僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
ガルフブルグにおける奴隷の事情。
晩御飯は庭園で食べることになった。
白い石で組まれた大きめの東屋みたいなのがあって、そこに20人くらいは座れるテーブルが据え付けられている。
周りは広々とした芝生に整えられた植木。夜風のひんやりした空気が気持ちいい。
本格的なガーデンパーティって感じだけど、こんな立派なのは参加したことが無い。
周りでメイドさんやウェイターさんが控えているのもあって、何やら気後れしてしまう。
「美味しいね、お兄ちゃん」
ユーカがスプーンを口に運びながら満面の笑みで言う。
確かにテーブルに並べられた料理はどれも文句なく美味しかった。
ガルフブルグの宴会でよく見かける鶏の腹に麦のペーストと野菜のみじん切りを詰め込んだものも出てきた。
甘い脂を吸った麦の粥と適度に歯応えが残る野菜。火加減が絶妙で、今まで何度か食べた中ではこれが一番おいしい。
骨が多くて取り分けるのが面倒な料理なんだけど、ウェイターさんがナイフで綺麗に切り分けて盛り付けてくれたから楽なもんだった。
カレーらしきものも出てきた。
スープカレーっぽいさらっとした感じだ。スパイスのような香味が強いけど辛みが足りない感じがする。なんというか薬膳スープっぽいな。
でも、前の塩辛いだけの物に比べると雲泥の差ってくらいに進歩している。まだ日本のものほどではないけど、だいぶ近づいて言ている感じはするな
「どうだ、俺の料理人のカレーは」
「いけますよ、なかなか」
セリエ達の席も作ってくれて、一緒に食べれたのは良かったんだけど。
ただ、食事の前には同席してている貴族たちがあからさまに不快な顔をした連中もいた。
成り上がり物、なんていう声や、奴隷を座らせるなんて、という声も聞こえた。ひそひそ話のつもるなんだろうけど、聞こえてるぞ、と言いたい。
非常にイラッと来たけど、さすがにこの場でゲストのポジションの僕が喧嘩を始めるわけにもいかない。
食事がひと段落着くと皆はそれぞれ庭の散策に出てしまって、テーブルには今は僕等とバスキア公しかいなくなってしまった。
◆
料理が美味しかった分、なんか微妙に嫌な気分になりつつワインを飲んでいると。
「ああいうのが国の上にいるのが害悪だと分かるか?」
バスキア公がワインを飲みながら口を開いた
「奴隷であってもこいつらは竜殺しで不死の討伐者だ。それを奴隷と見下す」
僕等のことは流すにしても、奴隷であっても、と言う発言も個人的にはあまりいい気分じゃないんだけど。
「ああ、そんな顔をするな。お前が奴隷を好まねぇのは知っている。だがそれが現実だ。お前らの世界とは違う」
顔に出ていたらしくバスキア公が言う。
セリエが気まずそうにうつむいて皿に盛られた料理を見ていた。
「おい、お前、セリエ・ヴェルナーディエっていったか」
セリエに声を掛けようとするより早く、バスキア公の方が口を開いた
「お前をここに座ることを許可したのはこの俺だ。お前には座る価値があると思ったからだ。お前がオドオドしてたら主の名に傷をつけるんだぞ、分かってんのか」
他の人が言ったらきれいごとと思うかもしれない、でもこの人は最側近に奴隷を置いているわけで、口だけで言ってるってことじゃないのは分かる。
「あの……ご主人様」
セリエが僕を見た。
なんとなく何をしてほしいのか分かって、手を重ねて指を絡ませる。セリエが顔を上げた
「そういえば、こいつらは不死者と戦って生き残ったんだよな」
「ええ」
「優秀じゃねぇか。スミト。こいつらを俺に譲る気はないか?」
なんというか……答えが分かって言ってんだろうなーとは思う。
「失礼ながら、バスキア大公様。私の心はすでにご主人様にお預けしてあります」
「お兄ちゃん達が側にいてくれるから戦えるんです……だから……あの」
でも、僕が言葉を選んでいるうちに、二人がバスキア公に言い返した……失礼な言い方かと一瞬思ったけど。
「いい面構えだ。そうだ。有能な人間はそうしろ。腑抜けて俯くな、顔を上げろ」
