僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
ありがとうのために
「スズちゃん、助けて!」
あの時の濁流、喉に入ってくる泥水と体に当たる石ころと水圧は今も思い出せる。流されて行ってしまった友達の声も。
大雨で氾濫した川に流されそうになったけど、あたしは辛うじて助かった。ただ運がいいだけだった。
避難所の体育館でその子のお母さんにあった。
「ねえ、あの子のこと、しらない?」
憔悴しきった顔で聞いてくるその人にどう答えようか迷った。
でも答えないといけないとその時は思った。だってそうしないと、きっとこの人はずっと待ち続けるんだ。自分の大事な子供がいつかただいまって言ってひょっこり帰ってくることを。
「流されました……あたしの目の前で」
あたしの言葉を聞いて、その人が打ちのめされたような顔をして、口元を抑えて涙をこぼした。
「ごめんなさい……何もできなくて」
「……最後まで頑張ってくれたんだよね」
ありがとう、と言う友達のお母さんの虚ろな目に耐えられなくなって逃げるように帰った。
そのまま、あの町には行っていない。結局、友達は見つからなかった。あのときどう答えればよかったんだろう。今も時々自問する。
そして……あんなありがとうはもう聞きたくない。
◆
生まれは東京だけど、あまり思い出はない。むしろ子供のころの思い出は東北のお母さんのお母さん、というかお祖母ちゃんの家でのことの方に集中している。
小さいころからよく遊びに行った。
川に近い山間の小さな村。広めの緑の田んぼの中に建つ大きな家は木に囲まれていて、そこでよくかくれんぼをした。
東京のマンションよりも広いくらいの畳敷きの座敷はいつも外から風が吹き込んでいて、その座敷に誇らしげに飾られたおじいちゃんの海自の制服姿をの写真を何度も見た。
「あたしをねぇ、守ってくれる勇敢な人だったのよぉ」
おばあちゃんは嬉しそうによくそう教えてくれた。
黒い帽子に金色の徽章、黒い詰め襟を着込んだお爺ちゃんは割と早く亡くなってしまっていて、あたしはあったことはなかったけど。
おばあちゃんはいつも言っていた。
「おじいちゃんはねぇ、いつか帰ってくるんじゃないかって思ってるのよねぇ」
お爺ちゃんは海自の任務中に海に落ちて亡くなった、ということになっている。遺体はあがあらなかったらしい。そして……おばあちゃんは結局おじいちゃんを待ち続けた。
写真の顔はちょっと帽子の陰で表情は分かりにくいけど、とても格好良くて、いつかあたしもああいう風に誰かを守れるような強い人になりたかった。
そのあと、テレビで災害救助とかをする自衛隊の映像を見てその格好良さにしびれて、いつか自衛隊に入ってあたしもあんな風に人を助けるんだと思うようになった。
◆
あたしの人生の計画では、高校卒業後に即自衛隊に入るつもりだった。でも、さすがにそれは親と先生に止められた。
大学だけは出てほしい。それからでも遅くはない。お祖母ちゃんにも諭されたのが決め手になって、方向転換した。
そこそこに勉強もできたから、都内の公立大学にきわどい所で合格できた。
入ってみたら大学は楽しくて、台湾に留学したりしていろんな経験ができた。でも、ちょっと横道にそれすぎて第一志望だった海自に入れなかったのは迂闊だったけど。
楽しい大学生活も終わって陸上自衛隊へ入隊も決まり、お祖母ちゃんに会いに行った休み。
折あしく降ってきた大雨は予想を超えたレベルで。
滝のように降った雨が溢れさせた川によって、自衛隊に入ることを喜んでくれたおばあちゃんも、なんだかんだで最後は祝福してくれた両親も、思い出のこもったお祖母ちゃんの家も、冷静にあたしを諭してくれた古くからの友人も。すべて流されてしまった。
自衛隊で鍛えて、もう二度とあの手を離さない様にしようと思った。
◆
入隊して待っていたのは訓練の日々だった。
訓練自体はとても大変だったけどそれ自体は頑張れた。でもそれが1年になり、2年になり。
……当たり前の話だ。どんな仕事だって下積みはある。華々しく誰かを助けて活躍する、なんてことはありえない。
