动荡泰朝道侠伝~魔法が迫害される中華風異世界に魔法使いとして転生しました
剣舞
太婀さんが酒瓶から最後の一滴を器に注いでくれた。
「まだ飲むかな?」
「いえ、いいです」
そこそこ飲んだせいか、ちょっと頭がぼんやりしてきた。
太婀さんが腰に巻いた小物入れから細い煙管を取り出して火をつけた。小さな赤い火が瞬いて、ゆっくりと紫煙が空に昇っていく。スパイスのような独特の香りがかすかに漂ってきた。
日本だとマナー違反だけど、この世界には禁煙という概念はないらしい。
「吸うかい?老士」
「いや、いいです」
あたしが見ていたのに気づいたのか、太婀さんが勧めてくれるけど、あたしも昨今のご多分にもれず喫煙者じゃない。
ただ、日本で時々嗅いでいたタバコの香りと違って、不思議な香の様な香りでさほど不快感は無かった。
そういえば、大学のサークルのタバコ好きが、タバコの煙が臭いのは撒いている紙のせいで、タバコ本来はそこまで臭くない、と言っていたのを思い出した。
大学のサークル。台湾にいた時はSNSでみんなとやり取りできていたけど……ポケットに入れたスマホは圏外の表示になっていた。新着メッセージも通知も昨日のままだ。
もし本当に帰る手段がないなら割り切らなければいけない、状況を受け入れなければいけない、というのは分かる。
でもなまじ何時でもやりとり出来ていたからこそ。圏外になったスマホを見ると、今のこの状況がたまらなく寂しさを感じる。
スマホをしまったところで、そういえばもう一つ、大事なことを聞いていなかったことを思い出した。
「太婀さんの道術はなんなんですか?」
この人も道士のはずだ。あの剣がかかわっているんだろうけど、どんな技を持っているんだろう。
「おっと、見たいかな?」
「ええ」
そういうと、太婀さんが嬉しそうに笑った。
「ではお見せしよう、老士」
そういって、剣につるしたまま提灯を羚羊に渡すと、鞘から剣を抜き放った。
鍔の小さい直刀だ。抜かれたのを改めて見ると長い。おそらく1メートル半はありそうだ……といか、鞘に納められていた時より長い気がする。
月明りを反射しているのじゃなく白っぽい光が両刃の刀身に薄く放たれていて、その光が暗い夜空に映えていた。
剣を立てるように構えたまま一礼して太婀さんがステップを踏むようにして剣を振り回した。
1メートル半はありそうな長い剣だけど全く重さを感じさせない。柄頭に結びつけられた飾りひもと玉璧が付きの光を浴びてきらめく。
白い輝きをまとう剣が夜の空気を切り裂いて、白い軌跡が新体操のリボンのように空中に後を残した。
足取りはしっかりしていて、結構飲んでいるはずだけど、全然そんな感じはない、
軽やかに飛び空中で剣を薙ぎ払い、一転して地面に伏せるような姿勢で剣を円を描くように振り、立ち上がると剣を構えてぴたりと静止する。
一分ほどの演武のような剣舞が終わって、もう一度ディアさんが頭を下げた。思わず拍手してしまう。ていうか思わず息をするのも忘れてた。
「すごいですね、これが?」
「天賜の剣……神之刃、八星。これを使うのが私の道術だよ」
そう言って剣を地面に刺した。
「持ってみてくれるかい?老士」
言われるままに、地面に刺さったままの剣の柄を持つ。ざらついた皮の手ざわりが伝わってきた。 抜こうとしたけど……さっき太婀さんがあれだけ軽く振っていたのに、地面に根が生えたかのように重い。抜くどころか、柄を押しても引いてもビクともしない。
太婀さんがちょっと自慢気に笑うと片手で剣を引き抜いて上に投げ上げた。白い光を放ちながら軽々と剣が宙を舞う。
落ちてきた剣を木の枝でも取るように片手で握るとくるりと一回転させて、鞘に納めてまた地面に立てた。羚羊が黙って提灯を剣に戻す。つまり、これは太婀さんしか使えない剣、と言うことなんだろう、多分。
太婀さんがまた煙管を取り上げて吹かし始めた。また静けさが戻ってくる。
「太婀さん……あなたはどうしようと思ってるんですか?」
