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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

大切なきみ。

 門を抜けた一瞬、視界が暗くなって、そしてまた明るくなった。
 目を開けると、視界の足元のまだら模様のタイルが飛び込んできた。
 周りを見回す。ロータリーの中の島のような場所だ。右には喫煙所、左には地下街への入り口が見える。


 ロータリーにはレブナントは殆どいない。でも、大通りの方に向かっていたレブナントが何体か、僕等に向かってきた。
 都笠さんが89式を構えようとする。


「やめよ、スズ……お主の雷鳴の弩は矢弾に限りがあるのであろうが」


 ダナエ姫が89式に手をかけて下ろさせた。


「ソウテンイン」
「はい、姫。発現マテリアライズ


 ダナエ姫がひと声かけると、籐司朗さんが一歩進み出た。声に応じて、黒い光が集まって細い棒のように固まりスロット武器を形成する。


 籐司朗さんのスロット武器は長い日本刀だった。刀身が1メートルくらいはありそうだ。というか、僕の銃並みに長い。
 斬馬刀、とかなんだろうか。イメージ的な日本刀よりはかなり長い。 
 籐司朗さんがそれを立てるように構える。僕でも漫画とかで見たことが有る、いわゆる蜻蛉の構えってのに似ている。


「はあっ!」


 気合の声を上げて踏み込んで、籐司朗さんが刀を振り下ろした。先頭の一体が竹を割るように真っ二つになる。
 地面近くまで振り下ろされた刀が跳ね上がる。一瞬の早業で、長い刀身が後ろの2体の胴を両断して、胸のあたりで断ち切られたレブナントの体が宙を舞う。
 速い、と言うのもあるんだけど。僕の目から見ても分かるくらい優雅な、演武のような無駄のない動き……古流剣術の師範ってのは伊達じゃないな。
 乱れの無い動作で元の構えに戻る。


 まばらにいるレブナントはこっちに向かってくるのもいるけど、多くがぞろぞろと駅前を歩く行列のように通りを歩いていく。
 ノエルさん達はその方向に居るんだろうか。かすかに音が聞こえる。


「あっちにいるみたい」
「急ぐぞ」


 都笠さんが言って、一緒に走り出した。ダナエ姫と籐司朗さんが後に続いてくる。
 すぐに目に飛び込んできたのは、少し向こうに見える西武の駅ビルと量販店のビル、ロータリーの植え込みと、その隙間を埋めるようにレブナントの群れだった。





 かなり倒してもまだあれだけ居るのか。
 かるく数十体は居そうだ。ロータリーの道を塞ぐ壁のように密集している。
 壁の向こうで戦っている音が聞こえて、時々白い光がひらめいた。


 都笠さんが立ち止まって舌打ちした。単に壁をぶち破るだけなら、僕の魔弾の射手でも都笠さんのM2でもできる。
 でも……壁の向こうに誰かいるなら、巻き込んでしまっては意味がない。
 壁を構成していたレブナントがこっちに気付いたのか。10体近くが剣を構えてこっちに向かってきた。


「ふむ、なかなかの数じゃの……まあよい、妾が片付けてやろう」


 向かってくるレブナントを見て、ダナエ姫がこともなげな口調で言った。スロット武器らしいサーベルを提げて一歩進みでる。
 地道に壁を削っていく時間もなさそうだ。道を切り開いてくれるならありがたい。


「お願いします」
「スミト、妾の剣聖の戦列レヴァンティンの強さ、よく見ておくが良いぞ」


 ダナエ姫が軽く笑みを浮かべて、柄に絡み合う蔦のような金の装飾を施したサーベルを決闘の前の時のように顔の前で縦に構えた。


「【我が名はダナエティア・ラクロア・ブルフレーニュ
我が家に従いて斃れたる者達よ、武威を示す場を与えよう】」


 詠唱とともに、ダナエ姫の周りに白い細い光の線が浮かんだ。明滅する光が何かを形作っていく。


「【剣を抜け。轡を並べよ。我が戦列に加われ。今、かぶらは鳴り響きたり。
……汝の望みし戦場は此処にあるぞ】」


 詠唱が終わると、白い光がサーベルを形作っていた。12本の輝くサーベルがダナエ姫の周りを取り巻くように浮かぶ。
 みるとそれぞれデザインに少しずつ違いがあるのが分かった。


