僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
望まない再会を強いられる。
走っていくと。T字の交差点に籐司朗さんが立っていた。大太刀を立てるように構えている。夕暮れの太陽が長い影を作っていた。
籐司朗さんの周りには何人かの従士が倒れていて、血が灰色のコンクリートを染めている。その周りをそれぞれのスロット武器を持った従士たちが遠巻きに取り囲んでいた。
籐司朗さんは、前と同じ和装で手にはスロット武器の長い太刀を持っていた。
だけど、肌の色が違う。前に見た腕と同じ、どす黒い色が体中を染めていて、目が金色に輝いている。
セリエがその姿を見て息をのんだ。
「……下がって、みんな」
レッサーヴァンパイアになるとどうなるのか、僕にはわからない。でもあの強さがそのままだとしたら……並みのスロット武器もちじゃ対抗できないだろう。僕にできるかはわからないけど。
都笠さんがハンドガンを籐司朗に向ける。ぎりっと、歯をかみしめるような音が聞こえた。
ユーカもフランベルジュを構えるけど……どうすればいいのか分からない、と言う顔で僕を見る。
「スミト君……」
わずかな間があって、籐司朗さんが以前のような口調で声をかけてきた。
「私を……切るのかね?」
構えを解くかのように、空を突くように立てられていた大太刀がすっとおろされた。
もしかして……まだ理性が残っていたりするのか。
と思った瞬間、切っ先が目の前にあった。
反応できたのは奇跡に近かったと思う。すんでの所で顔を逸らす。頬に熱い感触が走った。
何事もなかったかのように籐司朗さんが大太刀をを立てた姿勢に戻っていた。
「お兄ちゃん!」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ」
辛うじて、という言葉は飲み込んだ。セリエの方を向かず、目を切らずに籐司朗さんを見る。
顔を逸らすのが遅れていたら……あの大太刀で頭を刺し貫かれていただろう。
「よくかわしたな……見事」
表情を変えずに籐司朗さんが言う。大太刀を下ろしたのはこっちに油断させるためだったんだろうか。
恐ろしいのは、遅く見える、とかそういう問題じゃなく。突くときの予備動作が全然見えなかったことだ。気付いた瞬間にはもう切っ先が目の前にあった。
ただ動きが早い、というのとは全然違う。これが古流の技なのか。
籐司朗さんの、ガラス玉のような感情を感じさせない目が僕を見た。
その目を見た時、わかった。根拠はないんだけど……もう何も手を施すことはできない。どうしようもないだ、と。
不意に胸の奥に重たい感情を感じた。怒りとかそういうのじゃない。
強いて言うなら……ムカつく上司を殴りたいけど殴れない、そんなどうしようもなさ、それが近かった。きっと誰も居なければ地面か手近な物を蹴飛ばして叫んで、悪態をついていただろう。
……やるしかないのか。
銃剣の切っ先を籐司朗さんに向ける……。僕等に籐司朗さんが倒せるのか。
都笠さんを横目で見る。ハンドガンで籐司朗さんを狙ってはいるけど。普段なら警告を発して引き金を引く都笠さんも躊躇うかのような顔をしている。
「……下がれ、スミト」
凛とした声が重たい緊張を破った。
◆
振り向くと、ダナエ姫が従士たちの間を抜けて静かに歩み寄ってきた。
たすきで袖をまとめて、手にはサーベルを持っている。
「妾の旗下じゃ。妾が介錯してやるのが筋というものであろう」
籐司朗さんがダナエ姫を見た。
「姫……私を切りますか?」
「無論じゃ。免許皆伝、頂くぞ」
尋ねる籐司朗さんの口調に動揺するそぶりもなく、サーベルを構えてダナエ姫が進み出る。
「セリエ……防御を……」
「余計なことは致すな」
静かだけど、断固とした口調でダナエ姫が言って、詠唱を始めようとしたセリエが口をつぐんだ。
「誰も手を出すな……出せば妾が切る」
そう言って、ダナエ姫がフェンシングのように、サーベルを突き出すように構えた。
それに応じるように籐司朗さんが大太刀を立てるように構える。
5メートルほどの距離で二人が静かに向かい合った。
刀身の長さに倍近い差がある。間合いでは圧倒的に不利どころじゃない。
肌を刺すような、ピりピりとした張り詰めた空気が漂う。
天を指すように掲げられた大刀。籐司朗さんはまるで立木のように微動だにしない。
胸を突き刺すように差し出されたサーベル。その切っ先がタイミングを図るようにかすかに上下する。
まるで結界でも張られているかのように、わずかな音も聞こえなかった。
息を殺すかのように小さく吐いて、都笠さんがハンドガンの引き金から指を離す。
ダナエ姫が剣聖の戦列を使えば圧倒できるなんてことは分かり切っている。
籐司朗さんを僕か都笠さんが撃てば……あっさりとこの闘いにはケリがつくだろう。でもそれをしてはいけない。
小説とかを読んで、一騎打ちなんて馬鹿げてる、と思ったこともある。でも、自分がその場にいると分かった。手は出せない。
その時間がほんのわずかだったのか、そうでなかったのか、僕には分らない。
永遠にも感じられた緊張の後、藤四郎さんの太刀が揺らいで……それと同時にダナエ姫が応じた。
◆