昔の首相はこう訓示したんだそうだ。
自衛隊が国民から歓迎され、ちゃやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。
 言葉を変えれば君達が日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ。堪えて貰いたい。
有事に備えるためにはたゆまぬ訓練は必要だ、ということは勿論わかっていた。先輩にも何度も言われた。
あたしたちが日陰者で必要とされないときの方がいい……それはとても分かる。でも。なんのためにあたしは居るんだろう。
誰かを守るための組織にいる誇りと、訓練に明け暮れて何もすることが無いジレンマ。
この奇妙な誰もいない東京に引き込まれたのは、目標を見失いつつあったそんな時。
◆
この世界で風戸君と出会い、セリエやユーカと出会った。
誰も居なくなった箱庭のような不思議な東京。六本木でワイバーンと戦い、貴族の子供を助けた。そして、ガルフブルグでは貴族と戦ってユーカのお母さんを助けた。
あの日のことをあたしは忘れないだろう。
ドゥーロン川にかかった長い橋を渡ってサンヴェルナールの夕焼け亭に戻った時のこと。幸せそうに寄り添うユーカとユーカのお母さん。
ヴァレンさんと握手して、ユーカとセリエを抱きしめあって、皆で飲んだワインはこれまで飲んだどんなものより美味しかった。
心の底から満たされるってことはこう言う事なんだ。
そして、ようやくわかった。これがあたしのやりたかったことなんだ。自衛隊のことも、その一員であることも誇りに思っている。
でも、我が儘かもしれないけど、欲張りかもしれないけど。
助けた誰かと握手して、ハグして、ありがとうと言われたい。組織の力じゃなくて、自分自身の手で誰かを助けたい。
自分の手で。そう思うことがあたしの力になってくれる。
食事、トイレ、お風呂、娯楽。
何をするにも色々と不自由なことが多くて、快適さと言う意味では東京に比べるべくもない世界だけど。この世界にはあたしが出来ること、やりたかったことが有る。
だから風戸君が東京に帰るかどうかあたしに聞いてきたときも迷いはなかった。
◆
サンシャインビルの30階にはレブナントはいなかった。ノエルさんとラヴルードさんが廊下や部屋を見回って誰もいないかを調べてくれる。
30階のオフィスは時間の流れに取り残されたままのように整然と並ぶ机とパソコン、書類の棚が残されていた。
ガラスにはブラインドが下りていて、格子状の光がゆらゆらと部屋に差し込んできている。
ブラインドをあけると、ガラスの向こうには聳え立つサンシャインシティホテルと、その向こうに広がる東京の街並みが見えた。こんな高いところから見るのは久しぶりだ。
スイートルームの大きな窓が見える。セリエの使い魔の偵察によればあの部屋にいるらしい。ここからなら射線が通る。
ガラスに穴をあけて二脚を広げて銃をセットした。ノエルさんが渡してくれた12.7ミリNATO弾を込める。
伏せ撃ちの姿勢でスコープを覗き込んだその時、ふと風戸君のことを思った。
風戸君は変な奴だ。
よくこの世界の人にそういう風に言われてるみたいだけど、あたしから見ても相当変わってる。
このなんかゲームみたいな世界の探索者の色に染まって戦士になっているかというと、そういうわけじゃない。
あたしは風戸君たちとは別行動でちょっとした仕事を受けて別の探索者と護衛の仕事とかもしたこともある。
でも、アーロンさんやリチャード、それに今近くにいてくれるノエルさんやラヴルートさん、それ以外のいろんな探索者とも彼の雰囲気は違う。
騎士道精神を発揮して正義のために悪と戦うってタイプでもない。
あたしみたいに自衛隊とかで戦う心構えの訓練を受けたわけでもない。
そこまで長く居たわけじゃないから偉そうなことは言えないけど、それでも自衛隊にいれば訓練で有事には戦うことを嫌でも意識させられる。
でも彼にはそんなものは縁がないはずだ。
