僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
そこで幸せになるために必要なものは・上
わずか数分ほどの戦いだったけど……気づくとあちこちから剣劇の音と叫び声が聞こえてきた。
戦っていたのはここだけじゃないんだろうか。
襲ってきた5人をどうしたものかと思ったけど、すぐに兵士たちが駆けつけてきて簡単に治癒を受けてそのまま縛られて連行されていった。
ユーカの炎と都笠さんの銃で撃たれたのはそれなりに重傷だったけど、他はさほどでもない。
僕も最後は手加減したし、女の人の攻撃も素手の打撃だから致命傷とかそういうのにはならないだろうし。
「しかし……手っ取り早くここで暗殺とか……無茶苦茶するな」
「まあ、殺し時と言えばそうかもしれないけどね」
都笠さんがやれやれって顔で言う。
確かに僕等がガルフブルグの奥に引っ込めばそう簡単に接触はできないわけだし、今はここには四大公家の一角のルノアール公とバスキア公がいる
どちらかでも仕留めればガルフブルグにとっては大きな痛手になる。
しかし、ここまで強引に仕掛けてくるとは……と思ったけど。
ソヴェンスキの街中で魔法でドンパチやった挙句に、都笠さんを取り返したんだから、恨まれる覚えはかなりあるな。
それにさっきのやり取りはあの連中としては屈辱だったんだろうし。
同じ司教憲兵でもヴェロニカほどじゃなかったのは少し安心できた。
あんなのがゴロゴロいられちゃたまったもんじゃない。
ルノアール公は青ざめている。外交の場では堂々としていたけど、戦闘には慣れていないのかな。
兵士たちに伴われて天幕の方に歩き去っていって、後にはさっき一緒に戦った女の人と子供が残された。
男の子と話している女の人を見た。
年がよくわからないけど……僕等よりは確実に上だ。30代半ばって感じだろうか。
着ているのは水着に見えたけど、スポーツブランドのタイツのようなサポーターだ。日本からの持ち込み品だろう。
細身の体だけど引き締まった感じが見て取れる。
茶色の長い髪に大きめの目とちょっと高目の鼻。唇も厚いくて、なんというか濃い顔立ちだ。
前に会ったことがある沖縄の人に似ている気がする
「そういえば、ごたごたしてあいさつが遅れたわね。風戸澄人君。それに都笠鈴さん。後ろの子はセリエちゃん、ユーカちゃんでよかったかしら」
そう言って明るい口調でその人が僕等を見て言う。よく知ってるな。
「はい」
「あたしは高柳鎮音。こっちは息子の花鳥。よろしくね」
◆
日本人か……でも、なんとなくそんな感じはしていた。
ラティナさん、綾森さんもそうだけど。
顔立ちも違うんだけど、なんというか僕等の世界から来た人とガルフブルグの人はなんとなく違う雰囲気を持っている。
これは感覚的なことでなかなか言葉にはできないんだけど。
都笠さんもあんまり驚いていないところを見ると同じ事を思っていたらしい。
「ほら、あいさつしな、花鳥」
そう言って男の子の頭をポンと叩いたら、その子が高柳さんの後ろに隠れるようにして恥ずかしそうに頭を下げた。
「親子で異世界転移ですか?ってこの子いくつ……?」
鎮音さんはかなり若く見える。でも、花鳥君は、小学生か中学生かって感じに見えるから……
などと思っていたけど、要らないことは聞くなという目で睨まれたのでそれ以上言うのは止めた。
「この子がオルドネス公に誘われてね。この子がアタシも一緒なら行くって言ってね。あたしがついてきたのよ。
旦那が事故で死んでねー今後どうしようか考えていたからさ、こっちで第二の人生を生きようかな、とね」
高柳さんがあっけらかんとした口調で言う。
まるで親子で海外旅行に来ました、みたいな感じなんだけど。帰るのはかなり難しいとかそういうことを分かっているんだろうか。
「いやなことばかり探してると、どこでだって嫌な所を見つけて文句言う事になるわ。
