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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

戦いは数だよ、という言葉の意味を実感する。

 銃剣を振ると3体の人形がバラバラになって吹き飛んだ。
 いい加減、何体切り倒したか分からなくなってきた。


「後ろです!」


 セリエの声が聞こえる。後ろを見ると5体の人形が剣を構えて横一列で突っ込んでくる。
 大振りになりすぎた。片足を踏ん張って体を反転させる。繰り出される剣を銃剣で薙ぎ払ったけど、さすがに5体の攻撃は避けられなかった。
 1本が胸に突き刺さる。防御プロテクションの光が輝いて剣をはじいた。


「このやろ!」


 銃剣を人形の胸に突き刺すと、胴体が二つに割れる。グラりとよろめいて人形が倒れた。


 防御プロテクションがかかっているから刺されても傷は負わないけど、衝撃までは止めてくれない。
 都笠さんが前に言っていたけど、防弾チョッキみたいだってことらしい。とりあえず、気分的には刺されたり切られたりするのはいい気分じゃない。


 当たっても死なない、とわかっていても、本能的にとっさによけてしまう。
 でもそうすると別の相手に隙を晒してしまう。もっと戦い慣れれば、切られることに脅えないで戦えるんだろうか


 壁のように並んだ人形が都笠さんの方にも押し寄せる。枴が振られて何体かの人形が吹き飛んだ。


「あっち行きなさい!解放オープン!」


 左手に現れたサブマシンガンが甲高い音を立てて火を噴いて、銃弾を浴びた人形が次々と倒れる。


 こういう時に頼みのM2重機関銃ヘビーマシンガンは最初に都笠さんが出したんだけど、数発撃ったところで周りから人形に襲われて引き倒されてしまった。
 壊れてはいないけど、引き起こすのは大変そうだ。


 火力はすさまじくて数発で人形の半数をなぎ倒したけど。狭い所で包囲されているときには、小回りが利かないから使いにくいってことか。
 そのあとはハンドガンやサブマシンガンに切り替えている。


 人形はかなり倒したんだけど、まだまだ数がいる。というより次々と湧いて出てきている。
 一体どんなスキルか知らないけど、どう考えてもこんなに連続して人形を召喚出来るとは思えない。
 多分、前にジェレミ―公がくれたジェムとかポーションとかの気力を治癒する薬かなんかを使ってるんだろう。準備万端ってことか。
 次々と立ち上がる人形が厚い壁のように僕らにプレッシャーをかけてくる。


「どうした、もうへばったのかね、竜殺し?」


 ラクシャスの声が聞こえて、人形がまた剣の切っ先を向けて突進してきた
 姿勢を低くして足元を銃剣で薙ぎ払う。先頭の二体のバランスが崩れた
 起き上がりざまに銃剣を振り回して左右からきた二体切り伏せた。いつもはそう重さを感じない銃がずっしり重い。
 銃を構えて狙いを付けようとするけど、そのたびにラクシャスが従士の後ろに姿を隠す。


「この卑怯者がぁ!」
解放オープン!」


 都笠さんのほうにも、また人形の群れが襲いかかっていた。
 都笠さんが枴をセリエに渡して銃を抜く。空間から出てきたのはショットガンだ。


 鈍い音を立てて打ち出された散弾が先頭の2体の人形の胴を穴だらけにして粉砕する。
 ポンプを引いて打ち出された二射目がその後ろの人形の頭を砕いた。けど、その隙に、そいつを盾にしたかのように後ろから人形が突っ込んでくる。


「ああ、もう!」


 都笠さんがショットガンを棒のように構え直して人形の盾を払いのける。
 バランスを崩した人形の膝に関節蹴りを叩き込むと、デッサン人形のような細い足が折れてバランスを崩した。  
 拾床で顔を薙ぎ払うと、木片が飛び散らせて人形が石畳の上に倒れ伏す。


 普通の人間なら、先頭を切って突っ込んだ奴が銃で撃たれたりしたら、どんな奴でも足が止まる。でも人形には恐怖心も何もない。何体壊れようと構わず突っ込んでくる。


 一体づつなら大したことないんだけど、多数で同時に襲い掛かられるとさばき切れない。
 戦いが始まってどのくらい立ったのか。たぶん15分も過ぎてないと思うけど、山ほど人形を切り倒したせいか、何時間も経った気がする。
 こういう敵がたくさんいるときはユーカの炎でまとめて吹き飛ばせればいいんだけど。今は寝ているからどうしようもない