楽し気というか満足げにバスキア公が笑って僕に顔を寄せてきた
「まあ……だがお前の奴隷だから許してるってのも分かってるよな、スミト」
低い声で言われた……割とフランクな人ではあるけど、やっぱり凄みを感じるな。
◆
「そういえば、あの綾森さんはバスキア公の準騎士なんですよね?」
都笠さんが話を逸らすように言って、バスキア公が苦笑いした・
「ああ、そうだ。あいつはなかなか面白い奴だぞ。というかお前らの世界の連中は変なのばかりだな」
面白そうに笑いながらバスキア公が言う。
綾森さんは救出した人たちの様子を見に行くといって少し前に席をはずしていた。
「あいつを呼んだのはオルドネス公だ。あいつは時々、お前らの世界の連中をこっちに引き込んでいる」
バスキア公が言うけど……しれっと聞き捨てならないことを言ってるな。
ただ、オルドネス公の言葉を信じるなら、こっちに引き込めるのはこっちに来ても構わないと思っている人だけらしい。
ラティナさんに至っては直接スカウトしたに近い状況だし。無理に引き込むってことはしてないんだろう。
綾森さんもさっき話した感じ、戻りたいと思っている感じはあまり無くてこちらに馴染んでいた。なにか思うところがあるのかもしれない。
「前はオルドネス家が優先だったが、流石にそれは不公平ってことになってな。
今はこっちに呼んだトウキョウの連中は俺たち四大公家も含めてそれぞれ条件を提示して仕官先を選ばせることになってる。で、あいつは俺を選んだわけだ」
「ドラフトみたいね……逆指名って感じかな」
都笠さんがワインを飲みながら言う。たしかにそうかもしれない。貴重な人材枠ってことか。
「なかなか優秀な奴だったし、スロット能力も役に立つからな。すぐに準騎士にして領土も与えたんだが。あいつが望んだ領土は辺境の山沿いの土地だった。何を考えてるんだか分からなかったんだがな」
バスキア公がそう言ってワインを一口飲んだ。
ちょっと間が出来て、少し離れたところから誰かの話声が聞こえてくる。
「……あいつは俺がくれてやった支度金と新市街の屋敷をすべて金に換えて、あいつの領地のすべての奴隷を買い取って解放した」
「は?」
「最近は何やら領地の方に詰めて改革とやらをやってたらしいが。奴隷狩りが出たのを知ってそれを追いかけてたらしい。忙しい奴だ。
しかし、貴族の地位を蹴っ飛ばしたお前もだが、お前らの国の連中は金に執着がないやつばかりなのか?」
……大きな屋敷で可愛いメイドを侍らせて住んでいるとか言う話は何処へ行った?
「なんか豪華な屋敷に住んでる、とか言う話だったんですけど」
「パレアにいるときは、旧市街寄りの宿にあいつの奴隷と住んでいるらしいな。また屋敷をくれてやってもいいんだが、また売られちゃかなわねぇ……かといって妙なところに住まれても困るんだよ。俺の準騎士が」
そういうとバスキア公がしょうがねぇなって感じの顔で首を振った。
「しかし、あいつはなんというのか……よくわからん奴だ。報告や討議の時は明瞭に話すのに、自分のことは妙におかしなことを言いたがる時がある」
「悪ぶりたいのかしらね……なんかかわいいじゃん。ちょっと見直したわ」
都笠さんがなにやらにやにやしながら言う。
男性としては照れ隠しをしたいんだと思うんだけど。
「アスマも奴隷が嫌いらしいが……お前らの国じゃ、奴隷ってのは余程の悪だったらしいな」
「ええ。少なくともいい風には見られないですね」
色々と歴史的な背景もあって、奴隷をポジティブな意味でとらえる人はあまりいないと思う。
「だがな、考えても見ろ。借財をして払えなくなったらそいつは最後は自分で責任を取るしか無ぇ。でないと貸した側は丸損になっちまうだろ?」
おつきの人が空いた皿にカットした肉を盛り付けた。その肉を食べながらバスキア公が言う。
「戦争の捕虜はどうする?帰国させたらまた俺たちの敵に回っちまう。かといって全員処刑するか?それよりはまだマシだろ」
一理あるような気はするけど……やっぱりなんというか僕等の感覚だと前近代的というか中世的な感じではある。