どこに住むかはね、重要じゃないのよ。気の持ちようよ。そこで楽しいことを探すの。それが大事よ」
僕の言いたかったことを察したように鎮音さんが言う。
「それにね、あたしにとって一番大事なのはこの子と一緒にいることよ。だからこの子が行くっていうなら異世界だろうが月の裏側だろうが行くわ」
鎮音さんが当たり前って感じで言う。
でも、事前情報を隠されてこっちに来た僕と違って、異世界に行くかどうかを自分で決断するってのはそう簡単じゃないと思う。
陳腐な言い方だけど、母は強しってことなんだろうか。
「それに君だってそうじゃないの、風戸君……帰れる機会があったけどここに居ることを選んだって聞いたわ」
「まあ……そうですね」
セリエたちの方にちょっと目をやる。
正直言うと現代日本から比べれば生活では不自由を感じることはかなり多い。
でも僕も含めてこっちにいる人、綾森さんも都笠さんも、ラティナさんもなんだかんだでこっちに何か居るべき価値を見出していると思う
日本に戻った衛人君も不便だから戻ったというわけではなくて、日本でやりたいことがあるから戻ったって感じだった。
生活環境はもちろん大事だけど、そこに居る理由も同じくらい大事なのは確かだ。
……彼はいまどうしてるんだろうな、とふと思った。
◆
「ねえ、風戸さん」
鎮音さんの後ろにいた花鳥君が不意に口を挟んできた。
アメリカの有名ブランドのウェアを着ている鎮音さんと違って、彼は幾何学模様の刺繍を施されたフード付きのマントにローブと、完全にこっちの衣装を着ている。
杖は持ってないけど、短めの錫杖も持っている。ゲームに出てくるかのような魔法使いルックだな。
上目遣いで僕等を見る顔はちょっと外見より幼そうに見える。お母さんに似ているのか太めの眉とちょっと濃いめの顔立ちだけど。、
気弱そうというかそんな雰囲気を感じるな。さっきの戦いのときは落ち着いてたけど。
「本当にドラゴンと戦ったの?ヴァンパイアとも?」
「戦ったよ。ここにいるみんなでね」
花鳥君が何やら嬉しそうに笑った。
「すごいや、みんな勇気があるんだね。どっちもSSレアモンスターだよ」
「なにそれ?」
「ああ、この子が好きなゲームの話だと思うわ」
「格好いいね。勇者パーティって感じ」
ヴァンパイアもワイバーンもこの子にかかればボスモンスター扱いか。
「ねえ、風戸さん。管理者っていうのを持っているんでしょ?ゲームは動かせる?」
「ああ……たぶんできると思うよ、やったことないけど」
「今度ゲームやらせてほしいな」
「オンラインは無理だけど、いい?」
「うん、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべて花鳥君が言う。
最初はちょっと気弱に見えたけど、話してみるとそんな感じでもないな。
「ありがとね、風戸君。君はいいやつね。それに、花鳥が初対面からこんな風に懐くのは珍しいわ。人見知りする子だからね」
「それと……お姉さん……えっと……」
花鳥君がおずおずとセリエに話しかける。名前がわからないのか、照れているのか。
「セリエだよ。セリエって呼んであげてね」
「うん、えっと、セリエお姉さん」
「はい、なんでしょう」
「あの……耳を触らせて……もらえませんか?」
花鳥君が聞いてセリエが首を傾げる。
「失礼なことを言ってごめんね、獣人が珍しいのよ」
「僕等の世界には獣人はいなかったんだよ」
セリエがちょっと困った顔で僕を見る。
花鳥君が興味津々って感じで僕等を見上げてきた
「ちょっと触らせてあげて、セリエ」
「はい、ご主人様」
そう言ってセリエがちょっと身を寄せてくる。
「どうかした?」
「あとで……ご主人様も触ってくださいね」
ちょっと不満げというか頬を膨らませてセリエが小声で言う。
「わかったよ、ごめんね」
