动荡泰朝道侠伝~魔法が迫害される中華風異世界に魔法使いとして転生しました
歷史
振り返ると、さっきの二人、鬼蘭と太婀さんが立っていた。
二人とも、防寒のためなのかマントの様なものを羽織っている。静かなんだけど声をかけられるまで、近づいてくるのに全然気づかなかった。
「お疲れでしょう。月を肴に一献、如何です?」
精悍な顔つきに柔らかい笑みを浮かべて太婀さんが白っぽい壺と器を掲げる。
「それにこの坊主が一言申し上げたいそうなのでね、聞いてやってもらえませんか」
太婀さんの横では鬼蘭が気まずそうにうつむいている。
身長差がありすぎて親子にしか見えないけど、多分違うんだろうな。
「いいですよ」
「有り難い。それでは」
そういって太婀さんが抱えていた敷物を広げた。背中に背負った剣を地面に突き刺して、それに羚羊が持っていた提灯を引っ掛ける。
「では。お口にあえばいいのですが」
そう言って、太婀さんが恭しく白い器に酒を注いでくれる。器は地味だけど白磁っぽい綺麗なものだった。手触りもいい。
少し濁った酒を口に含むと甘い香りが口いっぱいに広がった。桃のお酒っぽい。甘いけど後味が杏露酒を思わせる感じで結構強い。
「あの……さっきは、失礼しました、老士」
鬼蘭がしおらしい口調で頭を下げる。さっきの嬉しそうなやんちゃ坊主な感じも、刺々しく鍾離さんと言い合っていた感じもない。
「いいわ、気にしてないから」
「でも……」
「老士がそう言ってくださっているんだ。甘えさせて頂け」
「じゃあ……ありがとうございます」
そういうけど、まだ鬼蘭は気まずそうにして手の中の器をもてあそんでいる。
「如何です?お口にあいますか?」
「はい、美味しいですよ」
「それは良かった」
太婀さんが答えてくれるけど……年上の人に敬語を使われるのはなんか居心地悪い。
「あの……敬語は止めてくれませんか?あたしの方が年下ですし」
そういうと太婀さんがちょっと驚いた顔をして、にんまりと笑みを浮かべた。
「いやー、話せますね、柳原道士」
そういって、半分くらい空いたあたしの器に酒を注いでくれる。
「じつはね、私もこういう畏まったのはどうにも柄じゃない。そう言って貰えるとありがたいですよ」
敬語ではあるんだけど口調が砕けた感じになって、堅苦しい雰囲気が消えて周りの空気が少し和らいだ気がした。精悍なアスリート風だったけど、笑うと気のいいオジサンって感じだ。
「一つ聞いていいですか?」
「ええ、なんなりと」
太婀さんが鬼蘭の器にも酒を注ぎながら返事をしてくれる。
……いいのかしら、と思ったけど、ここは日本でも台湾でもないし、鬼蘭も当たり前にのように口をつけていたから多分この国では問題ないんだろう。なんか顔をしかめているあたり、無理してるようにも見えるけど。
「道士の待遇って悪いんですか?」
「ええ、いろいろありましてね」
「あたしはこの国のことは全然知りません。よかったら説明してもらえませんか?」
「お安い御用ですよ、老士」
そう言って太婀さんが自分の器の酒を飲み干した。
◆ 祁 祁 祁 ◆
太婀さんの話ではどうやらこんな感じの話らしかった。
この国の名前は泰国。瑞竜海なる海に浮かぶ島国だ。
広さは太婀さんにも分からない、というか知らないらしい。ただ、一回りするのに歩いて250日ほどかかるらしいから、日本よりは狭いんだろうと思う。
ここ200年ほどは国名の由来になっている泰家なる王朝が平和を維持していたけど、15年ほど前に西夷なる勢力が船で現れて寄港を求めてきたらしい。
西夷、とまとめて呼ばれているけど、一つの国ではなくて4つの国をまとめてそう呼んでいるのだそうだ。
