僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
不死者の真の強さを知る。
前に見た時と同じ、能面のような白い酷薄な顔に黒い長髪と、黒いマントと胴鎧。
静かなたたずまいだけど、全身から噴き出すような禍々しい寒気はさっきと同じだ。
つーか、どこから湧いて出たんだ、こいつ。
フェイリンさんとノエルさんが流石に青ざめたように一歩さがる。
「全くおもしろいな。それは仲間意識、というやつかね」
「口を開くな、魔獣よ。汚らわしいぞ」
ダナエ姫がその雰囲気も意に介さない様に涼やかな目でヴァンパイアを睨み返した。
「ほう……私を恐れないとはな」
「せっかく姿を現したのじゃ。妾がその首を打ち落としてやろうか
皆、恐れるな。所詮はヴァンパイアといえど魔獣にすぎぬ。そして、撃ち倒せぬ魔獣なぞおらぬ」
ダナエ姫が自信に満ちた口調で言う。自信たっぷりの口調とさっきのあの強さを見ると……なんか行けるような気がしてきた。
それに奇しくも今は分断されていない状態で戦える。
都笠さんが見慣れないアサルトライフルを構えて、射線をとるように斜めに位置をとった。
ノエルさんと籐司朗さんが武器を構えて進みでる。ダナエ姫がノエルさんに目配せした。
「【くたばりぞこないのクソ野郎、墓石の下で寝てやがれ】」
ノエルさんが唱えると、白い光が地面から沸き上がって、ヴァンパイアを包み込んだ。呪文は違うけど……さっき見たのと同じ、葬送曲か。
白い光が黒いマントを侵食するように溶かしていく。けど……それだけだった。レブナントを10数体一瞬で溶かした葬送曲だけど……
「効かねえのかよ?」
「下僕たるレブナントならともかく、この私に人間程度の力が通じると思うのか?愚かしいな」
そう言って、ヴァンパイアが薄い笑みを浮かべた。
「しかし……この程度が切り札かね?君たちは……なんというか、退化しているのではないか?」
「ならば、力で叩き潰す。参るぞ、皆」
ダナエ姫がひるむ様子もなく言う。
「【哀れな死に損ないよ。俺が墓穴に送り返してやるぜ】」
「【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」
ノエルさんが唱えると、フェイリンさんの籠手と足甲、僕の銃剣と籐司朗さんの刀に白い光が宿った。
次いで、セリエの防御の光が僕と籐司朗さん、ノエルさん、フェイリンさんにかかる。
「退魔の剣だ。気休めかもしれねえが、無いよりはマシだろ」
「皆さま、ご無事で!」
「断ち切れ!」
ダナエ姫のサーベルが目にも止まらない速さで飛んだ。左右から逆袈裟のように十字にヴァンパイアを切り上げる。
続いて3本のサーベルが飛ぶけど。
「甘いな、人間」
全く効いていないかのようにヴァンパイアがそれを躱した。
傷口から血煙のように赤い霧が吹き上がって傷が閉じていく。輝くサーベルが取って返してきたかのように戻ってきた。
ヴァンパイアが手を差し出すと、赤い血煙が霧の手のようにダナエ姫に伸びる。ダナエ姫を守るようにサーベルが周りを取り囲んだ。
「姫、お下がりください!【一刀!破矢風】!」
「【貫け!魔弾の射手!】」
狙い通り、僕の弾丸が赤い霧をぶち抜いてヴァンパイアの頭に当たった。
続いて、籐司朗さんの大太刀が振り降ろされる。銀色に輝く軌跡から散弾の雨のようなものが飛んだ。ヴァンパイアが一瞬で穴だらけになって、後ろに転がっていた車がスクラップになる。
「やるではないか、人間!」
でも。
体中に開いた傷から赤い煙が噴き出して、見る見るうちに穴がふさがっていく。頭に当てたけど、あれでも効いてないのか。
まるでどこかの映画で見た液体のロボットのようだ。
「【一刀!断風】!」
今度は籐司朗さんが横なぎに剣を払った。
何かを感じたのか、ヴァンパイアが身を躱す。道路わきに立っていた看板の鉄柱が両断されて、うしろのビルに横一文字に溝が穿たれた。
亀裂が走ってコンクリートがきしむ。
「いいぞ、お前。人間にしてはやるようだ。特別に剣で相手してやろう!」
なにもない空中に赤い霧が渦巻いて、刀身が真っ赤に塗られたブロードソードが現れた。スロット武器みたいなものか。
