僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
落とし穴の予感。
ギルド所属の探索者やジェレミー公の旗下の従士たちと一緒に目白駅まで来た。とりあえずは此処を拠点にするということらしい。
この間の夜の戦いで撃った僕の魔弾の射手と都笠さんのM2で、線路沿いの路地の入口に弾の後が残っているけど、それ以外は特に前と変わっていない。
見通しのいい駅前の通りにも特にレブナントとか魔獣の姿はなかった。
行く前に、通信機をオルゾンさん、ノエルさん、フェイリンさんに配った。
一応、全員に簡単に使い方を教えておくけど……なんせ初めて見るもので、おそらく理解を超えるものだし、果たして使えるのかはわからない。
ずっと塔の廃墟にいるフェイリンさんは使えそうだけど、ノエルさんとオルゾンさん達はちょっと怪しいな。
「いつでも連絡が取れるようにしておきます」
ギルドの職員が言う。
とりあえず本部と連絡が出来るのは有り難い。でも本部に連絡をする時は、多分援護を求めるときだろう。あまりそういう状況にはなりたくないな。
ヴァンパイアを倒した、という報告をできるのが一番いいと思うけど。
「何かあっても安心いたせ、援護にいけるように備えておいてやるゆえにの」
ダナエ姫が言う。ここにはブレーメンさんはいないけど。オルドネス家の代官であるジェレミーさんは来ている。ちょっと不満げに顔をしかめた
◆
今回は明治通りに止まっていたトラックを動かしていくことにした。
8人乗りのミニバンとかでもいいけど、サイズがある方がいい、という都笠さんの希望にそうことになった。トラックは六本木でも動かしたな。
ただ、都笠さんとしてはまだ不満気ではある。
「こういう時は自衛隊の車両が欲しいわ……高機動車か……理想は装甲車なんだけどね」
都笠さんが顔をしかめて言う。
「今回は前みたいにワイバーンと追いかけっことかはしなさそうだし、重装甲でレブナントを蹴散らせるくらいの方がいいのよね」
都笠さんがぼやくけど……都内に装甲車を置いている駐屯地なんてあるんだろうか。
とりあえず目指すはサンシャインシティにした。セリエやラティナさんによればその辺にレブナントが多く居たらしい。
ギルドの情報によればレブナントは、死霊遣いの使い手が操作できるらしい。つまりどこかに集まっているってことは、たまたまそこに密集している、というわけではなくて、使い手の意思が反映しているってことだ。
もちろんそこに死霊遣いの使い手がいると確定したわけじゃないけど、一つの手がかりにはなるだろう。
車が止まっていたのも丁度良かったので、池袋までは明治通りを行くことにした。
今までの経験から、広い道の方が見通しがいい分、奇襲は受けにくいし、大きな道だから横道も多い。まっすぐしか走れない道は危険だ。
池袋に何があるか分からないけど、行くまではリスクを避けるに越したことはない。
唸るようなエンジン音を立てて、都笠さんが運転するトラックが明治通りの緩い坂を上っていく。
運転席には都笠さん、それ以外はみんな荷台に乗っている。座り凸凹した鉄の荷台は座り心地はヒドイけど、だれからも文句は出なかった。
まあ、あの乗り心地最悪のガルフブルグの駅馬車に比べれば、こっちの方がマシか。
探索者の二人であるオルゾンさんとペルサックさん、それにノエルさんは車が動いているのを見るのは多分初めてだろう。最初はトラックに驚いていたけど、すぐに順応した。
この辺は様々な戦場や状況を潜り抜けてきたベテランならではかもしれない。
「すげえな、スミトよお。
こりゃ、バスキアの殿様やうちのお姫様があんたにご執心なのも分かるぜ」
「これが沢山動かせれば……確かに防御陣形なんで無意味だな」
