僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
渋谷スクランブル交差点を強襲する・下
暗闇は一瞬で消えて、また光が目に飛び込んできた。
高く聳え立つビルと渋谷駅。渋谷スクランブル交差点だ。
普段は天幕が駆けられていて、探索者たちでにぎわっている食堂や物資置き場になっているけど、今は、まわりの机や天幕とかは根こそぎ取り払われていた
机や椅子の残骸が無造作に隅に積み上げられている。
血の跡と何人かの遺体も見えた……よくもやってくれたな。
広々とした交差点には何人かの兵士たち。それに、10人ほど兵士たちがQ-FRONTビルの方にいる。
「なんだ?」
状況がわからないって感じで周りの兵士たちがこっちを向いた。
相手はスロット持ちばかりだろう。容赦は無用。
兵士の一人を狙って引き金を引く。黒い光弾が兵士に突き刺さって吹っ飛んだ。
都笠さんが窓からサブマシンガンを突き出す。軽い銃声がして腹に弾を受けた兵士が倒れた。
「あっち行って!!大っ嫌い!」
ユーカの炎が立て続けに吹き上がった。兵士たちが悲鳴を上げて隊列を乱す。
とりあえず兵士たちはそこまで数は多くなさそうだ。
空から自分を見下ろす感じで、できる限り広い範囲をイメージする。
「管理者起動!音響設備制御」
自分の感覚が何かに接続される、久しぶりの管理者の感覚。
「探索者の人!無事ですか!援護に来ました!僕は風戸澄人。聞こえてたら門のところに来てください!」
あちこちの柱とかについているスピーカーから声が響いた。
恐らく探索者の結構な人数が国境の戦場に行っているだろうけど、全員ではないはずだ。それに、襲撃から時間が経ってないなら、この辺にいる可能性は高い。
とりあえずこれを聞いて集まってくれれば少しでも優位に立てる。
スクランブル交差点に通じる広い道に何人かのソヴェンスキの兵士の姿が見えた。
こっちに走ってくるけど、そっちに向かってユーカの炎が次々と飛ぶ。
「後ろです!」
セリエが警告を発した。門から三人ほど兵士が姿を現す。
銃を向けるより速く、車から降りた都笠さんが門に向けて89式を構えた。
甲高い銃声が響いて、火線を受けた兵士たちが次々と倒れる。もう一人出てきた奴が肩を撃たれて門の向こうに下がった。
「全員!城に入れ!」
誰かが号令して、Q-FRONTビルを囲んでいた兵士たちが逃げるようにビルに入っていく。
あそこは冒険者ギルドやオルドネス公の執務室とかがある。あいつらの主力はあの中か。
オルドネス公たちはQFRONTビルに籠城しているっぽいな。
「見れる?風戸君」
「もちろん」
ガラス張りのQ-FRONTビルに近づく。
あまり近づきすぎて魔法とかを撃ち込まれるのもマズイ。
スクランブル交差点の真ん中あたりに立って、ビルに意識を集中する。今なら、このくらいの距離ならいけるか。
「管理者、起動、監視カメラ制御」
カメラを制御すると、建物内のカメラの映像が目のまえに次々とディスプレイに表示されるように浮かんだ。
探索者ギルドになっているのは二階まで、三階より上はオルドネス公の居室とか執務室になっているけど、そのフロアには白装束の司教憲兵と鎧に身を固めたソヴェンスキの兵士たちの姿が見えた。
ギルドの職員や従士のものらしき遺体も。
カメラの映像を切り替えていくと、5階では戦いが続いているのが分かった。
ソヴェンスキの兵士は数はそこまで多くないけど……おそらくほとんどが司教憲兵だ。
探索者や従士たちが切られて倒されて、何人かが後退していく。
見ているだけなのが歯痒い。
戦いが終わって司教憲兵たちが周りを眺めなが等何かを話している
話しているうちの一人が、不意に僕が見ていることに気づいたように一人がカメラの方を向いた
……見覚えのある顔、ヴェロニカ。
◆
ヴェロニカがカメラから視線をそらした。
あいつらのなかで、塔の廃墟というか東京のことを一番知っているのはヴェロニカだろうから、居て当然かもしれない。
あいつ相手は余程スロット武器の性能がよくないと厳しいぞ。急がないと不味い。
6階には防御を固める従士たちがいて、オルドネス公たちは7階まで行ってようやく見つかった。
