僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
そこで幸せになるために必要なものは・下
年齢が近いからなのか、セリエとユーカと花鳥君はすぐ打ち解けた。
三人で何か話している。まああっちのことはいいか。
いつの間にか戦いの音は消えていて、点呼をとる声や報告の声、合図のラッパのような楽器の音が聞こえてきていた。
流石に強襲してきたと言っても大した人数じゃなかったんだろう。
現場の指揮官が暴走したのか、手はず通りだったのか。そこはわからないけど。
「そういえばもとは何してたんですか?」
さっきの動きはスロット武器の性能に頼った動きじゃなかった。
「ダンサーよ。まあ知らないと思うけど」
「格闘家かと思いましたよ」
さっきのあの動きはダンサーの動きか。
回るようなステップとかは言われてみればそうかもしれない。
「バレリーナとは喧嘩をするなって言葉、聞いたことない?」
「ああ、あたしは知ってるわ」
「武術は踊りに通じるのよ。ボクシングもリズム感が大事だしね。まあスロット武器の力も借りてるけどね」
僕は聞いたことなかったけど、都笠さんは知っているらしい。
格闘技というかフェイリンさんの動きと似ていた気がする。なんか共通点があるんだろう。
「それで、花鳥君は魔法使いですか?」
都笠さんが三人の方に視線をやりながら聞くと、鎮音さんがちょっと自慢気に頷いた。
「あたしのスロットは攻防スロットとあとちょっとだけだったけどね、あの子は優秀よ。ねえ花鳥、あんたの魔法スロット、いくつだっけ?」
「魔法は28、特殊は19、回復は13だよ」
花鳥君がすごいでしょ、と言わんばかりに答えてくれる。
自分のスロットはいくつだったかさっぱり覚えてないんだけど、セリエが驚いたように息をのんだ
「凄いの?」
「魔法使いと治癒術師、5~6人分に相当します」
「僕は魔術導師だからね。上級職は凄いんだよ」
何のことかわからなかったけど、多分ゲーム用語だろう。
「でも、戦いになっても落ち着いてるのは大したもんですね」
僕も戦うときの気構えを持つのになんだかんだで時間がかかった。
花鳥君は話した感じではとても戦いに向いている感じじゃなかったけど、さっきは落ち着いて魔法で援護してくれたのは結構凄いと思う。
「あの子に言わせると、戦闘シーンになるとスイッチが入るんだってさ」
鎮音さんが言う。
どこまでもゲーム感覚っぽいな。
ただ全員に防御を掛けるなんて初めて見たし詠唱にも迷いがなかった。
防御の重要さは身に染みて分かっている。あれだけでも相当に強力だし、あの敵の動きを遅くする魔法の援護も適切だった。
ゲーム感覚でも対応できればどうでもいいのかもしれない。
「そういえば……なんでルノアール公に」
誰かが言っていたけど、今はこっちに引っ張り込まれた人が自分で士官相手を選べるはずだ。
ということはこの人は自分でルノアール公を選んだってことになる。
「この子がこの人がいいって言ったのよ。はじめはちょっと頼りないかなって思ったけどね」
「……あの人に何か言ったんですか?」
あの変貌ぶりは多分バスキア公も予想外だったっぽいし……この人が何か言ったんだろうな、という気がするな。
「ああ………まあ、ちょっとだけ」
気まずそうに鎮音さんが笑う……いったい何を言ったのかは聞かないでおこう。
「でもそれだけじゃないわよ、君たちだって関係してるんだからね」
「そうなんですか?」
僕等はあの人と会ったことは無いんだけど。
何かあったんだろうか。
「まあなんていうか……優秀なのにウジウジしてるのはちょっとイラッと来たわ。
でもね、変わったのはあの人よ。あたしはきっかけを作っただけだわ」
「わが主よ!ご無事ですか」
そんな話をしているうちに、革鎧姿の騎士っぽい人が駆け寄ってきた。
◆
息を切らせながら走ってきて鎮音さんの前で礼儀正しくお辞儀した。
……超絶ハンサムさんだ。
今までガルフブルグで会った人の中では断トツだな。都笠さんがほうっと息を吐いた
「大丈夫よ」
「すみません、おそばを離れていたときにこんなことになるとは。アトリ様、無事ですか?」