ノエルさんとオルゾンさんが話している。まあ確かにこんなのが戦場にわらわら現れたら。既存の戦術じゃ対応できないだろう。
まあトラックを動かすのは管理者の2階層が必要で、今のところ僕以外だと4階層が最高だから、なかなかにハードルは高いだろうけど。
明治通りは特に動きはない。いい加減見慣れた、色とりどりのビルとマンションで囲まれた、静かな谷間のような道。
広い4車線道路を障害物のように車が塞ぎ、道の脇にはまばらに街路樹が並んでいた。時々ある信号を背の高いノエルさんが首をすくめて躱している
今のところレブナントは居ない。
ただ、何かを引きずった足跡のようなものが灰色のコンクリートと白線を汚すように残っている。ルート的にも、目白を襲ってきたレブナントは此処の道をたどってきたんだろうな。
暫く進むと、道の真ん中を隔てるように赤いポールが並んで、その向こうに大きな青看板が見えてきた。
四差路の看板だ。まっすぐ行くと池袋東口。斜めにそれると護国寺。
「駅前を抜けて行くわ!」
都笠さんがエンジン音に負けないように、大きめの声で呼びかけてくる
「それでいいと思う」
セリエやラティナさんの偵察によれば、サンシャインシティが一番怪しいようだけど、確定じゃない。とりあえずサンシャインシティに行ってみて様子を伺うという手はずだ。
ヴァンパイアがそこにいれば戦闘になるかもしれない。いなければ威力偵察的になるかもしれない。こればかりは状況次第だな。
駅に近づくにつれて、左右にそびえるビルがマンションからオフィスビルに変わっていく。
「風戸君、地図、見れる!?」
「あー、やろうか」
運転席から都笠さんの声が聞こえる。
管理者の第二階層で、階層地図表記の上位版が使えるようになった。それのことを言っているんだろう。
カーナビが装備されていればよかったけど、トラックにはついてなかった。
「管理者、起動、周辺地図接続」
目の前に、階層地図表記と同じような、ワイヤーフレームで形成されたような周辺の地図が現れる。簡易版カーナビって感じの能力だ。
ただ、あくまで僕自身を中心にした道しか分からないからカーナビのように遠くを見れない。でも、周りの道はかなりの精度で見ることができる。見れる範囲を広げると猛烈に消耗が激しいのが難点だ。
ナビが出来るほど道に詳しければいいんだけど、駅からサンシャインまで歩いたことはあるけど結構前だし、うろ覚えなところもある。
ワイヤーフレームの地図にはご丁寧に南池袋1丁目の表記まで出ていた。
目の前に迫る五叉路。正面にはカラオケのビルが建っていて、中州で左右に分かれる川のように道が分岐している
「右に行って!」
「了解」
トラックがうなりを上げて右に進路を変える。
分岐を左に行くと駅前に行くけど単なる遠回りだ。
右横にも道はあるけど、ワイヤーフレームのような地図で見ても分かるほど狭い。狭い道には入らない方がいい。
駅に近づくと、次第に見覚えがある池袋の景色になる。カラフルな居酒屋の看板とオフィスビルが混在する街並み。
そして、この辺になると、時々まばらにレブナントが立っていた。でもあの足では車には追いつけないし、前に立ちふさがるやつはトラックが跳ね飛ばす。この辺は相変わらず容赦ないな。
「本当に誰もいませんねぇ」
「あの時の襲撃でレブナントはほぼ全滅したということだろうか」
オルゾンさんとフェイリンさんが言葉を交わす。
しばらく進むとまた五差路に出た。改めて来ると、池袋は結構道が複雑だな。左側には駅が見える。右側は幅が広い道だけど、分離帯が道を分断していた。
確か斜めに伸びる道は、ゲーセンとか映画館がある道だけど、結構狭いはずだ。歩行者天国になってた気がする。
「右で!」
「了解」