7階はどうやらカフェか何からしい。
丸い広いスペースには中央にカウンターがあって、テーブルとかが散らばっていた。部屋の周りを棚が取り囲んでる。
入り口というか階段やエレベーターに通じる通路は机や大きめのソファが積み上げられてバリケードが作られていた。
カウンターの傍にオルドネス公とブレーメンさん。
ラティナさんがオルドネス公のすぐ後ろで守るように立っている。
それにジェレミー公とアデルさん、フェイリンさん。わずかな護衛と探索者らしき数人も一緒だ。見慣れた顔が居ると安心できる。
「どう?」
「とりあえずオルドネス公やフェイリンさん、ラティナさんは無事っぽい」
そう言うと、セリエ達が安心したって感じで顔を見合わせた。
「管理者起動、音響設備制御」
今まで複数繋いでいたカメラを切って、7階のカメラだけの接続を維持したまま、今度はスピーカーを操作する。
「聞こえますか?」
スピーカーから声を出すと、カメラの画像の中に人たちがはじかれたように立ち上がって周りを見回した。
ラティナさんが何か皆に言って、スピーカーの一つを指さす。
こういう時は現代人がいてくれると何が起きてるか察してくれるから助かるな。
「スミトです。援護に来ました……少し持たせてください」
スピーカー越しに声を掛けた。
相手の声が聞こえないのが困るけど、でも喜んでいるのは見える。ラティナさんがカメラに気付いて手を振ってくれた。
◆
周囲を警戒しつつQFRONTビルに近づくと、遠くから呼ぶ声が聞こえた。
スクランブル交差点に通じる道の向こうからやってくる探索者たちの姿が見える。
やっぱり無事だったか。
彼らだってそれなりに長い期間、東京で探索をしている。
地理だって知っている人は多いだろうし、渋谷周辺はビルがいくらでもある。隠れる場所には事欠かない。
西武の方の通路からはアルドさんが完全武装した何人かの戦士っぽい人を従えてきた。
アルドさんの奴隷だろう。
「無事ですか?」
「ええ、私はね。ご心配頂きありがとうございます、龍殺し殿」
普段は穏やかで紳士的って感じのアルドさんが険しい顔で言う。
恐らく、奴隷の何人かが殺されたんだろうというのは聞かなくても分かった……この人は、奴隷を商ってはいるけど、単なるものとしては見ていないっぽいし。
「お前たち、奴らがしたことを忘れるな。
この戦いで戦功をあげた者は無条件の解放を約束しよう。奴らを一人殺すごとに私が報奨金を出す。いいな」
アルドさんがそう言うと、後ろに何人か付き従った戦士たちが真剣な顔で頷いた。
「よう、スミト」
「また助けられちまったな、格好付かねぇぜ。まったくよ」
アーロンさんとリチャードだ。レインさんが後ろで軽く一礼してくれる
疲れた感じではあるけど怪我とかはなさそうだ。
「無事でしたか。今はどんな状況なんです?」
「あの連中が門をくぐっていきなり現れてな。不意打ちだったから、かなりの数がやられた」
アーロンさんが苦々し気に言う。
「シブヤの探索者は一度周囲に散ったはずだ。他のシンジュクとかイケブクロにいる連中は分からん」
アーロンさんが答えてくれる。
渋谷が最大の拠点だけど、探索者やオルドネス公の兵士たちは東京の探索拠点に広く散っている。
この短時間でそこをすべて抑えるのは無理だろう。そっちにいる人もおいおい戻ってきてくれるだろうか。
「しかし、異様に速かったな。あいつ等が来てから半日ほどしかたってないぞ」
「まあ、その辺は色々と」
通信機で連絡が来て、その後は飛竜で移動して、パレアからはハンマーで全速力で来た。
一部のスロット能力を別とすれば伝令と馬が頼りの世界だ。常識外れの速さだと思う。
「そういえば……戦争にはいかなかったんですね」
「色々あってな、もう戦場は遠慮しておきたいのさ……だが」
アーロンさんが肩を竦めて言う。
「おかげでまた一緒に戦えるな……援護が要るだろ、スミト」
「手伝ってくれますか?アーロンさん」
「あいつらにはやられっぱなしだからな。やり返させてもらうさ」
敵はQ-FRONTビル内にいる。オルドネス公の部屋までたどり着かれて、彼を人質に取られると不味い。
