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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

撤退戦の引き際は難しい。そして。

 黒っぽい舗装、カラフルな看板の店に挟まれたサンシャイン通りを走る。
 時々レブナントが路地から何体か現れて道をふさいでくるけど、大した数じゃない。ユーカの炎で一撃を加えて、僕の銃剣と都笠さんの枴で蹴散らしていく。


 しばらく走ると大きな交差点に出た。視界が一気に開ける。街路樹が並ぶ広い五差路。
 さっき、サンシャインに行くときに通ったところだ。後ろを振り返ると、20体ほどのレブナントがこっちに向かってきている。
 ただあのヴァンパイアはいない。追ってきていないのか、どこかから回り込んできているのか。


 街路樹に挟まれた広い道路の向こうに西武の蒼い看板が見えた。池袋の駅だ。その前が駅前ロータリーになる。
 街道線路の東側、というオルミナさんの言っていることを僕が間違って解釈していなければあそこでいいと思うんだけど。
 こういう時は地名を出して位置確認ができないのがもどかしい。


「風戸君!」


 都笠さんが警告の声を発する。
 サンシャイン方向の大通りの向こうにも黄色いオーラが立ち上っていた。かなりの数のレブナントがいるっぽい。さっきのサンシャインの近くにいたやつらだろうか。


「あっち行って!」


 ユーカの炎が狭いサンシャイン通りに立ち上がった。道の脇にぽつんとあった軽自動車が炎に巻かれて爆発して、赤い炎の壁が立ち上る。
 少しは時間稼ぎになるか


「行こう!」


 駅の方を指さす。
 オルミナさんの示した位置がどこか、正確には分からないけど、今は自分の判断を信じるしかない。それに、あのレブナントの数じゃあ駅の方に逃げるしかない。
 万が一解釈が違っていて、別の所に門が開いていたとしても、駅前なら車の一台くらいはあるだろう。


 都笠さんが先頭に立って、その後ろにユーカとセリエが続く。都笠さんはまだ平気そうだけど、セリエとユーカは走り詰めでかなり辛そうだ。
 かくいう僕もかなりしんどいけど。レブナントに追いつかれることを考えると疲れたとか言ってる場合じゃない。


 力を振り絞って走る。交番の横を抜けて池袋のロータリーに入った。
 門を探してあたりを見回すけど。横倒しになった車があちこちに転がっていて、鉄の柵だの地下道への入り口だの喫煙所の壁だの視界を遮っている。今一つ見晴らしが悪い。


 門は前見たのと同じだとしたら、宙に浮いた黒い水面みたいなもので目立つものじゃない。
 ガイドの矢印とかが出ていてくれるとありがたいんだけど、そんな便利なものは無い。


「ご主人様、あちらを」


 セリエがブラシの先端を向けた先。パルコのビルの丁度JR池袋駅の表示の下の歩道の上。
 そこに黒い水面のような門が浮いていた。 





 さすがにセリエは目ざとい。 
 とりあえず、間違ったところには来ていなかったらしい。最悪の事態は避けられた。
 改めて大通りの方を向く。レブナントの黄色い光はまだ遠くの方だ。


「早く入るんだ!」


 ユーカとセリエが門の方に走って行って、その後ろを都笠さんが続く。
 とりあえず逃げることは出来そうだけど……


『おい、待ってくれよ』


 このまま逃げていいのか、躊躇したその時、通信機から声が聞こえた。
 男の声……通信機ごしだとちょっと印象違うけど……多分ノエルさんだ。
 あのヴァンパイアが言う、二人倒した、というのがハッタリじゃなければ……倒されたのはオルゾンさん達なのか。


「ノエルさん?無事ですか?」
『一応な……街道線路の東側ってこっちでいいのかよ』


 こっちでいいのか、といわれても。
 東京の人なら電話越しのガイドもできるし、そもそも携帯の地図見るなり青看板みるなりしろって話だけど、ノエルさんにそれは通じない。そもそも相手の場所もわからないし。
 ただ、サンシャイン方向から逃げてくるわけだから逆方向とかには行っていないと思いたい。


「いまはどこですか?」
『分かんねえが……多分来た道を戻ってると思う』


 ということは、大通りを戻ってきてるってことだろうか。


「なら……そのまままっすぐで。
道の向こうに青い看板をつけた壁みたいな白い建物が見えるでしょ!そこまで走ってください」
[早くしなさい、スミト!長くはもたないって言ってるでしょ!]


 オルミナさんの急かすような怒ったような声が割り込んできた。
 いつも余裕な感じのオルミナさんの口調じゃない。切羽詰まった状況なのは分かった。


「早く!先に行って!」


 都笠さんが一瞬迷ったような顔をして頷く。


「風戸君も急いで」
「お兄ちゃん、早く来てね!」


 都笠さんがユーカの手を引いて走って行ってそのまま黒い水面のような門に触れる。二人の姿が吸い込まれるように消えた。
 でもセリエだけはこっちに戻ってくる。


「セリエ!」
「ご主人様を置いていくわけにはまいりません」


 セリエが強い口調で言う。
 逃げるだけなら簡単なんだけど……さすがに無事であることが分かった以上、ノエルさんたちを置き去りにはできない。


「……お二人こちらに来られます」


 セリエが大通りの方を見ながら言う。


「……ノエル様とフェイリン様です」


 大通りの向こうから走ってくる人影は辛うじて見えるけど、僕には誰かまでは分からない。かなり距離があるのによくわかるな。
 ともあれ、道に迷って見当違いのほうに行く、という最悪の展開は避けられたらしい。
 でも、その後ろから黄色いオーラの群れが迫っているのは僕にも分かった。ゾンビの群れさながらに黄色いオーラを放ちながらレブナントが追ってきている。


