捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~

天野ハザマ

神器「筋トレマニアのシャベル」

 掘る。掘る。ただひたすらに掘る。
 地面にシャベルを突き刺して、雄太は地面を掘る。

「ペース遅いわよー。そんなんで水が出ると思ってるの?」

 頭の上から響いてくるのは、フェルフェトゥの声。
 あの邪神様も手伝ってくれればいいのに、そんな様子はない。

「そういえば、ひたすら穴掘って埋め戻す刑だか拷問だかがあったな……」
「非生産的ねー。もっと生産的なことに使い潰せばいいのに」
「俺に言われても知らんし。皮肉だし」
「センスないわー」

 バッサリと切り捨てられて、雄太は黙々と穴を掘る作業に戻る。
 もうどのくらい穴を掘っているか分からなくなってきた。
 こんなに身体を動かしているのは久しぶりだが、不思議と身体は疲れていない。
 まさか異世界に来たことで体力に変化が……と。
 そう考え、しかし何かに気づいたかのように雄太は穴の上のフェルフェトゥを見上げる。

「あら、ようやく気づいたの?」
「……このシャベルの力なのか?」

 そんな雄太の質問に、フェルフェトゥはニヤニヤと笑いながら頷く。

「そうよ? その筋トレマニアのシャベルは神器だもの。疲れても疲れたと思わせない効果があるわ」
「神器……そうか……ん?」

 手の中のシャベルが尊いものに思えた雄太だったが、ふと聞き捨てならない言葉が混ざっていた気がして聞き返す。

「筋トレマニア……?」
「そうよ? 筋トレマニアのシャベル」
「え、カッコ悪い……」

 エクスカリバーとかグングニルとは言わないが、まさかの筋トレマニアのシャベル。
 あまりにも汗臭い名前だ。
 しかしまあ、疲れないというなら凄い効果なのは間違いない。

「いや、まあ……疲労無効っていうのは凄い効果だよな……流石神器……」
「そんな事言ってないけど。疲れはしっかり溜まってるはずよ?」
「は?」
 
 思わせない雄太は聞き返す。
 現実として、疲れていないのだ。
 それ以外に何があるというのか。

「流石神器よね。相手の言葉すら曲解するんだら」
「何言ってるんだ……?」

 疑問符を浮かべる雄太に、フェルフェトゥは優しく笑う。

「なんでもないわ。頑張ってちょうだい、ユータ。ご褒美に美味しいご飯を用意しといてあげる」
「ははっ、そりゃやる気出るなあ」
「でしょ? 信者思いでいい神様ねえ、私」

 ザクザクと穴を掘る雄太を見下ろしながら、フェルフェトゥは笑う。
 ちなみに疲労を感じないといっても身体はしっかり疲労しているわけであって……具体的には、身体が動かなくなるまで本調子みたいに動けるという酷い効果であったりする。
 それすら神器の効果によって気付けずに雄太は穴を掘る。
 掘って、掘って、掘り続けて。

「おっ」

 じんわりと染みだしてきた何かに、喜びの声をあげる。

「あら、水出てきたみたいね」
「ああ、見ろ! 凄いぞ!」

 喜ぶ雄太の足元で、水は土を押し退けてコポコポと溢れ始める。

「それじゃ、仕上げするから出てきていいわよ」
「え? うわっ」

 フェルフェトゥがついと指を動かすと雄太の身体は宙に浮き、穴の外へと投げ出される。

「えーと。井戸の壁を固定……水の成分は……問題ないけど少し弄って……」
「なあ、何やってるんだ?」
「貴方の頑張りに祝福を授けてるのよ。いいから大人しくしてなさい」
「あ、ああ」

 シャベルを地面に突き刺し眺めている雄太の目の前で、水の湧く穴だったものが井戸へと進化していく。
 石で作られた立派な外観と、水を汲み出す為の滑車が生まれでる。

「すげえ……チートだ……」

 こんなことが出来るなら、最初から井戸作れたんじゃないか。
 そう考えてしまう雄太の前で、フェルフェトゥはふうと息を吐く。

「どうかしら? 立派なものでしょ?」
「俺が掘る必要あったのか……?」
「あるわよ? 貴方は私に捧げる為に井戸を掘り、私はそれに応え井戸に立派な形を与えた。神の権能とはそういうものよ」
「……分からん」

 首を傾げる雄太に、フェルフェトゥはクスクスと笑う。

「その辺りも説明してあげるわ? まあ、ユータがまだ動けるならだけど」
「何言ってるんだ? 俺は見ての通り」
「えいっ」

 フェルフェトゥにつつかれた雄太は、ふにゃりと地面に倒れ伏す。

「な、なんだこれ? 身体が動かない……!?」
「で、シャベルを身体から引き離すと……」

 シャベルが身体から離れたその瞬間。雄太の身体に突然正体不明のダルさが襲いかかる。
 動けない。身体が痛くて頭が重い。というか、これは……。

「な、んで。急に、疲れ……」
「今日は頑張ったものね。ゆっくりお休みなさい、ユータ」

 そう、筋トレマニアのシャベルは疲労しないアイテムではなく疲労を感じなくなるアイテムだ。
 すでに限界を超えていた雄太の身体は筋トレマニアのシャベルを離した事によって疲労を感じるようになり……結果、動けなくなってしまったというわけだ。

「そ、んなこ、聞いてな……」
「教えたわよ? 貴方の頭が認識しなかっただ・け・よ」

 ふふ、と笑いながらフェルフェトゥは雄太の頭をツンと突く。

「せっかく美味しいご飯用意してあげるはずだったのに、お預けかしら。残念ねえ」
「う、ぐ……食べ……」
「だぁめ。寝床用意してあげるから、寝なさい?」

 悪戯っぽく笑うフェルフェトゥに、雄太は最後の力で悪態をつく。

「こ、の。邪神……」
「そう言ってるじゃない。それじゃお休みなさいユータ。良い夢を」

 力尽きる雄太を何処かから取り出した藁の中に横たえると、フェルフェトゥもその横に入り込んで目を瞑るのだった。

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