早くあいつらを排除しないと。
高く聳え立つビルと渋谷駅。渋谷スクランブル交差点だ。
普段は天幕が駆けられていて、探索者たちでにぎわっている食堂や物資置き場になっているけど、今は、まわりの机や天幕とかは根こそぎ取り払われていた
机や椅子の残骸が無造作に隅に積み上げられている。
血の跡と何人かの遺体も見えた……よくもやってくれたな。
広々とした交差点には何人かの兵士たち。それに、10人ほど兵士たちがQ-FRONTビルの方にいる。
「なんだ?」
状況がわからないって感じで周りの兵士たちがこっちを向いた。
相手はスロット持ちばかりだろう。容赦は無用。
兵士の一人を狙って引き金を引く。黒い光弾が兵士に突き刺さって吹っ飛んだ。
都笠さんが窓からサブマシンガンを突き出す。軽い銃声がして腹に弾を受けた兵士が倒れた。
「あっち行って!!大っ嫌い!」
ユーカの炎が立て続けに吹き上がった。兵士たちが悲鳴を上げて隊列を乱す。
とりあえず兵士たちはそこまで数は多くなさそうだ。
空から自分を見下ろす感じで、できる限り広い範囲をイメージする。
「管理者起動!音響設備制御」
自分の感覚が何かに接続される、久しぶりの管理者の感覚。
「探索者の人!無事ですか!援護に来ました!僕は風戸澄人。聞こえてたら門のところに来てください!」
あちこちの柱とかについているスピーカーから声が響いた。
恐らく探索者の結構な人数が国境の戦場に行っているだろうけど、全員ではないはずだ。それに、襲撃から時間が経ってないなら、この辺にいる可能性は高い。
とりあえずこれを聞いて集まってくれれば少しでも優位に立てる。
スクランブル交差点に通じる広い道に何人かのソヴェンスキの兵士の姿が見えた。
こっちに走ってくるけど、そっちに向かってユーカの炎が次々と飛ぶ。
「後ろです!」
セリエが警告を発した。門から三人ほど兵士が姿を現す。
銃を向けるより速く、車から降りた都笠さんが門に向けて89式を構えた。
甲高い銃声が響いて、火線を受けた兵士たちが次々と倒れる。もう一人出てきた奴が肩を撃たれて門の向こうに下がった。
「全員!城に入れ!」
誰かが号令して、Q-FRONTビルを囲んでいた兵士たちが逃げるようにビルに入っていく。
あそこは冒険者ギルドやオルドネス公の執務室とかがある。あいつらの主力はあの中か。
オルドネス公たちはQFRONTビルに籠城しているっぽいな。
「見れる?風戸君」
「もちろん」
ガラス張りのQ-FRONTビルに近づく。
あまり近づきすぎて魔法とかを撃ち込まれるのもマズイ。
スクランブル交差点の真ん中あたりに立って、ビルに意識を集中する。今なら、このくらいの距離ならいけるか。
「管理者、起動、監視カメラ制御」
カメラを制御すると、建物内のカメラの映像が目のまえに次々とディスプレイに表示されるように浮かんだ。
探索者ギルドになっているのは二階まで、三階より上はオルドネス公の居室とか執務室になっているけど、そのフロアには白装束の司教憲兵と鎧に身を固めたソヴェンスキの兵士たちの姿が見えた。
ギルドの職員や従士のものらしき遺体も。
カメラの映像を切り替えていくと、5階では戦いが続いているのが分かった。
ソヴェンスキの兵士は数はそこまで多くないけど……おそらくほとんどが司教憲兵だ。
探索者や従士たちが切られて倒されて、何人かが後退していく。
見ているだけなのが歯痒い。
戦いが終わって司教憲兵たちが周りを眺めなが等何かを話している
話しているうちの一人が、不意に僕が見ていることに気づいたように一人がカメラの方を向いた
……見覚えのある顔、ヴェロニカ。
◆
ヴェロニカがカメラから視線をそらした。
あいつらのなかで、塔の廃墟というか東京のことを一番知っているのはヴェロニカだろうから、居て当然かもしれない。
あいつ相手は余程スロット武器の性能がよくないと厳しいぞ。急がないと不味い。
6階には防御を固める従士たちがいて、オルドネス公たちは7階まで行ってようやく見つかった。
7階はどうやらカフェか何からしい。
丸い広いスペースには中央にカウンターがあって、テーブルとかが散らばっていた。部屋の周りを棚が取り囲んでる。
