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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

逃走中に援軍が合流する。

 右手にはガラス張りのショッピングビル、左手は道にせり出した木が茂る学習院大のキャンパスが、ハイビームに照らされて黒い壁のようにぼんやりと浮かび上がる。
 暗さも相まって深い谷底の道を走っているかのようだ。


「ヤバい!」


 サイドミラーを見ていると、突然都笠さんが声を上げた。
 前を見る。左の土手の上、暗い森のようになっている学習院のキャンパスからグールが次々と飛び降りてきてきたのが見えた。
 ヘッドライトに黄色いオーラを纏った不気味な姿が浮かび上がる。道をふさがれた。


「くっ」


 都笠さんがあわててブレーキを踏んでハンドルを切った。視界が回って、スキール音が響く。車がハーフスピンのように大きく右に振られた。
 立て続けに車体に振動が走って、柔らかいものがつぶれるような嫌な音がした。車体がバランスを崩してガードレールにこすれる。
 同時に爆発音とともにエアバッグが膨らんだ。


「きゃあ!」
「このっ!」


 誰かの悲鳴と金属がこすれ合う音と衝撃、木がへし折れる音がして、車が下から突き上げられて止まった。
 幸運にも、なのか、都笠さんの腕によるのか分からないけど。車体が歩道の生垣に乗り上げていた。あと2m右だったら電信柱に直撃だった。


「降りるんだ」


 エンジンはまだかかってるけど、エアバッグが開いた状態じゃ走れない


 学習院のキャンパスから進路をふさぐように何体かのグールが飛び降りてきた。 
 目白の方からもさっきの群れが追いかけて来てる。黄色いもやのような光が立ち上っているのが見えた。
 右はマンション、左は学習院大学のキャンパス。脇道はない。挟まれた。


「ユーカ、後ろを頼んでいい」
「うん。お兄ちゃん」


 ユーカが場違いな嬉しそうな声を出してグールの群れの方に向く。
 火球が次々に飛んでコンクリートの地面にぶち当たった。


「都笠さん、僕が退路を開く。援護して」


 前にいるのは数体だ。こうなったらまっすぐ最短距離を切り抜けるのが最善だろう。
 銃を構える都笠さんを制する。この後どうなるかわからないから、弾は温存するに越したことはない。


「まかせたわ」
「ミハエルさん、セリエ、倒したら向こうまで走って」


「はい、ご主人様」
「私も援護します、竜殺し殿」


 ミハエルさんもスロット武器を抜いている。厚刃のサーベルだ。
 ガルフブルグの探索者が使っているのよりも短めで鍔がない、武骨な感じだ。柄頭が鳥の頭のような装飾がされていて飾り布がついていた。
 それを左右の手に2本持っている。二刀流か。


「【彼の者の身にまとう鎧は金剛の如く、仇なす刃を退けるものなり。斯く成せ】」


 セリエの詠唱が終わって、僕とミハエルさんの体におなじみの防御プロテクションの青い光がまといついた。それを確認して走る。


 何体かのグールの向こうに交差点が見える。交差点の角にはコンビニの看板と車があった。こいつらを倒してあの車を頂こう。
 幸い動かなくなったスポーツワゴンのハイビームが後ろから照らしてくれていているから、灯りには不自由しない


「いくぞ!」


 こっちに向かってグールが走ってくる。
 後ろから銃声が響いて、先頭の一体の頭がザクロのように割れた。体液と黄色いオーラをまき散らして、崩れるようにグールが倒れる。


 どうやら頭が弱点らしい。
 胴に当てる方があてやすいけど、ヘッドショットの方が効果的なのはゾンビ物では定番だけど。どうやら、こっちもその法則は健在っぽいな。


 先頭で大きく剣を振りかぶったグールの無防備な頭に、走る勢いそのままに、まっすぐ銃剣を突き刺す。
 どす黒い体液が飛び散って肉に刃が食い込んだ。膝が折れて、グールが倒れる。あと3体。


 左右から迫ってきた2体。それぞれがいつも通りゆっくり剣を振り上げる。その向こうにもう一体。
 左の一体の膝に銃床で一撃を入れた。膝が折れてグールが膝をつく。


 反動で右に奴の頭を突く。でも、頭をかばうように上げた左手に銃剣の切っ先が突き刺さった。肉に剣が食い込む……防御された。
 こっちの狙いが分かって防いだのか、偶然か。だけど関係ない。