泰の側にこれを断る理由はさほどなく、当初は食料や水の補充をしたり、ちょっとした貿易をしたりと平和的に関係は始まったらしい。
トラブルになったのは5年目。
寄港5周年を祝うお祭りで泰の兵隊が西夷の商人か誰かに怪我を負わせた。祝宴の中でのトラブルということで問題が拡大し、西夷の一つであるエスヴァレットなる国が出兵して戦争になった。
銃や大砲と大型船で装備を整えたエスヴァレットの軍は数では劣るものの泰の国軍を圧倒。
各地で敗れてあわや国の危機、思ったところで、西夷の一国のフレイジアが仲裁を買って出て、すんでのところで国土全部が戦場になる状況だけは回避できたらしいけど……
「あんなの慈悲でも何でもねぇよ!」
太婀さんがそこまで言ったところで、静かに聞いていた鬼蘭が吐き捨てるように言った。
「喧嘩だってそうだろ、相手をぶちのめした後に優しく手を差し伸べるなんてよ。逆らえるわけねぇじゃねえか。第一、仲裁に立ったフレイジアだってグルだったんだろ、あんなのよぉ」
歴史の勉強は学校で習った程度だけど、鬼蘭の言う通りだとあたしも思う。
意図的に小競り合いを起こして、自国民保護のためと称して軍隊を派遣。軍事力で圧倒したところで手打ちをして、再戦をちらつかせながら要求をのませる、というのは地球の歴史でも珍しくはなかったと思う。
世界の壁を飛び越えても人間のやることが変わってないのは呆れるしかない。
「そうだろ?大哥哥」
太婀さんはそれには答えず一口酒を飲んだ。
「……続けていいか?」
◆ 祁 祁 祁 ◆
その後、エスヴァレットが居留地の拡大を要求し、あとの3国もこれに追随。泰王室は飲まざるを得なくなり、主要な港を抑えられた。
そして、同時に彼らが進言したのが道士の排斥だったんだそうだ。
曰く、あのような迷信じみた勢力に頼るべきではない。
技術を磨き近代的な軍隊と政治制度を確立すべきだ、勿論我々は協力を惜しまない、とそんな具合だったらしい。
道士は昔から民間も含めて国全体に根付いていたものだったそうだから、普通ならそんな意見は通らないんじゃないかと思うんだけど。
道士の立場を悪くしたのは、花江港の乱、といわれるその戦争で道士たちの部隊が西夷の軍隊に歯が立たなかったということが大きいらしい。
◆ 祁 祁 祁 ◆
「私はその戦いには参加していないんだがね。大筒と火槍、龍騎兵の前に道士達はなす術がなかったそうだ」
ディアさんが感情を交えない口調で言う。
西夷の文明レベルが地球と比べてどのくらいなのか分からないけど。自分で道術を使ってみると……ある程度近い距離でならともかく、大砲に対抗できる気はしない
「それにね、化外の獣を飼いならしているんだからな、恐れ入るよ」
「化外の獣ってなんです?」
「化外の獣は……うーん、説明が難しいな」
「獅子や虎など、人間に仇を成す大型の獣のことです、老士」
羚羊が補足してくれる。
虎とかを飼いならして戦力にしていたんだろうか。なんでも人間は本気を出した小型犬にも勝てないらしい。虎とかを飼いならして使ってきたんだったら対抗できるか怪しい。
それに使ってみた感じ、あたしの道術も符を持ってから発動するまでにラグがある。強力だと思うけど万能ではない。虎と戦って勝てるか、と聞かれると、無理だと思う。
その後、西夷の主導で抗道刑吏なる組織が国軍に編成されて、道士狩りが本格化したらしい。あたしを襲ってきたあいつらもそういえばそんな名前を名乗っていた気がする。
10年の間に何度かの大規模な掃討が行われて、国のあちこちに居た道士は個別に倒されたり、捕まったりして徐々に数を減らし。今はいくつかの隠れ里のような形で隠れ住んでいる。その一つがここ、ということなんだそうだ。