ヴァンパイアが剣を構えて駆けてくる。一瞬体が霧のように崩れて、一気に間合いが詰まった。なんだあれは。
「死ねい!人間!」
「甘いぞ、小僧!10年早い!」
降り下ろされた剣を籐司朗さんの大太刀が弾き返した。体勢が崩れたところを、剣道のつばぜり合いのように柄でカチ上げる。ヴァンパイアがよろめいて一歩下がった
「援護します!」
「行きますよぉ!」
フェイリンさんが浴びせ蹴りのような蹴りを放つ。ヴァンパイアが剣でそれを受け止めた
「死ね、この野郎!」
がら空きになった脇腹に銃剣を突き刺す。退魔の剣の白い光を纏った銃剣の切っ先が鎧を貫いた。手ごたえあり。赤い血煙が噴き出す。
能面のような顔がわずかに乱れてヴァンパイアがこっちを見た。
「水を差すな、虫けらめ。死にたいのか?」
「澄人君!それより車だ!急げ!」
声と同時に大太刀が振り下ろされる。ヴァンパイアが剣で受け止めるけど、大太刀が振り降ろしの勢いそのままに剣を地面に撃ち落した。そのまま突きに移行した切っ先が鎧の肩を貫く。また血煙が舞った。
切りかかろうとしたヴァンパイアの剣を刀が弾き飛ばして、切り返しの横なぎが胴を払う。
武器同士の間合いの差とかいう以前の問題で、技量の差は僕から見ても圧倒的だった。
でも。普通の人間なら10回は死んでいそうな斬撃を受けても倒れる気配がない。どれだけの火力を集中させれば倒せるんだ、あれは。
周りを見回すと、レブナントの仕業なのか、横転して動かない車がほとんどだったけど。少し離れたところに小型のトラックが一台止まっていた。
あれなら全員乗れる。
「管理者、起動!動力復旧!」
エンジンがかかった。シフトも幸いにもオートマだ。飛び乗って少しでも近くに寄せて車から飛び降りる。
逃げるにしてもあいつの動きを一度は止めないと。
切り合いはまだ続いているけど。籐司朗さんの刀が剣を払いのけて、ヴァンパイアの左胸に突き刺さった。根元まで深々と突き刺さった輝く大太刀の切っ先が、胴を突き抜ける。
串刺しになったヴァンパイアが一瞬苦悶の表情を浮かべた。
効いたのか、と思ったけど。何事もなかったかのように籐司朗さんの腕を掴んだ。
傷口から噴き出した赤い霧が籐司朗さんの腕に絡みつく。防御の青い光が瞬いて一瞬で消えた。
「ぐっ!」
「ソウテンイン!下がれ!」
籐司朗さんがスロット武器を離して後ずさる。サーベルが三方向から飛んで、ヴァンパイアを次々に切り裂いた。
一瞬遅れて風のように飛び出したフェイリンさんの後ろ回し蹴りがヴァンパイアの首を狩るように蹴飛ばす。着地ざまに、甲高い気迫の声を上げてフェイリンさんがよろめいた顎を蹴り上げた。
ヴァンパイアの体が軽々と宙に舞った。駅ビルの広告ウインドウに突っ込んでガラスが砕け散る。
普通なら首の骨でもへし折れて即死だ。
でも、胸に大太刀を刺したままのヴァンパイアが立ち上がってこっちを向いた。あれでも死なないのか。
「おとなしくしておれ!」
「【新たな魔弾と引き換えに!ザミュエル、彼の者を生贄に捧げる!】」
ダナエ姫が声を上げる。6本のサーベルがヴァンパイアを取り囲むように飛んで、次々と切り裂いていく。
「出血大サービスよ!くたばれ、バケモノ!」
都笠さんのアサルトライフルがフルオートで火を噴いた。いつもの89式とは違う銃だ。
雨のように飛ぶ銃弾がヴァンパイアを捕らえて、さらに追い打ちをかけるように、銃身下の筒から弾が飛びだした。
転がった弾が爆発して赤い炎を上げる。グレネードか。
「焼き尽くせ!魔弾の射手!」
もう一発、吹き上がる爆発の中に魔弾の射手を撃ち込む。
爆炎が駅ビルの窓から噴き出した。並んではめ込まれていたガラスが内側から砕けちる。駅ビルの灰色の化粧石が轟音を立てて落ちて破片が飛び散った。
もうもうと粉塵が上がって、ヴァンパイアの姿が見えなくなった。
死んだかどうかはわからないけど、さすがにこれならダメージはあるだろう。逃げる時間くらいは稼げたか。
「みんな、乗ってください!」
都笠さんが運転席に飛び乗って、セリエが助手席に乗り込む。ダナエ姫とフェイリンさんが軽やかに荷台に飛び乗って、ノエルさんの巨体を荷台に引き上げた。
「いくわよ!」