そこそこ長くこの世界にいるから、もちろん普通の日本人とは違う感じもある。でも、頑なにジャケットにコートの姿を変えないってのもあるけど、やっぱり根は普通の日本人のサラリーマンだ。
……彼のあの気持ちはどこから湧いているんだろう。
◆
スコープの照準の向こうのスイートルームで、ダナエ姫と風戸君、ユーカがヴァンパイアと戦い始めたのが分かった……ここでいるのがもどかしい。
スコープの射線に時々ヴァンパイアが入ってくるけど。霧のように姿が消えてはまた現れるのを繰り返している。あんなふうに動くヴァンパイアをとらえるのは難しい。
それに、赤い霧のようなものが立ち込めていて視界が悪い。
焦って引き金を引きそうになるのを辛うじてこらえて、引き金から指を離した。
迂闊に撃って風戸君達まで撃ち抜いてしまっては意味がない。
それにそもそもあたしは狙撃の訓練なんて殆どしたことはないから動く目標に当てられるかはかなり怪しい。
しかも弾は一発しかない。やり直しは効かない。
伝説的なスナイパーの本を読んだことを思い出す。確実に当てれる機を待て。待つのも狙撃手の仕事。
深呼吸してもう一度スコープを覗く。後ろにはノエルさんとラヴルートさんが息を詰めて立っているのが分かった。
風戸君がヴァンパイアと一歩も引かずに切りあっているところにラティナちゃんが加勢したの見える。
ヴァンパイアが火とダナエ姫のサーベルを避けるように後退してきた……チャンスは近い。
赤い火が閃いて、それに追い立てられるように黒いマントを纏ったヴァンパイアが窓際によって来た。爪の先一枚ほど銃身を動かして照準を微調整する。
風戸君の魔法らしきものが当たった。ヴァンパイアの背中が窓のすぐそばまで吹き飛ばされてくる。
息を軽く吸って止めた。すっと音が周りから引いて行って、丸いスコープの中の景色だけが世界のすべてに見える。
細く息を吐きだしながら引き金に指をかけた。硬い金属の感触が指の腹を押し返してくる。
頭を狙うのはハリウッド映画だけ。
狙撃手が狙うのは質量の中心、つまり胴体。スコープのレティクルにヴァンパイアの背中をとらえる。
彼を突き動かすものがなんなのか……この戦いが終わったら聞いてみよう。
あの時の濁流、喉に入ってくる泥水と体に当たる石ころと水圧は今も思い出せる。流されて行ってしまった友達の声も。
大雨で氾濫した川に流されそうになったけど、あたしは辛うじて助かった。ただ運がいいだけだった。
避難所の体育館でその子のお母さんにあった。
「ねえ、あの子のこと、しらない?」
憔悴しきった顔で聞いてくるその人にどう答えようか迷った。
でも答えないといけないとその時は思った。だってそうしないと、きっとこの人はずっと待ち続けるんだ。自分の大事な子供がいつかただいまって言ってひょっこり帰ってくることを。
「流されました……あたしの目の前で」
あたしの言葉を聞いて、その人が打ちのめされたような顔をして、口元を抑えて涙をこぼした。
「ごめんなさい……何もできなくて」
「……最後まで頑張ってくれたんだよね」
ありがとう、と言う友達のお母さんの虚ろな目に耐えられなくなって逃げるように帰った。
そのまま、あの町には行っていない。結局、友達は見つからなかった。あのときどう答えればよかったんだろう。今も時々自問する。
そして……あんなありがとうはもう聞きたくない。
◆
生まれは東京だけど、あまり思い出はない。むしろ子供のころの思い出は東北のお母さんのお母さん、というかお祖母ちゃんの家でのことの方に集中している。
小さいころからよく遊びに行った。
川に近い山間の小さな村。広めの緑の田んぼの中に建つ大きな家は木に囲まれていて、そこでよくかくれんぼをした。
東京のマンションよりも広いくらいの畳敷きの座敷はいつも外から風が吹き込んでいて、その座敷に誇らしげに飾られたおじいちゃんの海自の制服姿をの写真を何度も見た。
「あたしをねぇ、守ってくれる勇敢な人だったのよぉ」
おばあちゃんは嬉しそうによくそう教えてくれた。
黒い帽子に金色の徽章、黒い詰め襟を着込んだお爺ちゃんは割と早く亡くなってしまっていて、あたしはあったことはなかったけど。
おばあちゃんはいつも言っていた。
