僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
彼らの思惑は・上
次の日。
兵士たちの隊列の後ろの小高い丘の上に連れてこられた。
バスキア公やいつもの近衛の人たち、それに魔法使いらしき10人くらいのローブ姿の男女がいる。
地面には仰々しくワインレッドのじゅうたんが敷かれていて、その中央にバスキア公が一人で立っていた。
絨毯には複雑な文様が描かれている。なんとなく、オルドネス公の普通の東京への門を開ける部屋のような感じだ。
ユーカとセリエもいてくれる。
戦争の時にはお傍に付き従うものです、と言って傍を離れようとしない。
バスキア公も奴隷だからダメだとかそれを咎めることはなかった。偉そうな人ではあるけど、この辺は好感が持てる人だ。
丘の下に見える戦場には野戦用の簡易な城壁を思わせる巨大な盾が並べられていて、その後ろには弓を構えたガルフブルグの兵士たちが隊列を組んでいる。
緑の草原を挟んで、遠くにはソヴェンスキの兵士の隊列が見えた。
揃いの白い衣装に身を包んでいて、槍が太陽の光できらきらと輝いている。
何人くらいいるんだろうか。1000人くらいか。数では負けてるな。
兵士たちが整然と隊列を崩さないままに前進してくる。
「放て!」
「矢を浴びせよ!」
号令の声の後に鐘の音が響いてガルフブルグ側の兵士たちが矢を放つ。
雨のように降り注ぐ矢に、ソヴェンスキの兵士たちがバタバタと倒れるけど、死体を踏み越えて逃げるそぶりもなくそのまま進んできた。
ソヴェンスキの軍の後ろから太鼓のような音が聞こえた。
こっち側から第二射、第三射の矢が飛ぶけどそれでも足は止まらない。
「何なの、あれ」
都笠さんが東京から持ってきたっぽい望遠鏡でそれを見て言う。
遠目から見ても犠牲者が倒れるのが見えるけど、何事もなかったかのように進んでくる。
「あれ、まさか……」
都笠さんが呟いて、バスキア公が頷いた。
「不信心者を前衛にしてきているのさ。それを囮にしてこっちの矢や魔法の消耗を強いてくる。
不信心者が恐れをなして逃げたら後ろから矢を射る。兵士たちも不信心者の地位から逃れたいから必死で戦うわけだ」
都笠さんが表情を歪めて何か吐き捨てるように言った。
「……心の底から腐りきってますね」
奴隷を盾にして突っ込んでくるわけか。そして彼らも自分がその地位から抜けるためには必死で戦う。
階級社会を活かした感心するほど合理的で、実に胸糞わるい戦術だ。
よくそんなやり方をしながら自分は正しいだの奴隷は野蛮だの言えたもんだな。
「だが、俺の前なら敵じゃねぇ。アスマ、それにお前ら準備はいいか?」
「万事滞りなく」
綾森さんが頭を下げる。すでに周りには天頂の目の地図が展開されていた。
綾森さん以外にも魔法使い風の人たちが10人近く待機している。
「よし、始めるぞ。
【我が名はアストレイ・ヴィルバーオ・バスキア。聞け、天球に座して地を睥睨する者よ、世を統べる力を我に預けよ】」
唱えると、バスキア公を中心にして、絨毯の上に光が走る。
半径10メートルはありそうな、大きめの円の魔法陣が展開された。
「【汝の力あらば、高く中天にある星も寝台の天蓋に触れるがごとく低く、万里の果てにある野の花も我が庭園の薔薇のごとく近く。かくのごとくあらん】」
詠唱を終えてバスキア公が空を指さした。
魔法陣のふちから何本もの光の線がアーチのようなものを描いてドームのようになる。
表面には文様が浮かんでいてなんとなくプラネタリウムの様だ。
「アスマ、敵の位置はどこだ?」
綾森さんが自分の地図と見比べてしばらく考え込んで、ドームの一角を指さす。
「恐らく……このあたりでしょう」
「よし、やれ」
バスキア公が言うと、一人の魔法使いが一礼して詠唱する。巨大な火球が頭の上に膨れ上がった。
その火球がまるでバスキア公に撃つように飛ぶ。
大丈夫かと思ったけど、火球が魔法陣に吸い込まれるようにして消えて、一瞬遅れて戦場の方から爆発音が聞こえた。
振り返ると、白い衣服の前衛の後ろ方で煙が上がっている。
綾森さんが地図を見て頷いた。
「命中です」
「よし、どんどんいけ」
