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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

奴隷と不信心者の違いとは。

 ソヴェンスキの兵士たちが現れて3週間ほどたった。
 酒場の中を注意して見ると、明らかにソヴェンスキの兵士の白い鎧が目立つようになってきている。なんというか、なし崩しに数が増えて言っている感じだ。
 基本的に2人以上でペアになっていて、しかもそれぞれが貫頭衣の子供を連れていることが多いから余計目立つ。


 今日は、何故かフェリンさんに呼び出されて皆でギルドに来ている
 オルドネス公、ブレーメンさん、ジェレミー公、それにフェイリンさん、塔の廃墟の重鎮ぞろいだ。
 ラティナさんも部屋の隅に立っている。護衛のニンジャってことかと思ったけど、目が合ったら手を振ってくれた。いまいち緊張感がないな。


「じゃあ報告を頼むよ、フェイリン」


 ブレーメンさんが後ろに控えていて、オルドネス公が口を開いた。ちょっと珍しい構図だ。
 フェイリンさんが立ち上がって一礼する


「今のところはぁ、特に目立った報告はありません。私たちの探索者たちと協力することもあるようですがぁ、単独で活動していることが殆どのようですねぇ」


 どうやらソヴェンスキの兵士たちの関する報告会らしい。
 フェイリンさんは相変わらずいまいち緊張感のない口調だ。


「他には?」
「かなり腕が立つ連中だそうで……探索の助力にはなってますねぇ。第三旅団というのはソヴェンスキの魔獣掃討を専門とする兵士のようですがぁ、噂に違わぬ精鋭のようですねぇ」


 フェイリンさんの報告を聞いてブレーメンさんとオルドネス公が視線を交わす。
 オルドネス公がジェレミー公の方を向いた。


「ジェレミー。気づいたことはあるかい?」
「はい……今確認させていますが、人数が増えています。20名を派兵ということでしたが……今は30人にはなっていないものの……」


「ちょっと待ってください」
「どうかしたかね、竜殺し殿」


 ジェレミー公がこっちを向く。


「20人どころじゃないですよ、どう見ても」
「ええ、そうよ。40人はいるわ。なにが20人よ」


 都笠さんが同意してくれる。動見ても20人はあり得ない。


「彼らが言うのは、あの白い貫頭衣を着たものは付き人で探索には参加しないから数字には含まない、ということらしい」
「なによ、それ。そんな勝手な事言わせておいていいわけ?」


 都笠さんがあきれたような刺々しい口調で言う。


「彼らは何なんですか?」


 2週間も見ていればある程度彼らのことも分かる。
 貫頭衣というかワンピースみたいなのを着た男女は、基本的には15歳以下って感じの子供たちだ。
 彼らは建物の外で粗末なテントで寝ている。あの建物は20人で一杯になるほど小さくはないはずだけど。
 この間もそれでひと悶着起きているのを見たし。あれは一体何なんだ?


「彼らはニヴェリエ、と呼ばれている者たちだ」


 ブレーメンさんが言う。前にも聞いた単語だ。


「なんですか、それ」
「ソヴェンスキは一つの神を頂く国で、神への信心が何より尊ばれる。そして、信心が足りないとされたものは扱いが下に置かれる。それが不信心者ニヴェリエだ」


 ブレーメンさんが説明してくれた。さすがガルフブルグの重鎮の貴族。良く知っているな。


「信仰深きものにすべてを捧げて仕え、試練に耐えるもの、なのだそうだ」
「信心が足りないって……どうやってわかるんです?」


 そう聞くとブレーメンさんが首を振った。
 信仰心がステータス表示されるなんて世界じゃないのに、どうやって分かるんだろう。というか神の名のもとに平等とか言ってなかったか。


「ところで、お兄さん」


 唐突にオルドネス公が僕を見た。


「なんですか?」
「敬語はいいよ、お兄さん。お願いがあるんだ」


「僕にできることなら」
「あいつらの宿舎を覗いてみてほしいんだよ……お兄さんの管理者アドミニストレーターならできるでしょ?」


「そんなことができるのかね?」


 オルドネス公の言葉にジェレミー公とフェイリンさんが驚いたように僕を見た。 


「……監視カメラ?」


 オルドネス公がうなづく。
 ソヴェンスキの兵士が宿舎にしているのはもともとはアミューズメント施設か何かが入っていたビルで、それを探索者の宿に流用していたはずだ。
 たしかにあれなら中は覗ける


「連中の動向が少しでも分かるならありがたいですねぇ」
「もし連中が人数を違えているならば……交渉材料になるな」


 フェイリンさんとジェレミー公が言葉を交わす


「いいですよ、やってみましょう」
「ありがとう、お兄さん」


 オルドネス公がいつもの無邪気な顔でにっこり笑った。
 しかし、なんというか。こういう外交交渉は此処で現場がやるんじゃなくてもっと上の方で話をつけるもんじゃないんだろうか。





