僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
外濠公園での交戦・下
もんどりうってそいつが地面に倒れて、そのまま動かなくなった。一瞬遅れてこだまのように遠くから銃声が聞こえる。
「なんだ?」
何が起きたか分からない、と言う顔でそいつらが周りを見回す。
残響が消えていく中、次は真ん中に立っていた司教憲兵が悲鳴と共に足を払われたかのように地面に倒れ伏した。
慌てて2人が左右に散る。同時に地面が銃痕で抉られた。立て続けに銃声が響く。
陣形が崩れた。
「「発現!」」
「【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」
空中に浮かんだ銃をつかんだ。炎が渦を巻いてユーカのフランベルジュが現れる。
同時に防御の光が纏いついた。
狙撃は専門外だから動いてる相手に当てれるかは怪しい、だから一発目以降で目標が動き出したら保証しない、と言っていたけど。二人倒してくれれば十分すぎる。
「お兄ちゃん!」
後ろに目をやると白い鎧の兵士がグラウンドに入ってきていた。6人だ。カメラで確かめた数より多い。
「ユーカ!後ろを止めて!」
「うん!任せて!【あっち行って!こっち来ないで!】」
ユーカが叫んでフランベルジュを大きく振る。
炎が線を引くように地面を走って、ドーム球場のフェンスなみの高さまで一気に炎の壁が吹き上がった。
赤い炎が照明の光より明るくグランドを照らす。
「行くぞ!」
踏み出したのと同時に銃声が響いた。当たってはいないけど、ソヴェンスキの兵士が固まる。
銃声はお前を狙っているという口上、銃の鬨の声だ、というのを何処かで読んだけどまさにその通りだな。
間合いを詰めるためには、この隙で十分。
「くそっ」
雑に振られたサーベルを銃身で受け止める。その反動で膝に銃床で一撃を食らわせた。
鈍い手ごたえが伝わってきて、そいつが苦悶の声を上げて崩れるように膝をつく。
あと一人。短めのキャッチボールくらいの距離だ。切り込むよりこっちの方が早い。銃を回して射撃姿勢を取る。
我に返ったようにサーベルを振り上げてこっちに駆け寄ろうとしたけど、もう遅い。
「【貫け!魔弾の射手】!」
引き金を引く。胸に弾を受けた男が血をまき散らしながら吹き飛んだ。
防御なしの状態で魔弾の射手の直撃だ。ただじゃすまないだろうけど、手加減なんてしている余裕はない。悪いけど、そんな義理もない。
これでアーロンさん達は確保できた。これでとりあえず人質にはとられない。
アーロンさんがあっけにとられたって顔で僕を見上げる。
あらためて周りに目をやった。
1人はうずくまったまま動かない。さっきの手ごたえを思い出す。あれなら膝にかなりダメージがあるはずだ。
あと二人は狙撃銃、都笠さん曰くレミントンM24SWS対人狙撃銃で撃たれている。
こっちもしばらくは動けないだろう、いくらなんでも。
「セリエ、アーロンさんに治療を」
「はい、ご主人様」
セリエがアーロンさんに駆け寄る。
炎の壁が薄れてその向こうの6人の姿が見えた。
こいつらも相当腕が立つんだろうけど、目の前で突然何処からともなく飛んできた攻撃に二人を倒されている。流石に動揺が見えた。
剣を構えてはいるものの切りかかってくる気配は無くて、遠巻きに僕等を囲んでいる。
「何が起きた?一体どこから?」
「これが……雷鳴の弩か?」
「そんなことより、背中に気を付けた方がいいよ」
そういうと、おびえたように兵士たちが後ろを窺った。
でも都笠さんの姿は見えるわけはない。
罠だと分かっていて無策に突っ込むほど僕等もバカじゃない。
都笠さんが道路を挟んだビルに潜んで狙撃で援護してくれている。
銃のことはある程度知られているだろうけど、狙撃銃のことまでは知らないだろう。知っていても対処できるとは思えないけど。
わざわざ電気をつけたのも、別に管理者の能力をひけらかしたかったわけじゃなく、都笠さんのために視界をよくするためだ。
狙撃自体は上手くない上になんでも弾があまり多くないらしい。でも、遠距離からの狙撃なら完全な奇襲で先手を取れる。
司教憲兵がいたのは予想外だったので、こいつを先に撃ってくれたのは助かった。正直言って、ヴェロニカ並みの相手だったらヤバかった。
「風戸君!」
にらみ合いになったところで、遠くから都笠さんの声が小さく聞こえた。
「ご主人様……スズ様がこちらにこられます」
僕には呼び声の後は聞き取れなかったけど。セリエがささやいてくれる。
通信機があればよかったけど今回はアデルさんと信濃町の拠点の通信用の分しかなかった。でもこの距離ならセリエの耳である程度何とかなってしまう