「お前らの国は知らねぇが、ガルフブルグ、いや、このレムリオ大陸で奴隷は無くならねぇだろうな。逆にお前らの世界はどうやってその辺を克服したのか興味があるぜ」
「でも、ソヴェンスキには居ないって言ってましたよ、あのヴェロニカとか言うのが」
そういうと、バスキア公がはっきりと軽蔑するような顔をした
「物は言いようだな……まあ確かにあの国に奴隷は居ねえよ」
吐き捨てるようにバスキア公が言う。なにかあるんだろうか。
「奴隷は無くせねぇだろうが、有能な奴隷もいる。逆にクソみたいなぼんくら貴族もいる。ボンクラ貴族よりは有能な奴隷の方が国にとって有益だ」
まあこの人は正にそれを実践している。最側近らしいジェラールさんは奴隷出身らしいし。
「正直言って俺はあいつが何を考えているのかはよく分からねぇ。なんであんなことをしたのかもな。あいつにゃ何の得もないはずだが」
バスキア公が首を振って言う。
……綾森さんは奴隷をなくすことを目指していたりするんだろうか。
「だが、あいつは有能だ。それに、貴族のしがらみがねえから、家だのなんだのに縛られず俺に仕えてくれるのもいい」
何やらしみじみとした雰囲気を感じる。
貴族の一番上といっていい人のはずだけど、この人なりに色々苦労があるのかもな、などと思ってしまった。
「そしてあいつは俺とガルフブルグのために働くことを誓っている。それが俺にとっては一番重要なことだ」
この人は奴隷は現実的に無くせないと思っているけど。
評価軸は奴隷だの日本出身だのとかいうのにかかわりなく、国のために役に立つかどうか、何だなろうな……僕等も裏切ったら容赦なく消されそうだ。
「もちろんお前等にもそれを期待しているぜ」
口調は軽いけど、目は結構真面目だった。
白い石で組まれた大きめの東屋みたいなのがあって、そこに20人くらいは座れるテーブルが据え付けられている。
周りは広々とした芝生に整えられた植木。夜風のひんやりした空気が気持ちいい。
本格的なガーデンパーティって感じだけど、こんな立派なのは参加したことが無い。
周りでメイドさんやウェイターさんが控えているのもあって、何やら気後れしてしまう。
「美味しいね、お兄ちゃん」
ユーカがスプーンを口に運びながら満面の笑みで言う。
確かにテーブルに並べられた料理はどれも文句なく美味しかった。
ガルフブルグの宴会でよく見かける鶏の腹に麦のペーストと野菜のみじん切りを詰め込んだものも出てきた。
甘い脂を吸った麦の粥と適度に歯応えが残る野菜。火加減が絶妙で、今まで何度か食べた中ではこれが一番おいしい。
骨が多くて取り分けるのが面倒な料理なんだけど、ウェイターさんがナイフで綺麗に切り分けて盛り付けてくれたから楽なもんだった。
カレーらしきものも出てきた。
スープカレーっぽいさらっとした感じだ。スパイスのような香味が強いけど辛みが足りない感じがする。なんというか薬膳スープっぽいな。
でも、前の塩辛いだけの物に比べると雲泥の差ってくらいに進歩している。まだ日本のものほどではないけど、だいぶ近づいて言ている感じはするな
「どうだ、俺の料理人のカレーは」
「いけますよ、なかなか」
セリエ達の席も作ってくれて、一緒に食べれたのは良かったんだけど。
ただ、食事の前には同席してている貴族たちがあからさまに不快な顔をした連中もいた。
成り上がり物、なんていう声や、奴隷を座らせるなんて、という声も聞こえた。ひそひそ話のつもるなんだろうけど、聞こえてるぞ、と言いたい。
非常にイラッと来たけど、さすがにこの場でゲストのポジションの僕が喧嘩を始めるわけにもいかない。
食事がひと段落着くと皆はそれぞれ庭の散策に出てしまって、テーブルには今は僕等とバスキア公しかいなくなってしまった。
◆
料理が美味しかった分、なんか微妙に嫌な気分になりつつワインを飲んでいると。
「ああいうのが国の上にいるのが害悪だと分かるか?」
バスキア公がワインを飲みながら口を開いた
「奴隷であってもこいつらは竜殺しで不死の討伐者だ。それを奴隷と見下す」