さっき、鬼蘭があたしと太婀さんと自分がいれば西夷の連中にも一泡吹かせられる、と言ってた。
あたしはそんな自信はないけど、太婀さんがかなり強いことくらいは分かる。ただ軍隊相手に戦うなんてことが可能なのか。
ゆっくりと太婀さんが煙管を吹かした。
「抗うにも理はあり……かといって争いを避けて隠れることにも理が無くはない。どちらとは言い難いものはあるな。私は鬼蘭の力になれればと思っているがね」
どちらとも言い難い、というのは確かに尤もだ。さっきの話を聞く限り、西夷の方針変更がないと道士を取り巻く環境は変わらない。だから隠れ住んでいても多分状況は悪化するだけだろう。
でも武装蜂起なんてしたら殲滅の絶好の口実を与えてしまうことになりかねない。
「ただね……老子、一ついいかな?」
「はい」
「老士は五行の道術を身につけるとき、何か修行はしたかね?」
「いえ……もらったものですから」
太婀さんが聞いてくるけど、そもそも地球に魔法の修行をするところなんてない。
「……私はこの剣に選ばれるために5歳のころから修業した。認められるのに10年かかった……そのあとは道士として化外の獣と戦った。15年ほどかな……修業は辛かったよ。それに戦いも楽じゃなかった。何度も死にかけた」
静かに煙管を吹かしながら太婀さんが言う。
「道士になるということは立身につながるとおもったが……それ以上に人の役に立ちたかった。私の叔父は道士でね。化外の獣を狩り人を守る姿にあこがれたもんだ」
そういって紫煙を吹くと、ふんわりとまた独特の香りが漂った。白い煙が夜空に上っていく。
「詰まらない感傷かもしれないが……石を以て追われたくはないね」
現状を何とかしたいけど、どうすればいいのか分からない……短い言葉だったけどその重さは分かった。
それに、人生の殆どを掛けて磨いた技術が無用の長物どころか、害のあるものとして葬り去られようとしているんだ。戦う、戦わない以前になにも思わないわけはない
……ふと、あのおじいさんが言ったことを想いだした。
魔法使いはいつだってつまはじき者……
「まだ飲むかな?」
「いえ、いいです」
そこそこ飲んだせいか、ちょっと頭がぼんやりしてきた。
太婀さんが腰に巻いた小物入れから細い煙管を取り出して火をつけた。小さな赤い火が瞬いて、ゆっくりと紫煙が空に昇っていく。スパイスのような独特の香りがかすかに漂ってきた。
日本だとマナー違反だけど、この世界には禁煙という概念はないらしい。
「吸うかい?老士」
「いや、いいです」
あたしが見ていたのに気づいたのか、太婀さんが勧めてくれるけど、あたしも昨今のご多分にもれず喫煙者じゃない。
ただ、日本で時々嗅いでいたタバコの香りと違って、不思議な香の様な香りでさほど不快感は無かった。
そういえば、大学のサークルのタバコ好きが、タバコの煙が臭いのは撒いている紙のせいで、タバコ本来はそこまで臭くない、と言っていたのを思い出した。
大学のサークル。台湾にいた時はSNSでみんなとやり取りできていたけど……ポケットに入れたスマホは圏外の表示になっていた。新着メッセージも通知も昨日のままだ。
もし本当に帰る手段がないなら割り切らなければいけない、状況を受け入れなければいけない、というのは分かる。
でもなまじ何時でもやりとり出来ていたからこそ。圏外になったスマホを見ると、今のこの状況がたまらなく寂しさを感じる。
スマホをしまったところで、そういえばもう一つ、大事なことを聞いていなかったことを思い出した。
「太婀さんの道術はなんなんですか?」
この人も道士のはずだ。あの剣がかかわっているんだろうけど、どんな技を持っているんだろう。
「おっと、見たいかな?」
「ええ」
そういうと、太婀さんが嬉しそうに笑った。
「ではお見せしよう、老士」
そういって、剣につるしたまま提灯を羚羊に渡すと、鞘から剣を抜き放った。
鍔の小さい直刀だ。抜かれたのを改めて見ると長い。おそらく1メートル半はありそうだ……といか、鞘に納められていた時より長い気がする。