「すばらしい。さすがは龍殺し、よく粘る。まさに英雄だな」


 ラクシャスが軽く拍手をしてくれる。余裕な雰囲気が感じられるあたりが非常に癇に障る。


「だが、まだ間に合うぞ。跪け。そして、君たちの手でその二人を差し出すのだ」


 都笠さんと顔を見合わせる。
 防御プロテクションのお陰でお互いに傷は無いけど。都笠さんも息が上がっていて、疲労の色が濃い。


「絶対にお断りよ……」


 都笠さんが絞り出すように声を出す。疲れた顔をしているけど、負けを認める気は微塵もなさそうだ。


「セリエとユーカがあんなクソ野郎のおもちゃにされることをわかっていて渡すなんて……
そんなことするくらいなら、死んだほうがましだわ」


 気持ちは分かる、というか僕も同感だけど。
 しかし、都笠さんがこんな風に熱くなっているのは初めて見た気がする。普段は割と飄々としているというか、合理的で無茶な争いは避けるってタイプだと思ってたけど。


 なにか思うところがあるのかもしれないな、となんて思ったけど、今はそんなことを考えている場合じゃないな。
 こっちが冷静にならないと。


「都笠さん、弾はどのくらい残ってる?」
「SIGとM9はもう弾が怪しいわ。M9はこれで最後、SIGはあとスペアマグ1本って感じね」


 都笠さんがサブマシンガンの弾倉を入れ替えながら言う。


 このまま人形を倒し続けていれば……もしかしたら相手の魔力が先に尽きるかもしれない。
 でも弾が切れたら都笠さんは枴で戦うしかなくなってしまう。


 後ろを見るとセリエの顔は真っ青で壁に寄りかかったまま、辛そうに唇を噛んでいる。
 使い魔ファミリアを使った上に何度も僕等に防御プロテクションをかけてくれている。セリエも限界が近い。


 弾が切れても、防御プロテクションがかけられなくなっても、どっちにしても終わりだ
 剣を構えたパペットが一歩進み出て包囲の輪が縮まる。
 最後尾で、人形の壁と従士で守られているラクシャスを直接を叩くのは難しいけど。人形の壁を破って、なんとかあの魔法使いを倒せれば。


「強引に押し込む。あの魔法使いを何とかしないと」


 3列ほどの人形の壁の後ろには、ラクシャスを守るように従士と魔法使いがいる。


「援護するわ」
防御プロテクションがかかってるからさ、僕に当ててもいいよ」


「じゃあ遠慮なく。とりあえず穴、開けてあげるわ!」


 都笠さんがサブマシンガンを構えて引き金を引いた。軽い音を立てて撃ちだされた弾が人形の壁に穴を穿つ。


「行くよ!」


 銃剣を構えて穴をめがけて突っ込んだ。
 僕を追うように後ろから銃声が響いて、人形が次々と倒れる。何発かが腕をかすめた。


 立ちはだかる人形を銃床で殴り飛ばす。
 横で耳を打つ爆発音がして爆風が吹き付けた。一瞬遅れて赤い炎が吹き上がる。人形の残骸が飛び散った。手榴弾か。


 崩れかける姿勢をかろうじて支える。
 横から振り下ろされる剣を無視して突っ込んだ。肩と頭に剣が当たって防御プロテクションの光が薄くなる。


「流石だな、竜殺し!」 


 魔法使いの前にいた従士の一人が、紋章入りの盾を構えて魔法使いを守るように進み出てきた。大きな盾が壁のように見える。


 盾は僕自身は使わないけど、アーロンさんと練習するときに使わされた。自分で使わなくても、相手から自分がどう見えるか知っておけ、といわれたからだ。
 確かに日本にいるころには、対戦ゲームとかでも苦手なキャラは自分でも使ってみるのが大事だとか言われた覚えがあるから、似たようなものかもしれない。


