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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

ソヴェンスキとの会談に同席する

 数日後、ソヴェンスキの連中との会談がセットされた。
 当然僕等も同席することになった……まあ、あれだけ派手にやれば当然だろうけど。
 国境近辺の林の近くには天幕がいくつも張られていて、バスキア家やガルフブルグの紋章が入った旗がはためいていた。
 向こうの方にはソヴェンスキのものらしき白い旗も見える。


「安心しろ、お前らはやることをやった。お前らを守るのはこっちの仕事だ」


 着いたらバスキア公とジェラールさん達が出迎えてくれた。 
 ジェラールさんはヴァンパイアと戦った時と同じ、完全武装の物々しい感じだ。


「お前らにもなにか言われるかもしれねぇが、知らぬ存ぜぬでいいぞ」
「そういうのなら得意技ですよ」


 サラリーマン時代にあまりいいことではないけど、知らんふりは何度もした……そんなのも遠い昔な気がするな。
 いずれにせよ、証拠写真とか取られているわけでもないから知らぬ存ぜぬで通せば相手も追求しようがない


「とりあえず交渉が終わるまでは俺の近衛がお前らの護衛に付く。だが、お前らも油断はするな。何をしてくるか分からねぇ連中だからな」
「ええ、分かってます」


「まあそれより……問題は交渉担当があいつだってことだ」


 聞いた話だけど、ガルフブルグの外交担当はルノアール公。
 確かダナエ姫が評して言うには、頼るに値せぬ軟弱者だったかな。元々は確かサヴォア家が仕えていた家だったはずだけど。


 そんなことを話しているうちに、天幕の一つから男の人が出てきた。
 水色の長いマントにいい加減見慣れてきたスーツ風のガルフブルグの正装をまとっている。
 長い茶色の髪と白い肌が印象的な人だ。僕と年は同じくらいだろうか。
 口ひげと顎髭が細面で神経質そうな顔に今一つ似合っていない感がある。


 今まで会ったガルフブルグの貴族はダナエ姫もそうだしバスキア公もそうだけど、なんというか武人タイプが多かった。
 ブレーメンさんも良くも悪くも押しが強いタイプだし。


 そういう意味では今まで会ってない雰囲気の人だ。
 高位の貴族という感じではなくて、繊細な芸術家という方が印象に近い。


「若いわねー」


 都笠さんが横でつぶやく……年は僕と同じくらいだろうか。
 ただ、その年で一つの国を背負って交渉するんだから、それはすごいと思う。これはダナエ姫にしてもゼーヴェン君にも言えるけど。


 それにセリエくらいの年ですでに探索者をしている人は珍しくない。
 この世界の人達の覚悟と言うか責任は日本人の感覚からするとからりすごいというか真似出来ないと感じる。15歳のときに僕は何をしていただろうか。


 ルノアール公が僕等とオルドネス公を見て軽く会釈する。
 その人がルノアール公に何かつぶやくと、ルノアール公がすっと背筋を伸ばした。
 いい人そうだけど、確かに外交とか戦争とかそういうシビアな場でやりあうって感じではない様に感じる。


「外交をあなたがやることはできないんですか?」


 都笠さんが聞く。これは僕も同じことを聞きたいところだけど。


「そういうわけにはいかねぇ。
俺達は軍事、ルノアールは貿易と外交、オルドネスが商業、ブルフレーニュは内政。それが各家の領域でそれを犯すことは許されねぇ。そういうしきたりだ」


 苦々しげにバスキア公が言う。
 ……ダナエ姫の家が内政担当なのか。あの人に関して言うなら前線で刀を振り回すイメージしかないぞ。





 会談の場は大きめの天幕だった。
 机の向こう側には豪華な白いローブのような衣装に身を包んだ使者とその付き人や護衛らしき兵士たちが並んでいる。
 それぞれ仮面のような表情を変えないけど、敵意の視線がひしひしと突き刺さってきた。


「まずはこちらの口上を述べさせていただく」


 そう言ってソヴェンスキの使者が僕等の「罪状」を並べ始めた。
 10分近くよどみなく滔々と演説が続く


「よく言うわよね……」


 都笠さんが横でつぶやく。
 確かに内容だけ聞いていると爆弾テロリストか何かのような言われようだ。
 そもそもお前らが都笠さんを強引に連れ去ったのが悪いんだろ。


「その後ろにいる塔の廃墟の二人を引き渡してもらいたい。許し難い罪人だ。悪はわれらの法で裁かねばならない
それに、そちらの準騎士のしたことだ。塔の廃墟の扱いについても改めて話をさせてもらいますぞ」


「厚かましい……」


 都笠さんが鋭い目でソヴェンスキの使者を睨みつけて言う。


「よろしいでしょうな、ルノアール公」


 念を押すような口調で使者が話し終わって、ルノアール公が黙った。
 前にはバスキア公とルノアール公が並んで座っていて、その後ろにはジェラールさんが控えている。
 バスキア公がジェラールさんとちらりと視線を交わす。