「【貫け!魔弾の射手デア・フライシュッツ!】」


 腕に切っ先を指したまま引き金を引く。黒い弾丸が腕を貫通して頭を貫いた。後一体。
 最後の一体を片付けようとしたとき、膝から堅いもので挟まれたような感触がした。


「なんだ?」


 足元を見ると、膝を砕いたグールが地面に這ったまま、右足に絡みついて噛みついてきていた。
 防御プロテクションの青い光が明滅する。


「くそ、うっとうしい」


 普通なら膝を砕けばしばらくは動けないはずだけど、さすがにしぶとい。
 がりがりと膝にかみついているグールの頭に銃床を付きおろした。堅いものが砕ける嫌な感触がしてグールの手から力が抜ける
 最後の一体が剣を突くように構えて突っ込んでくるのが視界の端に見えた。


「ご主人様!」
「お任せください!」


 銃を構えようとしたけど、それより早くミハエルさんが飛び出して剣を横なぎに払いのけた。グールが弾かれて一歩さがる。
 反転するようなステップで踏み込んで、ミハエルさんの左手の曲刀がグールの首を切り飛ばした。
 結構速い。なかなかやるな。首が地面に転がってグールが倒れる。


「ありがとう。お見事!」
「光栄です」


 後ろを振り返るとユーカの炎の壁が狭い路地に立ちあがっていた。
 都笠さんと、ユーカとセリエがこっちに走ってくる。


「お兄ちゃん、あいつら……」


 その向こうには、炎もお構いなしとばかりにグールがこっちに向かってくるのが見えた。黄色いオーラをはなって赤い炎に焼かれながらこっちに迫ってくる姿はかなり怖い。
 途中で力尽きたように焼かれたグールがばたばたと倒れるけど、気にする様子もなく、それを踏み越えてグールが迫ってくる。


「【黒の世界より来るものは、白き光で無に帰るものなり、斯く成せ】」


 セリエの光の帯が路地を薙ぎ払うように飛んで、グールの列の脚が止まる。
でも、学習院大学の茂みから次々とグールが飛び降りてきて追手の数が増えていく。
 これじゃ切りがない。それにまた挟まれるとまずい。


「どんだけいるんだ、こいつら!」
「急いで!走って!」


 都笠さんが叫んで、皆が走りだす。
 後ろを振り返ると、グールの群れが狭い道にひしめき合うようにスピードを上げて追ってきていた。
 走るスピードは僕等の方が早いけど、後ろから大群に終われているってのは気分的にかなり怖い。息が上がる。


 交差点まであと100メートルってあたりで。交差点で光が瞬いてこっちを照らした。





 とっさに足を止めたけど……光はあの黄色いオーラでも、たいまつやコアクリスタルの光でもなかった。まっすぐこっちを照らす、電気の光だ
 同時にアクセル音が響く。逆光の向こう側、交差点に一台バイクが止まっているのが見えた。
 バイクのタンデムに誰かいる、と思ったらその人影が飛んだ。頭の上を黒い影が横切る。


「なんだ?」


 振り向くと、先頭を追ってくるグールが3ほど突然姿勢を崩した。走っていた勢いそのままに前のめりにグールが倒れる。
 一瞬の間をおいて、人影がグールの群れに立ちふさがるように音も立てずに着地した。


「誰?」
「通りスガリのニンジャだよ……味方だかラ、安心シテ!」


 半身でこちらを見て言う。場違いに明るい口調。なんかイントネーションが独特だけど、聞き取れた。


 逆光だからわかりにくいけど、ハーフパンツをはいて、裾の長めのTシャツのようなものを着ている。シャツは少しタイトな感じでほっそりした体のシルエットが見えた。
 髪の毛を短い三つ編みにしてバンダナを巻いていた。背中には短い刀のようなものを背負っている。
 手を左右に広げるように振ると、追ってくるグールの頭に次々とナイフのようなものが突き刺さった


「ホラ、はヤく、下がッテ!」


 ナイフを投げながらその人が跳ねるような足どりで後退してきた。
 都笠さんがハンドガンで援護射撃をして、セリエとユーカとミハエルさんが路地を走る。


 その人が次々とナイフを投げる。
 ナイフ、というよりぶっとい釘というか串というかそんな感じのものが、逃げながら投げているとは思えないおそろしい精度でグールの頭を捕らえる。
 バイクのヘッドライトで照らされてるとはいえ、影と夜の闇で見えにくい。その悪条件の下でも百発百中だ。