周りの魔法使いたちが次々と詠唱を始めて魔法を魔法陣に打ち込む。
魔法が魔法陣に吸い込まれるように消えて、ソヴェンスキの陣の後ろの方で立て続けに爆発や落雷が起きる。
遠目に見ても露骨に隊列が乱れだした。
「なんなんです?」
「これがバスキア家の、というか俺のスロット能力だ。天球儀の担い手。
狙った場所に魔法を飛ばす能力だ」
バスキア公が魔法陣を解かないままにこたえてくれた。
「あいつらは不信心者をどれだけ殺しても気にも留めやしねぇからな。直接奥の正規軍の連中をたたくしかねぇ。
普段は狙いをつけるのに手間がかかるんだが、アスマがいれば狙い撃ちができる」
そういうと、綾森さんが一礼した。
なんというか、マップ兵器のような能力だ。魔法の射程を無限に伸ばすような感じなんだろうな。
ダナエ姫の剣聖の戦列やオルドネス公の奈落の門みたいなものか。
ヴァンサンのあれもだけど、血族で引き継がれる能力っていうのがあるんだろうな。
その後も魔法使い達が魔法を撃ち続けて、しばらくしているうちにソヴェンスキの陣形が完全に崩れた。
後ろの騎馬兵が後退していって、それに従うように前衛の白い服の不信心者の部隊がばらばらと下がっていく。
後衛というか正規軍が撤退したらしい。不信心者の兵も正規軍が居ないと戦意を失うのか。
それとも手柄を立てても確認する相手がいないからなのだろうか。
「こっちの被害は最小限だな。まあ初日としては悪くない」
バスキア公が魔法陣を解除して言った。
一人の従者が水を入れたグラスとポーションを差し出す。疲れた感じのバスキア公がそれを飲み干して一つため息をついた。
僕の管理者の周辺地図接続、綾森さんの天頂の目、セリエの使い魔。
広域の地図を見たり効果を遠くまで届かせるスロット能力はとにかく消耗が激しい。
バスキア公のこれも系統としては似ているから、疲れる能力だろうな。
「よくやった。皆休め。前線の兵士たちに警戒は緩めないように伝令しておけ。あいつらは何をするか分からねぇからな」
疲れを感じさせない威厳のある口調で言って、付き従っていた従者の人が駆けていった。
ともあれ、こんな感じで初日は終わった。
兵士たちの隊列の後ろの小高い丘の上に連れてこられた。
バスキア公やいつもの近衛の人たち、それに魔法使いらしき10人くらいのローブ姿の男女がいる。
地面には仰々しくワインレッドのじゅうたんが敷かれていて、その中央にバスキア公が一人で立っていた。
絨毯には複雑な文様が描かれている。なんとなく、オルドネス公の普通の東京への門を開ける部屋のような感じだ。
ユーカとセリエもいてくれる。
戦争の時にはお傍に付き従うものです、と言って傍を離れようとしない。
バスキア公も奴隷だからダメだとかそれを咎めることはなかった。偉そうな人ではあるけど、この辺は好感が持てる人だ。
丘の下に見える戦場には野戦用の簡易な城壁を思わせる巨大な盾が並べられていて、その後ろには弓を構えたガルフブルグの兵士たちが隊列を組んでいる。
緑の草原を挟んで、遠くにはソヴェンスキの兵士の隊列が見えた。
揃いの白い衣装に身を包んでいて、槍が太陽の光できらきらと輝いている。
何人くらいいるんだろうか。1000人くらいか。数では負けてるな。
兵士たちが整然と隊列を崩さないままに前進してくる。
「放て!」
「矢を浴びせよ!」
号令の声の後に鐘の音が響いてガルフブルグ側の兵士たちが矢を放つ。
雨のように降り注ぐ矢に、ソヴェンスキの兵士たちがバタバタと倒れるけど、死体を踏み越えて逃げるそぶりもなくそのまま進んできた。
ソヴェンスキの軍の後ろから太鼓のような音が聞こえた。
こっち側から第二射、第三射の矢が飛ぶけどそれでも足は止まらない。
「何なの、あれ」
都笠さんが東京から持ってきたっぽい望遠鏡でそれを見て言う。
遠目から見ても犠牲者が倒れるのが見えるけど、何事もなかったかのように進んでくる。
「あれ、まさか……」
都笠さんが呟いて、バスキア公が頷いた。
「不信心者を前衛にしてきているのさ。それを囮にしてこっちの矢や魔法の消耗を強いてくる。
不信心者が恐れをなして逃げたら後ろから矢を射る。兵士たちも不信心者の地位から逃れたいから必死で戦うわけだ」
