僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
目白駅前でグールの群れの襲撃を受ける。
「なんだ?」
「……駐屯地の警告音です」
初めて聞いた音だけど。眠たそうにしていたセリエが緊張した感じで言う。何か来たか。
もう一度同じ音が響く。甲高い鐘を鳴らすような音だ。これなら寝てても一発で気づくな。
「ああ、もう……お客様?」
「………どうしたの?お兄ちゃん」
仮眠をとっていた都笠さんが起きてくる。眠たげな顔で自分の頬を何度か叩いて89式を構えた。さすがに対応が早い。
ミハエルさんも起きて周りをうかがっている。ユーカは体は起こしているけど、まだ寝ぼけた顔だ
「あっちの道から来るわ」
都笠さんが指を指したのは、線路に沿うように池袋の方に伸びている細めの道だ。
耳を澄ましても大きな足音や吠え声は聞こえない。あまり大きめの相手じゃないのか……でも静けさが逆に不気味だ。
猫を感知した、とかそういうのだったりしないだろうか
見ていると暗闇にうすぼんやりした黄色っぽい光が浮かんだ。変な表現だけど、人魂のような、ゆらめくような光だ。
路地の向こうの方からこっちに進んでくる……残念ながら猫ではないらしい。
誰かが息の飲む小さな音がする。
セリエがマグライトで路地の出口を照らして、都笠さんの89式が道の出口に狙いを定める。僕も銃口を路地に向けた。
スポットライトのような白い明かりに照らされて銀行とフェンスの間の狭い路地の角から姿を現したのは人間型のなにかだった。
◆
マグライトで正面から照らされているんだから、かなりまぶしいはずだけど。
顔を背ける様子もなく、ゆらりと立ったままこっちを見る。
ガルフブルグでよく見るような革の胸当てに短めのマントを着ていて、なんとなく前に見た衛兵とか門衛のように見える。ただ、マントの裾は鉤裂きのようになっていて正規兵というより落ち武者のような感じだ。
片手には剣を持っている、というか、剣を引きずっているように下げている。
そいつが立ち止まって、生気のないうつろな顔で僕らを見た。
「……人間、じゃないよね、あれ」
「どう見ても……違うと思う」
形は人型だけど。どう見ても顔は生きている人間のものじゃないし、黄色いオーラを放つ人間なんて見たこともない。
都笠さんがつぶやいた瞬間、それが引きずっていた剣を持ち上げた。そのまま無言でよろめくように走ってくる。
「止まりなさい!」
都笠さんが大声で警告する。でも当たり前だけど、聞く様子はなかった。
「警告したわよ!」
都笠さんが引き金を引いて、三発の銃声が立て続けに轟く。此方に向かってきたそいつが殴られた様に後ろに吹き飛んだ。
道路の真ん中にあおむけになって倒れてじたばたともがく。見守っていると、黄色い光が薄れていく。そのまま動かなくなった。
暫くすると体がボロボロと崩れて灰の様に消えていく。でも、いつもみたいに黒い渦巻きは出てこなかった。
「グール……でしょうか……?」
セリエがつぶやく。
グールはスケルトンと同じく不死系に分類される魔獣で、ついさっき夕方にも戦った。
頑丈ではあるけど、動きは鈍いし連携するわけでもないから、僕なら4体くらい同時でも蹴散らせるし、魔法で遠距離から仕留めることも難しくない、まあいわゆる雑魚だ。
命がない不死系独特のうつろな表情は似ているけど……ただ、今のところは走ったり武装したグールってのは見たことがない。それにこんな風にオーラを放つやつも。
直後にまた連続して警告音が響いた……1体だけじゃない、まだいるのか。
「風戸君、明かりつけれる?」
「やってみるよ」
このまま月明りとマグライトしかない暗闇で戦うのは不利だ。魔獣は夜目が聞くかもしれないけど、僕らにとっては暗闇は障害でしかない。
暗闇には何とも言えないプレッシャーがある。見えやすい、見えにくいという物理的な話を別としても、周囲が真っ暗の中で戦うのは心理的にはかなり嫌なのだ。
道路に沿って並ぶ電柱の街灯を見る。
今回はフロアのように区切られた空間じゃない。空から自分を見下ろすような感覚で、効果範囲をイメージする。
「管理者、起動。電源復旧」
電灯に駅前から順に、飛び石のように白く明かりがついていく。広い道路を白っぽい電気の光が照らす。
あまり光量はないけど、ないよりはかなりましだ。
「来たわ!」
直後に路地からさっきと同じように黄色い光をまとったグールらしきものが3体飛び出してきた。さっきと同じように革の鎧に剣を持っている。
三連射モードの89式が火を噴いて、赤い火線が夜の闇を切り裂いた。
弾を食らったグールがよろめいて倒れる。でも1体が起きると、そのまま剣を杖にしてにじり寄ってきた。
とどめとばかりに都笠さんが銃弾を叩きこむとようやく動きが止まった。
なんとなくだけど、グールよりも頑丈な気がする。見た目は似てるけどやはり別の魔獣なんだろうか?