二人とも、防寒のためなのかマントの様なものを羽織っている。静かなんだけど声をかけられるまで、近づいてくるのに全然気づかなかった。
「お疲れでしょう。月を肴に一献、如何です?」
精悍な顔つきに柔らかい笑みを浮かべて太婀さんが白っぽい壺と器を掲げる。
「それにこの坊主が一言申し上げたいそうなのでね、聞いてやってもらえませんか」
太婀さんの横では鬼蘭が気まずそうにうつむいている。
身長差がありすぎて親子にしか見えないけど、多分違うんだろうな。
「いいですよ」
「有り難い。それでは」
そういって太婀さんが抱えていた敷物を広げた。背中に背負った剣を地面に突き刺して、それに羚羊が持っていた提灯を引っ掛ける。
「では。お口にあえばいいのですが」
そう言って、太婀さんが恭しく白い器に酒を注いでくれる。器は地味だけど白磁っぽい綺麗なものだった。手触りもいい。
少し濁った酒を口に含むと甘い香りが口いっぱいに広がった。桃のお酒っぽい。甘いけど後味が杏露酒を思わせる感じで結構強い。
「あの……さっきは、失礼しました、老士」
鬼蘭がしおらしい口調で頭を下げる。さっきの嬉しそうなやんちゃ坊主な感じも、刺々しく鍾離さんと言い合っていた感じもない。
「いいわ、気にしてないから」
「でも……」
「老士がそう言ってくださっているんだ。甘えさせて頂け」
「じゃあ……ありがとうございます」
そういうけど、まだ鬼蘭は気まずそうにして手の中の器をもてあそんでいる。
「如何です?お口にあいますか?」
「はい、美味しいですよ」
「それは良かった」
太婀さんが答えてくれるけど……年上の人に敬語を使われるのはなんか居心地悪い。
「あの……敬語は止めてくれませんか?あたしの方が年下ですし」
そういうと太婀さんがちょっと驚いた顔をして、にんまりと笑みを浮かべた。
「いやー、話せますね、柳原道士」
そういって、半分くらい空いたあたしの器に酒を注いでくれる。
「じつはね、私もこういう畏まったのはどうにも柄じゃない。そう言って貰えるとありがたいですよ」
敬語ではあるんだけど口調が砕けた感じになって、堅苦しい雰囲気が消えて周りの空気が少し和らいだ気がした。精悍なアスリート風だったけど、笑うと気のいいオジサンって感じだ。
「一つ聞いていいですか?」
「ええ、なんなりと」
太婀さんが鬼蘭の器にも酒を注ぎながら返事をしてくれる。
……いいのかしら、と思ったけど、ここは日本でも台湾でもないし、鬼蘭も当たり前にのように口をつけていたから多分この国では問題ないんだろう。なんか顔をしかめているあたり、無理してるようにも見えるけど。
「道士の待遇って悪いんですか?」
「ええ、いろいろありましてね」
「あたしはこの国のことは全然知りません。よかったら説明してもらえませんか?」
「お安い御用ですよ、老士」
そう言って太婀さんが自分の器の酒を飲み干した。
◆ 祁 祁 祁 ◆
太婀さんの話ではどうやらこんな感じの話らしかった。
この国の名前は泰国。瑞竜海なる海に浮かぶ島国だ。
広さは太婀さんにも分からない、というか知らないらしい。ただ、一回りするのに歩いて250日ほどかかるらしいから、日本よりは狭いんだろうと思う。
ここ200年ほどは国名の由来になっている泰家なる王朝が平和を維持していたけど、15年ほど前に西夷なる勢力が船で現れて寄港を求めてきたらしい。
西夷、とまとめて呼ばれているけど、一つの国ではなくて4つの国をまとめてそう呼んでいるのだそうだ。
泰の側にこれを断る理由はさほどなく、当初は食料や水の補充をしたり、ちょっとした貿易をしたりと平和的に関係は始まったらしい。
トラブルになったのは5年目。
