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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

外濠公園での交戦・上

 白い尾を引くように使い魔ファミリアが空高く飛び上がった。


「見られた?」
「恐らく……申し訳ありません、ご主人様」


 普通の東京ならともかく、明かりの無い今の夜空にあの光を放ちながら飛ぶ使い魔はかなり目立つ。見つかった、と考えるべきだろう。
 遠くからかすかに声が聞こえた。
 セリエの獣耳が小さく動いて、つないだ手に力がこもった。


「何が聞こえたの?」


 セリエが唇をかんで俯く。


「罠だ……と」
「罠?」


「罠だ、来るな、スミト……と、聞こえました」
「なるほどな」


 どういうことかと思ったけど、アデルさんが納得したように僕等を見た。


「知己の探索者をわざわざ助けに来るようなお人よしをおびき出すための策だ、ということか」
「これは……偶然じゃないってこと?」


 都笠さんが言って、アデルさんが頷いた。


「奴らがお前等に執着していることくらいは分かっているだろう?」


 アデルさんがそう言って、アーロンさん達がいるであろう方向を見た。


「撤退すべきだ。お前らがここで罠に落ちるのを見ているわけにはいかん」
「言っておくけど、あたしはここで尻尾まいて帰る気は無いわよ」


 アデルさんをじろりと見て都笠さんが言う。


「お前らの気持ちはわからなくもない。だが、この状況なら相手は準備万端でお前を待ち伏せているだろう。しかも今の使い魔でこちらが来ていることは相手にも知れた。奇襲は通じない」


 アデルさんが都笠さんを睨み返した。立場的にはそう言わざるを得ないんだろうし、不利なのは確かだけど。
 でも僕も都笠さんと同じ気持ちだ。
 俺たちが危ない場面になったら、今度はお前たちの番だぞ、と言われた。今が借りを返す時だ。


「……こう考えませんか、アデルさん」
「なんだ?」


「あいつらを生け捕りにできたら……大手柄じゃないですか?」


 そういうと、アデルさんが少し考え込むように顔を伏せた。


「ソヴェンスキの兵士が未踏域でガルフブルグの探索者を襲っていて、しかも僕等を狙ってきたなんてことが分かればあいつらに一泡吹かせられますよ」


 アデルさんも高田馬場での戦いを見る限りかなり頼れる。
 アーロンさんを助けに行くなら参加してもらわないと困るし、それに今は言い争っている時間が惜しい。
 アデルさんが小さく舌打ちした。 


「確かにそうかもしれんが……だが人数が分からん相手だ。しかもソヴェンスキの連中なら手練れだぞ」


 確かに少なくともアーロンさん達を圧倒できるくらいの強さはあるんだろう。


「策はあるんだろうな?」
「勿論」


 ヘッドライトに照らされて立ち並ぶ道路沿いのオフィスビルに目をやりつつ、とっさに浮かんだアイディアを説明する。


「都笠さん、大丈夫?」
「行けるわ、任せてと言いたいところだけどちょっと自信ないわね……でも」


 都笠さんが気合を入れるように自分の頬を軽くたたいた。


「でも、やるしかないでしょ」


 そう言って兵器工廠アーセナルから銃を取り出す。


「風戸君の方が危ないわよ、気を付けてね」 
「仕方ない……やる以上は成功させるぞ」


 アデルさんが決意を固めたように言ってスロット武器の剣を抜いた。





 車をガードレールギリギリに止めて外濠公園に入った。すぐに目の前は広々とした野球のグラウンドが広がっている。
 東京にいたころよりずいぶん明るく感じる月明りと小さなたき火が夜の闇の包まれているグラウンドを照らしていた。
 あのたき火の煙がさっき見えたわけだ。というか、僕等をおびき出すための狼煙ってわけか。


 うすぼんやりした焚火の明かりの向こうにはアーロンさんと、おそらくリチャードとレインさん。
 焚火を囲むようにして黒い人影も見える。白い鎧がさながら幽霊のようだ。


管理者アドミニストレーター起動オン電源復旧パワーレストレイション


 ナイター用の照明塔に光が灯った。月明りやランプよりはるかに明るい、白い光でフィールドが照らされる。
 グラウンドのちょうどマウンドのあたりにアーロンさん達がいた。足をやられているのか、グラウンドに座り込んでいる
 僕を見て何か言いたげな顔をして、下を向いた。


 リチャードとレインさんは……意識が無いのか倒れたままだ。
 そして、その前には白い鎧で身を固めたソヴェンスキの兵士。4人か。


「これが噂の塔の廃墟の遺物を操るスロット能力、管理者アドミニストレーターですか」


 4人のうちの1人、真ん中に立っている奴が口を開いた。渋谷では見たことのない顔だ。
 鎧が簡素だけど、着ている服には白地に赤で手間がかかった刺繍が入っている。周りの3人が少し後ろに控えているところを見ても、こいつが隊長格だろう。