 会合から数日が経った。


 あの翌日、頼まれた通りにあの連中の宿舎の中を覗いてみた。
 頼まれた通り人数は分かった。確認できただけで兵士は32人。そして何人かの不信心者ニヴェリエなる子供たち。
 同時に実に胸糞悪い物も見てしまった。
 おかげで都笠さんじゃないけど、あいつらを見る度にどうもイライラしているようで、セリエたちに心配されたりしている。


 そんな中、またひと騒動が起きた。 
 かつての西武渋谷店、今はアルドさんの奴隷商というか傭兵派遣所というか、そこの前には人だかりができていた。


「すべての人は平等に神に従う者。奴隷などと言う野蛮なものは我々は認めません」
「みな、どう思う!我々が奴隷などと言う忌まわしき鎖から君たちを解放してやろうではないか。神の名の元に」


 ソヴェンスキの二人組の兵士が周りに呼びかけるように声を上げている。


「私の商売は合法です。貴方たちに言われる筋合いはない」


 ドアの前に立ちふさがっているのはアルドさんと多分護衛と思しき二人の剣士。


「奴隷という存在は正義に反する」
「我々の目の届く場所に不正義の存在を許すわけにはいかない」


「あなたも正しい教えに目覚めなさい」
「奴隷たちの鎖を解くのです」


 二人が言い募る。周りの探索者たちは困惑した顔で何かをささやき合っていた。
 奴隷がいいか悪いかといえば、勿論いいものだとは思わない。セリエがかつて受けた仕打ちを思い出しても。
 ただ、こいつらにそんなことを言う資格があるとは思えない。


「いい加減にしろ」





 思わず声が出た。
 遠巻きに見ている探索者たちが驚いたように僕を見た。


「風戸君?」


 都笠さんが何言ってんのって顔で僕の袖を引く。あの日見たことは都笠さんにも話してない


「おお、なんということか、名高き竜殺し殿が奴隷商をかばうなど」
「是非、貴方も神の道を学び正しき教えに目覚めて……」


「黙れ」


 あの光景を見た後だと、正義だなんだという口上はただたただ白々しくしか聞こえない。


「ガルフブルグじゃ奴隷を養う義務が主人にある。奴隷を地面に寝かせて、おなかを空かせたままにするような主人は主人失格だ」


 二人が顔を合わせる。


「なるほど、不信心者ニヴェリエのことを言っておられるのですね?」
「それは誤解です。我々は正しき道を歩ませるべき道を示しているのです」


「そう、その通り。あの辛苦は虐げているのではありません。正しき教えに目覚めるための試練です」
「試練を耐えれば正しき道に近づくことができます。奴隷を虐げるのと一緒にしていただきたくないですな」


「綺麗ごとを言うなよ……ここの奴隷を解放してどうする?不信心者とかいって地面に寝かせるのか?」


「あれは信仰のための試練だと申し上げているではないですか」
「正義を冒涜するような言葉は龍殺し殿でもあっても見過ごせませんよ」


 正義だの試練だの、大仰な言い草にはうんざりしてきた。


「なら……鞭であの子たちを叩いているのも正義のためか?」


 作り笑いを浮かべたそいつの表情が一瞬硬くなった。
 周りを取り巻いている探索者たちがざわつく。


「随分楽しそうだったな」
「なぜ……それを」


「僕はセリエを鞭でうったりなんて絶対しない」


 あの日監視カメラ越しに見た光景がまた思い出された。 
 スープをこぼした給仕の女の子の怯えたように跪く姿
 兵士たちにかわるがわる鞭で背中をぶたれる姿。服の襟を噛んで痛みに耐える姿。


 途中で管理者アドミニストレーターを切ったからあのあとどうなったか分からない。でも、粗目のカメラの画像越しにでもあの子の悲鳴が聞こえる気がした。
 あんなことをしている連中に正義なんて語ってもらいたくない。


「道義を説くというなら自分たちをまず顧みろ」
「退きなさい、ソヴェンスキの兵士」


 二人が沈黙したその時、不意に凛とした声が通った。
 声の方を見る。姿を現したのは初めて見る女性だった。





 何人かの従士を従えてQFRONTビルの方から歩いてきたのは赤い髪を肩くらいで切りそろえた女の人だった。


 30歳少し前くらいだろうか。貴族風の赤い長めのワンピースに、紋章入りのカーディガンのようなものを羽織っている。
 おっとりした雰囲気の顔立ちに東京の眼鏡が似合ってる。なんとなく文学少女って感じだけど。