運転席に声を掛けると、トラックが右折した。
このまままっすぐ行って、どこかで左に曲がればサンシャインシティだ。ワイヤーフレームの地図の端にサンシャインの表示が現れる。
このままサンシャインまで辿り着いたら……ヴァンパイアと戦うってことになるんだろうか。
いろんな魔獣と戦ってきたけど、いちばん正体が分からない相手だ。
ワイバーンと戦った時は無我夢中だったけど……今回みたいに、敵がいるのが明らかでそれを倒さないといけないっていう、いわゆる討伐任務は初めてだ。僕等で倒せるんだろうか
向こうの方に首都高の高架が見えてきて、高架の下にトラックが入る。少し周りが暗くなった。
都笠さんから、ナビをするようにという指示はもうしてこない。時々看板が出ているし、もう都笠さんにも道が分かってるんだろう。
相変わらずレブナントの姿は見えない。何とも不穏な静けさだ。静かな町にトラックのエンジン音だけが響く。
いつしか誰もしゃべらなくなった。豪快なノエルさん、いつもほんわかした雰囲気のフェイリンさんも緊張した顔であたりを窺っている。
トラックが左に曲がって路地に入った。ビルの向こうにサンシャインのビルがちらちらと見えてくる。目的地はもう間近だ。
このままたどり着けるか……と思った時。表示したままの地図に見慣れない三角の表示が見えた。
「なんだ、これ?」
「みんな!つかまって!」
その正体が分かるより早く。都笠さんの警告が聞こえて、同時にトラックが前のめりになって、止まった。
◆
「どうしたの?」
荷台で立ち上がって前を見る。トラックの前には、車が広めの二車線道路をふさぐように並んでいた。
今までのように、ランダムな障害物のように残されているんじゃない。意図的に道をふさぐように、歩道までバリケードのように並べられている。
「ご主人様!」
「おい、やべぇぞ!」
ぞろぞろと周りの雑居ビルからレブナントの群れが出てきた。兵士の戦列の様だ。後ろを振り返ると、戻る路地もレブナントの群れにふさがれている。
隠れていたのか。というか……もしかしてこっちの行動が読まれてたのか?
そして数が尋常じゃない。先日の夜襲であれだけ倒したのにまだこれだけいるってどういうことだ
◆
「ペルサック!」
流石のベテランなのか、我に返ったのが一番早かったのは、ペルサックさんとオルゾンさんのコンビだった。
「分かってる!
【我を守護せし戦乙女。その手に掲げし槍を我に与えよ!光あれ、闇よ祓え!】」
ペルサックさんが詠唱を済ませると、指先から白い光がレーザーのように伸びてレブナントを薙ぎ払った。白い光に切り裂かれて、輪切りにされたレブナント10体近くバタバタと倒れて消えていく。
勿論一緒に戦うのは初めてだけど、流石の火力だ。
「あっち行ってよ!」
ユーカがフランベルジュを振るとレブナントの群れの真ん中で炎の柱が吹き上がった。焼かれたレブナントが倒れる。
「【てめえらの首に縄をつけるようなクソ野郎の言うことなんて聞く必要はねぇ
俺が解き放ってやる、ゆっくり眠ってろ!】」
ノエルさんが槍を掲げて詠唱する。
白い光が地面から沸き上がった。光に包まれたレブナントが20体ほど、ばらばらと解けるように消えていく。
攻撃の威力で倒したって感じじゃない。文字通り光の中に消えていったって感じだ。これが鎮魂歌か、さすがの聖堂騎士だな。
だけど。
「なんだ、こいつら、数多すぎんぞぉ」
ノエルさんが呆れたような声を上げた。
鎮魂歌やペルサックさんの魔法で一瞬数が減ったけど。まだ雑居ビルからつぎつぎとレブナントがあふれてきて、人で埋め尽くされた歩道状態になる。
トラックの荷台に群がったレブナントが剣を振り下ろしてきた。統制は全く取れてないけど、数が多くてかなり圧力がある。