そういうとセリエがかがみこんんで、花鳥君が耳に壊れ物にでも触るように耳に触れて嬉しそうに笑った。
戦っていたのはここだけじゃないんだろうか。
襲ってきた5人をどうしたものかと思ったけど、すぐに兵士たちが駆けつけてきて簡単に治癒を受けてそのまま縛られて連行されていった。
ユーカの炎と都笠さんの銃で撃たれたのはそれなりに重傷だったけど、他はさほどでもない。
僕も最後は手加減したし、女の人の攻撃も素手の打撃だから致命傷とかそういうのにはならないだろうし。
「しかし……手っ取り早くここで暗殺とか……無茶苦茶するな」
「まあ、殺し時と言えばそうかもしれないけどね」
都笠さんがやれやれって顔で言う。
確かに僕等がガルフブルグの奥に引っ込めばそう簡単に接触はできないわけだし、今はここには四大公家の一角のルノアール公とバスキア公がいる
どちらかでも仕留めればガルフブルグにとっては大きな痛手になる。
しかし、ここまで強引に仕掛けてくるとは……と思ったけど。
ソヴェンスキの街中で魔法でドンパチやった挙句に、都笠さんを取り返したんだから、恨まれる覚えはかなりあるな。
それにさっきのやり取りはあの連中としては屈辱だったんだろうし。
同じ司教憲兵でもヴェロニカほどじゃなかったのは少し安心できた。
あんなのがゴロゴロいられちゃたまったもんじゃない。
ルノアール公は青ざめている。外交の場では堂々としていたけど、戦闘には慣れていないのかな。
兵士たちに伴われて天幕の方に歩き去っていって、後にはさっき一緒に戦った女の人と子供が残された。
男の子と話している女の人を見た。
年がよくわからないけど……僕等よりは確実に上だ。30代半ばって感じだろうか。
着ているのは水着に見えたけど、スポーツブランドのタイツのようなサポーターだ。日本からの持ち込み品だろう。
細身の体だけど引き締まった感じが見て取れる。
茶色の長い髪に大きめの目とちょっと高目の鼻。唇も厚いくて、なんというか濃い顔立ちだ。
前に会ったことがある沖縄の人に似ている気がする
「そういえば、ごたごたしてあいさつが遅れたわね。風戸澄人君。それに都笠鈴さん。後ろの子はセリエちゃん、ユーカちゃんでよかったかしら」
そう言って明るい口調でその人が僕等を見て言う。よく知ってるな。
「はい」
「あたしは高柳鎮音。こっちは息子の花鳥。よろしくね」
◆
日本人か……でも、なんとなくそんな感じはしていた。
ラティナさん、綾森さんもそうだけど。
顔立ちも違うんだけど、なんというか僕等の世界から来た人とガルフブルグの人はなんとなく違う雰囲気を持っている。
これは感覚的なことでなかなか言葉にはできないんだけど。
都笠さんもあんまり驚いていないところを見ると同じ事を思っていたらしい。
「ほら、あいさつしな、花鳥」
そう言って男の子の頭をポンと叩いたら、その子が高柳さんの後ろに隠れるようにして恥ずかしそうに頭を下げた。
「親子で異世界転移ですか?ってこの子いくつ……?」
鎮音さんはかなり若く見える。でも、花鳥君は、小学生か中学生かって感じに見えるから……
などと思っていたけど、要らないことは聞くなという目で睨まれたのでそれ以上言うのは止めた。
「この子がオルドネス公に誘われてね。この子がアタシも一緒なら行くって言ってね。あたしがついてきたのよ。
旦那が事故で死んでねー今後どうしようか考えていたからさ、こっちで第二の人生を生きようかな、とね」
高柳さんがあっけらかんとした口調で言う。
まるで親子で海外旅行に来ました、みたいな感じなんだけど。帰るのはかなり難しいとかそういうことを分かっているんだろうか。
「いやなことばかり探してると、どこでだって嫌な所を見つけて文句言う事になるわ。
どこに住むかはね、重要じゃないのよ。気の持ちようよ。そこで楽しいことを探すの。それが大事よ」
僕の言いたかったことを察したように鎮音さんが言う。
