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僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

偉い人は態度も偉そう、それはどこでも変わらない。

 ゼーヴェンさん達に待ってもらう用に灯りを付けた部屋。わずかに空いたドアから電気のあかりが細く廊下に漏れている。
 そして、その中からは、なにやら口論らしきものが聞こえていた。


「なんだろね?」
「お取込み中かな?」


 都笠さんと顔を見合わせる。けど部屋の前でぼけっと立っていても仕方ない。
 とりあえずノックするのは万国共通だろう、と思ってドアをノックした。
 名乗ろうと思ったけど、良く考えればここでノックするのは僕らしかいない。他の客もホテルのスタッフもいるわけないんだし。


 ノックすると部屋の中の話し声がぱたりと止んだ。


「……僕です。入っていいですか?」
「ああ、待っていた。入ってくれたまえ」


 中からライエルさんの声が聞こえたのでドアを開けて中に入った。
 部屋は左右が入れ替わっているけど、セリエが寝ている部屋とほとんど同じ。ベッドが2台並んだツインルームで、調度品とかも同じだ。


 奥のソファにはさっき見たゼーヴェンさんが座っている。しかめっ面というか、硬い表情のまま、入ってきた僕らをちらりと一瞥した。
 改めて見ると。えらい貴族らしいけど、勝気そうな目とかもあって、なんというか大人ぶって澄ましている生意気そうな子供って感じだ。まあ年を考えれば子供なんだけど。


 横にはメイベルさんが控えている。背が高いからか、すっとした立ち姿がきれいだ。
 僕等を見て軽く会釈してくれた。


「若。此方がスミト殿とスズ殿です。
スミト殿、こちらはわが主、ゼーヴェン・フロリアン=ニヴェオルドニ・ロヴァール様だ」


 ライエルさんが紹介してくれる。ちょっと硬い表情が一瞬ほころんだ……ように見えたけど、またもとの表情に戻った。


「ふむ、お前が噂の塔の廃墟の英雄か?」
「はい、その通りです、若」


 僕が答えるより早くライエルさんが答えてくれる。
 不満げな顔で、ゼーヴェンさんがライエルさんを一睨みした。


「控えろ、ライエル。俺はお前には聞いておらん。どうなのだ?」


 改めて僕の方を見て聞いてくる……なんつーかとても偉そうだ。まあ実際偉いんだろうけど。
 一瞬腹が立ったけど、かといって回れ右して部屋を出るのも流石にマナーが悪いというか大人げない。
 というかライエルさんに気の毒な気がしたのでとりあえず一旦スルーした。サラリーマンしてれば偉そうな奴には散々会ったし。


「ええ……そうらしいですよ」


 僕の返事を聞くと、口元を抑えて考え込むような仕草をした。値踏みされてるようであまり気分は良くない。


「ふむ。そうか。礼を言うぞ、カザマスミト」


 しばらくの間があって、なんとも形式的な感じの感謝の言葉が返ってきた。


「まあそれはいい。ライエル。明日はさっき申し渡した通りだ、いいな?」
「しかし、若……」


「先ほども言ったとおりだ。何度も言わせるな」


 苛立たし気にゼーヴェンさんが言って、ライエルさんが食い下がる。


「帰路にワイバーンを討つ」


「はあ?」
「え?」


 僕と都笠さんの声がハモった。





 思わず変な声が出てしまった。というか正気か、この人。


「ですから、若!」


 ライエルさんが口をはさむ。さっきから揉めてたのは、これか。
 というか、ワイバーンを討つって、ガーゴイルとかリザードマンを倒すのと勘違いしてはいないか。


「まず、ライエル、お前もわかっているだろうが。
ワイバーンには我が従者、サージを殺されている。お前の友でもあっただろう。主として仇は討たなくてはならぬ」


 何か言いたげなライエルさんを手で制してゼーヴェンさんが続ける。


「それに、あそこにワイバーンに居座られては、この地の探索にも多大な支障をきたすだろう
オルドネスの名に連なるものとして、何としてでも倒さねばならん。これは貴族の義務だ」
「しかしですな」


「あのアンフィスバエナを退けたのだ。可能だろう?」
「若、お聞きください」


 簡単に言ってくれるけど、セリエは死にかけた。軽々しく言われるのは非常に嫌な感じだ。
 都笠さんの方を振り返ると勘弁してよ、という顔で首を振った。メイベルさんがちょっと物憂げな感じで二人の口論を見守っている。
 とりあえず口を挟める雰囲気でないので、黙ってみていることにした。





 結局、諫めるライエルさんというワイバーン討伐を譲らないゼーヴェンさんの言い合いは結論が出ないまま解散になった。
 ライエルさんと都笠さんと僕は部屋から出て一旦隣の部屋に戻る。


 ドアを静かにあけると、セリエはベッドで寝ていて、ユーカはそれに寄り添うように一緒に眠っていた。手を握り合っている。
 僕と過ごす以上にあの二人の関係は長いわけで。ユーカの心中は察するに余りある。