オルゾンさんの長刀とノエルさんの槍が剣を払いのけてレブナントを突き倒した。僕も銃剣でレブナントの頭を突き刺す。
セリエたちの魔法やユーカの炎がさく裂する。
でも、とにかく数が多い。異常なくらいに多い。倒しても次々とビルの中や路地からレブナントがあふれて、祭りの人混みかゾンビ映画のように通りを埋め尽くす。剣を提げたレブナントが迫ってくるのはかなり圧力がある。
魔法はどうしても詠唱の時間があるから絶え間なくは打ち続けられないし、魔力の限界もある。
「本当に減らしたのかよ、スミトよぉ」
「この前だけで200体は倒してますよ!」
いっそ遺体が残ってくれればバリケード代わりになるのかもしれないけど、いまは倒すと消えてしまうのが仇になってる。
運転席からも銃声が響いた。
「あっち行きなさい!」
運転席にドアをこじ開けようとして取り付いたレブナントの頭に、都笠さんが至近距離からハンドガンをたたき込んでいる。
頭を吹き飛ばされたレブナントが倒れるけど、すぐに次のレブナントがドアに群がる。
「スズさん!」
フェイリンさんが叫ぶと、トラックの運転席の屋根に飛び乗った。
運転席に押し入ろうとするレブナントの頭を蹴り飛ばす。
「竜殺しよ、このままではどうにもならん!道を切り開くぞ!」
オルゾンさんが長刀でレブナントを3体まとめて薙ぎ払いつつ言う。
魔法だけじゃ押しとどめられないし、そもそも切りがない。それに戦うにせよ逃げるにせよ、ここで魔法連発で消耗しきってしまうわけにもいかない。
「セリエ、皆に防御を!」
「ご主人様、お気をつけて!
【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」
「【哀れな死に損ない共よ。俺が墓穴に送り返してやるぜ】」
ノエルさんの槍が白い光で包まれた。
なんとか、トラックのの前か後ろか、道を開けて体勢を立て直さないと。
この間の夜の戦いで撃った僕の魔弾の射手と都笠さんのM2で、線路沿いの路地の入口に弾の後が残っているけど、それ以外は特に前と変わっていない。
見通しのいい駅前の通りにも特にレブナントとか魔獣の姿はなかった。
行く前に、通信機をオルゾンさん、ノエルさん、フェイリンさんに配った。
一応、全員に簡単に使い方を教えておくけど……なんせ初めて見るもので、おそらく理解を超えるものだし、果たして使えるのかはわからない。
ずっと塔の廃墟にいるフェイリンさんは使えそうだけど、ノエルさんとオルゾンさん達はちょっと怪しいな。
「いつでも連絡が取れるようにしておきます」
ギルドの職員が言う。
とりあえず本部と連絡が出来るのは有り難い。でも本部に連絡をする時は、多分援護を求めるときだろう。あまりそういう状況にはなりたくないな。
ヴァンパイアを倒した、という報告をできるのが一番いいと思うけど。
「何かあっても安心いたせ、援護にいけるように備えておいてやるゆえにの」
ダナエ姫が言う。ここにはブレーメンさんはいないけど。オルドネス家の代官であるジェレミーさんは来ている。ちょっと不満げに顔をしかめた
◆
今回は明治通りに止まっていたトラックを動かしていくことにした。
8人乗りのミニバンとかでもいいけど、サイズがある方がいい、という都笠さんの希望にそうことになった。トラックは六本木でも動かしたな。
ただ、都笠さんとしてはまだ不満気ではある。
「こういう時は自衛隊の車両が欲しいわ……高機動車か……理想は装甲車なんだけどね」
都笠さんが顔をしかめて言う。
「今回は前みたいにワイバーンと追いかけっことかはしなさそうだし、重装甲でレブナントを蹴散らせるくらいの方がいいのよね」
都笠さんがぼやくけど……都内に装甲車を置いている駐屯地なんてあるんだろうか。