「それにね、あたしにとって一番大事なのはこの子と一緒にいることよ。だからこの子が行くっていうなら異世界だろうが月の裏側だろうが行くわ」
鎮音さんが当たり前って感じで言う。
でも、事前情報を隠されてこっちに来た僕と違って、異世界に行くかどうかを自分で決断するってのはそう簡単じゃないと思う。
陳腐な言い方だけど、母は強しってことなんだろうか。
「それに君だってそうじゃないの、風戸君……帰れる機会があったけどここに居ることを選んだって聞いたわ」
「まあ……そうですね」
セリエたちの方にちょっと目をやる。
正直言うと現代日本から比べれば生活では不自由を感じることはかなり多い。
でも僕も含めてこっちにいる人、綾森さんも都笠さんも、ラティナさんもなんだかんだでこっちに何か居るべき価値を見出していると思う
日本に戻った衛人君も不便だから戻ったというわけではなくて、日本でやりたいことがあるから戻ったって感じだった。
生活環境はもちろん大事だけど、そこに居る理由も同じくらい大事なのは確かだ。
……彼はいまどうしてるんだろうな、とふと思った。
◆
「ねえ、風戸さん」
鎮音さんの後ろにいた花鳥君が不意に口を挟んできた。
アメリカの有名ブランドのウェアを着ている鎮音さんと違って、彼は幾何学模様の刺繍を施されたフード付きのマントにローブと、完全にこっちの衣装を着ている。
杖は持ってないけど、短めの錫杖も持っている。ゲームに出てくるかのような魔法使いルックだな。
上目遣いで僕等を見る顔はちょっと外見より幼そうに見える。お母さんに似ているのか太めの眉とちょっと濃いめの顔立ちだけど。、
気弱そうというかそんな雰囲気を感じるな。さっきの戦いのときは落ち着いてたけど。
「本当にドラゴンと戦ったの?ヴァンパイアとも?」
「戦ったよ。ここにいるみんなでね」
花鳥君が何やら嬉しそうに笑った。
「すごいや、みんな勇気があるんだね。どっちもSSレアモンスターだよ」
「なにそれ?」
「ああ、この子が好きなゲームの話だと思うわ」
「格好いいね。勇者パーティって感じ」
ヴァンパイアもワイバーンもこの子にかかればボスモンスター扱いか。
「ねえ、風戸さん。管理者っていうのを持っているんでしょ?ゲームは動かせる?」
「ああ……たぶんできると思うよ、やったことないけど」
「今度ゲームやらせてほしいな」
「オンラインは無理だけど、いい?」
「うん、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべて花鳥君が言う。
最初はちょっと気弱に見えたけど、話してみるとそんな感じでもないな。
「ありがとね、風戸君。君はいいやつね。それに、花鳥が初対面からこんな風に懐くのは珍しいわ。人見知りする子だからね」
「それと……お姉さん……えっと……」
花鳥君がおずおずとセリエに話しかける。名前がわからないのか、照れているのか。
「セリエだよ。セリエって呼んであげてね」
「うん、えっと、セリエお姉さん」
「はい、なんでしょう」
「あの……耳を触らせて……もらえませんか?」
花鳥君が聞いてセリエが首を傾げる。
「失礼なことを言ってごめんね、獣人が珍しいのよ」
「僕等の世界には獣人はいなかったんだよ」
セリエがちょっと困った顔で僕を見る。
花鳥君が興味津々って感じで僕等を見上げてきた
「ちょっと触らせてあげて、セリエ」
「はい、ご主人様」
そう言ってセリエがちょっと身を寄せてくる。
「どうかした?」
「あとで……ご主人様も触ってくださいね」
ちょっと不満げというか頬を膨らませてセリエが小声で言う。
「わかったよ、ごめんね」
そういうとセリエがかがみこんんで、花鳥君が耳に壊れ物にでも触るように耳に触れて嬉しそうに笑った。
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