都笠さんがひと声かけて、トラックが走り出した。
静かなたたずまいだけど、全身から噴き出すような禍々しい寒気はさっきと同じだ。
つーか、どこから湧いて出たんだ、こいつ。
フェイリンさんとノエルさんが流石に青ざめたように一歩さがる。
「全くおもしろいな。それは仲間意識、というやつかね」
「口を開くな、魔獣よ。汚らわしいぞ」
ダナエ姫がその雰囲気も意に介さない様に涼やかな目でヴァンパイアを睨み返した。
「ほう……私を恐れないとはな」
「せっかく姿を現したのじゃ。妾がその首を打ち落としてやろうか
皆、恐れるな。所詮はヴァンパイアといえど魔獣にすぎぬ。そして、撃ち倒せぬ魔獣なぞおらぬ」
ダナエ姫が自信に満ちた口調で言う。自信たっぷりの口調とさっきのあの強さを見ると……なんか行けるような気がしてきた。
それに奇しくも今は分断されていない状態で戦える。
都笠さんが見慣れないアサルトライフルを構えて、射線をとるように斜めに位置をとった。
ノエルさんと籐司朗さんが武器を構えて進みでる。ダナエ姫がノエルさんに目配せした。
「【くたばりぞこないのクソ野郎、墓石の下で寝てやがれ】」
ノエルさんが唱えると、白い光が地面から沸き上がって、ヴァンパイアを包み込んだ。呪文は違うけど……さっき見たのと同じ、葬送曲か。
白い光が黒いマントを侵食するように溶かしていく。けど……それだけだった。レブナントを10数体一瞬で溶かした葬送曲だけど……
「効かねえのかよ?」
「下僕たるレブナントならともかく、この私に人間程度の力が通じると思うのか?愚かしいな」
そう言って、ヴァンパイアが薄い笑みを浮かべた。
「しかし……この程度が切り札かね?君たちは……なんというか、退化しているのではないか?」
「ならば、力で叩き潰す。参るぞ、皆」
ダナエ姫がひるむ様子もなく言う。
「【哀れな死に損ないよ。俺が墓穴に送り返してやるぜ】」
「【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」
ノエルさんが唱えると、フェイリンさんの籠手と足甲、僕の銃剣と籐司朗さんの刀に白い光が宿った。
次いで、セリエの防御の光が僕と籐司朗さん、ノエルさん、フェイリンさんにかかる。
「退魔の剣だ。気休めかもしれねえが、無いよりはマシだろ」
「皆さま、ご無事で!」
「断ち切れ!」
ダナエ姫のサーベルが目にも止まらない速さで飛んだ。左右から逆袈裟のように十字にヴァンパイアを切り上げる。
続いて3本のサーベルが飛ぶけど。
「甘いな、人間」
全く効いていないかのようにヴァンパイアがそれを躱した。
傷口から血煙のように赤い霧が吹き上がって傷が閉じていく。輝くサーベルが取って返してきたかのように戻ってきた。
ヴァンパイアが手を差し出すと、赤い血煙が霧の手のようにダナエ姫に伸びる。ダナエ姫を守るようにサーベルが周りを取り囲んだ。
「姫、お下がりください!【一刀!破矢風】!」
「【貫け!魔弾の射手!】」
狙い通り、僕の弾丸が赤い霧をぶち抜いてヴァンパイアの頭に当たった。
続いて、籐司朗さんの大太刀が振り降ろされる。銀色に輝く軌跡から散弾の雨のようなものが飛んだ。ヴァンパイアが一瞬で穴だらけになって、後ろに転がっていた車がスクラップになる。
「やるではないか、人間!」
でも。
体中に開いた傷から赤い煙が噴き出して、見る見るうちに穴がふさがっていく。頭に当てたけど、あれでも効いてないのか。
まるでどこかの映画で見た液体のロボットのようだ。
「【一刀!断風】!」
今度は籐司朗さんが横なぎに剣を払った。
何かを感じたのか、ヴァンパイアが身を躱す。道路わきに立っていた看板の鉄柱が両断されて、うしろのビルに横一文字に溝が穿たれた。
亀裂が走ってコンクリートがきしむ。
「いいぞ、お前。人間にしてはやるようだ。特別に剣で相手してやろう!」
なにもない空中に赤い霧が渦巻いて、刀身が真っ赤に塗られたブロードソードが現れた。スロット武器みたいなものか。
ヴァンパイアが剣を構えて駆けてくる。一瞬体が霧のように崩れて、一気に間合いが詰まった。なんだあれは。
「死ねい!人間!」
「甘いぞ、小僧!10年早い!」
