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捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

ゆっくりと、温泉に浸かって

「はあ……」

 ゆっくりと温泉に身体を沈め、雄太は息を吐く。
 男女別の仕切りとして作った壁は中々に頑丈で、雄太が寄り掛かっても全く問題が無い。
 わざわざ両側の壁と固定した甲斐があるというものだろう。
 この村にガンダインも住むということであれば、尚更それは必要になる。
 間に合ってよかった。そう呟きながら雄太は壁に頭をゴン、とぶつけて。

「何がかしら?」

 そんな声が壁の向こう側から聞こえてきて、雄太は思わず壁から身を離す。

「フェ、フェルフェトゥ!?」
「そうよ? 他に誰かいるかしら?」
「いや、その返しもどうなんだ……」

 湯につかり直すと、雄太は壁へと視線を向ける。
 所詮素人工事の壁だが、向こう側が見えるようになど作ってはいない。
 ただ防音性についてはお察し……というわけだ。
 フェルフェトゥの声が近くに聞こえるのも、その影響だろう。

「……いや、なんだ。俺以外にも男増えただろ? それを考えると、間に合ったな……ってな」
「あらあら、そんな事気にしてたの?」
「そんな事って」
「そんな事、よ。私が入っている時にガンダインの馬鹿が近寄るはずもないでしょう」

 近寄ってきたら殺すわ、と本気かどうか分からない事を言うフェルフェトゥに、雄太は苦笑する。

「てっきり、一緒でも気にしないとかいうのかと思って驚いたよ」
「そんなわけないでしょう? 私だって女よ?」
「まあ、そりゃそうなんだが」

 今まで散々一緒に入っておいて説得力が無い……と雄太は思うのだが、それを自分以外の誰かがやるかもと思うと、不思議とイラッとするのだ。
 それが恋だの愛だのといった類ではないとは思っているのだが……。

「ユータだけよ。許すのは」
「……」
「ユータだけよ?」
「聞こえてるから」

 お湯で思い切り顔を洗って、顔の赤さをお湯の温度のせいだと誤魔化す。
 からかっているのだ。いつも通り、フェルフェトゥは自分をからかっている。
 そう言い聞かせていないと、思考がグルグルと何処かへ飛んでしまいそうだった。

「……そういえば、村の話なんだけどさ」
「なあに?」

 誤魔化すように雄太が話を変えると、クスクスと笑う声と共にフェルフェトゥはそう聞き返してくる。

「もし、なんだけどさ」
「ええ」
「もし、俺と同じような事出来る奴が居たら……そいつも神官にするのか?」

 神官。まだそれがどういうものかは雄太自身も分かってはいないが、恐らく一人だけ……というものではないことだろう、ということくらいは雄太にも分かる。
 だから、もし同じような事が出来る人間が居ればフェルフェトゥは同じように接するのだろうかと。
 雄太はそんな事を思ったのだ。

「いらないわ」

 だがフェルフェトゥから少しの時間も置かずに返ってきたのは、そんな言葉。

「へ?」
「いらない、と言ったのよ」
「え、でも。俺を拾ったのはその才能があったからなんだろ?」
「出会いの理由が一緒に居続ける理由になるのかしら? その理屈だと、同じ出会いをした人間全員と同じ付き合いをしなければいけない事になるわよ?」

 場合によっては多夫多妻制になるわね、と冗談めかして言うフェルフェトゥに雄太は想像して思わず笑ってしまうが……そんな雄太に、フェルフェトゥは更に語り掛ける。

「私の神官はね、貴方一人で充分なのよユータ。私を信仰する人間なら、幾ら居てもいいわ。そういう人間がこの村に住む事を妨げはしない。でもね、私の隣に立つのは貴方一人で充分よ」
「なんで、俺をそんなに買ってくれるんだ?」

 正直に言って、雄太はフェルフェトゥに何かを出来ているわけではない。
 養って貰ってはいるが、肝心の村に関しては手探りで試行錯誤している状態だ。
 今の状態が「村」と呼べるかと言えば、10人中9人は首を傾げるだろう。

「さあ? 私自身、これといった明確な理由は持ってないわ」
「ええ……?」
「でも、そんなものが必要かしらね」

 言われて、雄太は「必要だ」とは言えない事に気付く。
 今までの人生で友人と言える人間も何人かいたが、そこに理由なんかあっただろうか?
 あえて言うなら「気が合うから」だっただろうが……それは打算であったかというと違うような気もする。
 後から理由をつけようと思えば幾らでもできるのだろうが、その時は本当に「なんとなく」とか「自然に」とか、そんな感じだったのだ。

「私はなんとなく、ユータだけでいいって思うのよ。その直感を私は信じてるし、ユータも同じ気持ちであれば更に嬉しいわ?」
「……なんか、愛の告白みたいに聞こえるな」
「あら。神に捧げるのは愛であり、神から授けられるのもまた愛なり……みたいなのが人間の常套句じゃなかったかしら?」
「アガペー……だっけ。そういうの」
「何それ」
「なんだったかな。無償の愛みたいな」

 そう言うと、フェルフェトゥは馬鹿にしたように笑う。

「無償の愛なんてないわよ。結果的に無償に近くなるだけで、何処かしらで対価は払っているものよ?」
「さっきの『つり合う想いを』ってやつか?」
「そうよ。世界の全ては何処かでつり合っているの。何処かの馬鹿が一方的に何かを搾取した気になっていても、結果的にはつり合うように出来ている。その支払いが「何」であるかまでは知らないけどね?」

 それは、ひょっとすると雄太のスキルの話でもあるのだろうか?
 無言の雄太の中に、フェルフェトゥの声が染みわたっていく。

「ユータ。私は貴方を大切に思っているわ。今更、他の「大切」なんて要らないの」
「……俺も、フェルフェトゥの事は大切に思ってるよ」
「そう? なら嬉しいわ」

 フェルフェトゥが居なければ、雄太はどうなっていたか分からない。
 それを忘れた事なんて、一度もない。
 それが単純に「恩」なのか、それを超えるものなのかまでは……今は、整理がついていないのだけれども。

「あ、そういえば」
「ん?」
「村の名前も決めなきゃな」
「ええ、そうね」

 そんなものも決めていなかった。
 そんなことに今更ながら気が付いて、雄太とフェルフェトゥは……壁を挟んで、けれど同じ気持ちで笑っていた。

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