僕等のことは流すにしても、奴隷であっても、と言う発言も個人的にはあまりいい気分じゃないんだけど。
「ああ、そんな顔をするな。お前が奴隷を好まねぇのは知っている。だがそれが現実だ。お前らの世界とは違う」
顔に出ていたらしくバスキア公が言う。
セリエが気まずそうにうつむいて皿に盛られた料理を見ていた。
「おい、お前、セリエ・ヴェルナーディエっていったか」
セリエに声を掛けようとするより早く、バスキア公の方が口を開いた
「お前をここに座ることを許可したのはこの俺だ。お前には座る価値があると思ったからだ。お前がオドオドしてたら主の名に傷をつけるんだぞ、分かってんのか」
他の人が言ったらきれいごとと思うかもしれない、でもこの人は最側近に奴隷を置いているわけで、口だけで言ってるってことじゃないのは分かる。
「あの……ご主人様」
セリエが僕を見た。
なんとなく何をしてほしいのか分かって、手を重ねて指を絡ませる。セリエが顔を上げた
「そういえば、こいつらは不死者と戦って生き残ったんだよな」
「ええ」
「優秀じゃねぇか。スミト。こいつらを俺に譲る気はないか?」
なんというか……答えが分かって言ってんだろうなーとは思う。
「失礼ながら、バスキア大公様。私の心はすでにご主人様にお預けしてあります」
「お兄ちゃん達が側にいてくれるから戦えるんです……だから……あの」
でも、僕が言葉を選んでいるうちに、二人がバスキア公に言い返した……失礼な言い方かと一瞬思ったけど。
「いい面構えだ。そうだ。有能な人間はそうしろ。腑抜けて俯くな、顔を上げろ」
楽し気というか満足げにバスキア公が笑って僕に顔を寄せてきた
「まあ……だがお前の奴隷だから許してるってのも分かってるよな、スミト」
低い声で言われた……割とフランクな人ではあるけど、やっぱり凄みを感じるな。
◆
「そういえば、あの綾森さんはバスキア公の準騎士なんですよね?」
都笠さんが話を逸らすように言って、バスキア公が苦笑いした・
「ああ、そうだ。あいつはなかなか面白い奴だぞ。というかお前らの世界の連中は変なのばかりだな」
面白そうに笑いながらバスキア公が言う。
綾森さんは救出した人たちの様子を見に行くといって少し前に席をはずしていた。
「あいつを呼んだのはオルドネス公だ。あいつは時々、お前らの世界の連中をこっちに引き込んでいる」
バスキア公が言うけど……しれっと聞き捨てならないことを言ってるな。
ただ、オルドネス公の言葉を信じるなら、こっちに引き込めるのはこっちに来ても構わないと思っている人だけらしい。
ラティナさんに至っては直接スカウトしたに近い状況だし。無理に引き込むってことはしてないんだろう。
綾森さんもさっき話した感じ、戻りたいと思っている感じはあまり無くてこちらに馴染んでいた。なにか思うところがあるのかもしれない。
「前はオルドネス家が優先だったが、流石にそれは不公平ってことになってな。
今はこっちに呼んだトウキョウの連中は俺たち四大公家も含めてそれぞれ条件を提示して仕官先を選ばせることになってる。で、あいつは俺を選んだわけだ」
「ドラフトみたいね……逆指名って感じかな」
都笠さんがワインを飲みながら言う。たしかにそうかもしれない。貴重な人材枠ってことか。
「なかなか優秀な奴だったし、スロット能力も役に立つからな。すぐに準騎士にして領土も与えたんだが。あいつが望んだ領土は辺境の山沿いの土地だった。何を考えてるんだか分からなかったんだがな」
バスキア公がそう言ってワインを一口飲んだ。
ちょっと間が出来て、少し離れたところから誰かの話声が聞こえてくる。
「……あいつは俺がくれてやった支度金と新市街の屋敷をすべて金に換えて、あいつの領地のすべての奴隷を買い取って解放した」
「は?」
「最近は何やら領地の方に詰めて改革とやらをやってたらしいが。奴隷狩りが出たのを知ってそれを追いかけてたらしい。忙しい奴だ。
しかし、貴族の地位を蹴っ飛ばしたお前もだが、お前らの国の連中は金に執着がないやつばかりなのか?」
……大きな屋敷で可愛いメイドを侍らせて住んでいるとか言う話は何処へ行った?
