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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

幕間・オルミナの歴史語り(挿絵あり)

 ご機嫌よう、皆。変わりないかしら?あたしはオルミナ。


 今日はあたしがガルフブルグ、というよりも門を抜けたところにある貴方たちのいる世界とは違う世界の歴史について教えてあげるわ。
 歴史について語るなら長く生きたあたしが一番適任でしょうからね。





 ガルフブルグのある大地はレムリオ大陸。この名前はかつてこの大陸にあった国であるレムリア帝国に由来しているの。
 レムリア帝国の前には高度な魔法文明が栄えていたらしいけど、この国のことは殆ど記録に残っていないわ。大陸中に遺跡だけが残されていて繁栄の跡は見て取れるんだけどね。


 レムリア帝国はレムリオ大陸を統一した強力な中央集権国家よ。その目的はただ一つ。魔獣と戦うこと。
 というのは、当時はスロット能力を鑑定する方法はなかったの。


 今はスロットシートという魔道具で自分のスロットを鑑定して望む能力を得ることができるわ。
 でも当時はそんなものはなかった。
 だから今のように、自分のスロット能力を知り適切な能力を身につけることはできなかったのよ。
 一方で魔獣はその時からすでに存在したわ。だから人間を含めたすべての種族はその脅威に常に怯えていた。


 レムリアはもともとは小さな都市国家だったらしいのだけど、その王が強力なスロットを持っていて周辺の魔獣を討伐したわ。
 そして他の都市国家を次々と併合して巨大帝国に成長した。


 こんな感じでレムリアは魔獣と戦い生き残ることを目的として生まれた国なんだけどね、その魔獣がどこから来たのか、なぜ現れるようになったのかははっきりしないわ。
 ただ、レムリアの前の記録に残っていない国がやったことが原因、と考える歴史学者もいるわね。
 この国の魔導実験の失策で世界の壁が崩れて魔獣が出てくるようになった、とも言われているわ。
 ただこればかりはね……エルフの里にも記録が残っていないからね。真相は闇の中ね。





 レムリア帝国は領土内のスロットを持つものを強制的に徴発し魔獣と戦わせる代わりに、地位と権力を保障した。
 スロットを持って戦う戦士の階級と庶民の生活の落差はすさまじかったというわ。


 酷いと思うかしら?
 でも仕方なかったのよ。レムリアの時代は、今のように魔獣の体系的な知識や倒し方の経験も乏しかった。スロット能力もバラバラで効率的な連携や討伐なんてのぞむべくもない時代だったのよ。魔獣と相対する時の危険は今の比じゃなかった。
 それに封緘シールの使い手も少なかったから、魔獣の数も今とは比較にならないくらいに多かったそうよ。


 封緘シール防御プロテクションの使い手はとてつもなく大事にされたというわ。
 かたや魔獣を封じ込める能力、片や戦闘の時に貴重なスロット持ちを守る能力だからね。当然でしょうけど。


 レムリアではスロット持ちで魔獣と戦うものが最も敬意を払われた。男も、女も、年齢も、種族も関係ない、完全な実力主義国家だったそうよ。
 スラム暮らしの少女に強力な魔法スロットが見つかって一晩で貴族に上り詰めたなんて記録も残ってるわ。


 いまはレムリオ大陸にはいくつもの国があって、大体が人間族が中心になってそれを治めているわ。
 でも国に形にそれぞれ違いはあるけれど、種族間の差別はあまり存在しないの。
 これはこの時代に起因しているわ。スロット能力の前には種族の差なんて関係ない国家だったし、そもそも種族や人間同士で争っている余裕なんてなかったのよね。


 今はあたしのようなエルフは森に、ドワーフは谷や洞窟に。
 小人族や巨人族は山岳地帯に、セリエみたいな獣人は部族ごとに寄り集まったり人間社会に溶け込んだりしているけど、それは単なるすみ分けで、差別があるわけじゃないわ。


 ガルフブルグの地方にはエルフやドワーフの居住地が無いからエルフは珍しくみられるけど、もっと北の方にいけば、エルフやドワーフの血を引く貴族がいる国もあったはずよ。
 ……まあ逆にそうじゃない国もあるけどね。ソヴェンスキは確かほとんど人間族だけで構成された国だったと思うわ。エルフの小さな集落があったはずだけど滅ぼされたと聞いているわ。


 ちなみに、あたしたちエルフは身体能力は人間に劣るけどスロット持ちが多い種族よ。
 ドワーフは、人間より背が低いけど肉体的には頑健ね。錬金術や鉱物に関する特殊スロットとかの固有の種族能力をもつものが多いと聞くわ。ドワーフはガサツでエルフとはウマが合わないからあまり接触はないけどね。


 小人族や巨人族や獣人は身体能力が人間より高いわ。代わりにスロット能力は低い傾向があるわね。
 人間はこの種族の中では身体能力では獣人や巨人族に劣るしスロット能力を持つ割合ではエルフに劣るんだけど……時々突出したスロット持ちが生まれるのと、スロット能力の幅が広いのが特徴ね。 





 レムリアは建国から200年ほどで滅亡したのだけど、其れの引き金になったのが、スロットを鑑定する紙のような魔道具、スロットシート。これは今も使われているわ。
 それを作ったのはレムリア帝国の筆頭宮廷魔導士、始原なる魔術師ザ・エンシェントマーリンよ。