考えを巡らせている間もなく、倒れたグールにつづいて、路地から後続が湧き出すように現れた……10体以上はいる。大群だ。
「【あっち行ってよ!】」
「【新たな魔弾と引き換えに!ザミュエル!彼の者を生贄に捧げる!】」
銃声が次々と響いて、路地から出ようとするグールを撃ち倒す。
ユーカのフランベルジュから炎が噴き出して銃弾で止めを刺せなかったグールをとらえた。火柱が上がってグールが倒れる。
「焼き尽くせ!魔弾の射手!」
路地の入口を狙って引き金を引く。
赤い光弾が飛んで火球が炸裂した。轟音が空気を震わせる。
爆発に巻き込まれたグールのばらばらになった四肢が飛び散った。砕けた銀行のガラス窓がきらきらと飛び散って地面に落ちて音を立てる。
バキバキと音を立てて電信柱が倒れて、グールを押し潰し路地の入口を塞いだ。
「これならどうだ」
足止めになるかと思ったのもつかの間。電信柱と壁の瓦礫を乗り越えてグールがぞろぞろと路地から出てきた。
都笠さんの89式とユーカの火球が出てこようとするグールを次々と撃つけど、不意に銃声が途絶えた。都笠さんが弾倉を入れ替える。
「89式じゃだめだわ、解放!」
都笠さんが叫ぶと、三脚に乗った巨大な銃身のM2が現れた。
銃身についている大きなレバーを引いて、こっちに向かってのろい速度で走ってくるグールの群れに銃口を向ける。
「食らいなさい!」
轟音を立てて火線が飛んだ。薬莢がレンガ模様の石畳に落ちて金属音を立てる。
ちょっとしたナイフくらいのサイズのあるエグい12.7ミリ弾が、にじり寄ってくるグールの上半身を吹き飛ばし、そのまま銀行の壁に穴を穿つ。橋の鉄柵の残骸とグールの四肢の一部が宙に舞った。
それでも、路地から出てくるグールの群れは止まらない。
片腕を吹き飛ばされながらも、うつろな表情のままでこっちにふらふらと近づいてくるのはかなり恐ろしい。
「ご主人様!あちらを」
セリエが右を差して警告を発した。
外灯で照らされた広い道路の向こう。学習院大学の前あたりにぼんやりと蒸気のように黄色い不穏なオーラが立ち上っていた。
学生さんが花火で遊んでる……なんて訳はあるわけはないか。
遠くて暗くてよく見えないけど、すくなくとも道を埋める程の数がいる。力押しされるとまずい。
「ユーカ、セリエ。あっちを足止めしてくれる?」
「まかせて、お兄ちゃん」
フランベルジュを構えたユーカが車道の真ん中に立ってフランベルジュを掲げた。
ユーカの周りに赤い火球が浮かんで夜の闇を照らす。火球が飛んで道路の向こうで爆炎を噴き上げた。
パッと飛び散る赤い炎に照らされてグールの群れが見える……すくなくとも20体以上はいそうだ。
振り向くと、左の方の道の向こうにも黄色いオーラが霧のようにわだかまっていた。
ある程度広い範囲を偵察したと思ったけど、これだけの大群がいる気配は全くなかったのに。一体どこにこんな数が隠れていたんだろう。
「左からも来てる!逃げよう!」
M2の連射が途切れたタイミングで都笠さんに声をかける。
「そうね。あの数をあたしたちだけでさばくのはきついわ」
都笠さんがうなづいてまた引き金を引く。
弾丸が次々とグールを撃ち倒すけど、路地から出てくるグールはいなくなる気配はないし、左右からくるのも、それぞれが結構いそうだ。