すっとしゃがみ込んで花鳥君に視線を合わせる。花鳥君が頷いた。
「この人は?」
「あたしたちの護衛」
そう言うと、その人がこっちを向いてこれまた礼儀正しくお辞儀をしてくれた。
年は僕等より若そうだけど、きびきびした立ち居振る舞いは戦いの訓練を受けた戦士のそれだ。
雰囲気がなんとなくアーロンさんに少し似ている。
金色の綺麗な髪を後ろでまとめていて、切れ長の青の眼に透き通るような白い肌。それにすらりとした長身と皮鎧の上からでも分かる鍛え上げた体。いかにも戦士って感じだ。
中性的な感じではない、目鼻立ちがはっきりした男性的な美男子、絵にかいたような美青年剣士った感じだ。現代日本にいたら即座にモデルにスカウトされるだろうな。
何やらコンプレックスを感じてしまうぞ。
「スミト卿、それにスズ様。英雄にお目に描かれて光栄です。
わが主の護衛を務めております、アイゼン・プロヴィアン・ヴィンセンティオです」
声まで爽やかだな。
「騎士出身でね。あたしの準騎士になってもらったの。どう、このイケメンぶりは。目の保養よね」
「はは、主よ。お戯れを」
鎮音さんが笑って肩を叩いて、アイゼンさんの整った顔に困ったような表情が浮かぶ。
「準騎士を登用してるんですか?」
「あたしもルノアール公直属の騎士身分だもの」
ラティナさんにしても適応しすぎてませんかね、この人達。なんというか女性の方が適応力が高い気がするな。
そもそも、この人に護衛が要るんだろうか?さっき見た限り相当強そうなんだけど。
「護衛なんて要るんですか?」
「まあね……あたしっていうより、花鳥の護衛兼兄貴分って感じね」
鎮音さんが花鳥君に聞こえない様にちょっと小声で言う。
「話し相手がいた方がいいし……こういう世界だからね、自衛は大事よ。それにあの子は多分凄い魔法使いになれるんだろうけど、まだ子供だからね」
鎮音さんの言わんとしていることは分かる。
僕自身何度も戦って身に染みたけど。さっきは問題なく戦えていたけど、いつもそれができるとは限らない。
素晴らしいスロット能力を持つこととそれを使いこなすことは全く別問題だ。
むしろ単純なスロットの高さよりそれを活用する人のメンタルや技術の方が大事だと思う。
特に魔法は使うときのイメージが効果に大きな影響を与える。使い手の練度に依存する部分は多分高いだろうな。
「それにねーやっぱりイケメンをそばに置いておきたいってのはあるでしょ」
「あー分かりますね。ほら、風戸君も可愛い子を二人も侍らせてますし」
都笠さんが応じて、イジワルそうな目で僕を見る。
セリエとかを侍らせてるわけじゃないんだけど……女子会トークに口をはさむのとろくなことになら無そうだし、やめておこう
◆
鎮音さんと花鳥君はルノアール公の様子を見に行く、と言って行ってしまって、入れ替わるように兵士たちの集団がこっちに向かってきた。
戦闘にはバスキア公とジェラールさんがいる
「無事だったか……悪いな。こっちの不手際だった」
「そちらこそ……」
「ああ、来たぜ。ジェラールの敵じゃねぇな……だが何人かやられた」
バスキア公が吐き捨てるように言う。
やっぱりこっちだけじゃなくてバスキア公も狙ってきたか。むしろ軍事の最高責任者の方が殺す価値はあるだろう。
と言ってもジェラールさんが護衛に付いるんだから無理だと思うけど。
「ソヴェンスキの軍が国境に集結中しているらしい
こっちから仕掛ける気はねぇが……来る以上は容赦しねぇ。二度と俺達に下らねぇちょっかいかける気がなくなるように叩き潰してやる」
バスキア公が言って僕等を見た。
「スミト、それにスズ。
お前らは後方で待機してもらいたい。力を借りることもあるかもしれねぇからな」
ヴァンサンはもう始まっている、と言っていたけど……改めて思い知らされる
これで戦争開始は確定だ。
でも、此処で嫌ですなんて言うことはできない。
なんだかんだでガルフブルグには思い入れもある。それに、あの連中に好き勝手にはさせたくない
都笠さんと視線を交わす
「勿論です」
「まかせてよ」
「すまねぇな、頼むぜ」