「おじいちゃんはねぇ、いつか帰ってくるんじゃないかって思ってるのよねぇ」
お爺ちゃんは海自の任務中に海に落ちて亡くなった、ということになっている。遺体はあがあらなかったらしい。そして……おばあちゃんは結局おじいちゃんを待ち続けた。
写真の顔はちょっと帽子の陰で表情は分かりにくいけど、とても格好良くて、いつかあたしもああいう風に誰かを守れるような強い人になりたかった。
そのあと、テレビで災害救助とかをする自衛隊の映像を見てその格好良さにしびれて、いつか自衛隊に入ってあたしもあんな風に人を助けるんだと思うようになった。
◆
あたしの人生の計画では、高校卒業後に即自衛隊に入るつもりだった。でも、さすがにそれは親と先生に止められた。
大学だけは出てほしい。それからでも遅くはない。お祖母ちゃんにも諭されたのが決め手になって、方向転換した。
そこそこに勉強もできたから、都内の公立大学にきわどい所で合格できた。
入ってみたら大学は楽しくて、台湾に留学したりしていろんな経験ができた。でも、ちょっと横道にそれすぎて第一志望だった海自に入れなかったのは迂闊だったけど。
楽しい大学生活も終わって陸上自衛隊へ入隊も決まり、お祖母ちゃんに会いに行った休み。
折あしく降ってきた大雨は予想を超えたレベルで。
滝のように降った雨が溢れさせた川によって、自衛隊に入ることを喜んでくれたおばあちゃんも、なんだかんだで最後は祝福してくれた両親も、思い出のこもったお祖母ちゃんの家も、冷静にあたしを諭してくれた古くからの友人も。すべて流されてしまった。
自衛隊で鍛えて、もう二度とあの手を離さない様にしようと思った。
◆
入隊して待っていたのは訓練の日々だった。
訓練自体はとても大変だったけどそれ自体は頑張れた。でもそれが1年になり、2年になり。
……当たり前の話だ。どんな仕事だって下積みはある。華々しく誰かを助けて活躍する、なんてことはありえない。
昔の首相はこう訓示したんだそうだ。
自衛隊が国民から歓迎され、ちゃやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。
 言葉を変えれば君達が日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ。堪えて貰いたい。
有事に備えるためにはたゆまぬ訓練は必要だ、ということは勿論わかっていた。先輩にも何度も言われた。
あたしたちが日陰者で必要とされないときの方がいい……それはとても分かる。でも。なんのためにあたしは居るんだろう。
誰かを守るための組織にいる誇りと、訓練に明け暮れて何もすることが無いジレンマ。
この奇妙な誰もいない東京に引き込まれたのは、目標を見失いつつあったそんな時。
◆
この世界で風戸君と出会い、セリエやユーカと出会った。
誰も居なくなった箱庭のような不思議な東京。六本木でワイバーンと戦い、貴族の子供を助けた。そして、ガルフブルグでは貴族と戦ってユーカのお母さんを助けた。
あの日のことをあたしは忘れないだろう。
ドゥーロン川にかかった長い橋を渡ってサンヴェルナールの夕焼け亭に戻った時のこと。幸せそうに寄り添うユーカとユーカのお母さん。
ヴァレンさんと握手して、ユーカとセリエを抱きしめあって、皆で飲んだワインはこれまで飲んだどんなものより美味しかった。
心の底から満たされるってことはこう言う事なんだ。
そして、ようやくわかった。これがあたしのやりたかったことなんだ。自衛隊のことも、その一員であることも誇りに思っている。
でも、我が儘かもしれないけど、欲張りかもしれないけど。
助けた誰かと握手して、ハグして、ありがとうと言われたい。組織の力じゃなくて、自分自身の手で誰かを助けたい。
自分の手で。そう思うことがあたしの力になってくれる。
食事、トイレ、お風呂、娯楽。
何をするにも色々と不自由なことが多くて、快適さと言う意味では東京に比べるべくもない世界だけど。この世界にはあたしが出来ること、やりたかったことが有る。