都笠さんが表情を歪めて何か吐き捨てるように言った。
「……心の底から腐りきってますね」
奴隷を盾にして突っ込んでくるわけか。そして彼らも自分がその地位から抜けるためには必死で戦う。
階級社会を活かした感心するほど合理的で、実に胸糞わるい戦術だ。
よくそんなやり方をしながら自分は正しいだの奴隷は野蛮だの言えたもんだな。
「だが、俺の前なら敵じゃねぇ。アスマ、それにお前ら準備はいいか?」
「万事滞りなく」
綾森さんが頭を下げる。すでに周りには天頂の目の地図が展開されていた。
綾森さん以外にも魔法使い風の人たちが10人近く待機している。
「よし、始めるぞ。
【我が名はアストレイ・ヴィルバーオ・バスキア。聞け、天球に座して地を睥睨する者よ、世を統べる力を我に預けよ】」
唱えると、バスキア公を中心にして、絨毯の上に光が走る。
半径10メートルはありそうな、大きめの円の魔法陣が展開された。
「【汝の力あらば、高く中天にある星も寝台の天蓋に触れるがごとく低く、万里の果てにある野の花も我が庭園の薔薇のごとく近く。かくのごとくあらん】」
詠唱を終えてバスキア公が空を指さした。
魔法陣のふちから何本もの光の線がアーチのようなものを描いてドームのようになる。
表面には文様が浮かんでいてなんとなくプラネタリウムの様だ。
「アスマ、敵の位置はどこだ?」
綾森さんが自分の地図と見比べてしばらく考え込んで、ドームの一角を指さす。
「恐らく……このあたりでしょう」
「よし、やれ」
バスキア公が言うと、一人の魔法使いが一礼して詠唱する。巨大な火球が頭の上に膨れ上がった。
その火球がまるでバスキア公に撃つように飛ぶ。
大丈夫かと思ったけど、火球が魔法陣に吸い込まれるようにして消えて、一瞬遅れて戦場の方から爆発音が聞こえた。
振り返ると、白い衣服の前衛の後ろ方で煙が上がっている。
綾森さんが地図を見て頷いた。
「命中です」
「よし、どんどんいけ」
周りの魔法使いたちが次々と詠唱を始めて魔法を魔法陣に打ち込む。
魔法が魔法陣に吸い込まれるように消えて、ソヴェンスキの陣の後ろの方で立て続けに爆発や落雷が起きる。
遠目に見ても露骨に隊列が乱れだした。
「なんなんです?」
「これがバスキア家の、というか俺のスロット能力だ。天球儀の担い手。
狙った場所に魔法を飛ばす能力だ」
バスキア公が魔法陣を解かないままにこたえてくれた。
「あいつらは不信心者をどれだけ殺しても気にも留めやしねぇからな。直接奥の正規軍の連中をたたくしかねぇ。
普段は狙いをつけるのに手間がかかるんだが、アスマがいれば狙い撃ちができる」
そういうと、綾森さんが一礼した。
なんというか、マップ兵器のような能力だ。魔法の射程を無限に伸ばすような感じなんだろうな。
ダナエ姫の剣聖の戦列やオルドネス公の奈落の門みたいなものか。
ヴァンサンのあれもだけど、血族で引き継がれる能力っていうのがあるんだろうな。
その後も魔法使い達が魔法を撃ち続けて、しばらくしているうちにソヴェンスキの陣形が完全に崩れた。
後ろの騎馬兵が後退していって、それに従うように前衛の白い服の不信心者の部隊がばらばらと下がっていく。
後衛というか正規軍が撤退したらしい。不信心者の兵も正規軍が居ないと戦意を失うのか。
それとも手柄を立てても確認する相手がいないからなのだろうか。
「こっちの被害は最小限だな。まあ初日としては悪くない」
バスキア公が魔法陣を解除して言った。
一人の従者が水を入れたグラスとポーションを差し出す。疲れた感じのバスキア公がそれを飲み干して一つため息をついた。
僕の管理者の周辺地図接続、綾森さんの天頂の目、セリエの使い魔。
広域の地図を見たり効果を遠くまで届かせるスロット能力はとにかく消耗が激しい。
バスキア公のこれも系統としては似ているから、疲れる能力だろうな。
「よくやった。皆休め。前線の兵士たちに警戒は緩めないように伝令しておけ。あいつらは何をするか分からねぇからな」
疲れを感じさせない威厳のある口調で言って、付き従っていた従者の人が駆けていった。
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