セリエが心配そうに僕を見るけど。今までも危ない目にはあった。今回も必ず切り抜けて見せる
三人で何か話している。まああっちのことはいいか。
いつの間にか戦いの音は消えていて、点呼をとる声や報告の声、合図のラッパのような楽器の音が聞こえてきていた。
流石に強襲してきたと言っても大した人数じゃなかったんだろう。
現場の指揮官が暴走したのか、手はず通りだったのか。そこはわからないけど。
「そういえばもとは何してたんですか?」
さっきの動きはスロット武器の性能に頼った動きじゃなかった。
「ダンサーよ。まあ知らないと思うけど」
「格闘家かと思いましたよ」
さっきのあの動きはダンサーの動きか。
回るようなステップとかは言われてみればそうかもしれない。
「バレリーナとは喧嘩をするなって言葉、聞いたことない?」
「ああ、あたしは知ってるわ」
「武術は踊りに通じるのよ。ボクシングもリズム感が大事だしね。まあスロット武器の力も借りてるけどね」
僕は聞いたことなかったけど、都笠さんは知っているらしい。
格闘技というかフェイリンさんの動きと似ていた気がする。なんか共通点があるんだろう。
「それで、花鳥君は魔法使いですか?」
都笠さんが三人の方に視線をやりながら聞くと、鎮音さんがちょっと自慢気に頷いた。
「あたしのスロットは攻防スロットとあとちょっとだけだったけどね、あの子は優秀よ。ねえ花鳥、あんたの魔法スロット、いくつだっけ?」
「魔法は28、特殊は19、回復は13だよ」
花鳥君がすごいでしょ、と言わんばかりに答えてくれる。
自分のスロットはいくつだったかさっぱり覚えてないんだけど、セリエが驚いたように息をのんだ
「凄いの?」
「魔法使いと治癒術師、5~6人分に相当します」
「僕は魔術導師だからね。上級職は凄いんだよ」
何のことかわからなかったけど、多分ゲーム用語だろう。
「でも、戦いになっても落ち着いてるのは大したもんですね」
僕も戦うときの気構えを持つのになんだかんだで時間がかかった。
花鳥君は話した感じではとても戦いに向いている感じじゃなかったけど、さっきは落ち着いて魔法で援護してくれたのは結構凄いと思う。
「あの子に言わせると、戦闘シーンになるとスイッチが入るんだってさ」
鎮音さんが言う。
どこまでもゲーム感覚っぽいな。
ただ全員に防御を掛けるなんて初めて見たし詠唱にも迷いがなかった。
防御の重要さは身に染みて分かっている。あれだけでも相当に強力だし、あの敵の動きを遅くする魔法の援護も適切だった。
ゲーム感覚でも対応できればどうでもいいのかもしれない。
「そういえば……なんでルノアール公に」
誰かが言っていたけど、今はこっちに引っ張り込まれた人が自分で士官相手を選べるはずだ。
ということはこの人は自分でルノアール公を選んだってことになる。
「この子がこの人がいいって言ったのよ。はじめはちょっと頼りないかなって思ったけどね」
「……あの人に何か言ったんですか?」
あの変貌ぶりは多分バスキア公も予想外だったっぽいし……この人が何か言ったんだろうな、という気がするな。
「ああ………まあ、ちょっとだけ」
気まずそうに鎮音さんが笑う……いったい何を言ったのかは聞かないでおこう。
「でもそれだけじゃないわよ、君たちだって関係してるんだからね」
「そうなんですか?」
僕等はあの人と会ったことは無いんだけど。
何かあったんだろうか。
「まあなんていうか……優秀なのにウジウジしてるのはちょっとイラッと来たわ。
でもね、変わったのはあの人よ。あたしはきっかけを作っただけだわ」
「わが主よ!ご無事ですか」
そんな話をしているうちに、革鎧姿の騎士っぽい人が駆け寄ってきた。
◆
息を切らせながら走ってきて鎮音さんの前で礼儀正しくお辞儀した。
……超絶ハンサムさんだ。
今までガルフブルグで会った人の中では断トツだな。都笠さんがほうっと息を吐いた
「大丈夫よ」
「すみません、おそばを離れていたときにこんなことになるとは。アトリ様、無事ですか?」
すっとしゃがみ込んで花鳥君に視線を合わせる。花鳥君が頷いた。
「この人は?」
「あたしたちの護衛」