降り下ろされた剣を籐司朗さんの大太刀が弾き返した。体勢が崩れたところを、剣道のつばぜり合いのように柄でカチ上げる。ヴァンパイアがよろめいて一歩下がった
「援護します!」
「行きますよぉ!」
フェイリンさんが浴びせ蹴りのような蹴りを放つ。ヴァンパイアが剣でそれを受け止めた
「死ね、この野郎!」
がら空きになった脇腹に銃剣を突き刺す。退魔の剣の白い光を纏った銃剣の切っ先が鎧を貫いた。手ごたえあり。赤い血煙が噴き出す。
能面のような顔がわずかに乱れてヴァンパイアがこっちを見た。
「水を差すな、虫けらめ。死にたいのか?」
「澄人君!それより車だ!急げ!」
声と同時に大太刀が振り下ろされる。ヴァンパイアが剣で受け止めるけど、大太刀が振り降ろしの勢いそのままに剣を地面に撃ち落した。そのまま突きに移行した切っ先が鎧の肩を貫く。また血煙が舞った。
切りかかろうとしたヴァンパイアの剣を刀が弾き飛ばして、切り返しの横なぎが胴を払う。
武器同士の間合いの差とかいう以前の問題で、技量の差は僕から見ても圧倒的だった。
でも。普通の人間なら10回は死んでいそうな斬撃を受けても倒れる気配がない。どれだけの火力を集中させれば倒せるんだ、あれは。
周りを見回すと、レブナントの仕業なのか、横転して動かない車がほとんどだったけど。少し離れたところに小型のトラックが一台止まっていた。
あれなら全員乗れる。
「管理者、起動!動力復旧!」
エンジンがかかった。シフトも幸いにもオートマだ。飛び乗って少しでも近くに寄せて車から飛び降りる。
逃げるにしてもあいつの動きを一度は止めないと。
切り合いはまだ続いているけど。籐司朗さんの刀が剣を払いのけて、ヴァンパイアの左胸に突き刺さった。根元まで深々と突き刺さった輝く大太刀の切っ先が、胴を突き抜ける。
串刺しになったヴァンパイアが一瞬苦悶の表情を浮かべた。
効いたのか、と思ったけど。何事もなかったかのように籐司朗さんの腕を掴んだ。
傷口から噴き出した赤い霧が籐司朗さんの腕に絡みつく。防御の青い光が瞬いて一瞬で消えた。
「ぐっ!」
「ソウテンイン!下がれ!」
籐司朗さんがスロット武器を離して後ずさる。サーベルが三方向から飛んで、ヴァンパイアを次々に切り裂いた。
一瞬遅れて風のように飛び出したフェイリンさんの後ろ回し蹴りがヴァンパイアの首を狩るように蹴飛ばす。着地ざまに、甲高い気迫の声を上げてフェイリンさんがよろめいた顎を蹴り上げた。
ヴァンパイアの体が軽々と宙に舞った。駅ビルの広告ウインドウに突っ込んでガラスが砕け散る。
普通なら首の骨でもへし折れて即死だ。
でも、胸に大太刀を刺したままのヴァンパイアが立ち上がってこっちを向いた。あれでも死なないのか。
「おとなしくしておれ!」
「【新たな魔弾と引き換えに!ザミュエル、彼の者を生贄に捧げる!】」
ダナエ姫が声を上げる。6本のサーベルがヴァンパイアを取り囲むように飛んで、次々と切り裂いていく。
「出血大サービスよ!くたばれ、バケモノ!」
都笠さんのアサルトライフルがフルオートで火を噴いた。いつもの89式とは違う銃だ。
雨のように飛ぶ銃弾がヴァンパイアを捕らえて、さらに追い打ちをかけるように、銃身下の筒から弾が飛びだした。
転がった弾が爆発して赤い炎を上げる。グレネードか。
「焼き尽くせ!魔弾の射手!」
もう一発、吹き上がる爆発の中に魔弾の射手を撃ち込む。
爆炎が駅ビルの窓から噴き出した。並んではめ込まれていたガラスが内側から砕けちる。駅ビルの灰色の化粧石が轟音を立てて落ちて破片が飛び散った。
もうもうと粉塵が上がって、ヴァンパイアの姿が見えなくなった。
死んだかどうかはわからないけど、さすがにこれならダメージはあるだろう。逃げる時間くらいは稼げたか。
「みんな、乗ってください!」
都笠さんが運転席に飛び乗って、セリエが助手席に乗り込む。ダナエ姫とフェイリンさんが軽やかに荷台に飛び乗って、ノエルさんの巨体を荷台に引き上げた。
「いくわよ!」
都笠さんがひと声かけて、トラックが走り出した。
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