月明りを反射しているのじゃなく白っぽい光が両刃の刀身に薄く放たれていて、その光が暗い夜空に映えていた。
剣を立てるように構えたまま一礼して太婀さんがステップを踏むようにして剣を振り回した。
1メートル半はありそうな長い剣だけど全く重さを感じさせない。柄頭に結びつけられた飾りひもと玉璧が付きの光を浴びてきらめく。
白い輝きをまとう剣が夜の空気を切り裂いて、白い軌跡が新体操のリボンのように空中に後を残した。
足取りはしっかりしていて、結構飲んでいるはずだけど、全然そんな感じはない、
軽やかに飛び空中で剣を薙ぎ払い、一転して地面に伏せるような姿勢で剣を円を描くように振り、立ち上がると剣を構えてぴたりと静止する。
一分ほどの演武のような剣舞が終わって、もう一度ディアさんが頭を下げた。思わず拍手してしまう。ていうか思わず息をするのも忘れてた。
「すごいですね、これが?」
「天賜の剣……神之刃、八星。これを使うのが私の道術だよ」
そう言って剣を地面に刺した。
「持ってみてくれるかい?老士」
言われるままに、地面に刺さったままの剣の柄を持つ。ざらついた皮の手ざわりが伝わってきた。 抜こうとしたけど……さっき太婀さんがあれだけ軽く振っていたのに、地面に根が生えたかのように重い。抜くどころか、柄を押しても引いてもビクともしない。
太婀さんがちょっと自慢気に笑うと片手で剣を引き抜いて上に投げ上げた。白い光を放ちながら軽々と剣が宙を舞う。
落ちてきた剣を木の枝でも取るように片手で握るとくるりと一回転させて、鞘に納めてまた地面に立てた。羚羊が黙って提灯を剣に戻す。つまり、これは太婀さんしか使えない剣、と言うことなんだろう、多分。
太婀さんがまた煙管を取り上げて吹かし始めた。また静けさが戻ってくる。
「太婀さん……あなたはどうしようと思ってるんですか?」
さっき、鬼蘭があたしと太婀さんと自分がいれば西夷の連中にも一泡吹かせられる、と言ってた。
あたしはそんな自信はないけど、太婀さんがかなり強いことくらいは分かる。ただ軍隊相手に戦うなんてことが可能なのか。
ゆっくりと太婀さんが煙管を吹かした。
「抗うにも理はあり……かといって争いを避けて隠れることにも理が無くはない。どちらとは言い難いものはあるな。私は鬼蘭の力になれればと思っているがね」
どちらとも言い難い、というのは確かに尤もだ。さっきの話を聞く限り、西夷の方針変更がないと道士を取り巻く環境は変わらない。だから隠れ住んでいても多分状況は悪化するだけだろう。
でも武装蜂起なんてしたら殲滅の絶好の口実を与えてしまうことになりかねない。
「ただね……老子、一ついいかな?」
「はい」
「老士は五行の道術を身につけるとき、何か修行はしたかね?」
「いえ……もらったものですから」
太婀さんが聞いてくるけど、そもそも地球に魔法の修行をするところなんてない。
「……私はこの剣に選ばれるために5歳のころから修業した。認められるのに10年かかった……そのあとは道士として化外の獣と戦った。15年ほどかな……修業は辛かったよ。それに戦いも楽じゃなかった。何度も死にかけた」
静かに煙管を吹かしながら太婀さんが言う。
「道士になるということは立身につながるとおもったが……それ以上に人の役に立ちたかった。私の叔父は道士でね。化外の獣を狩り人を守る姿にあこがれたもんだ」
そういって紫煙を吹くと、ふんわりとまた独特の香りが漂った。白い煙が夜空に上っていく。
「詰まらない感傷かもしれないが……石を以て追われたくはないね」
現状を何とかしたいけど、どうすればいいのか分からない……短い言葉だったけどその重さは分かった。
それに、人生の殆どを掛けて磨いた技術が無用の長物どころか、害のあるものとして葬り去られようとしているんだ。戦う、戦わない以前になにも思わないわけはない
……ふと、あのおじいさんが言ったことを想いだした。
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