都笠さんの弾も無限じゃない。どこから来たのかわからないけど。数に任せて力押しされるとまずい。
「ユーカ、セリエ!逃げるわよ!」
「管理者、起動!動力復旧!」
目白駅の前に止まっていた赤のスポーツワゴンのエンジンをかける。都笠さんが声をかけてM2を兵器工廠にしまい込んだ。
セリエたちが慌てて走り寄ってくる。もういい加減慣れてるから、ドアを開けて二人とも素早くリアシートに乗り込んだ。
ミハエルさんは何が何だかわからないって感じで立ちすくんでいる。セリエが袖を引いて、ミハエルさんを後部座席に座らせた。
砲火がやんで路地からあふれるようにグールが出てきて、こっちに向かってくる
「【燃えちゃえ!】」
ユーカの炎が壁のように立ち上がる。
炎の壁は多少は足止めにはなるだろうと思ったけど……一体がお構いなしに炎の壁を突っ切ってきた。
体を焼かれながらよろめくようにこっちに向かってくる……ゾンビ映画さながらの光景だ。
「誰か聞こえますか!」
通信機をオンにして呼び出しを掛ける。
『聞こえます、スミトさん。どうしました』
夜だってのにすぐ返事が返ってきた。高田馬場でも寝ずの見張り番がいるわけか。
「グールの大群に襲われてます。一度撤退します」
『……分かりました。こちらからも援護を出しますか?』
「お願いします」
「行くわよ!」
都笠さんがアクセルを踏む。ディーゼルエンジンの独特の音がしてスポーツワゴンが急発進した。
「なんですか、これは!」
初めて車に乗るミハエルさんのパニックになったような声が後部座席から聞こえるけど、今は説明している暇はない。
スポーツワゴンが広い道の真ん中でターンして左右に街路樹が並ぶ2車線の細い道に入った。
「……駐屯地の警告音です」
初めて聞いた音だけど。眠たそうにしていたセリエが緊張した感じで言う。何か来たか。
もう一度同じ音が響く。甲高い鐘を鳴らすような音だ。これなら寝てても一発で気づくな。
「ああ、もう……お客様?」
「………どうしたの?お兄ちゃん」
仮眠をとっていた都笠さんが起きてくる。眠たげな顔で自分の頬を何度か叩いて89式を構えた。さすがに対応が早い。
ミハエルさんも起きて周りをうかがっている。ユーカは体は起こしているけど、まだ寝ぼけた顔だ
「あっちの道から来るわ」
都笠さんが指を指したのは、線路に沿うように池袋の方に伸びている細めの道だ。
耳を澄ましても大きな足音や吠え声は聞こえない。あまり大きめの相手じゃないのか……でも静けさが逆に不気味だ。
猫を感知した、とかそういうのだったりしないだろうか
見ていると暗闇にうすぼんやりした黄色っぽい光が浮かんだ。変な表現だけど、人魂のような、ゆらめくような光だ。
路地の向こうの方からこっちに進んでくる……残念ながら猫ではないらしい。
誰かが息の飲む小さな音がする。
セリエがマグライトで路地の出口を照らして、都笠さんの89式が道の出口に狙いを定める。僕も銃口を路地に向けた。
スポットライトのような白い明かりに照らされて銀行とフェンスの間の狭い路地の角から姿を現したのは人間型のなにかだった。
◆
マグライトで正面から照らされているんだから、かなりまぶしいはずだけど。