「ご主人様!」


 やきもきしながら待っていると、セリエが僕の袖を引いた。
 指さす方を見ると。ロータリーに通じる細い道からレブナントがぞろぞろと出てきているのが見えた。一体どれだけいるんだ。
 このままだと二人の前を塞がれる。でも此処じゃ地下街への入り口が邪魔だ。射線が通らない。


「【新たな魔弾と引き換えに!狩りの魔王、ザミュエル!彼のものを生贄に捧げる!】」


 呪文を唱えながら走る。
 銃を構えて路地の入口に狙いをつけた。


「焼き尽くせ!魔弾の射手デア・フライシュッツ!」


 引き金を引く。赤い光弾が炸裂して、銀行とサラ金の看板の残骸とレブナントの四肢の破片が飛び散った。
 ビルに貼られた化粧石とパネルが崩れ落ちて、路地の入口を塞いだ。完全な足止めは無理でも、これなら大量のレブナントが出てくるってことは避けられるだろう。


 「セリエ!門の側に行って。いつでも入れるようにしておくんだ!」


 此処までこれば走ってくる二人の姿が見える。その後ろのレブナントの群れも。
 大通りに通じる脇道からも何体かのレブナントが現れた。道をふさぐようにレブナントが壁を作る。


「くそがよぉ!」


 ノエルさんの悪態が聞こえて、槍を振り回してレブナントを薙ぎ払ったのが見えた。フェイリンさんがその背中を守るようにしている。


「ご主人様、急いで!」


 門の側まで行ったセリエが呼びかけてくる。
 セリエの方を見たその時、セリエのそばにあった門が水面に波紋が立つように揺らいで、掻き消えた





「え?」


 セリエがあわてたように周りを見回す。


「オルミナさん!」


 通信機に呼びかけるけど返事がない。


「オルミナさん?」
[少し……待ちなさい。今開けるわ]


 ちょっと間があってオルミナさんの声が通信機から聞こえる。そして、もう一度門が開いた、さっきと違う場所に。
 離れた場所にピンポイントでは開けられないっていってたけど、そういうことか。
 今度は僕のほうが近い。ロータリーの真ん中の島のようなスペース。彫像が飾られた場所の側だ。


[急ぎなさい!……長くは……持たせられないわ]


 通信機越しでも苦し気な感じが伝わってきた。比喩ではなく、本当にもう時間がない。
 駅の入り口にいたセリエがあわてたようにこっちに走ってくる。


「セリエ、急いで!」


 大通りの方を見る。
 ノエルさんが大柄な体を揺らしながらどたどたと言う感じで走ってきていて、フェイリンさんが後ろを気にしながら並走している。その後ろにはレブナントの群れ。


「【新たな魔弾と引き換えに!ザミュエル!彼のものを生贄に捧げる!】」


 疲労感から考えると、あと撃てるのは2発くらいだろうか。ただ、此処で残弾をケチっていても意味がない。
 少し遠いから直撃は無理だろうけど、爆発で足止めくらいはできるだろう。銃眼の向こうの道に横倒しになったセダンに狙いを定める。


「焼き尽くせ!魔弾の射手デア・フライシュッツ!」


 赤い光弾がノエルさんとフェイリンさんの間を横切って、転がったセダンに突き刺さった。狙い通り爆炎が上がり、先頭のレブナントが火に巻かれる。
 ノエルさん達が走ってきた。あと200メートルもないだろうけど、その距離がもどかしく感じる。でも、迎えに行ってもしょうがない。ただ待つしかない。


「セリエ!早く」


 振り向くと、こちらに向かって走ってきていたセリエがこわばった顔で立ち止った。


「何してるんだ!」


 道路を挟んで見つめ合うかのように立ち竦んだセリエがブラシを突き出した。同時にフラッシュのような光が瞬く。
 白い光弾がまっすぐこっちに飛んできた。


「え?」


 唐突過ぎる状況に反応が遅れた。目の前に光の弾が迫る。とっさに銃身で受けた。
 銃身に当たった白い光が強く輝く。白い光が目を刺して、重い物に殴られるような痛みが走った。体が浮く。


「ご主人様!」


 セリエが何か叫んだような気がしたけど聞こえなかった。周りが突然暗くなって、一瞬の後にまた明るくなる。
 白い光の残像が残る目を開けると、周りの景色が変わっていた。
 左右をコンクリートの傾斜と緑の植え込みに囲まれた谷間の道のような場所。足元には線路。
 後ろを振り向くと、谷を横断するようにコンクリートの橋が架かっていた。


 目の前に浮かんでいた黒い水面のような門が掻き消えて。
 横でオルミナさんが力を使い果たしたかのように僕の横でがっくりと膝をついていた。


「風戸君、セリエは?」


 都笠さんの声がして、ようやく何が起きたのか頭が理解した。





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