とりあえず目指すはサンシャインシティにした。セリエやラティナさんによればその辺にレブナントが多く居たらしい。
ギルドの情報によればレブナントは、死霊遣いの使い手が操作できるらしい。つまりどこかに集まっているってことは、たまたまそこに密集している、というわけではなくて、使い手の意思が反映しているってことだ。
もちろんそこに死霊遣いの使い手がいると確定したわけじゃないけど、一つの手がかりにはなるだろう。
車が止まっていたのも丁度良かったので、池袋までは明治通りを行くことにした。
今までの経験から、広い道の方が見通しがいい分、奇襲は受けにくいし、大きな道だから横道も多い。まっすぐしか走れない道は危険だ。
池袋に何があるか分からないけど、行くまではリスクを避けるに越したことはない。
唸るようなエンジン音を立てて、都笠さんが運転するトラックが明治通りの緩い坂を上っていく。
運転席には都笠さん、それ以外はみんな荷台に乗っている。座り凸凹した鉄の荷台は座り心地はヒドイけど、だれからも文句は出なかった。
まあ、あの乗り心地最悪のガルフブルグの駅馬車に比べれば、こっちの方がマシか。
探索者の二人であるオルゾンさんとペルサックさん、それにノエルさんは車が動いているのを見るのは多分初めてだろう。最初はトラックに驚いていたけど、すぐに順応した。
この辺は様々な戦場や状況を潜り抜けてきたベテランならではかもしれない。
「すげえな、スミトよお。
こりゃ、バスキアの殿様やうちのお姫様があんたにご執心なのも分かるぜ」
「これが沢山動かせれば……確かに防御陣形なんで無意味だな」
ノエルさんとオルゾンさんが話している。まあ確かにこんなのが戦場にわらわら現れたら。既存の戦術じゃ対応できないだろう。
まあトラックを動かすのは管理者の2階層が必要で、今のところ僕以外だと4階層が最高だから、なかなかにハードルは高いだろうけど。
明治通りは特に動きはない。いい加減見慣れた、色とりどりのビルとマンションで囲まれた、静かな谷間のような道。
広い4車線道路を障害物のように車が塞ぎ、道の脇にはまばらに街路樹が並んでいた。時々ある信号を背の高いノエルさんが首をすくめて躱している
今のところレブナントは居ない。
ただ、何かを引きずった足跡のようなものが灰色のコンクリートと白線を汚すように残っている。ルート的にも、目白を襲ってきたレブナントは此処の道をたどってきたんだろうな。
暫く進むと、道の真ん中を隔てるように赤いポールが並んで、その向こうに大きな青看板が見えてきた。
四差路の看板だ。まっすぐ行くと池袋東口。斜めにそれると護国寺。
「駅前を抜けて行くわ!」
都笠さんがエンジン音に負けないように、大きめの声で呼びかけてくる
「それでいいと思う」
セリエやラティナさんの偵察によれば、サンシャインシティが一番怪しいようだけど、確定じゃない。とりあえずサンシャインシティに行ってみて様子を伺うという手はずだ。
ヴァンパイアがそこにいれば戦闘になるかもしれない。いなければ威力偵察的になるかもしれない。こればかりは状況次第だな。
駅に近づくにつれて、左右にそびえるビルがマンションからオフィスビルに変わっていく。
「風戸君、地図、見れる!?」
「あー、やろうか」
運転席から都笠さんの声が聞こえる。
管理者の第二階層で、階層地図表記の上位版が使えるようになった。それのことを言っているんだろう。
カーナビが装備されていればよかったけど、トラックにはついてなかった。
「管理者、起動、周辺地図接続」
目の前に、階層地図表記と同じような、ワイヤーフレームで形成されたような周辺の地図が現れる。簡易版カーナビって感じの能力だ。