「燃えちゃえ!」
ユーカが叫んでフランベルジュを振る。また炎が吹き上がった。兵士たちがひるんだように一歩下がる。
そして遠くの方から夜の静けさを切り裂くように、バイクのエンジン音が近づいてきた。
◆
ヘッドライトが暗い街路で光って、ひときわ大きなエンジン音が響いた。兵士たちが後ろを向く。
低めの段差をものともせずに藪を押しつぶしながらオフロード仕様のバイクが坂を駆け下りてきた。アデルさんのバイク、タンデムシートには都笠さんが乗っている。
グラウンドに飛び込むと同時に、都笠さんがバイクから飛び降りた。89式が火を噴いて、三連射の銃声が響く。
棒立ちになっていた一人が弾かれたように倒れた。
「我はオルドネス公家旗下、ジェレミー公にお仕えする、鉄騎の乗り手!アデルハート・ジェルジア・フォルトナ!」
エンジン音に負けない大声で、颯爽とアデルさんが名乗りを上げた。
「観念せよ!ソヴェンスキの無法者ども」
「全員撤退しろ!」
一人が命令を発した。我に返ったように、5人がバラバラに分かれて走り出す。
都笠さんが89式を構えたけど、銃を下ろした。さすがに逃げる背中を撃つ気はしなかったのか。
「逃がさん!」
慌てて逃げだすうちの一人をアデルさんのバイクが猛スピードで追った。グラウンドの黒土を巻き上げてバイクが疾走する。
走るスピードとバイクじゃ比較にならない。一瞬で距離が詰まった。アデルさんが剣を抜く。兵士が振り返って、逃げ切れないことを悟ったのかサーベルを構えた。
「食らえ!」
バイクですれ違いざまに剣が交錯した。甲高い金属音がして、薄闇に火花が散る。
スピードを考えれば騎馬突撃を受けたようなもんだ。兵士がバランスを崩す。すり抜けたバイクが一瞬で180度ターンした。
「もらったぞ!」
ターンの勢いそのままにバイクが倒れこむ。低く沈み込んだアデルさんが苦し紛れに降られたサーベルの下をかいくぐった。
土煙を上げて回る後輪がスライディングのように兵士の足を払う。タイヤにはじかれた体が宙を舞った。
アクセルターンでそのままアデルさんが立ちあがる。まったく淀みない、映画のバイクアクションのようだ。自分で二つ名を名乗るだけあるな。
空中で一回転した男が重い音を立てて地面に落ちる。
起き上がろうとした首筋をアデルさんが剣の柄で容赦なく一撃すると、男がぐったりと地面ののびた。
「なんだ?」
何が起きたか分からない、と言う顔でそいつらが周りを見回す。
残響が消えていく中、次は真ん中に立っていた司教憲兵が悲鳴と共に足を払われたかのように地面に倒れ伏した。
慌てて2人が左右に散る。同時に地面が銃痕で抉られた。立て続けに銃声が響く。
陣形が崩れた。
「「発現!」」
「【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」
空中に浮かんだ銃をつかんだ。炎が渦を巻いてユーカのフランベルジュが現れる。
同時に防御の光が纏いついた。
狙撃は専門外だから動いてる相手に当てれるかは怪しい、だから一発目以降で目標が動き出したら保証しない、と言っていたけど。二人倒してくれれば十分すぎる。
「お兄ちゃん!」
後ろに目をやると白い鎧の兵士がグラウンドに入ってきていた。6人だ。カメラで確かめた数より多い。
「ユーカ!後ろを止めて!」
「うん!任せて!【あっち行って!こっち来ないで!】」
ユーカが叫んでフランベルジュを大きく振る。
炎が線を引くように地面を走って、ドーム球場のフェンスなみの高さまで一気に炎の壁が吹き上がった。
赤い炎が照明の光より明るくグランドを照らす。
「行くぞ!」
踏み出したのと同時に銃声が響いた。当たってはいないけど、ソヴェンスキの兵士が固まる。
銃声はお前を狙っているという口上、銃の鬨の声だ、というのを何処かで読んだけどまさにその通りだな。
間合いを詰めるためには、この隙で十分。
「くそっ」
雑に振られたサーベルを銃身で受け止める。その反動で膝に銃床で一撃を食らわせた。
鈍い手ごたえが伝わってきて、そいつが苦悶の声を上げて崩れるように膝をつく。
あと一人。短めのキャッチボールくらいの距離だ。切り込むよりこっちの方が早い。銃を回して射撃姿勢を取る。
我に返ったようにサーベルを振り上げてこっちに駆け寄ろうとしたけど、もう遅い。
「【貫け!魔弾の射手】!」
引き金を引く。胸に弾を受けた男が血をまき散らしながら吹き飛んだ。
防御なしの状態で魔弾の射手の直撃だ。ただじゃすまないだろうけど、手加減なんてしている余裕はない。悪いけど、そんな義理もない。
