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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

「君」にまた会えてよかった

 国境近くの小さな町の近くに竜が着陸した。
 突然巨大なドラゴンが下りて来たんだから町は結構な騒ぎになったらしく、すぐに完全武装の兵士たちと、探索者らしき一団が掛けてきたけど。
 ドラゴンはヴァンサンが消して、衛兵の人とかに身分を名乗ったら、兵士たちの先導で街に案内された。
 この辺は流石貴族って感じだな。


 街に着いたらすぐに宿が手配してもらえた。広場に面した一番いい宿の一番いい部屋らしい。


「大丈夫?」
「ロンドヴァルド家の騎士にとってこの程度どうと言うことは無い」


 いつも通りの強気な返事が返ってきたけど。
 勝ち気な感じの顔ははっきりと顔色が悪い。きちんと整えられた赤髪もほつれているし、言葉にも疲れが滲んでいた。
 僕も経験はあるんだけど、ポーションでの傷や魔力の回復はゲームのようにHPが全回復、元通りって便利ものではなくて。どちらかと言うと栄養ドリンク飲んで無理してるのに近い。


「ありがとう、ヴァンサン」
「ふん……言っただろうが。お前のためにやったわけではない」


 何やら顔を逸らしつつヴァンサンが言う。
 帰路に相当無理がかかったし、あの竜は矢を浴びてる。見た目に傷は無いけど、痛みがないってことはないはずだ。


「お前が立身に興味が無いというなら、我が戦功をしかと大公に伝えてもらうぞ、いいな」
「もちろん。しっかり伝えるよ」


「ありがとう。凄い能力だったわ。強襲揚陸艇とかヘリ部隊って感じよね」


 都笠さんの言葉にヴァンサンが怪訝そうな顔をした。まあそりゃそうだな。


「ふん、まったく何を言っているのか分からんぞ。俺は休む。お前らも休んでおけ」


 そう言ってヴァンサンが宿の方に歩き去る。
 街の兵士たちがさっと駆け寄ってきて何か話しつつヴァンサンを先導していって、僕等だけが残された。


「風戸君」


 都笠さんがひとつ息を吐いて手を広げた。こっちも広げる。都笠さんが体を預けるようにしてハグしてきた。


「本当に……ありがとね、来てくれて……」


 背中に回された手に力がこもって、しなやかな体がぴったりとはりつく。


「風戸君の声は……よく聞こえたわ」
「そりゃよかったよ、言い過ぎたかな?」
「そうかもね……ふふ」


 もしあれで都笠さんが人形師ドールワークから正気に戻ってくれなければ。
 ヴァンサンの竜で連れ去れたかはかなり怪しい。僕の手で殺す、ヴァンサンの竜で殺す、もう洗脳が終わっている、そんなことにならず、また会えてよかった。


「スズ様……おかえりなさい」
「お兄ちゃん、あたしも頑張ったんだからぎゅってして」
「ああ、ごめんね、セリエ、ユーカ」


 都笠さんが見慣れた明るい笑顔を浮かべて離れた。セリエとユーカを順に抱きしめる。
 ああ、無事に帰れた。ここ何日かの緊張感が解けて、その時ようやく実感できた。





 数日後、兵士の一隊を引き連れてバスキア公とダナエ姫、ブレーメンさんがやってきた。
 4大公家のうち3家の重鎮が来たなんて前代未聞らしく、小さな町がにわかににぎやかになる。
 街の長や警備兵の儀礼的な挨拶とかが一しきりあって、バスキア公達がこっちに歩いてきた。


「よくぞ戻った、スミト、それにスズ」
「正直言ってかなり心配だったんだがね。さすがは龍殺しだな」


 バスキア公が満足げな笑みを浮かべている。
 普段は厳めしい感じのブレーメンさんもほっとしたって顔だ。


「無事で何よりじゃ、スミト」


 ダナエ姫がいつもの鷹揚な口調で言うけど、安堵感が何となく感じ取れた。
 ただ。


「……まだコンテッサさんと綾森さんが帰っていないんですが」


 毎度思うんだけど、いつでも連絡を取り合えるってのになれてしまうと、そうできないことが本当に不便に感じる。
 通信機にも呼び掛けてみたんだけど、当然圏外で呼びかけても応答はなかった。 
 今向こうで何が起きているか分からずただ待つしかないっていうのは、本当に落ち着かない


 バスキア公に従って着いてきたらしきウルスさんとブリジットさんの表情も硬い。
 あの二人にとっては、僕等なんかよりまず綾森さんが心配だろうし


「心配いたすな。コンテッサがついておる。あやつなら間違いなかろう」


 ダナエ姫が全く心配してないって口調で言った。
 信頼感とかそういうのはあるんだろうけど、やっぱり無事が分かるまでは気になる。


「今回はご迷惑をおかけしました」


 都笠さんが頭を下げた。


「うむ、お主の無事が何よりよ」
「今度こそ俺の準騎士になれ……と言いたいところだがな。まあいいだろう。より一層の貢献を期待してるぜ、スズ、それにスミト」
「何を申すか。抜け駆けは許さぬぞ、アストレイ殿」 


 バスキア公が言って、都笠さんが神妙に頷いた。


「で、スミト。証拠は残していないだろうな」
「直接的なものは多分」


 ヴェロニカと直接撃ち合っているわけだから状況証拠は山ほどありそうだけど、直接的なものはないだろう。
 というか監視カメラに映像が残る世界じゃないから、直接証拠は捕虜でもとられない限りあんまりなさそうではある。


「直接的な証拠がなかったからこっちはラヴルードのことを追及できなかったがな……今度はこっちがすっとぼける番ってわけだ」


 バスキア公が意地悪な笑みを浮かべたけど、すぐ憂鬱そうな顔になった


「まあこれからが少し頭の痛い所なんだがな……ルノアールがな」





 その街からラポルテ村に移動した。
 やきもきしながら待つこと数日。綾森さんとコンテッサさんがラポルテ村に帰ってきた。
 着ている衣装が変わっていて、行くときに着ていた商人風のものから、狩人のような軽装になっていた。馬車も無くなっている。


 別宅レジデンスから出てきた綾森さんに僕等より先にウルスさんとブリジットさんが抱き着かんばかりに駆け寄った。
 綾森さんが二人をハグしながら軽く手を振ってくれる。無事でよかった


「ありがとう、おかえりなさい。心配しましたよ」
「言ったろ、逃げるも潜むも熟練のさじ加減さね」


 コンテッサさんが彫りの薄い顔に少し満足げな笑みを浮かべつつ言う。


「馬車は途中で乗り捨ててね、その後は巡礼者に偽装して街道を歩き、国境を抜けるときは街道を外れて山を越えたのさ」


 コンテッサさんが自慢げに言う


「餌を撒き敵を惑わし、姿を変え周りに溶け込み、裏をかく。それが密偵の極意ってわけさ」











「僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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