ただ、あくまで僕自身を中心にした道しか分からないからカーナビのように遠くを見れない。でも、周りの道はかなりの精度で見ることができる。見れる範囲を広げると猛烈に消耗が激しいのが難点だ。
ナビが出来るほど道に詳しければいいんだけど、駅からサンシャインまで歩いたことはあるけど結構前だし、うろ覚えなところもある。
ワイヤーフレームの地図にはご丁寧に南池袋1丁目の表記まで出ていた。
目の前に迫る五叉路。正面にはカラオケのビルが建っていて、中州で左右に分かれる川のように道が分岐している
「右に行って!」
「了解」
トラックがうなりを上げて右に進路を変える。
分岐を左に行くと駅前に行くけど単なる遠回りだ。
右横にも道はあるけど、ワイヤーフレームのような地図で見ても分かるほど狭い。狭い道には入らない方がいい。
駅に近づくと、次第に見覚えがある池袋の景色になる。カラフルな居酒屋の看板とオフィスビルが混在する街並み。
そして、この辺になると、時々まばらにレブナントが立っていた。でもあの足では車には追いつけないし、前に立ちふさがるやつはトラックが跳ね飛ばす。この辺は相変わらず容赦ないな。
「本当に誰もいませんねぇ」
「あの時の襲撃でレブナントはほぼ全滅したということだろうか」
オルゾンさんとフェイリンさんが言葉を交わす。
しばらく進むとまた五差路に出た。改めて来ると、池袋は結構道が複雑だな。左側には駅が見える。右側は幅が広い道だけど、分離帯が道を分断していた。
確か斜めに伸びる道は、ゲーセンとか映画館がある道だけど、結構狭いはずだ。歩行者天国になってた気がする。
「右で!」
「了解」
運転席に声を掛けると、トラックが右折した。
このまままっすぐ行って、どこかで左に曲がればサンシャインシティだ。ワイヤーフレームの地図の端にサンシャインの表示が現れる。
このままサンシャインまで辿り着いたら……ヴァンパイアと戦うってことになるんだろうか。
いろんな魔獣と戦ってきたけど、いちばん正体が分からない相手だ。
ワイバーンと戦った時は無我夢中だったけど……今回みたいに、敵がいるのが明らかでそれを倒さないといけないっていう、いわゆる討伐任務は初めてだ。僕等で倒せるんだろうか
向こうの方に首都高の高架が見えてきて、高架の下にトラックが入る。少し周りが暗くなった。
都笠さんから、ナビをするようにという指示はもうしてこない。時々看板が出ているし、もう都笠さんにも道が分かってるんだろう。
相変わらずレブナントの姿は見えない。何とも不穏な静けさだ。静かな町にトラックのエンジン音だけが響く。
いつしか誰もしゃべらなくなった。豪快なノエルさん、いつもほんわかした雰囲気のフェイリンさんも緊張した顔であたりを窺っている。
トラックが左に曲がって路地に入った。ビルの向こうにサンシャインのビルがちらちらと見えてくる。目的地はもう間近だ。
このままたどり着けるか……と思った時。表示したままの地図に見慣れない三角の表示が見えた。
「なんだ、これ?」
「みんな!つかまって!」
その正体が分かるより早く。都笠さんの警告が聞こえて、同時にトラックが前のめりになって、止まった。
◆
「どうしたの?」
荷台で立ち上がって前を見る。トラックの前には、車が広めの二車線道路をふさぐように並んでいた。
今までのように、ランダムな障害物のように残されているんじゃない。意図的に道をふさぐように、歩道までバリケードのように並べられている。
「ご主人様!」
「おい、やべぇぞ!」
ぞろぞろと周りの雑居ビルからレブナントの群れが出てきた。兵士の戦列の様だ。後ろを振り返ると、戻る路地もレブナントの群れにふさがれている。
隠れていたのか。というか……もしかしてこっちの行動が読まれてたのか?