寄港5周年を祝うお祭りで泰の兵隊が西夷の商人か誰かに怪我を負わせた。祝宴の中でのトラブルということで問題が拡大し、西夷の一つであるエスヴァレットなる国が出兵して戦争になった。
銃や大砲と大型船で装備を整えたエスヴァレットの軍は数では劣るものの泰の国軍を圧倒。
各地で敗れてあわや国の危機、思ったところで、西夷の一国のフレイジアが仲裁を買って出て、すんでのところで国土全部が戦場になる状況だけは回避できたらしいけど……
「あんなの慈悲でも何でもねぇよ!」
太婀さんがそこまで言ったところで、静かに聞いていた鬼蘭が吐き捨てるように言った。
「喧嘩だってそうだろ、相手をぶちのめした後に優しく手を差し伸べるなんてよ。逆らえるわけねぇじゃねえか。第一、仲裁に立ったフレイジアだってグルだったんだろ、あんなのよぉ」
歴史の勉強は学校で習った程度だけど、鬼蘭の言う通りだとあたしも思う。
意図的に小競り合いを起こして、自国民保護のためと称して軍隊を派遣。軍事力で圧倒したところで手打ちをして、再戦をちらつかせながら要求をのませる、というのは地球の歴史でも珍しくはなかったと思う。
世界の壁を飛び越えても人間のやることが変わってないのは呆れるしかない。
「そうだろ?大哥哥」
太婀さんはそれには答えず一口酒を飲んだ。
「……続けていいか?」
◆ 祁 祁 祁 ◆
その後、エスヴァレットが居留地の拡大を要求し、あとの3国もこれに追随。泰王室は飲まざるを得なくなり、主要な港を抑えられた。
そして、同時に彼らが進言したのが道士の排斥だったんだそうだ。
曰く、あのような迷信じみた勢力に頼るべきではない。
技術を磨き近代的な軍隊と政治制度を確立すべきだ、勿論我々は協力を惜しまない、とそんな具合だったらしい。
道士は昔から民間も含めて国全体に根付いていたものだったそうだから、普通ならそんな意見は通らないんじゃないかと思うんだけど。
道士の立場を悪くしたのは、花江港の乱、といわれるその戦争で道士たちの部隊が西夷の軍隊に歯が立たなかったということが大きいらしい。
◆ 祁 祁 祁 ◆
「私はその戦いには参加していないんだがね。大筒と火槍、龍騎兵の前に道士達はなす術がなかったそうだ」
ディアさんが感情を交えない口調で言う。
西夷の文明レベルが地球と比べてどのくらいなのか分からないけど。自分で道術を使ってみると……ある程度近い距離でならともかく、大砲に対抗できる気はしない
「それにね、化外の獣を飼いならしているんだからな、恐れ入るよ」
「化外の獣ってなんです?」
「化外の獣は……うーん、説明が難しいな」
「獅子や虎など、人間に仇を成す大型の獣のことです、老士」
羚羊が補足してくれる。
虎とかを飼いならして戦力にしていたんだろうか。なんでも人間は本気を出した小型犬にも勝てないらしい。虎とかを飼いならして使ってきたんだったら対抗できるか怪しい。
それに使ってみた感じ、あたしの道術も符を持ってから発動するまでにラグがある。強力だと思うけど万能ではない。虎と戦って勝てるか、と聞かれると、無理だと思う。
その後、西夷の主導で抗道刑吏なる組織が国軍に編成されて、道士狩りが本格化したらしい。あたしを襲ってきたあいつらもそういえばそんな名前を名乗っていた気がする。
10年の間に何度かの大規模な掃討が行われて、国のあちこちに居た道士は個別に倒されたり、捕まったりして徐々に数を減らし。今はいくつかの隠れ里のような形で隠れ住んでいる。その一つがここ、ということなんだそうだ。
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