「おや、スズ様はご一緒ではないのですか?」
「……あいにくと僕等だけだ」


 兵士たちがひそひそと言葉を交わし合って周りを見回す。
 僕等のことを調べているなら別行動しているというのには不自然を感じて当然だ。不意打ちを警戒してるんだろう。 


「まあ……いいでしょう」


 周りに気配がないことを感じたのか、隊長格のやつが余裕な顔に戻った。


「ここならゆっくり、邪魔も入らずお話しできます……竜殺し、カザマスミト様」


 そう言って真ん中の男が慇懃な感じで頭を下げる。


「正直言いまして、本当に来るとは思いませんでした。あなたは素晴らしい。友を思うその気持ち。正しき心をお持ちだ」


 そう言って、そいつが大げさなしぐさで首を振る。


「唯一惜しむべきは、なぜその心根を持ちながら我らの教えを理解してくだされないのか。我らは公正を重んじ奴隷などと言う……」


「黙れ。もう口ばっかりの正義だの公正だのは聞き飽きた」


 待ち伏せの罠を張っておいて何が正義だ。どうせならもう少しましなことを言ってほしい。


「そのようなことを申されるとは……我々としてはただ貴方様と話す場を」
「あんたたちだけじゃないよな。他にもいるんだろ?分かっているよ」


 そういうと、兵士たちの顔にわずかに動揺が走ってすぐ消えた。


「さて、なんのことをおっしゃっておられるのでしょうか?」


 そいつがにこやかな顔で笑う。ヴェロニカを思い出させる表情だ。
 明るい照明の下だからなのか、なんとも白々しく見える。


「確認できただけで5人。随分な人数だけど、僕等のためにわざわざ用意したのか?」


 監視カメラを使ってみたけど、確認が取れただけで5人はいた。
 暗いしこの公園はあちこちに藪や茂みがある。隠れるには事欠かない。


「馬鹿野郎!そこまで分かっていて……なぜ来た!スミト!」


 アーロンさんが言うけど、とりあえずその言葉は無視した。
 そいつの顔から張り付いたような笑みが消える。 


「そうですか……では改めてお願いいたします。御一緒に我が国へお越しください」


 一変して、押さえつけるような空気を感じる口調になった。


「ご安心を。セリエ様、ユーカ様も丁重におもてなし致します。奴隷身分などではなく、正式な客人として」


 また口調が変わって、圧力が消える。元の無機質な口調に戻った。


「我々の言葉をお聞き下されば、貴方なら必ずやお分かりいただける。貴方はガルフブルグの様な愚かな考えに染まっておられるだけです」


 ヴェロニカの時にも思ったんだけど、自信満々と言うか確信に満ちたというか、そういう感じで語られると、なにやら妙な説得力を感じてしまう。
 マルチ商法に騙される人はこんな感じなのかな、などと思ってしまった。


「罠を張って人質を取って武器で脅して、それも正義のためか?」


 あいつらは僕等とアーロンさん達の間に立つような位置にいる。
 いざ戦闘になればアーロンさん達を人質に取る手はずなんだろう……この辺は予想通りだ。
 セリエの方に目をやるけど、セリエが小さく首を振った。もう少しかかるか。


「迷えるものに正しき道を歩ませるためならば、やむを得ないことです。いずれは必ずや我々に感謝いただけるでしょう」


 ソヴェンスキの兵士たちがそれぞれ武器を構えた。
 3人がミハエルが使っていたようなサーベル。一人はヴェロニカが使っていた双剣ツインソード
 こいつは……司教憲兵アフィツエルか。


「武器は抜かれませんように。この探索者が無事では済みません」


 静かな警告を発して、4人が僕らを囲むように位置を取る。間を取るように一歩下がった。


「ですが、この者には一度罰を与えたほうがよいのではないでしょうか?」


 一人が言う。口調は冷静だけど、なにやら含むところを感じるな。
 改めてみると、そいつはこの間アルドさんのところでアンジェラさんにやり込められた奴だった。敵意がこもった眼で僕を見ている。


「そうすれば考えを改めるでしょう」
「ダニカ……偉大なる竜殺し殿であるぞ、口を慎め」


 司教憲兵アフィツエルが言って、ダニカとやらが頭を下げた。


「このようなやり方は本意ではありませんが、我々には正しい道を示す義務があります。賢明な判断をいただきたい……この探索者のためにも、貴方の大事な奴隷のためにもね」
「ご主人様……」


 後ろに寄り添うように立っていたセリエが僕の袖を引いた。


「……スズ様からの合図が」


 セリエが耳元でつぶやく。ようやく準備できたらしい。時間稼ぎはもう必要ない。


「これが最後です、どうか」
「生憎だけど、お断りだ」


「……とても残念です。ですがいずれは必ずやお分かりいただける」


 司教憲兵アフィツエルが首を振って双剣ツインソードを構えた。あとの二人も左右を囲むように一歩前に出てくる。
 一人が後方、アーロンさんの方に下がった。


 スロット武器を構えてない相手にも抜かりない。精鋭ぞろいと言う話だったけど確かにその通りだ。
 でもそれを冷静に観察できる自分もいる。小さく深呼吸した。思えば随分場慣れしたもんだな。


「あのさ……」
「何です?」


 司教憲兵アフィツエルが立ち止まった


「僕等が本当に何も考えずここに来たと思ってるのか?武器も抜かずに」


 そいつが怪訝そうな顔で僕を見る。 


「……だとしたら、流石にそれは僕等を甘く見過ぎてるよ」


 言い終わるより早く、アーロンさんの剣を突き付けようとしていた兵士が突然何かに跳ね飛ばされたかの様に吹っ飛んだ




 

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