 盾は強力な防御力を持つけど、かわりに視界がすごく悪くなる。盾の向こう側の相手の動きを見切るのは難しい、特に足元は。
 銃身を縦に構え直して突進する。タックルをかますようにそのまま盾にぶつけた。相手が押されて一歩後ずさる。
 足の甲にそのまま銃剣を突き下ろした。防御プロテクションの光が切っ先を止める。


 慌てて従士が盾を半身に構えなおした。胴が開いたところで、胸に銃剣で突きを入れる。従士が一歩下がった。


「貴様!」
「大人しくしておけ!」


 もう二人が左右から来た。動きはいつも通りゆっくり見える。
 まずは右の奴を切ろうとした瞬間、銃声が響いて火線が従士を捕らえた。
 立て続けに当たる銃弾が防御プロテクションの光を消し飛ばして、従士の肩から真っ赤な血がしぶく。


「ぐおっ」


 右の奴がよろめいて後退した。
 正面の一人はさっきのでは防御プロテクションを壊せてない。構え直した剣を振り下ろしてきた。
 ゆっくり降ってくる剣をステップしてかわす。横に回り込んで、銃床で横腹を力いっぱい突いた。 重たげな鎧をきた体がグラリと傾いで膝をついた。あと一人。


 体を反転させて左の奴を向く。赤い光を纏った剣を薙ぎ払ってきていた。でも遅い。受けが間に合う。
 止めて反撃してやる。


 剣を銃身で受けた途端。がんという音とともに想像をはるかに超えた衝撃が来た。
 一瞬の後に、今度は背中からハンマーで殴られたような衝撃が走る。防御プロテクションのお陰で痛みはないけど息が詰まる。何が起きた?


「風戸君、大丈夫?」
「ご主人様!」


 都笠さんの声がなぜか前から聞こえた。セリエがすぐ側にいる。
 後ろを見るとヒビが入った漆喰の壁があった。剣を構えなおした従士が向こうに見える。あそこからここまで吹き飛ばされたのか。


衝打インパクトスパイクだ。残念だったな」


 あの武器を覆う赤い光はライエルさんが使ってたのに似ていた気がする。アンフィスバエナの巨大な頭を弾き飛ばしたあの一撃か。
 銃を杖にして立ち上がっている所で、新しい人形がまた壁を作った。またやり直しか。
 流石に気が重くなる。


「当然の結果だな。我ら気高きものの前に下賤なものは跪く。それが世界の真理というわけだ。
理解できたかね?」


 満足げなラクシャスに魔法使いが何か耳打ちしている。ラクシャスが頷いて僕等を見た。


「そうだな。
お前たちを捕えてわが大公への手土産としよう。我が覚えもめでたくなろうというものだ」
武器を捨てたまえ。命だけは助けよう」


 都笠さんが枴を構えるけど。
 防御プロテクションもそろそろ切れかけだ。セリエももう魔法は使えないだろう。
 ……打つ手なしか……。


「お願いします……ラクシャス様」


 唇をかんだ時。
 消耗しきった顔でユーカをしっかり抱きしめていたセリエが、よろめく足で進み出て膝をついた。


「……私はどうなっても構いません。
ですからお嬢様達には……どうか……お慈悲を」


 跪いたセリエを見て、ラクシャスが勝ち誇った歪んだ薄笑いを浮かべる


「しおらしくなったな……ふ、貴族の寛大さを示してやっても良いが」


 一瞬、勿体ぶって間を置いて僕等を眺める。


「などというと思うか?
そもそも貴様のような犬一匹に何の価値があると思うのだ?貴様などサヴォアの娘の添え物にすぎん」


 ラクシャスの言葉にセリエががっくりと項垂れた。
 その姿を見てラクシャスが高笑いする……心の底からクソ人間だな。


 都笠さんがセリエを下がらせるように前に出た。僕もそれに並ぶ。
 人形が一歩前に踏み出してきて、包囲が狭まった。都笠さんと肩が触れ合う。
 防御プロテクションの光はもう消えかけている。あともって2、3回ってところだろうか。