「何者だね、君は?何の権限がある?」
「私はオルドネス大公家旗下、メイヨー家準騎士。折衝官アンジェラ・メイリン・スフェイル」


 女の人が、やわらかい雰囲気に似合わない毅然とした口調で名乗りを上げた。
 ソヴェンスキの兵士に身長でかなり負けていて見下ろされているけど、まったくひるむ様子がない


「オルドネス公がご不在の今、私の言葉はオルドネス大公の言葉と心得られたい」


 オルドネス公はいま不在なのか。まさかそれを狙ってトラブルを起こしてるんじゃないだろうな。


「ここはあくまで我々ガルフブルグの土地。あなた方は客人に過ぎない。賓客とはいえ無礼な振る舞いには相応の報いがありますよ」
「いえいえ、我々は共に塔の廃墟に挑む同胞ではないですか」


 にこやかに笑いながらそいつがいうけど、アンジェラさんが表情を変えずにその言葉を受け流した。


「同胞ですか?偽りを述べるものは同胞とは思えませんね」
「偽りとはなんです?我々は正義の名のもと、偽りなど」


「あなたたちの宿には何人の兵士がいるのでしょうね」


 言葉を遮って、アンジェラさんがズバッという。さすがに男の表情が強張った


「それは……いったい何のことを言われているのか」
「そうですか……では、いまから改めましょうか?」


 ぴしゃりとアンジェラさんが言い募る。
 ソヴェンスキの兵士が周りを見回した。
 周りを囲むようにジェレミー公の従士が立っている。スロット武器はまだ抜いていないけど、油断ない視線で臨戦態勢に近い。
 その周りには探索者たち。こちらも友好的って感じではない。


「立場をわきまえなさい」


 念を押すようにアンジェラさんが言う。
 形勢不利を察したのか、二人が大げさな感じで手を挙げた。


「非常に残念だ。このように言われるとは」
「……ですが、いつか我々の正しき教えを皆様に理解いただける日も来るでしょう」


 そいつが僕等の方をほんの一瞬にらみつける。その視線も一瞬で消えて、二人が立ち去って行った。





「助かりましたよ、スフェイル卿」


 ソヴェンスキの兵士の姿が消えたのを見て、アルドさんが疲れたっていうか、安心したような顔でアンジェラさんに頭を下げた。


「……アンジェラでいいですよ」
「いえいえ、いまや身分が違いますからね。そういうわけにはいかないでしょう」


 畏まった口調でアルドさんが言って、アンジェラさんが困ったように言葉を返した。
 何やら親し気だ。どうもこの二人は知り合いらしい。
 しかし、奴隷商と貴族ってのも不思議な組み合わせだな。でも準騎士って言ってたから、民間あがりなのかもしれない。


「龍殺し殿。あなたの情報のおかげで助かりました。それにあの毅然たる態度。流石は英雄です。お見事でした」


 アンジェラさんが礼儀正しく頭を下げてくれる。
 奴隷商をかばうなんておかしな話かもしれないけど。小さい子供を奴隷同然の扱いをしているくせに、綺麗な言葉でそれを言い繕う方がもっと気に入らない


「そちらこそ」
「強く言わなければさらに踏み込まれますからね」


 今は静かな話し口調だけど、さっきは有無を言わさない迫力があった。中々にたくましい感じだ。


「外交担当者はこうじゃなくっちゃね」


 都笠さんが感心したように言う。
 僕等のいた時代よりよほど力がモノを言う弱肉強食の世界だ。戦いもそうだけど立ち向かわないと飲み込まれるってことだろうな。話せばわかるが通ればいいけど、そう甘くはない。


「しかし、何?あいつら、そんなことしてんの?」
「この間、中をのぞいたときにね」


 都笠さんが不快げに舌打ちして、何か悪態をついた。あいつらが立ち去った方向を睨む。 


「よろしいでしょうか?」


 空気をかのように、アルドさんが声を掛けてきてくれた。


「ありがとうございます、竜殺しカザマスミト様。素晴らしい出世は聞き及んでいます。お慶び申し上げます」


 アルドさんが礼儀正しく頭を下げてくれた。
 そういえば直接話すのはかなり久しぶりだな。


「お久しぶりです、アルドさん」


「二人はお役に立っていますか?」
「ええ、とても大事です」


 役に立っている、という表現は僕的にはちょっと違う気がするけど。まあいいか。
 アルドさんが僕の後ろのセリエとユーカに目線をやった。


「そのようですね」


 冷静な顔に少し誇らしげな笑みを浮かべる。


「……良き主に巡り合わせることが出来て私も嬉しく思います」


 そう言って、もう一度アルドさんが深々と頭を下げてくれた。



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