 頭にナイフを受けると、黄色い光がふっと掻き消えてグールが倒れる。
 地面に倒れたグールが次々と崩れるように消えていくけど、後ろから次から次へと後ろからやってくる。


「なんて数だ!」
「ならば!わがオウギを受けヨ!【雪待ゆきまち流皆伝、術式鐡錆てつさび万代楔もずくさび!】


 その人がナイフをグールの足元に投げつける。
 同時に、突然先頭を走ってきていたグールがつんのめるように止まった。後ろから来たグールが棒立ちになったグールの背中に突っ込む。
 不意にペースを乱されたグールの群れが、将棋倒しのように倒れた。


「見たカ!」


 ドヤ顔でその人がガッツポーズする。この人が何か仕掛けたらしい。
 踏み潰すように後続が続いてくるけど、倒れているグールも立ち上がろうとして動いているからそう簡単にはいかない。
 大混雑してる駅のホームのようにグールがこんがらがっている。時間は十分に稼げた


「みんな走って!」


 都笠さんが89式をしまって身軽になって先頭を走る。
 僕も全力ダッシュで路地から飛び出した。200メートル全力疾走だ。息が上がって膝をつく。


「無事か?」


 頭上から声が降ってくる。バイクの人はアデルさんだった。
 バイクにまたがって片手にはスロット武器らしい細身の剣を提げている。ヘルメットに赤く紋章が染められたライダージャケットを思わせるツナギのような細身に服を着て、エイト君の革ジャンを羽織っていた。


「なんとか。でもグールがきます」
「急げ!」


 アデルさんが通りの向こうに声をかける。向こうから、5人ほどの探索者のパーティが走ってきた。


「ミルザ卿!お下がりください!」
「分かっテるッテ!」


 ミルザさんって呼ばれた人がナイフを投げると、軽々と道路わきのマンションの2階ベランダまで飛び上がった。そのまま三角飛びのように壁と電信柱をけって交差点まで飛んでくる。
 さっきも僕等の頭の上を飛び越えて行ったけど……なんて身の軽さだ


 路地の向こうから、倒れたグールを乗り越えるようにグールの群れが迫ってきた。
 バイクのヘッドライトに照らされてもわかるくらいの黄色い禍々しいオーラの塊が突っ込んでくる


「魔法で倒せ。乱戦にはさせるな。路地から出すな」


 アデルさんが号令をかける。
 探索者のうち二人が路地の前に陣取って詠唱を始めた


「【跨るは黒雲の駿馬、手にするは白金の槍、天翔ける騎兵!我、汝に命ず、雷よ落ちよ!】」
「【高き氷の尖塔に坐わす、いと気高き冬の女王に申し上げます!今宵は白夜、死を告げる白き嵐を呼ぶ歌、お聞かせください】」


 詠唱が終わった途端、強烈なフラッシュのようなまばゆい光がひらめいた。
 同時に腹に響くような鈍い雷鳴のような音が響いて、雷撃が狭い路地を貫く。電線が感電したように光り、道路わきのビルのガラスが砕け散った。
 稲妻に貫かれたグールが硬直して次々と倒れる。


 そのあとに急に周りの気温が下がった。肌を冷たい風が撫でて肌が泡立つ。直後にナイフのような鋭い氷の塊が雨のように狭い路地に降り注いだ。
 かろうじて立っていたグールを氷の刃が切り刻む。氷の塊が砕ける音と肉が切り裂かれる嫌な音が土砂降りの雨のように絶え間なく響いた。


 10秒ほどの間があって、氷の刃が降る音が止んで路地に静寂が戻った。砕けた氷の破片が霧のように漂って視界が悪い。
 都笠さんが89式を、僕は銃を構えて路地に狙いを定める。隣にはさっきのミルザさんなる人がいて、手にはいつでも投げれるようにナイフを持っていた。 


 バイクのライトが路地を照らすけど……氷の霧が晴れた時には、もう動いている敵はいなくなった。
 というか、遺体も掻き消えていて、雷撃と氷の刃でめちゃくちゃになった路地だけが残されてた。


 アデルさんがバイクのライトを横に向ける。
 暗い路地の奥に黄色いオーラが見えるけど……引き返すように遠ざかって行った。


 どうにか逃げ切れたか……誰かのため息がやけに大きく聞こえた。





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