 彼は鑑定アナライズという他人のスロット能力を見抜くスロット能力を持っていたわ。そして、彼はその力を魔導具で代用できないかを考えた。
 そして彼がつくらせたのがスロットシートというわけ。
 彼がそれを作ったのは純粋により効率よくスロット持ちを発掘するためだったわ。でも、結果的にはそれが帝国を崩壊に導いた。


 その話をする前にスロットについて少し説明しておくわね。
 スロットは攻防、魔法、回復、特殊の4つのスロットとそれぞれの数値で構成されているわ。


 そして、大事なのはその人に眠っているスロット能力の中身。これはそれぞれの人によって異なるのよ。これはスロットの数値とは何の関係もない。
 どれだけたくさんのスロットを持っていても、その人の中にないスロット能力は習得できない。


 例えばスロットを一つしかもっていないけど防御プロテクションを習得できる、と言う人もいるわ。逆にたくさんのスロットを持っていても、その人に防御プロテクションが眠っていなければ習得はできない、ということね。
 人間には血筋によって承継される能力もあると聞くわ。


 そして、スロット能力を身に着けるためには、その能力が自分の中に眠っていることを認識した上で、それを身に着けることを選択しなければいけないのよ。


 分かるかしら?
 ということは、自分の中にどんな能力が眠っているかが分からなければスロット能力の習得はできない。
 例えば、あたしがスロット能力を習得するときに鍵の支配者キーマスターが自分の中にあることが分からなければそれを習得はできないってこと。


 スロットシートは今までに誰も知らなかったようなスロット能力があることを国中に知らしめたわ。
 防御プロテクションやスロット武器、攻撃魔法以外にも強力で有用なスロットを持つものはいる、ということもね。


 これで何が起きたのかわかるかしら?優れたスロット持ちが沢山見つかって素晴らしい話だと思う?
 強権的な格差社会と中央集権が仕方ないという形で認められていたのは、強いスロット持ちがだれかわからず稀少だから、ということなのよ。
 優秀なスロット持ちを効率よく発見できるようになると、社会の仕組みが大きく変わってしまうのよね。


 スロットシートで今までと比較にならないほど簡単に、強いスロット持ちが見つかるようになったわ。
 じゃあ、そういう者たちに適切な権威が与えられたか、というと、答えはいいえ、よ。
 従来の貴族階級はその身分の変化に激しく抵抗したわ。誰でもそうよね。一度与えられたものを捨てるのは難しいわ。


 それに帝国も長く続くと腐敗が進んで、スロット能力が弱く魔獣の討伐の矢面に出ないのに、先祖代々の地位にしがみついたりするものも増えていたそうよ。
 だから、この時期はすでに魔獣の討伐にも支障が出始めていたわ。まあ封緘シールによるゲートの封印が進んできていて魔獣の数がへっていたから、表面化はしにくかったようだけどね。


 結局、それぞれの地方でスロットシートで自分のスロット能力を知った者たちが自主的に魔獣の討伐をするようになったわ。
 このときのスロット持ち達の相互協力団体が探索者ギルドの前身ね。


 そして……あとは分かるでしょう?
 各地の魔獣討伐の英雄達が、魔獣の討伐の義務を果たさず重税だけを押し付けるレムリアに対して反旗を翻しそれぞれに国を興した。ガルフブルグもそんな経緯で建国されたはずよ。
 強権的な政治システムのまま魔獣を討伐するという大義を忘れ腐敗したレムリアは滅びるしかなかったわ。





 さて、このレムリアについて、あなたたちはどう思うかしら?
 この国に対する評価は難しいわ。今も人間の学者の間では評価が割れているみたいね。
 この大陸の黎明時に人間も含めた各種族が魔獣に全滅させられなかったのはこの国の功績であることは間違いないわ。
 それぞれの種族ごと、小さな国ごとに魔獣と戦っていたら……おそらく余程の英雄が現れない限り、レムリオ大陸は魔獣に支配されていたでしょうね。


 それに、魔獣のコアクリスタルをランプの明かりや熱源に応用する技術はレムリア帝国時代に確立されたものよ。
 さっきも言ったけど、スロットシートは今も使われているわ。あれのおかげであたしたちは自分のスロットを知ることができる。


 でも、一方で生存を最優先した強権的な手法は一度崩壊を始めると止まりようがないほど人心は離れていたともいえるわ。大陸全土の全種族を掌握した国が亡びるまでに10年もかからなかった。
 ガルフブルグに限らず、民を大切にせよという風に考える貴族は多いのだけど、この国の崩壊が一つの教訓になっているみたいね。


 宮廷魔術師が作ったスロットシートが国の崩壊の引き金になっているのは皮肉よね。
 そして、レムリアが滅亡して各国が分かれた後、スロットシートでスロット持ちを効果的に調べられるようになって魔獣の討伐はしやすくなった。
 でも、その分の余力は人間同士の戦争に振り向けられてしまった、というのも皮肉な話だわ。
 それまでは人間同士で争っている暇なんてなかったのにね。


 人間も世界もままならないわ。正しいと信じた行為が災いを招くこともある。
 でもそれが面白いのかもしれないわね。


 ちなみに、あたしが生まれたのはレムリアが滅んでしばらくしてのこと。
 だからその後の歴史は自分の目で見ているし、その時はレムリアに従って戦ったエルフもいたからね。この話は結構正確なはずよ。
 あたしの年齢?……聞くのは野暮よ、坊や。


 じゃあこれであたしの話はおしまい。またね。

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