入り口というか階段やエレベーターに通じる通路は机や大きめのソファが積み上げられてバリケードが作られていた。
カウンターの傍にオルドネス公とブレーメンさん。
ラティナさんがオルドネス公のすぐ後ろで守るように立っている。
それにジェレミー公とアデルさん、フェイリンさん。わずかな護衛と探索者らしき数人も一緒だ。見慣れた顔が居ると安心できる。
「どう?」
「とりあえずオルドネス公やフェイリンさん、ラティナさんは無事っぽい」
そう言うと、セリエ達が安心したって感じで顔を見合わせた。
「管理者起動、音響設備制御」
今まで複数繋いでいたカメラを切って、7階のカメラだけの接続を維持したまま、今度はスピーカーを操作する。
「聞こえますか?」
スピーカーから声を出すと、カメラの画像の中に人たちがはじかれたように立ち上がって周りを見回した。
ラティナさんが何か皆に言って、スピーカーの一つを指さす。
こういう時は現代人がいてくれると何が起きてるか察してくれるから助かるな。
「スミトです。援護に来ました……少し持たせてください」
スピーカー越しに声を掛けた。
相手の声が聞こえないのが困るけど、でも喜んでいるのは見える。ラティナさんがカメラに気付いて手を振ってくれた。
◆
周囲を警戒しつつQFRONTビルに近づくと、遠くから呼ぶ声が聞こえた。
スクランブル交差点に通じる道の向こうからやってくる探索者たちの姿が見える。
やっぱり無事だったか。
彼らだってそれなりに長い期間、東京で探索をしている。
地理だって知っている人は多いだろうし、渋谷周辺はビルがいくらでもある。隠れる場所には事欠かない。
西武の方の通路からはアルドさんが完全武装した何人かの戦士っぽい人を従えてきた。
アルドさんの奴隷だろう。
「無事ですか?」
「ええ、私はね。ご心配頂きありがとうございます、龍殺し殿」
普段は穏やかで紳士的って感じのアルドさんが険しい顔で言う。
恐らく、奴隷の何人かが殺されたんだろうというのは聞かなくても分かった……この人は、奴隷を商ってはいるけど、単なるものとしては見ていないっぽいし。
「お前たち、奴らがしたことを忘れるな。
この戦いで戦功をあげた者は無条件の解放を約束しよう。奴らを一人殺すごとに私が報奨金を出す。いいな」
アルドさんがそう言うと、後ろに何人か付き従った戦士たちが真剣な顔で頷いた。
「よう、スミト」
「また助けられちまったな、格好付かねぇぜ。まったくよ」
アーロンさんとリチャードだ。レインさんが後ろで軽く一礼してくれる
疲れた感じではあるけど怪我とかはなさそうだ。
「無事でしたか。今はどんな状況なんです?」
「あの連中が門をくぐっていきなり現れてな。不意打ちだったから、かなりの数がやられた」
アーロンさんが苦々し気に言う。
「シブヤの探索者は一度周囲に散ったはずだ。他のシンジュクとかイケブクロにいる連中は分からん」
アーロンさんが答えてくれる。
渋谷が最大の拠点だけど、探索者やオルドネス公の兵士たちは東京の探索拠点に広く散っている。
この短時間でそこをすべて抑えるのは無理だろう。そっちにいる人もおいおい戻ってきてくれるだろうか。
「しかし、異様に速かったな。あいつ等が来てから半日ほどしかたってないぞ」
「まあ、その辺は色々と」
通信機で連絡が来て、その後は飛竜で移動して、パレアからはハンマーで全速力で来た。
一部のスロット能力を別とすれば伝令と馬が頼りの世界だ。常識外れの速さだと思う。
「そういえば……戦争にはいかなかったんですね」
「色々あってな、もう戦場は遠慮しておきたいのさ……だが」
アーロンさんが肩を竦めて言う。
「おかげでまた一緒に戦えるな……援護が要るだろ、スミト」
「手伝ってくれますか?アーロンさん」
「あいつらにはやられっぱなしだからな。やり返させてもらうさ」
敵はQ-FRONTビル内にいる。オルドネス公の部屋までたどり着かれて、彼を人質に取られると不味い。
早くあいつらを排除しないと。
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