顔を背ける様子もなく、ゆらりと立ったままこっちを見る。
ガルフブルグでよく見るような革の胸当てに短めのマントを着ていて、なんとなく前に見た衛兵とか門衛のように見える。ただ、マントの裾は鉤裂きのようになっていて正規兵というより落ち武者のような感じだ。
片手には剣を持っている、というか、剣を引きずっているように下げている。
そいつが立ち止まって、生気のないうつろな顔で僕らを見た。
「……人間、じゃないよね、あれ」
「どう見ても……違うと思う」
形は人型だけど。どう見ても顔は生きている人間のものじゃないし、黄色いオーラを放つ人間なんて見たこともない。
都笠さんがつぶやいた瞬間、それが引きずっていた剣を持ち上げた。そのまま無言でよろめくように走ってくる。
「止まりなさい!」
都笠さんが大声で警告する。でも当たり前だけど、聞く様子はなかった。
「警告したわよ!」
都笠さんが引き金を引いて、三発の銃声が立て続けに轟く。此方に向かってきたそいつが殴られた様に後ろに吹き飛んだ。
道路の真ん中にあおむけになって倒れてじたばたともがく。見守っていると、黄色い光が薄れていく。そのまま動かなくなった。
暫くすると体がボロボロと崩れて灰の様に消えていく。でも、いつもみたいに黒い渦巻きは出てこなかった。
「グール……でしょうか……?」
セリエがつぶやく。
グールはスケルトンと同じく不死系に分類される魔獣で、ついさっき夕方にも戦った。
頑丈ではあるけど、動きは鈍いし連携するわけでもないから、僕なら4体くらい同時でも蹴散らせるし、魔法で遠距離から仕留めることも難しくない、まあいわゆる雑魚だ。
命がない不死系独特のうつろな表情は似ているけど……ただ、今のところは走ったり武装したグールってのは見たことがない。それにこんな風にオーラを放つやつも。
直後にまた連続して警告音が響いた……1体だけじゃない、まだいるのか。
「風戸君、明かりつけれる?」
「やってみるよ」
このまま月明りとマグライトしかない暗闇で戦うのは不利だ。魔獣は夜目が聞くかもしれないけど、僕らにとっては暗闇は障害でしかない。
暗闇には何とも言えないプレッシャーがある。見えやすい、見えにくいという物理的な話を別としても、周囲が真っ暗の中で戦うのは心理的にはかなり嫌なのだ。
道路に沿って並ぶ電柱の街灯を見る。
今回はフロアのように区切られた空間じゃない。空から自分を見下ろすような感覚で、効果範囲をイメージする。
「管理者、起動。電源復旧」
電灯に駅前から順に、飛び石のように白く明かりがついていく。広い道路を白っぽい電気の光が照らす。
あまり光量はないけど、ないよりはかなりましだ。
「来たわ!」
直後に路地からさっきと同じように黄色い光をまとったグールらしきものが3体飛び出してきた。さっきと同じように革の鎧に剣を持っている。
三連射モードの89式が火を噴いて、赤い火線が夜の闇を切り裂いた。
弾を食らったグールがよろめいて倒れる。でも1体が起きると、そのまま剣を杖にしてにじり寄ってきた。
とどめとばかりに都笠さんが銃弾を叩きこむとようやく動きが止まった。
なんとなくだけど、グールよりも頑丈な気がする。見た目は似てるけどやはり別の魔獣なんだろうか?