これでアーロンさん達は確保できた。これでとりあえず人質にはとられない。
アーロンさんがあっけにとられたって顔で僕を見上げる。
あらためて周りに目をやった。
1人はうずくまったまま動かない。さっきの手ごたえを思い出す。あれなら膝にかなりダメージがあるはずだ。
あと二人は狙撃銃、都笠さん曰くレミントンM24SWS対人狙撃銃で撃たれている。
こっちもしばらくは動けないだろう、いくらなんでも。
「セリエ、アーロンさんに治療を」
「はい、ご主人様」
セリエがアーロンさんに駆け寄る。
炎の壁が薄れてその向こうの6人の姿が見えた。
こいつらも相当腕が立つんだろうけど、目の前で突然何処からともなく飛んできた攻撃に二人を倒されている。流石に動揺が見えた。
剣を構えてはいるものの切りかかってくる気配は無くて、遠巻きに僕等を囲んでいる。
「何が起きた?一体どこから?」
「これが……雷鳴の弩か?」
「そんなことより、背中に気を付けた方がいいよ」
そういうと、おびえたように兵士たちが後ろを窺った。
でも都笠さんの姿は見えるわけはない。
罠だと分かっていて無策に突っ込むほど僕等もバカじゃない。
都笠さんが道路を挟んだビルに潜んで狙撃で援護してくれている。
銃のことはある程度知られているだろうけど、狙撃銃のことまでは知らないだろう。知っていても対処できるとは思えないけど。
わざわざ電気をつけたのも、別に管理者の能力をひけらかしたかったわけじゃなく、都笠さんのために視界をよくするためだ。
狙撃自体は上手くない上になんでも弾があまり多くないらしい。でも、遠距離からの狙撃なら完全な奇襲で先手を取れる。
司教憲兵がいたのは予想外だったので、こいつを先に撃ってくれたのは助かった。正直言って、ヴェロニカ並みの相手だったらヤバかった。
「風戸君!」
にらみ合いになったところで、遠くから都笠さんの声が小さく聞こえた。
「ご主人様……スズ様がこちらにこられます」
僕には呼び声の後は聞き取れなかったけど。セリエがささやいてくれる。
通信機があればよかったけど今回はアデルさんと信濃町の拠点の通信用の分しかなかった。でもこの距離ならセリエの耳である程度何とかなってしまう
「燃えちゃえ!」
ユーカが叫んでフランベルジュを振る。また炎が吹き上がった。兵士たちがひるんだように一歩下がる。
そして遠くの方から夜の静けさを切り裂くように、バイクのエンジン音が近づいてきた。
◆
ヘッドライトが暗い街路で光って、ひときわ大きなエンジン音が響いた。兵士たちが後ろを向く。
低めの段差をものともせずに藪を押しつぶしながらオフロード仕様のバイクが坂を駆け下りてきた。アデルさんのバイク、タンデムシートには都笠さんが乗っている。
グラウンドに飛び込むと同時に、都笠さんがバイクから飛び降りた。89式が火を噴いて、三連射の銃声が響く。
棒立ちになっていた一人が弾かれたように倒れた。
「我はオルドネス公家旗下、ジェレミー公にお仕えする、鉄騎の乗り手!アデルハート・ジェルジア・フォルトナ!」
エンジン音に負けない大声で、颯爽とアデルさんが名乗りを上げた。
「観念せよ!ソヴェンスキの無法者ども」
「全員撤退しろ!」
一人が命令を発した。我に返ったように、5人がバラバラに分かれて走り出す。
都笠さんが89式を構えたけど、銃を下ろした。さすがに逃げる背中を撃つ気はしなかったのか。
「逃がさん!」
慌てて逃げだすうちの一人をアデルさんのバイクが猛スピードで追った。グラウンドの黒土を巻き上げてバイクが疾走する。
走るスピードとバイクじゃ比較にならない。一瞬で距離が詰まった。アデルさんが剣を抜く。兵士が振り返って、逃げ切れないことを悟ったのかサーベルを構えた。
「食らえ!」
バイクですれ違いざまに剣が交錯した。甲高い金属音がして、薄闇に火花が散る。
スピードを考えれば騎馬突撃を受けたようなもんだ。兵士がバランスを崩す。すり抜けたバイクが一瞬で180度ターンした。
「もらったぞ!」
ターンの勢いそのままにバイクが倒れこむ。低く沈み込んだアデルさんが苦し紛れに降られたサーベルの下をかいくぐった。
土煙を上げて回る後輪がスライディングのように兵士の足を払う。タイヤにはじかれた体が宙を舞った。
アクセルターンでそのままアデルさんが立ちあがる。まったく淀みない、映画のバイクアクションのようだ。自分で二つ名を名乗るだけあるな。
空中で一回転した男が重い音を立てて地面に落ちる。
起き上がろうとした首筋をアデルさんが剣の柄で容赦なく一撃すると、男がぐったりと地面ののびた。
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