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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

池袋強襲計画。

 翌日。
 辛うじてレブナントの攻勢をしのぎはしたものの、明るくなって分かったのは損害の大きさだった。


 防衛に当たった探索者やジェレミー公の従士には死者が出た。高田馬場の駅前で戦っていた従士たちはまだマシだったけど。
 特にひどかったのが山手線を挟んで西側の神田川に架かる橋を守っていた探索者達で、二か所の橋を20人近い人数で守っていたらしいけど、ほぼ全滅だった。


 駅構内に寝かされた遺体を見るとなんとも言えない気分になる。
 幸いにもあまり今まで死人が出るということはなかったけど……こういうのを見ると死と隣り合わせの環境だってことを改めて思い知らされる。


「すみません、竜殺し殿」


 高田馬場駅前に居たらミハエルさんが声を掛けてきた。疲れた顔で、鎧も傷だらけ、服にも血のシミが点いている。
 そういえば彼も西側の防御についてたんだっけ。


「あまりの数に押し込まれました。私以外は全員……」
「そうですか……でも、あなたが無事でよかったですよ」


 傷を負いつつもどうにか逃げ延びて雑居ビルの2階に隠れていたらしい。まあ死なずに済んでよかったと思う。


 ミハエルさん以外にも怪我人は多い。
 高田馬場の天幕を簡単に貼り直してそこで魔法や回復のポーションを使って治療が行われている。
 ただ、これは自分でも経験があるんだけど。魔法やポーションで傷は治せる。ただ、痛いという感覚までは消えるわけじゃない。
 魔法をかけてもらってからって、すぐに戦線復帰が出来るかっていうと、それとは別の問題だ。


 それに、当たり前なんだけど、精神的なものもある。怪我をすれば痛いし、その感覚は胸に刻まれる。
 ゲームじゃないんだから、大きなけがをしても、傷が治ればすぐにまた戦うなんていうのは、なかなか難しいと思う。





 警戒を続けてはいたけど、とりあえず何事もなく2日間が過ぎた。
 今日は渋谷からジェレミー公やオルドネス公、ブレーメンさんやフェイリンさん達が来て、前と同じく駅前のコンビニ跡地で対策会議だ。


「現状はどうだね?」


 ジェレミー公が口を開く。


「セリエ、どうかな?」
「はい。
とりあえずご主人様が言われたところまで使い魔を飛ばしましたが、レブナントは居ないようです」


 この間、セリエは疲れているだろうに、また使い魔ファミリアで池袋を空から偵察をし続けてくれている。
 使い魔は飛ばしている間は消耗し続ける、かなり疲れるスロット能力だ。気力回復のポーションを飲んではいるけど、これはあくまで魔法を使い続けられるというだけで、疲労までは抜けない。


「ボクも見てキタけど、レブナントはモウいなかっタね」


 ラティナさんがそう言って、ハンディカムで取ってきた動画を見せてくれる。
 動画に映っているのは、ビルの上から見下ろした池袋の街並みだ。あの身軽になるスロット能力でビルの上を飛び回って撮ってきたらしい。


 池袋を見るのも久しぶりだ。元の東京では時々行っていたけど。
 見慣れたサンシャイン通りの黒っぽい石畳と街路樹。ドラッグストアや靴屋、ゲームセンターにレストランの看板。


 いつもは歩行者天国だった道だけど、視点を変えるて上から見ると随分イメージが違って見えるな
 サンシャイン通りやそこから枝分かれした細い路地に、レブナントが歩哨のように立っているけど、それ以外は閑散とした感じだった。


「歩哨が多いのはこのあたりだったと思います」


 セリエが地図を指さす。


「大きな塔が3つ並んでいました」


 サンシャインシティか。ヴァンパイアはそこに潜んでいるんだろうか。


「もしそのヴァンパイアとやらがどんどんレブナントを作れるなら早めに仕掛けたほうがいいと思うけど」
「同感ですねぇ」


 都笠さんが言って、フェイリンさんが同意を示す。
 死霊遣いネクロマンサーとやらは、どのくらいのスピードでレブナントを作れるんだろう。
いくら何でもあれだけの数を一気にそろえるのは無理だろうけど……また数が増えるのならその前に倒せるのが理想ではある。