「ごめんね、風戸君」


 すぐそばに立つ都笠さんがささやいた。


「なにが?」
「……あたしは絶対に降伏しない……できない……でも」


 都笠さんが言葉を切って僕をまっすぐに見る。


「でも……あたしに付き合う必要ないわ……風戸君だけでも……」


 皮肉とかじゃないらしい、真剣な口調だ。
 一人で降伏する……か。


「さすがに……それはできないなぁ」


 命が惜しくないわけじゃない……でも。ゼーヴェン君じゃないけど僕にだって男の意地って奴はある。
 女の子3人残して一人で白旗上げるなんてできない。


「最後まで諦めないよ」


 都笠さんがなにを考えているのか分からないけど。ユーカとセリエを差し出して土下座するなんて死んでもお断りだ。
 ……不意に訓練の時にアーロンさんと話したことを思い出した。


「戦場で生き残る奴ってのはどんなやつか分かるか?スミト」
「……さあ。強いスロット能力を持ってる人じゃないんですか?」


 僕の言葉にアーロンさんは首を振った。


「生きて帰って愛する女を抱きたい。
憎いあいつより先に死ぬわけにはいかない、生き延びてあいつをブッ殺してやる、そう思う奴さ」
「……サラっとえぐいこと言いますね」


 もう少し格好いいことを言ってくれるのかと思ったけど、なんというかえらく生々しい話だ。
 僕の言葉を聞いてアーロンさんが肩をすくめる。


「……生き延びるってことは綺麗事じゃないってことだ。
正義とか大義とかそういうものより、案外そういう執念の方が最期の瞬間にお前の心を支えてくれる。
そして、それが心臓に致命傷を食らわずに剣の穂先を外すんだ」
「そういうもんですか」


「いいか。お前も心の中にそういう感情を少しは持っておけ。憎しみでもなんでもいい。心の中に火を燃やせ。
戦争は、ほんのわずかな時間で戦況が一変することもある。諦めるなよ」


 人形の壁の向こうで勝ち誇ったようにニヤつくラクシャスの顔が見える。
 あいつに殺されてたまるか、僕の大事な人を好きにさせてたまるものか。
 最後まで諦めない。迫る人形の剣を睨みつける。
 もう一度勝負にでるんなら……防御プロテクションが完全に切れる前じゃないとダメだ。


「都笠さん」


 もう一度突っ込むよ、と言おうとしたとき。
 突然人形の列の後ろで何かがぶつかり合うような音がした。





 何が起きたかと思って音の方を見る。僕の右に陣取っている人形の列が乱れた。
 金属がぶつかり合う音と、石畳と堅いものがぶつかり合う音がして、人形の列を切り裂くように何かが飛び出してくる。
 黒い塊が軽々と跳躍して、都笠さんに向けて剣を振り上げた人形の上半身にぶつかった。勢いのままに、人形を地面に組み伏せる。


「何?」


 何かと思ったけど。僕の目の前にいたのはシベリアンハスキーのような大きな黒い犬だった。
 地面に組み伏せた人形の頭を前足で踏みつぶして、もう一体ののどにかみつく。のどをかみ砕くと、胴を人形の列に投げつけた。
 投げつけられた人形が人形の壁に当たって人形がバランスを崩す。


 犬が遠吠えをするように天を仰ぐと、そのまま魔獣のように崩れて消えた。
 なにが起きたのかわからない。多分誰もわからない。人形が静止して、一瞬音が消える。


 静けさの中、馬のいななく声と、馬が走る蹄が石畳を叩く音が近づいてくるのが聞こえた。


「何者だ?」


「おお、間一髪だな、よかったぜ」
「しかし……衛視がいない街ってのは不思議なもんだな……」


 ラクシャスが誰何の声を無視した、落ち着いた男の声が聞こえた。


「まあ、おかげでここまで楽に来れた。助かったよ」


 もう何度も聞いた、聞きなれた声だ。ただ、ここで聞けるはずはない声でもあるんだけど、何故ここに?


「しかしよ、スミト。お前は相変わらずお人よしを発揮して要らねぇことに首を突っ込んでるのか?」
「【我が言霊が紡ぐは盾。鋼となりて矛を止めん】」


 防御プロテクションの強い光が司さんと僕の体を包む。


「命の借りを返す時だな」


 信じられないことだけど。
 人形の壁の向こうにいたのは馬にまたがったアーロンさん達だった。



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