「行け、剣」


 ダナエ姫が手を突き出すと、宙に浮かんでいたサーベルが3本、白い軌跡を残して飛んだ。
 宙を飛ぶサーベルが向かってきたレブナントを紙人形でも切るかのように次々と切り裂く。10体近いレブナントが手や足や胴を断たれて、あっという間に倒れて消えた。


「参るぞ、ソウテンイン!後れを取るな」


 ひと声かけてダナエ姫が走り出す。飛んでいったサーベルが舞うようにしてダナエ姫の周りに戻った。
 新手のレブナントが向かってくるけど、今度は取り巻くようにサーベルがダナエ姫の周りを旋回して、近寄ってくるレブナントを草でも刈り取るように薙ぎ払う。一瞬でレブナントの壁に穴が開いた。


 ガルフブルグ最強の一人らしいジェラールさんにも一目おかせる能力。
 ラクシャス家の庭で見た時はどんなものか分からなかったけど……自分の目で見ると、すさまじいとしか言いようがない。
 攻撃範囲もさることながら、斬撃の威力がけた外れだ。何度か戦って、レブナントの頑丈さは知ってるけど。そのレブナントをまるで豆腐でも切り裂くように次々とサーベルがなぎ倒していく。
 何体か攻撃範囲外のレブナントは籐司朗さんの刀と僕の銃剣で切り伏せる。


 そして、唐突に、人垣のようなレブナントの群れが途切れた。
 その向こうには槍を構えたノエルさんとフェイリンさんが立っていた。





 とりあえず無事だった。
 あちこちに怪我はあるみたいだけど、二人とも致命傷のようなものは負っていないことは分かる。


「姫?それにソウテンインの爺さんか?」


 幽霊でも見たかのような顔でノエルさんが僕等を見る。


「まだ死んでおらようじゃな、ノエル」
「……マジかよ?わざわざ俺たちを助けにくれたのか?」
「ダナエ姫?」


 ノエルさんとフェイリンさんが信じられないって顔をしている。体にはわずかに防御プロテクションの光が輝いていた。


「スミトの頼みでの」
「セリエは?」


 そういうと、ノエルさんとフェイリンさんがちょっと俯く……二人の後ろの地面に横たわっているセリエが見えた。





「セリエ!」


 ノエルさんのものらしき布を取り払う。
 腹を刺されたのか、白いエプロンが真っ赤に染まっていて、メイドドレスがどす黒く変色していた。


「俺たちに防御プロテクションをかけてくれてたんだが……すまねぇ」


 背中越しにノエルさんが言う。
 自分にはかけなかったってことか。どこまでも大馬鹿だ。
 レブナントの群れがまた並んで壁のように陣形を作る。こちらに向かって歩を進めてきた。


「食い止めるぜ」
解放!オープン


 ノエルさんが槍を構えて、都笠さんがM2を兵器工廠アーセナルから取り出した。
 籐司朗さんとフェイリンさんがそれぞれに武器を構えてレブナントの前に立ちふさがる。


「スミト、いずれにせよ、早くいたせ。猶予はそう長くはないぞ」


 ダナエ姫が冷たい声で言った。


「あのエルフの言葉……忘れてはおらぬであろうな」


 M2の轟くような発砲音が響いて、レブナントが倒れる音がする。


「セリエ!」


 抱き上げたけど反応がない。血が噴き出してきて、暖かい血が手にかかった。
 いつもの服越しに感じるぬくもりも無くて、顔色も白い。
 アンフィスバエナと戦った時は重傷でも死んではいないことが分かっていた。でも。これは。


 治癒の霊薬エリクシールの小瓶をポケットから出す。
 一か八かで飲ませてしまいたい。死んだ仲間に治癒ヒーリングを掛けた、と言う人の気持ちが痛いほどわかった。無駄と分かっていても、もしかしたら、と思う。