 手で隣の部屋を指さして隣の部屋に移動した。ここにも管理者アドミニストレーターで明かりをつける。
 都笠さんがベッドに腰掛けてそのままあおむけに寝転がった。


「しかし、なんなのよ、あの貴族様。偉そうなのは百歩譲って見逃すとしても、無茶言いすぎでしょ」


 寝っ転がったままの都笠さんが不満気な声を出す。結構失礼な言い草だと思うけど、まあ僕も似たような感想ではある。
 ライエルさんの顔色を窺う。立場的には、無礼だぞ、と怒っても不思議じゃないところではあるんだけど、スルーしてくれた。


「うーむ……正直言って、どちらかというと醒めた方なのでな。
あのようなことを言われるのは私としても意外だ」


 ライエルさんが首を振る。


「で、どうするの?風戸君」
「……どうするって言われてもね」


 敵討ちについてはまあわからなくもない。でも貴族の義務、とかいわれても僕等にはあまり関係ない。


 空を飛び回れるってのはとんでもないアドバンテージだと思うし、僕等にとっては不利な要素だ。シミュレーションゲームとかで飛行ユニットが強い理由がよくわかる。あのスピードじゃ僕の魔弾の射手も都笠さんの銃でも簡単にはとらえられないだろう 
 正直言ってどうにかうまくやり過ごして渋谷に戻りたい、というのが本音だ。僕等だけで正面から一戦交えるにはかなり分が悪い。


 本当に倒すことを考えるなら、一旦戻って大規模な討伐部隊を派遣した方が分がいい……と思う。
 まあ、あのワイバーン相手に数をそろえることが意味があるかは何とも言えないんだけど、それでも少人数で戦うよりはマシだ。


「なんか、映画で出てくるような誘導ミサイルみたいなのとか持ってないの?」
「ああ……スティンガーとかのこと?」


 都笠さんが顔だけ起こしてこっちを向く


「あれは持ってないのよ。いつか米軍基地とか行けたらいっぱいガメてきたいわ」


 残念な返事が返ってきた。
 アクション映画とか戦争映画で歩兵がヘリをミサイルで撃ち落とす場面とかよく見るから、ああいうのを持ってないかと思ったんだけど。


「ただ、あれってワイバーン相手に誘導するのかしら。ヘリとか撃つための武器だしねぇ」


 まあ確かに。
 地球で、対空ミサイルを撃ち込むようなサイズの生物なんていないから撃ってみないとわからないか。ただ、とりあえず無いもののことを離していても仕方ない。
 ライエルさんは当然の如く何が何だかわからない、という顔をしている。


「現実的に逃げることを考えるとしてさ、地下鉄を行くのはどうかな?」


 新宿に行くときにも使ったけど、地下鉄を行くルートはアリかもしれない。ワイバーンも地下までは入ってこれないだろうし。


 ここから一番近いのは確か六本木一丁目駅だ。地下鉄の路線も乗らなくなってしまったので、すっかり忘れつつあるけど、南北線だったと思う。
 もしくは、六本木交差点まで移動して日比谷線に潜るのもありかもしれない。


 南北線は目黒まで行けたはずだけど、目黒のあたりはまだ封緘シールが届いていない。
 ただ、恵比寿まで行ければ安全だ。恵比寿は今はほぼ制圧済みのはずだし、目黒と恵比寿はそんなに遠くない。


「あのさ……そんな危ないこと……まさかやったわけ?」


 都笠さんがベッドの上に体を起こして聞いてくる。
 言っては見たものの、地下を行くのはリスクもある。首都高を走って逃げた話を考えると、横に逃げられないってのはかなり危ない。
 前回はたまたまうまくいったけど、今回行けるとは限らない。
 アンフィスバエナみたいなのが現れるとまず勝てないと思う。


「前に、渋谷から新宿までね」
「……よくまあそんな無茶をやるわね。大きな敵が出てきたらやばいとか思わなかったの?」


「引き返せばいいかな、と」


 やれやれ、といった顔で司さんが首を振る。
 まあ今から思えば運が良かった。挟まれる可能性もあったわけで。


「車で遠回りして、もし襲われたら今日みたいに強引に逃げ切る、とかは?」


 個人的にはそれが一番無難なプランではあると思う。
 ただ、ワイバーンの行動範囲が全然読めない。あの飛行能力があれば相当遠くまで飛べそうだ。遠回りしてもあっさり補足される可能性はある。


 それに別の魔獣と戦う羽目になる可能性も有る。
 ホテルの部屋の中にいると現実感がなくなるけど、ここは魔獣の生息域のど真ん中だ。走る距離が延びればその分危険は増す。


 いまも、時々得体のしれない吠え声が聞こえてくる。
 ワイバーンのものとは違うけど種類の判別なんてことはできない。ただ、何かがいるのは分かる。
 それに、このホテルの7階の窓越しに聞こえるのだから結構な大声だ。どんな魔獣なのかは分からないけど、片手間でひねれる雑魚ではないだろう。