 あの夜に襲ってきたレブナントの数は正確には分からない、というのは倒した残骸は消えてしまうからだ。
 でも学習院下の交差点を襲ってきた奴だけで100体は超えていた。全体で見れば400体かそれ以上はいたっぽい。あれが全戦力だったんだろうか。


「レブナントが居ない今なら強襲で直接ヴァンパイアを仕留められるのではないか?
ジェレミー、オルドネス旗下の家への招集はどうなっている」


 ブレーメンさんが言う。


「もう少し時間がかかります」


 冷静な口調でジェレミー公が言う。
 電話を掛けて即連絡が取れて、集合場所まで車や飛行機ですぐ来れる世界じゃない。
 伝令を出して、領地とかから移動してきてっていうなら、すぐには戦力が整うってわけにはいかないだろう。


「フェイリン、ギルドの探索者はどうなっている?」


 冷静なジェレミー公と違ってイラついたって感じの口調でブレーメンさんが言う。
 なんとなく、こういう戦闘の指揮は慣れてないのかって感じがするな。


「それが……どうもソヴェンスキが国境に兵を集めているようでぇ」
「なんだと?……確かか、ジェレミー?」
「まだ確定ではないようですが……バスキア大公が警戒にあたっておられるとのことです」


 その言葉を聞いてブレーメンさんが舌打ちした。
 ソヴェンスキとやらはバスキア公が以前言っていた、ガルフブルグの隣国だ。関係は良くないって話だったけど……戦争になるんだろうか。


「そちらに傭兵として行っている者が多いようなんですよぉ」


 フェイリンさんが言う。
 探索者は傭兵と兼任というかどっちもやっている人は多いって話だ。アーロンさんも昔は傭兵をしていたそうだし。
 戦争がはじまりそうならそっちに流れてしまうんだろう。しかし何とも間の悪い話だな。


 強襲を掛けれるのが理想だけど、明らかに現有戦力では足りないし、オルドネス公の旗下の人がそろうにも時間がかかる。
 ただ、そうしているうちにまたレブナントの数が増えてしまうと元の木阿弥だ。


 みんなが黙りこくったところで。ジェレミー公の従士が会議している部屋に駆け込んだ来た。


「何事だ?」


 ジェレミー公が誰何する。


「……それが……」
「失礼するぞ、ブレーメン殿」


 従士の人が答えるより早く、そういって入ってきたのは、ダナエ姫だった





 いい加減見慣れた弓道衣装のような袴姿に、これまたいつも通り着物をマントのように羽織っていた。今日のは白黒の落ち着いた少し地味な感じだけど。
 僕等の方を一瞥して少し微笑ってくれる。
 籐司朗さんが後ろに控えていることも同じだけど、もう一人お付きの男がいるのがいつもと違った。


 2m近い長身で窮屈そうに入り口をくぐってくる。
 巨漢という感じで、背も高いけど体も大きい。羽織った外套の上からでもわかるくらいの、プロレスラーとかアメフト選手みたいな肉の塊のような体形だ。
 マントの袷から覗く白い礼装の襟元がはちきれそうになっている。


 年は40歳くらいだろうか。
 濃い茶髪を後ろでポニーテールのように縛っていて、整えられたもみあげと顎髭がつながっている。眼光鋭い顔には横に一筋傷があった。ちょっとワイルドな感じだ。


「……なぜ貴女がここに居る?」


 険悪な口調でブレーメンさんが言うけど。


「知っておるぞ……ヴァンパイアが出たということをな」


 それを受け流すようにダナエ姫が直球で答えた。一瞬、部屋がざわめく。
 何で知ってるんだ、と思ったけど。
 探索者の中に誰かブルフレーニュ家の息がかかった協力者がいれば、情報を把握するくらいなら難しくないか。


