捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

集会場

 ガンダインの来訪から、数日。
 村の中に出来た一際大きい建物を見上げながら、雄太はふうと息を吐く。
 ガンダインの要請で作られたその建物は、ガンダイン曰く集会場だった。
 構造としてはひたすら単純で、部屋割りもない「大きいだけ」の建物だ。
 しかしそれを今の雄太の技術で作るには多量の石材と屋根に使う一際大きな石材が必要であり……要は、結構大変であった。

「こんなもんでいいのか?」
「ああ、細かい仕上げはこっちでやるさ」

 満足そうに頷くガンダインに雄太は「そうか」と答えるが……何故ガンダインがこんなものを欲しがったのかは分かっていなかった。
 たとえばフェルフェトゥの場合は、最初の建物ということもあり自宅兼用だ。
 バーンシェルの場合は、本人の特性上鍛冶場になっている。
 しかしガンダインは何故「集会場」なのだろうか?

「あのさ」
「ん?」
「なんで集会場なんだ?」

 悩んでも答えは出ないだろうと結論づけた雄太はそう問いかけるが……ガンダインは「おお、そういや言ってなかったな」と笑う。

「そりゃお前、こいつが俺とお前の両方の役に立つからだな」
「そうなのか?」
「おう。そもそもお前、集会場をなんだと思ってる?」

 なんだと思ってる……と言われても、集会場はその名の通り集まる場所だろう。
 雄太のイメージとしては公民館とか体育館とか……そんな感じだ。
 たくさんの人が何かあった時に集まるようなイメージで、実際この集会場も10人くらいが寝転がれるような大きさはある。

「人が集まる場所だろ? 会議とかやったり」
「そうだな。だが集会場ってのは、一番重要な役割がある」
「一番重要……?」
「おう。それはな、交流の起点だ」

 たとえば、雄太の言った会議もそうだ。
 他にも村に誰かが来た時には泊まり場所になったり、吟遊詩人が来た時に芸を披露する場所になったりもする。
 そういうゲストハウスやホ―ルとしての役目を持つ「交流場所」として存在する……それが集会場なのだ。

「俺は人が語り継ぐ英雄譚の類も司ってる邪神だ。そういうものが人間同士の交流によって生まれるってえのは……言わなくても分かるだろ?」
「まあな」
「他者との交流をする上で必要となるのが、こういう場所だ。俺はこういう場所を神殿として得る事で嬉しいし、お前も今後余所との交流をする上で集会場を持っておけば急な来客にも対応できるって寸法よ」

 なるほど、確かに現在「泊まる場所」としては雄太の家、なんとかギリギリでバーンシェルの鍛冶場。
 その二つしかない。
 鍛冶場に藁を敷いて寝ているバーンシェルは……まあ、本人が良ければ別にいいのだが、客をそうするわけにもいかない。
 雄太の家はあまり広くないし、すでにフェルフェトゥとベルフラットも含めて3人暮らしだ。
 となると……確かに、来客を泊める為の施設が必要になってくる。

「……まあ、確かになぁ。お客さんを野宿ってわけにもいかないもんな」

 ゲストハウスとして考えると、雄太にもしっくりくる。
 元々立派なお屋敷の類にはお客さんを泊めるゲストルームがあるという話は聞いたことがあるが、そういうものにもなるということなのだろう。

「……って、ん? そうなるとお客さん来たら、ガンダインは何処に泊まるんだ?」

 まさかガンダインがお客さんと並んで寝るわけにもいくまい。
 それに気付いた雄太に、ガンダインはニヤリと笑って集会場の屋根を指差す。

「まあ、見ろよ。気付かねえか?」
「何がだよ」
「この集会場っつーか……お前の造った村の家々だがな。屋根が平らだろ?」
「そりゃまあ、な」

 大きな石材を載せて屋根にしている構造上、この村の屋根は平らだ。
 それがどうしたのかと言いたげな雄太に、ガンダインは積まれた余りの石材へと指を向ける。

「知ってるかユータ。場所にもよるがな、建物には上の階ってもんがあるんだよ」
「そんなもん知ってるに決まって……ってまさか! 二階造れってのか!? 無理無理! 俺にそんな技術はねえぞ!?」
「無茶じゃねえよ。平らな屋根は二階の床になる。その上に石乗っけるだけだろうが」
「そんな単純なもんかよ! 俺には重量計算なんかできねえぞ!?」

 よく覚えていないが、重量限界とかそういうものもあったはずだ。
 二階を作ったはいいが崩れ落ちたでは、今までの苦労とかそういうものが無駄になってしまう。

「そんな心配すんじゃねえよ。此処が俺の神殿になってる以上、そんな心配はいらん。それに俺一人が寝泊まり出来る程度の小屋を乗せろってだけだ。鐘楼作るよりはマシだろ?」
「基準が分かんねえ……!」
「あ、いや待てよ。鐘楼作るのもアリじゃねえか? 時間間隔ってのは重要だからな」
「はあ!?」
「よし決めた。三階建てだ。この村で一番デカい建物にしようぜ、ユータ」
「お前マトモだと思ってたのに一番おかしいぞ!?」

 バーンシェルもフェルフェトゥもそんな無茶振りをしたことはない。
 そもそも、鐘楼などと言われても雄太に鐘が造れるはずもない。
 鐘があったとして、鐘楼の構造なんか分かるはずがない。

「心配すんなよ。鐘はバーンシェルに頼みゃいいし、俺が風の権能で鳴らしてやるからよ」
「いやいや、おかしい! 色々おかしい!」
「あら、別にいいんじゃないかしら」
「フェルフェトゥ!?」

 いきなり現れたフェルフェトゥにそんな無慈悲な事を言われ、雄太は裏切り者を見る目でフェルフェトゥを見る。

「その鐘に私の力を仕込んでおけば私としては問題ないわ。まあ、あの二人も何かやりたがるでしょうけど」
「いやいや……」

 他にも問題が色々あるだろうと。そう言いたくなる雄太だっったが……自分に拒否権が無いことくらいは、なんとなく分かってもいた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品