でも……オルミナさんの言葉を思い出した。
 死者をよみがえらせる能力はない。飲ませても意味はない。
そして、セリエがこのまま死んでしまえば……回復は誰も出来ない。となれば、万が一のためにこれは使うわけにはいかない。


「セリエ!」


 呼んでみたけどやっぱり反応が無い。もう手遅れだったのか。
 来る前はせめて最後は側にいてあげられたら、と思ってた。でも、勝手なものだけど、此処まで来たら生きていてほしい。死んでほしくない。
 キスするときのように獣耳に触れる。


 その時、指先に触れた獣耳が指を押し返すように震えた。何か言いたげなように、かすかに唇が動く。
 ……まだ生きている。


「セリエ!」


 どんな傷でも癒してくれる、生きていれば。その言葉を信じるしかない。
 瓶のふたを開けて白く輝く液体を唇にたらした。白い液体が血に広がっていく。


「ユーカが待ってる。戻ってこい!バカメイド!」


 白い液体が血に溶けて行って……わずかな間があってセリエの体を白い光が包み込んだ。
 流れていた血が止まる。そして、まるで巻き戻しでもするかのように、真っ白い顔に血色がもどっていった。抱きかかえる手にも体温が戻る。


 セリエが目を開けて、まだ焦点が合わない目で僕を見た。
 しばらく見つめあって、セリエが弾かれたように身を起こして僕を見る。


「御主人さま……?」


 何が何だか分からない、と言う顔でセリエが僕をまじまじと見る。


「大変です!血が!」
「これはお前のだ……僕のじゃないよ」


 コートやシャツにはべっとり血がついていたけど、セリエのだ。
 セリエがほっとしたような、よくわからない、と言う顔で僕を見る。刺された前後の記憶がないのかどうなのか。ほっとしたのはこっちなんだけど。


「大丈夫?」
「はい、大丈夫です」


 セリエが立ちあがる。血まみれのメイド衣装は痛々しいけど、見た感じ問題はなさそうで、失血の影響もなさそうだ。
 普通の回復魔法やポーションは傷はふさがっても、ある程度ダメージと言うか、痛みとか疲労感が残る。でもそんな気配はない。
 オルミナさんが切り札の貴重品というだけあって治癒の霊薬エリクシールの効果は凄い。感謝しないといけないな。


 とりあえず、きっと身を切られるような思いでまっているユーカにこのことを伝えないと。
 通信機を出して送信ボタンを押す。


「こちらスミトです!」
『はい!……そちらはどうなりましたか?』


 殆ど間を置かずに返事が返ってきた。


「セリエにノエルさん、フェイリンさんは無事です。ユーカにも伝えてください」
『……それは……よかったです!』


 息を呑む音がして、通信機の向こうから歓声が聞こえた。


「これで憂いないな、スミト」


 一息ついたところで、ダナエ姫が声を掛けてくる。


「はい、ありがとうございます」


 改めて周りを見ると。レブナントはきれいさっぱりと一掃されていた。
 かなりの数がいたけど、M2と鎮魂歌レクイエム剣聖の戦列レヴァンティンで全滅したらしい。


「スミトに感謝せよ、フェイリンにノエルよ。こやつが言わねば妾とて援護にはこれなんだであろうからの」
「スミト……お前、奴隷の為にわざわざ戻ってきたのか?」


 ノエルさんが安心したように息をついて僕を見る。


「本当に……大事なんですね……スミトさん。あなたはやっぱり変わった人です」
「お前は……本当にいい奴だな。お前の世界の奴はみんなそうなのか?」


「では戻るかの」


 レブナントは辺りからは完全にいなくなって静まり返っていた。
 オルミナさんの門で逃げれれば一番早いけど……4人が限界、というのが本当かどうかはともかくとして、7人だとに流石に難しいだろう。自分で足を確保しないと。
 池袋駅前にはこの人数でも乗れそうなミニバンとかが何台かあったと思う。


「駅前に行きましょう、車が……」
「信じがたい愚かさだな、人間よ」


 ロータリーに向かおうとした時、聞き覚えのある、冷たい声が聞こえた。


「まさか……その連中を助けにきたのか?」


 その道にあのヴァンパイアが立ちふさがっていた。







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