「……それもなくはないんだけどさ、今回は7人なんだよね」


 渋い顔をして都笠さんがぼやく。


「今日はランクルの性能があるから何とか逃げ切れたけどさ、7人乗りのミニバンであれやるのは無理よ」
「うーん。そうか」


「風戸君、免許持ってるんでしょ?二台で行くのは?」


 都笠さんが聞いてくる。


「ごめん、無理」
「なんで?」


「ペーパードライバーよりはましだけど、あの運転についてくのは無理」


 自衛隊の訓練の賜物か、本人の趣味なのか分からないけど、行きの都笠さんの運転はとても真似できない。
 ワイバーンの機動力を見る限り、僕の運転じゃ早々に追いつかれておしまいだ 


「……どうせ逃げ切りが難しいなら腹をくくって戦う、というのもなくはないのよね」


 都笠さんがちょっと表情を引き締めて言う。


「あんまり気は進まないけどね」
「ライエルさん、ワイバーンと戦うときの戦術ってないんですか?」


 地球には空飛ぶ魔獣なんていないわけで、空から襲ってくるワイバーンを撃退する戦術はさすがの自衛隊員も知らないだろう。怪獣と自衛隊が戦うのは映画の中だけだ。
 でも、ガルフブルグには有るんじゃないだろうか。ワイバーンはともかく、空を飛ぶ大きい鳥のような魔獣とかへの対抗策くらいはあっても不思議じゃない。


「そもそもワイバーン自体がほとんど遭遇しない魔獣であるのでな」


 ライエルさんが首をひねる。
 まあそれはそうか。セリエが言うには竜族ドラゴンだってことだし、そんなに竜族ドラゴンと遭遇する世界は恐ろしすぎる。
 ところで、ワイバーンを倒せば竜殺しドラゴンスレイヤーになれるんだろうか。


「以前聞いたものでは……人数をそろえて陣地を作ったうえでこちらにおびき寄せる。
そして、こちらに向かってくるところを弩や魔法で一斉に迎撃する、という風なものらしい」


 足を止めて迎撃戦をするわけか。
 確かにあの機動力と飛行能力を考えれば、人間の足や馬じゃ追いかけっこしても話にならない。車でもよほどスピードを出せなければ追いつかれるレベルだし。
 ならいっそ足を止めて火力を集中させよう、という発想らしい。なんかどことなく、機銃掃射してくる戦闘機を高射砲で迎撃する感じに似ている、ような気がする。でも…… 


「それって……落とせなかったら?」


 ライエルさんが首を振った。
 蹴散らされて陣形を崩されたら各個撃破されてお仕舞ってことにないかねない。なんともハイリスクな戦術だ。
 まあドラゴン相手に安全に勝つ方法なんて都合のいいものがあるわけもないか。
 部屋の中に重苦しい沈黙が下りる。


「今日はこの辺にしておかない?」


 都笠さんが言った。
 スマホの時計をみると、もう11時近かった。
 日本にいた時の感覚だとそこまで遅い時間ではない、というか残業終わって帰りの中央線の中って時間だけど。
 こっちでは明かりが少ないから生活もなんとなく早寝早起きになる。


「まあ、今は若もアンフィスバエナとの戦闘の直後で気が高ぶっておられるのかもしれん。
明日、もう一度お話ししてみよう」


 ライエルさんが言う。
 そもそもワイバーンと戦う、ということは自分の身を危険にさらすことでもあるわけで。
 やっぱり考え直した、となる可能性も有る。というか、そうなってほしい。 


「じゃあ部屋わけは……」
「あたしは隣でセリエ達と寝るわ。風戸君とライエルさんは此処で寝なよ」


「まあそれでいいかな。いいですか?ライエルさん」
「ああ、無論構わない。スミト殿の方こそいいのかね?」


「ええ。」


 この人は結構な地位の騎士かなにかだと思うけど、その割には気さくだと思う。
 高位の貴族の側近、という立場を考えれば、もう少し偉そうでも不思議じゃないんだけど。


「じゃあ、お休み」


 都笠さんが立ち上ったその時。


「お休みのところ、失礼します」


 ドアがノックされて、開けた隙間から声がした。セリエの声じゃない。メイベルさんだ


「カザマスミトさま、旦那様がお呼びです。お越しいただけないでしょうか?」
「……もう寝たって言っておいてもらえませんか?」


 あからさまな身分社会であるからこんなもんだ、とは分かっていてもやっぱり貴族様の態度は上から目線で好きにはなれない。
 寝る前にあんなのと個別会談なんてしたくない


「申し訳ありません。旦那様に叱られます。どうか……」


 メイベルさんのすがるような小さい声がドア越しの聞こえた。なんというか、うしろめたい気分になる。


「……行ってあげなよ、風戸君」
「済まないが、スミト殿」


「しゃあないか」


 何のようだかわからないけど、手短に済ませてほしいもんだ





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