考えを巡らせている間もなく、倒れたグールにつづいて、路地から後続が湧き出すように現れた……10体以上はいる。大群だ。
「【あっち行ってよ!】」
「【新たな魔弾と引き換えに!ザミュエル!彼の者を生贄に捧げる!】」
銃声が次々と響いて、路地から出ようとするグールを撃ち倒す。
ユーカのフランベルジュから炎が噴き出して銃弾で止めを刺せなかったグールをとらえた。火柱が上がってグールが倒れる。
「焼き尽くせ!魔弾の射手!」
路地の入口を狙って引き金を引く。
赤い光弾が飛んで火球が炸裂した。轟音が空気を震わせる。
爆発に巻き込まれたグールのばらばらになった四肢が飛び散った。砕けた銀行のガラス窓がきらきらと飛び散って地面に落ちて音を立てる。
バキバキと音を立てて電信柱が倒れて、グールを押し潰し路地の入口を塞いだ。
「これならどうだ」
足止めになるかと思ったのもつかの間。電信柱と壁の瓦礫を乗り越えてグールがぞろぞろと路地から出てきた。
都笠さんの89式とユーカの火球が出てこようとするグールを次々と撃つけど、不意に銃声が途絶えた。都笠さんが弾倉を入れ替える。
「89式じゃだめだわ、解放!」
都笠さんが叫ぶと、三脚に乗った巨大な銃身のM2が現れた。
銃身についている大きなレバーを引いて、こっちに向かってのろい速度で走ってくるグールの群れに銃口を向ける。
「食らいなさい!」
轟音を立てて火線が飛んだ。薬莢がレンガ模様の石畳に落ちて金属音を立てる。
ちょっとしたナイフくらいのサイズのあるエグい12.7ミリ弾が、にじり寄ってくるグールの上半身を吹き飛ばし、そのまま銀行の壁に穴を穿つ。橋の鉄柵の残骸とグールの四肢の一部が宙に舞った。
それでも、路地から出てくるグールの群れは止まらない。
片腕を吹き飛ばされながらも、うつろな表情のままでこっちにふらふらと近づいてくるのはかなり恐ろしい。
「ご主人様!あちらを」
セリエが右を差して警告を発した。
外灯で照らされた広い道路の向こう。学習院大学の前あたりにぼんやりと蒸気のように黄色い不穏なオーラが立ち上っていた。
学生さんが花火で遊んでる……なんて訳はあるわけはないか。
遠くて暗くてよく見えないけど、すくなくとも道を埋める程の数がいる。力押しされるとまずい。
「ユーカ、セリエ。あっちを足止めしてくれる?」
「まかせて、お兄ちゃん」
フランベルジュを構えたユーカが車道の真ん中に立ってフランベルジュを掲げた。
ユーカの周りに赤い火球が浮かんで夜の闇を照らす。火球が飛んで道路の向こうで爆炎を噴き上げた。
パッと飛び散る赤い炎に照らされてグールの群れが見える……すくなくとも20体以上はいそうだ。
振り向くと、左の方の道の向こうにも黄色いオーラが霧のようにわだかまっていた。
ある程度広い範囲を偵察したと思ったけど、これだけの大群がいる気配は全くなかったのに。一体どこにこんな数が隠れていたんだろう。
「左からも来てる!逃げよう!」
M2の連射が途切れたタイミングで都笠さんに声をかける。
「そうね。あの数をあたしたちだけでさばくのはきついわ」
都笠さんがうなづいてまた引き金を引く。
弾丸が次々とグールを撃ち倒すけど、路地から出てくるグールはいなくなる気配はないし、左右からくるのも、それぞれが結構いそうだ。
都笠さんの弾も無限じゃない。どこから来たのかわからないけど。数に任せて力押しされるとまずい。
「ユーカ、セリエ!逃げるわよ!」
「管理者、起動!動力復旧!」
目白駅の前に止まっていた赤のスポーツワゴンのエンジンをかける。都笠さんが声をかけてM2を兵器工廠にしまい込んだ。
セリエたちが慌てて走り寄ってくる。もういい加減慣れてるから、ドアを開けて二人とも素早くリアシートに乗り込んだ。
ミハエルさんは何が何だかわからないって感じで立ちすくんでいる。セリエが袖を引いて、ミハエルさんを後部座席に座らせた。
砲火がやんで路地からあふれるようにグールが出てきて、こっちに向かってくる
「【燃えちゃえ!】」
ユーカの炎が壁のように立ち上がる。
炎の壁は多少は足止めにはなるだろうと思ったけど……一体がお構いなしに炎の壁を突っ切ってきた。
体を焼かれながらよろめくようにこっちに向かってくる……ゾンビ映画さながらの光景だ。
「誰か聞こえますか!」
通信機をオンにして呼び出しを掛ける。
『聞こえます、スミトさん。どうしました』
夜だってのにすぐ返事が返ってきた。高田馬場でも寝ずの見張り番がいるわけか。
「グールの大群に襲われてます。一度撤退します」
『……分かりました。こちらからも援護を出しますか?』
「お願いします」
「行くわよ!」
都笠さんがアクセルを踏む。ディーゼルエンジンの独特の音がしてスポーツワゴンが急発進した。
「なんですか、これは!」
初めて車に乗るミハエルさんのパニックになったような声が後部座席から聞こえるけど、今は説明している暇はない。
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