そして数が尋常じゃない。先日の夜襲であれだけ倒したのにまだこれだけいるってどういうことだ
◆
「ペルサック!」
流石のベテランなのか、我に返ったのが一番早かったのは、ペルサックさんとオルゾンさんのコンビだった。
「分かってる!
【我を守護せし戦乙女。その手に掲げし槍を我に与えよ!光あれ、闇よ祓え!】」
ペルサックさんが詠唱を済ませると、指先から白い光がレーザーのように伸びてレブナントを薙ぎ払った。白い光に切り裂かれて、輪切りにされたレブナント10体近くバタバタと倒れて消えていく。
勿論一緒に戦うのは初めてだけど、流石の火力だ。
「あっち行ってよ!」
ユーカがフランベルジュを振るとレブナントの群れの真ん中で炎の柱が吹き上がった。焼かれたレブナントが倒れる。
「【てめえらの首に縄をつけるようなクソ野郎の言うことなんて聞く必要はねぇ
俺が解き放ってやる、ゆっくり眠ってろ!】」
ノエルさんが槍を掲げて詠唱する。
白い光が地面から沸き上がった。光に包まれたレブナントが20体ほど、ばらばらと解けるように消えていく。
攻撃の威力で倒したって感じじゃない。文字通り光の中に消えていったって感じだ。これが鎮魂歌か、さすがの聖堂騎士だな。
だけど。
「なんだ、こいつら、数多すぎんぞぉ」
ノエルさんが呆れたような声を上げた。
鎮魂歌やペルサックさんの魔法で一瞬数が減ったけど。まだ雑居ビルからつぎつぎとレブナントがあふれてきて、人で埋め尽くされた歩道状態になる。
トラックの荷台に群がったレブナントが剣を振り下ろしてきた。統制は全く取れてないけど、数が多くてかなり圧力がある。
オルゾンさんの長刀とノエルさんの槍が剣を払いのけてレブナントを突き倒した。僕も銃剣でレブナントの頭を突き刺す。
セリエたちの魔法やユーカの炎がさく裂する。
でも、とにかく数が多い。異常なくらいに多い。倒しても次々とビルの中や路地からレブナントがあふれて、祭りの人混みかゾンビ映画のように通りを埋め尽くす。剣を提げたレブナントが迫ってくるのはかなり圧力がある。
魔法はどうしても詠唱の時間があるから絶え間なくは打ち続けられないし、魔力の限界もある。
「本当に減らしたのかよ、スミトよぉ」
「この前だけで200体は倒してますよ!」
いっそ遺体が残ってくれればバリケード代わりになるのかもしれないけど、いまは倒すと消えてしまうのが仇になってる。
運転席からも銃声が響いた。
「あっち行きなさい!」
運転席にドアをこじ開けようとして取り付いたレブナントの頭に、都笠さんが至近距離からハンドガンをたたき込んでいる。
頭を吹き飛ばされたレブナントが倒れるけど、すぐに次のレブナントがドアに群がる。
「スズさん!」
フェイリンさんが叫ぶと、トラックの運転席の屋根に飛び乗った。
運転席に押し入ろうとするレブナントの頭を蹴り飛ばす。
「竜殺しよ、このままではどうにもならん!道を切り開くぞ!」
オルゾンさんが長刀でレブナントを3体まとめて薙ぎ払いつつ言う。
魔法だけじゃ押しとどめられないし、そもそも切りがない。それに戦うにせよ逃げるにせよ、ここで魔法連発で消耗しきってしまうわけにもいかない。
「セリエ、皆に防御を!」
「ご主人様、お気をつけて!
【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」
「【哀れな死に損ない共よ。俺が墓穴に送り返してやるぜ】」
ノエルさんの槍が白い光で包まれた。
なんとか、トラックのの前か後ろか、道を開けて体勢を立て直さないと。
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