのほうでいい。あれはな、区分であると同時に所属する勢力でもあるっつーことだ」

 単純に善神と悪神で考えれば、それを崇める信者……分かりやすく言えば客層は全く違う。
 善神を崇めるのは、言って見れば自分の過ごす日々が清く正しいものであると信じる一般人が多い。
 悪神を崇めるのは、逆に今の社会をどうにかしてやりたいと考えるような……そこまでいかずとも、世間の裏街道を歩くような者が多い。
 
 そういう風に悪神を崇める者の中には表立って外で活動できない者も多いから、こっそり地下やら郊外やらで活動している例も多いのだが……その中には隠れ里というものもあったりする。
 あるいは堂々と悪神を崇めている町もあるが、そういう町では悪神を崇める聖堂に鐘楼が設置されている。

「鐘の音ってのはな、信者が神に想いを馳せる為の合図みたいなもんだ。それは分かるか?」
「ん、まあ。なんとなくな」

 雄太とて、そういう宗教的観念がごった煮の日本の出身だ。
 和洋問わず鐘の音が宗教的なものだということくらい理解しているし、鐘の音がなればそういうものに想いを馳せたりもする。
 
「で、それが何故かというとだな。鐘ってのはそこを縄張りにしてる神の力が大なり小なり含まれてんだよ。だから惹かれる。神が此処は自分の庇護下だっていう激しい主張をするもんなんだ」
「あー……なるほど」

 つまり、フェルフェトゥ達による縄張り宣言のようなものなのだろう。

「でもそうなると、集会場につけていいのか? 一応此処はフェルフェトゥの村ってことになってるんだが……」
「そのフェルフェトゥが乗り気なんだろ? つーことは、合同のモノにすることは了承済ってことだ。その上でうるせー鐘を真下に置かずに集会場に置くことにしたんだろうよ」

 なるほど、それは良く分かる話だった。
 確かに事あるごとに真上で鐘が鳴るのは煩い。
 ああいうのは、少し距離が離れてこそ有難みがあるものなのだ。

「ま、いいんじゃねえか? この村もようやく形になってきたってことだ」

 雄太達の家、畑、鍛冶場、温泉、井戸、そして集会場。
 確かに村っぽくなってはきている。
 問題は人間が雄太しかいないことくらいだが……そのうち時間が解決するだろう。

「まあ、その鐘で此処が邪神の勢力図に組み込まれるってことか」
「そういうこったな。そんなもんが出来たって話は聞いた事ねえけどな」
「そうなのか?」
「考えてもみろよ。邪神っつーのは善神でも悪神でもねえから邪神ってんだ。マイナーなんだよ、マイナー」

 自分で言ってもいいのかと思わないでもないのだが、確かに納得できる話だと雄太は思う。
 城下町すらまともに歩いていないので分からないのだが、恐らく善神や悪神は立派な神殿で無数の信者を抱えているのだろう。
 それを考えると、信者……まあ、一応信者の括りに入るのだろう雄太一人しかいないというのも、本当にマイナーであるといえた。

「じゃあ、その鐘についてはバーンシェルにお願いしていいか?」
「おう、いいぜ。それなりのモン作っといてやる。何かアイデアあるか?」
「アイデア……」

 鐘についてアイデアと言われても、雄太としては非常に困る。
 鐘は鐘だ、というのが雄太の正直な感想なのだが……。

「……そういえば、俺の世界での話なんだけどさ。まあ、創作の話なんだが」
「ん?」
「一撃受けて鳴る度に色が変わる鐘っていうかベルっていうか……そんなのがあったなあって」

 確か遥か昔のゲームだったか何かの話だが、そういえばそんなものがあったと雄太は思い出す。

「……何言ってんだお前。たかが鐘にオリハルコンでも使わせるつもりか?」
「え、オリハルコンあるのか? ていうか実現可能なのか?」
「そのくらいでないと実現不可能って話だよ。なんだ色変わるって。面白そうじゃねえか」

 今から考えるから出てけ、と鍛冶場から追い出された雄太の視界に、何処かから飛んでくるセージュの姿が目に入った。

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