「なんか豪華な屋敷に住んでる、とか言う話だったんですけど」
「パレアにいるときは、旧市街寄りの宿にあいつの奴隷と住んでいるらしいな。また屋敷をくれてやってもいいんだが、また売られちゃかなわねぇ……かといって妙なところに住まれても困るんだよ。俺の準騎士が」
そういうとバスキア公がしょうがねぇなって感じの顔で首を振った。
「しかし、あいつはなんというのか……よくわからん奴だ。報告や討議の時は明瞭に話すのに、自分のことは妙におかしなことを言いたがる時がある」
「悪ぶりたいのかしらね……なんかかわいいじゃん。ちょっと見直したわ」
都笠さんがなにやらにやにやしながら言う。
男性としては照れ隠しをしたいんだと思うんだけど。
「アスマも奴隷が嫌いらしいが……お前らの国じゃ、奴隷ってのは余程の悪だったらしいな」
「ええ。少なくともいい風には見られないですね」
色々と歴史的な背景もあって、奴隷をポジティブな意味でとらえる人はあまりいないと思う。
「だがな、考えても見ろ。借財をして払えなくなったらそいつは最後は自分で責任を取るしか無ぇ。でないと貸した側は丸損になっちまうだろ?」
おつきの人が空いた皿にカットした肉を盛り付けた。その肉を食べながらバスキア公が言う。
「戦争の捕虜はどうする?帰国させたらまた俺たちの敵に回っちまう。かといって全員処刑するか?それよりはまだマシだろ」
一理あるような気はするけど……やっぱりなんというか僕等の感覚だと前近代的というか中世的な感じではある。
「お前らの国は知らねぇが、ガルフブルグ、いや、このレムリオ大陸で奴隷は無くならねぇだろうな。逆にお前らの世界はどうやってその辺を克服したのか興味があるぜ」
「でも、ソヴェンスキには居ないって言ってましたよ、あのヴェロニカとか言うのが」
そういうと、バスキア公がはっきりと軽蔑するような顔をした
「物は言いようだな……まあ確かにあの国に奴隷は居ねえよ」
吐き捨てるようにバスキア公が言う。なにかあるんだろうか。
「奴隷は無くせねぇだろうが、有能な奴隷もいる。逆にクソみたいなぼんくら貴族もいる。ボンクラ貴族よりは有能な奴隷の方が国にとって有益だ」
まあこの人は正にそれを実践している。最側近らしいジェラールさんは奴隷出身らしいし。
「正直言って俺はあいつが何を考えているのかはよく分からねぇ。なんであんなことをしたのかもな。あいつにゃ何の得もないはずだが」
バスキア公が首を振って言う。
……綾森さんは奴隷をなくすことを目指していたりするんだろうか。
「だが、あいつは有能だ。それに、貴族のしがらみがねえから、家だのなんだのに縛られず俺に仕えてくれるのもいい」
何やらしみじみとした雰囲気を感じる。
貴族の一番上といっていい人のはずだけど、この人なりに色々苦労があるのかもな、などと思ってしまった。
「そしてあいつは俺とガルフブルグのために働くことを誓っている。それが俺にとっては一番重要なことだ」
この人は奴隷は現実的に無くせないと思っているけど。
評価軸は奴隷だの日本出身だのとかいうのにかかわりなく、国のために役に立つかどうか、何だなろうな……僕等も裏切ったら容赦なく消されそうだ。
「もちろんお前等にもそれを期待しているぜ」
口調は軽いけど、目は結構真面目だった。
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