だから風戸君が東京に帰るかどうかあたしに聞いてきたときも迷いはなかった。
◆
サンシャインビルの30階にはレブナントはいなかった。ノエルさんとラヴルードさんが廊下や部屋を見回って誰もいないかを調べてくれる。
30階のオフィスは時間の流れに取り残されたままのように整然と並ぶ机とパソコン、書類の棚が残されていた。
ガラスにはブラインドが下りていて、格子状の光がゆらゆらと部屋に差し込んできている。
ブラインドをあけると、ガラスの向こうには聳え立つサンシャインシティホテルと、その向こうに広がる東京の街並みが見えた。こんな高いところから見るのは久しぶりだ。
スイートルームの大きな窓が見える。セリエの使い魔の偵察によればあの部屋にいるらしい。ここからなら射線が通る。
ガラスに穴をあけて二脚を広げて銃をセットした。ノエルさんが渡してくれた12.7ミリNATO弾を込める。
伏せ撃ちの姿勢でスコープを覗き込んだその時、ふと風戸君のことを思った。
風戸君は変な奴だ。
よくこの世界の人にそういう風に言われてるみたいだけど、あたしから見ても相当変わってる。
このなんかゲームみたいな世界の探索者の色に染まって戦士になっているかというと、そういうわけじゃない。
あたしは風戸君たちとは別行動でちょっとした仕事を受けて別の探索者と護衛の仕事とかもしたこともある。
でも、アーロンさんやリチャード、それに今近くにいてくれるノエルさんやラヴルートさん、それ以外のいろんな探索者とも彼の雰囲気は違う。
騎士道精神を発揮して正義のために悪と戦うってタイプでもない。
あたしみたいに自衛隊とかで戦う心構えの訓練を受けたわけでもない。
そこまで長く居たわけじゃないから偉そうなことは言えないけど、それでも自衛隊にいれば訓練で有事には戦うことを嫌でも意識させられる。
でも彼にはそんなものは縁がないはずだ。
そこそこ長くこの世界にいるから、もちろん普通の日本人とは違う感じもある。でも、頑なにジャケットにコートの姿を変えないってのもあるけど、やっぱり根は普通の日本人のサラリーマンだ。
……彼のあの気持ちはどこから湧いているんだろう。
◆
スコープの照準の向こうのスイートルームで、ダナエ姫と風戸君、ユーカがヴァンパイアと戦い始めたのが分かった……ここでいるのがもどかしい。
スコープの射線に時々ヴァンパイアが入ってくるけど。霧のように姿が消えてはまた現れるのを繰り返している。あんなふうに動くヴァンパイアをとらえるのは難しい。
それに、赤い霧のようなものが立ち込めていて視界が悪い。
焦って引き金を引きそうになるのを辛うじてこらえて、引き金から指を離した。
迂闊に撃って風戸君達まで撃ち抜いてしまっては意味がない。
それにそもそもあたしは狙撃の訓練なんて殆どしたことはないから動く目標に当てられるかはかなり怪しい。
しかも弾は一発しかない。やり直しは効かない。
伝説的なスナイパーの本を読んだことを思い出す。確実に当てれる機を待て。待つのも狙撃手の仕事。
深呼吸してもう一度スコープを覗く。後ろにはノエルさんとラヴルートさんが息を詰めて立っているのが分かった。
風戸君がヴァンパイアと一歩も引かずに切りあっているところにラティナちゃんが加勢したの見える。
ヴァンパイアが火とダナエ姫のサーベルを避けるように後退してきた……チャンスは近い。
赤い火が閃いて、それに追い立てられるように黒いマントを纏ったヴァンパイアが窓際によって来た。爪の先一枚ほど銃身を動かして照準を微調整する。
風戸君の魔法らしきものが当たった。ヴァンパイアの背中が窓のすぐそばまで吹き飛ばされてくる。
息を軽く吸って止めた。すっと音が周りから引いて行って、丸いスコープの中の景色だけが世界のすべてに見える。
細く息を吐きだしながら引き金に指をかけた。硬い金属の感触が指の腹を押し返してくる。
頭を狙うのはハリウッド映画だけ。
狙撃手が狙うのは質量の中心、つまり胴体。スコープのレティクルにヴァンパイアの背中をとらえる。
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