……銃剣を持っていたからかろうじて見えた。
その交錯が見えたのは、きっと僕だけだっただろう。
籐司朗さんの周りには何人かの従士が倒れていて、血が灰色のコンクリートを染めている。その周りをそれぞれのスロット武器を持った従士たちが遠巻きに取り囲んでいた。
籐司朗さんは、前と同じ和装で手にはスロット武器の長い太刀を持っていた。
だけど、肌の色が違う。前に見た腕と同じ、どす黒い色が体中を染めていて、目が金色に輝いている。
セリエがその姿を見て息をのんだ。
「……下がって、みんな」
レッサーヴァンパイアになるとどうなるのか、僕にはわからない。でもあの強さがそのままだとしたら……並みのスロット武器もちじゃ対抗できないだろう。僕にできるかはわからないけど。
都笠さんがハンドガンを籐司朗に向ける。ぎりっと、歯をかみしめるような音が聞こえた。
ユーカもフランベルジュを構えるけど……どうすればいいのか分からない、と言う顔で僕を見る。
「スミト君……」
わずかな間があって、籐司朗さんが以前のような口調で声をかけてきた。
「私を……切るのかね?」
構えを解くかのように、空を突くように立てられていた大太刀がすっとおろされた。
もしかして……まだ理性が残っていたりするのか。
と思った瞬間、切っ先が目の前にあった。
反応できたのは奇跡に近かったと思う。すんでの所で顔を逸らす。頬に熱い感触が走った。
何事もなかったかのように籐司朗さんが大太刀をを立てた姿勢に戻っていた。
「お兄ちゃん!」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ」
辛うじて、という言葉は飲み込んだ。セリエの方を向かず、目を切らずに籐司朗さんを見る。
顔を逸らすのが遅れていたら……あの大太刀で頭を刺し貫かれていただろう。
「よくかわしたな……見事」
表情を変えずに籐司朗さんが言う。大太刀を下ろしたのはこっちに油断させるためだったんだろうか。
恐ろしいのは、遅く見える、とかそういう問題じゃなく。突くときの予備動作が全然見えなかったことだ。気付いた瞬間にはもう切っ先が目の前にあった。
ただ動きが早い、というのとは全然違う。これが古流の技なのか。
籐司朗さんの、ガラス玉のような感情を感じさせない目が僕を見た。
その目を見た時、わかった。根拠はないんだけど……もう何も手を施すことはできない。どうしようもないだ、と。
不意に胸の奥に重たい感情を感じた。怒りとかそういうのじゃない。
強いて言うなら……ムカつく上司を殴りたいけど殴れない、そんなどうしようもなさ、それが近かった。きっと誰も居なければ地面か手近な物を蹴飛ばして叫んで、悪態をついていただろう。
……やるしかないのか。
銃剣の切っ先を籐司朗さんに向ける……。僕等に籐司朗さんが倒せるのか。
都笠さんを横目で見る。ハンドガンで籐司朗さんを狙ってはいるけど。普段なら警告を発して引き金を引く都笠さんも躊躇うかのような顔をしている。
「……下がれ、スミト」
凛とした声が重たい緊張を破った。
◆
振り向くと、ダナエ姫が従士たちの間を抜けて静かに歩み寄ってきた。
たすきで袖をまとめて、手にはサーベルを持っている。
「妾の旗下じゃ。妾が介錯してやるのが筋というものであろう」
籐司朗さんがダナエ姫を見た。
「姫……私を切りますか?」
「無論じゃ。免許皆伝、頂くぞ」
尋ねる籐司朗さんの口調に動揺するそぶりもなく、サーベルを構えてダナエ姫が進み出る。
「セリエ……防御を……」
「余計なことは致すな」
静かだけど、断固とした口調でダナエ姫が言って、詠唱を始めようとしたセリエが口をつぐんだ。
「誰も手を出すな……出せば妾が切る」
そう言って、ダナエ姫がフェンシングのように、サーベルを突き出すように構えた。
それに応じるように籐司朗さんが大太刀を立てるように構える。
5メートルほどの距離で二人が静かに向かい合った。
刀身の長さに倍近い差がある。間合いでは圧倒的に不利どころじゃない。
肌を刺すような、ピりピりとした張り詰めた空気が漂う。
天を指すように掲げられた大刀。籐司朗さんはまるで立木のように微動だにしない。
胸を突き刺すように差し出されたサーベル。その切っ先がタイミングを図るようにかすかに上下する。
まるで結界でも張られているかのように、わずかな音も聞こえなかった。
息を殺すかのように小さく吐いて、都笠さんがハンドガンの引き金から指を離す。
ダナエ姫が剣聖の戦列を使えば圧倒できるなんてことは分かり切っている。
籐司朗さんを僕か都笠さんが撃てば……あっさりとこの闘いにはケリがつくだろう。でもそれをしてはいけない。
小説とかを読んで、一騎打ちなんて馬鹿げてる、と思ったこともある。でも、自分がその場にいると分かった。手は出せない。
その時間がほんのわずかだったのか、そうでなかったのか、僕には分らない。
永遠にも感じられた緊張の後、藤四郎さんの太刀が揺らいで……それと同時にダナエ姫が応じた。
◆
……銃剣を持っていたからかろうじて見えた。
その交錯が見えたのは、きっと僕だけだっただろう。
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