「では返答を」


 ルノアール公に皆の視線が集まった。
 ルノアール公が深呼吸して何かつぶやく。


「なんですかな?」
「……お断りする」





 周りが一瞬どよめいた。


「君たちの言動には証拠がない
彼らは我が国、ルノアール家に従うサヴォア家の準騎士だ。証拠もなしに君たちに引き渡すことはできない」


 緊張した感じは伝わってくるけど、かみしめるように一言一言はっきりと話す。


「いやいや、ルノアール公。如何されましたか。まさか我々の言葉に偽りがあるとでも言われるのか?そのようなことを申されるとは、我々としては大変悲しいことです」
「証拠があるなら考えよう。あるならば見せてみたまえ」


 はっきりと言い返して、流石にソヴェンスキの使者の顔色が変わった。


「我が国のエリステン・ルーヴァでそこのカザマスミトを見たという話が多く出ておりますぞ」
「そうなんですか?でも僕はそこへ行ったことないですよ。
僕等の世界じゃ、世界には似た人が3人いるって伝説がありますから。その人ですよきっと」


 憎々し気な視線が強くなった気がするけど流石に目を逸らす気にはならない。


「我らの兵たちが証言しましょう……我らは神に従い真実しか述べませぬ」
「私は君たちの神を信じてはいない。君たちの神の誓いは私には価値は無いな」


 ルノアール公が一刀両断にした。
 初めは少し緊張した感じがあったけど、今はそんな感じがなくて明瞭な言葉づかいで彼らの言葉を一蹴する。
 さっきの気弱そうな感じはどこへ行った?


「証拠とは物だ。人の言葉くらいいくらでも偽れる。
以前に塔の廃墟に君たちの司教憲兵アフィツィエルが現れて我が国の騎士を切ったという話があったが、証拠を我らは示せなかった。だから不問とした。忘れているまいな」


 念を押すようにルノアール公が言った。
 使者が隣の付き人らしき人と言葉を交わしてこっちを向きなおる。


「なるほど。ではもう一つ申し上げよう。そこのツカサスズは我が方におり我がソヴェンスキの神に忠誠を誓った。彼女の身柄は渡して頂きたい」
「そんなことしたことはないわ。あたしは自衛隊かサヴォア家以外に仕えるつもりはないわよ。今までもこれからもね」


「彼らは我が国のサヴォア家に仕える準騎士。君たちの国のものになった記録は……」


「しかしですなそのような……」
「少し黙れ」


 ルノアール公の話を遮ってソヴェンスキの使者が話し始めたけど、それをルノアール公が制した。


「私が今話している。無礼だぞ」


 ルノアール公の隣に座っているバスキア公が何だコイツって顔でルノアール公を見ている。その後ろではジェラールさんが首をかしげていた。
 頼りない外交官とかいう噂だったけど、それは何処へ行ったんだろう。


「彼女はこう言っている。
君たちの言うようにツカサスズがそちらの領土内にいたというのならば、どういう経路で君の国にいたのかね?
もし彼女が自分の意思でソヴェンスキに赴いたのならば今そう言わないのはおかしいだろう」


 都笠さんには戻ってから、4大公家の旗下の治癒術師達によってありとあらゆる魔法解除と解毒系の魔法が施されている。
 人形師ドールワークが掛かっていてももう効かないはずだ。


「そちらが何かしたのではないのですかな?魔法で彼女を操作しているのでは?許される事ではありませんぞ」


 真顔でソヴェンスキの使者が言う。
 よく言うな……どこまでも厚かましい。都笠さんが露骨に舌打ちした。


「君たちはそうするのかもしれないが。我々は違う。必要なら解呪ディスペルカースでも何でもするがいい」


 ソヴェンスキの使者が押し黙る。


「それにこちらの言葉は信じないのかね?
君たちは君の言葉を信じろというばかりだ……私は彼女の言葉を信じているが、君は彼女の言葉を信じないと?」


 追い打ちをかけるようにルノアール公が言い募る。
 重たい沈黙があって、使者が絞り出すように話をつづけた。


「なんということだ……寛容さを失われたのか?ルノアール公」
「いうべきことを言っているだけだ。私には四大公家の当主として我が旗下を守る義務がある。証拠も無しに彼等を渡すことはできない」


「なるほど、そのお言葉がどういう結果を招くかは……お判りでしょうか?」


 ルノアール公がバスキア公と軽く視線を交わす。バスキア公がうなづいた


「何を招くというのだね?」


 ルノアール公が言い返すと、ソヴェンスキの使者が黙った。


「言ってみたまえ。何を招くというのだ?」
「あ……いや、それは」


 ソヴェンスキの使者が口ごもる。
 あからさまな脅し文句だけど……こっちが引かないなら脅しても意味がない。


「証拠もなく我が国の準騎士を君たちに引き渡す理由は無い。そして塔の廃墟は我が国の領土だ。
これで話は終わりだな」


 ソヴェンスキの使者の能面のような顔が一瞬歪んだけど。席を立ってそのまま出て行った。





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