そう言うと、その人がこっちを向いてこれまた礼儀正しくお辞儀をしてくれた。
年は僕等より若そうだけど、きびきびした立ち居振る舞いは戦いの訓練を受けた戦士のそれだ。
雰囲気がなんとなくアーロンさんに少し似ている。
金色の綺麗な髪を後ろでまとめていて、切れ長の青の眼に透き通るような白い肌。それにすらりとした長身と皮鎧の上からでも分かる鍛え上げた体。いかにも戦士って感じだ。
中性的な感じではない、目鼻立ちがはっきりした男性的な美男子、絵にかいたような美青年剣士った感じだ。現代日本にいたら即座にモデルにスカウトされるだろうな。
何やらコンプレックスを感じてしまうぞ。
「スミト卿、それにスズ様。英雄にお目に描かれて光栄です。
わが主の護衛を務めております、アイゼン・プロヴィアン・ヴィンセンティオです」
声まで爽やかだな。
「騎士出身でね。あたしの準騎士になってもらったの。どう、このイケメンぶりは。目の保養よね」
「はは、主よ。お戯れを」
鎮音さんが笑って肩を叩いて、アイゼンさんの整った顔に困ったような表情が浮かぶ。
「準騎士を登用してるんですか?」
「あたしもルノアール公直属の騎士身分だもの」
ラティナさんにしても適応しすぎてませんかね、この人達。なんというか女性の方が適応力が高い気がするな。
そもそも、この人に護衛が要るんだろうか?さっき見た限り相当強そうなんだけど。
「護衛なんて要るんですか?」
「まあね……あたしっていうより、花鳥の護衛兼兄貴分って感じね」
鎮音さんが花鳥君に聞こえない様にちょっと小声で言う。
「話し相手がいた方がいいし……こういう世界だからね、自衛は大事よ。それにあの子は多分凄い魔法使いになれるんだろうけど、まだ子供だからね」
鎮音さんの言わんとしていることは分かる。
僕自身何度も戦って身に染みたけど。さっきは問題なく戦えていたけど、いつもそれができるとは限らない。
素晴らしいスロット能力を持つこととそれを使いこなすことは全く別問題だ。
むしろ単純なスロットの高さよりそれを活用する人のメンタルや技術の方が大事だと思う。
特に魔法は使うときのイメージが効果に大きな影響を与える。使い手の練度に依存する部分は多分高いだろうな。
「それにねーやっぱりイケメンをそばに置いておきたいってのはあるでしょ」
「あー分かりますね。ほら、風戸君も可愛い子を二人も侍らせてますし」
都笠さんが応じて、イジワルそうな目で僕を見る。
セリエとかを侍らせてるわけじゃないんだけど……女子会トークに口をはさむのとろくなことになら無そうだし、やめておこう
◆
鎮音さんと花鳥君はルノアール公の様子を見に行く、と言って行ってしまって、入れ替わるように兵士たちの集団がこっちに向かってきた。
戦闘にはバスキア公とジェラールさんがいる
「無事だったか……悪いな。こっちの不手際だった」
「そちらこそ……」
「ああ、来たぜ。ジェラールの敵じゃねぇな……だが何人かやられた」
バスキア公が吐き捨てるように言う。
やっぱりこっちだけじゃなくてバスキア公も狙ってきたか。むしろ軍事の最高責任者の方が殺す価値はあるだろう。
と言ってもジェラールさんが護衛に付いるんだから無理だと思うけど。
「ソヴェンスキの軍が国境に集結中しているらしい
こっちから仕掛ける気はねぇが……来る以上は容赦しねぇ。二度と俺達に下らねぇちょっかいかける気がなくなるように叩き潰してやる」
バスキア公が言って僕等を見た。
「スミト、それにスズ。
お前らは後方で待機してもらいたい。力を借りることもあるかもしれねぇからな」
ヴァンサンはもう始まっている、と言っていたけど……改めて思い知らされる
これで戦争開始は確定だ。
でも、此処で嫌ですなんて言うことはできない。
なんだかんだでガルフブルグには思い入れもある。それに、あの連中に好き勝手にはさせたくない
都笠さんと視線を交わす
「勿論です」
「まかせてよ」
「すまねぇな、頼むぜ」
セリエが心配そうに僕を見るけど。今までも危ない目にはあった。今回も必ず切り抜けて見せる
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