僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
彼らの思惑は・下
それから数日は同じような展開が続いた。
ガルフブルグの軍勢を超える数の兵力、その多くは不信心者だけど。それを正面に押し出して前進してくる。
それを矢で足止めして、バスキア公の天球儀の担い手で射程を伸ばした魔法が後衛を直接攻撃する。
しばらくは粘るけど後衛が後退して、その日の戦いが終わるって感じだ。
追撃してくるのを待って罠を張っているのかもしれないけど、バスキア公は深追いをする気配はない。
大勝利をしてカタをつけるより、あくまで犠牲を出さないのが最優先っぽい。
言動は強気だけど、戦術は用心深いな
「どう思う、セリエ?」
「とても慎重ですね……ですが、あの……とても素晴らしい指揮ぶりだと思います」
いつもの観戦している丘のからの帰り道で聞いてみたら、言葉を選ぶようにセリエが答えてくれた
「というと?」
「戦いにおいて、もちろん犠牲は避けられません。ですが……遺される奥さまやお子様を見るのは……とてもつらいですから」
セリエが俯いたまま言った。
そういえばセリエはユーカのお父さんの傍に付き添って戦場にも行っている。そういう場面も見ているんだろうな。
ただ、見ていると何となくわかるけど。
不信心者の兵士からすれば積極的に戦う理由はあまりないんだろうなという気がする。
一部、勢いがあるのは戦いで手柄を立ててその状況から抜けようとする部隊かもしれないけど、やっぱり士気は低い。
どう言ったとしても、無理やり戦わせているんだから当然ではある。
だから正規兵が後ろで指揮というか監視をしないといけないんだろうけど、その正規兵を綾森さんの地図で位置をとらえたバスキア公の魔法が狙い撃ちしている。
時々、矢の攻撃を潜り抜けた前衛がガルフブルグの兵の防衛ラインまでたどり着くけど、矢で疲弊した少数の兵士では防衛ラインを破ることはできない。
それに、ガルフブルグの方の騎士の士気は高くて崩れる気配もない。
敵の陣容は減っている感じはしないけど、戦場に倒れる死体の数を見ると犠牲者は相当な数だと思う。
遺体の黒と白い鎧と赤い血の斑になった平原は……なんというか恐ろしい光景だ。現実感が無い。
いずれにしても、不信心者の兵を捨て駒にするとしても無限なわけじゃないだろう。
このまま持久戦に持ち込めば相手が先に力尽きるはずだ。
◆
戦争が始まってから1週間ほどが経った。
食事や寝る場所はバスキア公が提供してくれている。
寝台は戦場とは思えないくらい柔らかいし、食事も美味しい。
セリエとユーカにも同じように立派な天幕が宛がわれてるけど、セリエとしては少し離れていることは少し不満なんだそうだ。
いつでも駆け付けられる場所にいたいということらしい。
朝ご飯はいつもバスキア公とその旗下の騎士や貴族と一緒に大きめの食堂用テントで食べている。
「で、敵の動きはどうだ?サルラ公」
「今のところ動きはありません。布陣の様子を偵察した限り、昨日と同じように来るのではないかと思われます」
鷹揚な感じでバスキア公が聞いて、テーブルに着いた若い騎士の一人が緊張したような感じで答える。彼の顔はまだ見たことが無いな。
朝食の席を囲むメンバーは日によって変わる。多分、朝食に呼ばれること自体が名誉なことなんだろう。
いつも通りに見えるけど、バスキア公には少し疲労の色が見えた。
あの天球儀の担い手は、恐ろしく強力だけど相当に負担がきついんだろうなということは分かる。
あれを毎日使い続けているんだから、疲れはたまるだろう。
現実はポーションを飲んで寝ればMPが回復して体力全快というほど便利じゃない。
戦い続けたり、魔法を撃ちまくれば、澱のように疲労は残る。
個人的に気になるのはあまりにも工夫が無さ過ぎることだ。
この一週間ほど、毎日のように正面から力押ししてきて撤退する、というのを繰り返している。
「どう思う?ナポリオ公」
「さて、なんとも……奴らとは戦術が違いすぎますので。別動隊がいないかについては広域に斥候を配して抜かりなく探っています」
同じことはバスキア公も考えていたらしい。
朝食の長机の中ほどに座っていた、茶色の長髪に茶色の長いひげの貴族の人と言葉を交わしている。
この人は近衛や僕と同じく朝食に毎日参加している。席も上座というかバスキア公に近い。
線が細いから戦士というよりバスキア公のベテラン参謀格なんだろうということは何となくわかる。
都笠さんの言葉を借りると、優秀な大佐っぽいわ、ということらしい。
見た目は50歳くらいだろうか。
整った細面に東京の眼鏡をかけていて穏やかな紳士って感じだけど、視線は鋭いし話していることも的確な感じで、切れ者な雰囲気が伝わってくる。
主力を引き付けておいて迂回して背後をつく、というのは定番の戦術だけど。
そっちには警戒してるっぽいな。
「よし、引き続き……」
「大変です!」
バスキア公の話を遮るように、朝食の場に突然兵士らしき人が駆け込んできた。
全員の注目が集まる。入ってきた兵士が大きく息をついた
「どうした?」
「たった今、伝令がありました。イーレルギアの騎士団が……北方の国境を侵しました」
