捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

アラサークエスト2

 そうしてテイルウェイを加えた雄太の冒険は、凄まじく賑やかなものへと変貌していた。
 というよりも、テイルウェイが朝も夜も物凄く騒がしいのだが。

「ふーん、異世界から。そういうのがあるとは知っていたけど、本当に喚んだのか」
「知ってるって……前にも召喚された奴がいるのか?」
「うん。前はどのくらい前だったかな……少なくとも1000年くらいは前だと思うけど」

 雄太の横を歩きながら、テイルウェイは何かを思い出すように空を見上げる。

「確かあの時は……ああ、そうそう。魔王が現れたとかどうとか言ってたかな?」
「魔王……やっぱ、そういうの居るんだな」
「そりゃ居るさ。魔王ってのは常に代替わりするんだから」

 何を当たり前の事を、と言いたげなテイルウェイに雄太は疑問符を浮かべ……そんな雄太の様子にテイルウェイは「ん?」と首を傾げる。

「その辺りも聞いてないのか?」
「聞く前に放り出されたしな……」
「ああ、いや。フェルフェトゥから聞いてないんだなって」
「そんなもんは勇者に任せとけって言ってたけど」

 雄太がそう答えると、テイルウェイは「ふーん」と呟き雄太をちらりと見る。

「そういうの狙ってるのかな……って思ったんだけどな。とすると、単純に自衛の為かな?」
「何の話だ?」
「んー、ユータは結構鍛えてるよなって話かな」

 まあ、確かに鍛えてはいるだろう。まだ数日だが、ぶっ倒れるまでシャベルを振るっているのだ。
 ちょっとくらいは筋肉がついてきたような実感もある。

「まあな。俺も頑張ってるし」
「うんうん……ん?」

 ふとテイルウェイが後ろを振り向き、雄太もつられたようにその方向を見る。
 雄太達が歩いてきた方角だが……その方角を見て苦笑しているテイルウェイに、フェルフェトゥかベルフラットあたりがついてきているのかと思って雄太も目を凝らすが……そこには何もない。

「どうしたんだ?」
「ああ、いや。別に。たいしたことじゃないさ」

 クスクスと笑うテイルウェイを変な奴だという顔で見つつも、ひょっとすると拠点の方で何か2人がやっているのかもしれないな……とは考える。

「で、さっきの魔王の話って」
「ああ、いや。いいんじゃない? 勇者に任せとけば」
「ええ……? 途中で終わらせられると気になるんだけど」
「だって、たぶん君に関係ない話だよ。なら聞かない方がいいってものさ」

 そう言って話を終えてしまうテイルウェイに雄太は不満そうな顔をするが、一旦そう言った以上絶対に話さないだろうな……という気もしていた。

「そんな事よりほら、見えてきたよ。あれが森だ」

 そう言ってテイルウェイが指差す先には、巨大な森が広がっている。
 そう、巨大だ。木自体もかなり大きいものばかりで、しかも奥の方は凄まじい大きさであるようにも見える。
 巨大樹の森。名付けるならそんなところだろうか?

「す、すっげえ……なんだこの森」
「世界樹の恵みがあるからね。自然と木も大きくなるのさ」
「へえ……」

 思わず感心したように頷いてから、雄太の頭に「世界樹」というワードが浸透してくる。
 とりあえず相槌を打つのはアラサーの悪い癖だ。

「……世界樹?」
「うん。知らないかい? 世界樹」
「なんか凄い木のイメージはある。葉っぱで人が生き返ったり、中に迷宮があったり」
「ユータの世界の世界樹は凄いんだなあ」

 ゲームの話だ、とは言わない。しかしファンタジーで世界樹というと大体そんな感じのイメージだ。

「流石にそこまでじゃないけど、凄い木ではあるかな。何しろ精霊が宿ってる。エルフなんかは神と同一視してたりするよ」

 精霊、エルフ。まさにファンタジーな単語に、雄太は思わずワクワクする心を止められなくなってくる。

「精霊にエルフ……いいな! あの森に居るのか!?」
「ん? いやあ……エルフは居ないかな。そういうのはほら、もうちょっと暮らしやすいところに住んでる」
「え、ええ……」

 神と同一視してるんじゃないのか。思わずそんな事を考えてしまう雄太の様子に気付いたのか、テイルウェイは「仕方ないさ」と笑う。

「何しろ、本当に暮らしにくいんだ。世界樹の魔力が使われないまま無尽蔵に溜まってるせいで、周辺の木も無駄に巨大化するしね。おまけに漏れ出た魔力で中に居る人間は方向感覚も狂うし。知ってるかい? エルフの使う迷いの森の魔法って、この現象をある程度解明して使ってるんだよ」
「すんげえ迷惑だな、世界樹……」
「ハハッ。でもほら、そのおかげで食べ物も豊富に育つし……生き物も元気なんだよ? ああいう風に」

 テイルウェイが指差した先。森の中から、翼持つ怪物が飛び出してくる。

「ギアアアアアアアア!」
「う、うげえ! ドラゴン!?」
「まさか。育ちすぎた羽蜥蜴さ」

 羽蜥蜴だかなんだか知らないが、雄太にはドラゴンにしか見えない。
 思わず雄太はシャベルを構えるが……ニコニコと笑ったまま羽蜥蜴を指していたテイルウェイの指先から眩い光線が放たれ、羽蜥蜴を跡形もなく消し飛ばす。

「……は?」
「そんなに怖い相手じゃないさ。火も噴かないしね」
「いや、そうじゃなくて」

 今のレーザーはなんだ、と。雄太はそんな当然すぎる疑問をぶつけていた。

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