「ヴァンパイアは4大公家が総がかりで当たるべき相手と思うての。こうして参ったわけじゃ」


 ブレーメンさんが顔をしかめて手を振る。


「ここは我がオルドネスの管理地だ。ブルフレーニュの出る幕では……」
「そう申すな、ブレーメン殿。今はそんなことを言っている場合ではなかろ?
急に招集をかけても手勢は集まるまい」


 ダナエ姫が言って、ブレーメンさんが言葉に詰まったように口ごもる。


「だからと言って、ブルフレーニュの力は借りぬ。余計な口出しは……」
「今や我が妹に御主らの家からゼーヴェン殿が婿入りして居るではないか。
我等はもはや親族であろうが」


 ダナエ姫が言い返してブレーメンさんが口ごもった。


「それに、こ奴はやくにたつぞ。なんせ葬送曲レクイエムの使い手であるからの
聖堂騎士ホーリーオーダーに連なるものじゃ」


 そういうと、フェイリンさんとジェレミー公が驚いたような声を上げて男を見る。


聖堂騎士ホーリーオーダーってなに?」
「不死系の魔獣を討伐するために教会に属していた家ですね」


 セリエが答えてくれる。


「かつては不死系の魔獣が多く出た時期があったのです。戦争が多い時代に。
不死系の魔獣は種類によりますが、総じてしぶとく倒しにくい相手が多かったので厄介でした」
「ですが……今は、そこまで不死系の魔獣が多く出るわけでもありませんしぃ。
探索者の討伐の能力も上がっていますのでねぇ」


 専門家が要らなくなってしまった、ということかな。
 葬送曲レクイエムとやらも珍しいスロット能力なんだろうか。


葬送曲レクイエムってそんなにレアな能力なんですか?」


 なんとなく多分不死系の魔獣とかに効くようなスキルなんだろうけど。


「いえ、習得可能な者は結構いるはずです」
「ただねぇ、実戦経験を積んだ使い手は少ないんですよぉ」


「なんでですか?」
「対不死系には絶大な効果を表しますが、それ以外に使い道のないスキルですからねぇ」


 フェイリンさんが小声で教えてくれる。
 ……なるほど。そういえば都笠さんの兵器工廠アーセナルについてもそんな感じで使われないスキルだったってオルミナさんが言っていたな。
 使い道が限定されるスキルをあえてとる奴はいない、か。


 スロットの枠に限りがある以上、そしてそれで立身を望むなら。
 使いどころの少ないスキルよりも汎用性が高くて便利なものを取るのはまあ当たり前なのか。


「妾からの頼みじゃ。いかがであろうか、ブレーメン殿
ブルフレーニュ家のものではなく、ゼーヴェン殿の義姉として」


「……何のつもりだ」
「何もない。言葉通りの意味じゃよ」


 ブレーメンさんが探るようにダナエ姫を見る。
 ダナエ姫はいつもと変わらない凛とした視線でその眼を見つめ返した。


「本当に強襲をかけるなら戦力は少しでも大きい方がいいと思いますけど
……というか、足りない戦力で特攻させられるのは嫌ですよ」


 前の他家の介入を拒むブレーメンさんの姿を見ていると、拒絶の理由を探しているんだろう、というのは分かったけど。
 こっちとしては、そんなことをされて援軍を拒絶されちゃたまらない。


 池袋にいるのがヴァンパイアなのか、それ以外なのか。厳密にはまだ分からない。
 でも、あのレブナントを蹴散らせるならそれだけで十分助かる。数が多い敵はそれだけでこっちの体力と魔力を削ってくる。
 RPGじゃないけど、ラストダンジョンでラスボス前に消耗するのはできるだけ避けたい。強い人は一人でもいる方がいい。
 それに、葬送曲レクイエムとやらがヴァンパイアに有効ならやっぱり頼りになるだろう。


「あたしも同感だわ」
「失礼ながらぁ、私もそう思いますねぇ。成功率は少しでも上げたいですしぃ」


 都笠さんと僕、それにフェイリンさんの言葉を聞いてブレーメンさんが苦々し気な顔をする。


「一人だけだ。それなら許可する」


 そう言って、ブレーメンさんが部屋を出て行った。







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