ガルフブルグの軍勢を超える数の兵力、その多くは不信心者だけど。それを正面に押し出して前進してくる。
それを矢で足止めして、バスキア公の天球儀の担い手で射程を伸ばした魔法が後衛を直接攻撃する。
しばらくは粘るけど後衛が後退して、その日の戦いが終わるって感じだ。
追撃してくるのを待って罠を張っているのかもしれないけど、バスキア公は深追いをする気配はない。
大勝利をしてカタをつけるより、あくまで犠牲を出さないのが最優先っぽい。
言動は強気だけど、戦術は用心深いな
「どう思う、セリエ?」
「とても慎重ですね……ですが、あの……とても素晴らしい指揮ぶりだと思います」
いつもの観戦している丘のからの帰り道で聞いてみたら、言葉を選ぶようにセリエが答えてくれた
「というと?」
「戦いにおいて、もちろん犠牲は避けられません。ですが……遺される奥さまやお子様を見るのは……とてもつらいですから」
セリエが俯いたまま言った。
そういえばセリエはユーカのお父さんの傍に付き添って戦場にも行っている。そういう場面も見ているんだろうな。
ただ、見ていると何となくわかるけど。
不信心者の兵士からすれば積極的に戦う理由はあまりないんだろうなという気がする。
一部、勢いがあるのは戦いで手柄を立ててその状況から抜けようとする部隊かもしれないけど、やっぱり士気は低い。
どう言ったとしても、無理やり戦わせているんだから当然ではある。
だから正規兵が後ろで指揮というか監視をしないといけないんだろうけど、その正規兵を綾森さんの地図で位置をとらえたバスキア公の魔法が狙い撃ちしている。
時々、矢の攻撃を潜り抜けた前衛がガルフブルグの兵の防衛ラインまでたどり着くけど、矢で疲弊した少数の兵士では防衛ラインを破ることはできない。
それに、ガルフブルグの方の騎士の士気は高くて崩れる気配もない。
敵の陣容は減っている感じはしないけど、戦場に倒れる死体の数を見ると犠牲者は相当な数だと思う。
遺体の黒と白い鎧と赤い血の斑になった平原は……なんというか恐ろしい光景だ。現実感が無い。
いずれにしても、不信心者の兵を捨て駒にするとしても無限なわけじゃないだろう。
このまま持久戦に持ち込めば相手が先に力尽きるはずだ。
◆
戦争が始まってから1週間ほどが経った。
食事や寝る場所はバスキア公が提供してくれている。
寝台は戦場とは思えないくらい柔らかいし、食事も美味しい。
セリエとユーカにも同じように立派な天幕が宛がわれてるけど、セリエとしては少し離れていることは少し不満なんだそうだ。
いつでも駆け付けられる場所にいたいということらしい。
朝ご飯はいつもバスキア公とその旗下の騎士や貴族と一緒に大きめの食堂用テントで食べている。
「で、敵の動きはどうだ?サルラ公」
「今のところ動きはありません。布陣の様子を偵察した限り、昨日と同じように来るのではないかと思われます」
鷹揚な感じでバスキア公が聞いて、テーブルに着いた若い騎士の一人が緊張したような感じで答える。彼の顔はまだ見たことが無いな。
朝食の席を囲むメンバーは日によって変わる。多分、朝食に呼ばれること自体が名誉なことなんだろう。
いつも通りに見えるけど、バスキア公には少し疲労の色が見えた。
あの天球儀の担い手は、恐ろしく強力だけど相当に負担がきついんだろうなということは分かる。
あれを毎日使い続けているんだから、疲れはたまるだろう。
現実はポーションを飲んで寝ればMPが回復して体力全快というほど便利じゃない。
戦い続けたり、魔法を撃ちまくれば、澱のように疲労は残る。
個人的に気になるのはあまりにも工夫が無さ過ぎることだ。
この一週間ほど、毎日のように正面から力押ししてきて撤退する、というのを繰り返している。
「どう思う?ナポリオ公」
「さて、なんとも……奴らとは戦術が違いすぎますので。別動隊がいないかについては広域に斥候を配して抜かりなく探っています」
同じことはバスキア公も考えていたらしい。
朝食の長机の中ほどに座っていた、茶色の長髪に茶色の長いひげの貴族の人と言葉を交わしている。
この人は近衛や僕と同じく朝食に毎日参加している。席も上座というかバスキア公に近い。
線が細いから戦士というよりバスキア公のベテラン参謀格なんだろうということは何となくわかる。
都笠さんの言葉を借りると、優秀な大佐っぽいわ、ということらしい。
見た目は50歳くらいだろうか。
整った細面に東京の眼鏡をかけていて穏やかな紳士って感じだけど、視線は鋭いし話していることも的確な感じで、切れ者な雰囲気が伝わってくる。
主力を引き付けておいて迂回して背後をつく、というのは定番の戦術だけど。
そっちには警戒してるっぽいな。
「よし、引き続き……」
「大変です!」
バスキア公の話を遮るように、朝食の場に突然兵士らしき人が駆け込んできた。
全員の注目が集まる。入ってきた兵士が大きく息をついた
「どうした?」
「たった今、伝令がありました。イーレルギアの騎士団が……北方の国境を侵しました」
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