僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。(書籍版・普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ)
僕の変化、セリエの変化、ガルフブルグの変化。
翌日、いつも通りとりあえず魔獣狩りに行ったけど、相変わらず成果は今一つだった。
これまたいつも通りスクランブル交差点下の食堂に夕飯を食べに行く。
アーロンさんやリチャード、レインさんもいつも通りにここで夕食を食べている。今日は支払いをしなくていい、と思うと少し気が楽だ。
食事代はタダになったとはいえ、食べ放題だからといってここぞとばかりに高いものを頼むのも気が引ける。
いつも通りのスープにソーセージ、焼いた野菜と目玉焼のように焼かれた卵あたりを注文して席に着いた。
久しぶりに刺身が食べたいけど、ここでそれを望むのは無理なのが残念だ。以前は居酒屋に入ればすぐに食べられたんだけど。
「お、スミト。昨日はジェレミー公との晩餐だったよな。どうだった?」
アーロンさんがワインを飲みながら聞いてくる。
「料理はおいしかったですよ。あ、オルドネス公の準騎士ってのに誘われました」
「準騎士だと?」
「マジかよ?で、どうしたんだ?」
「今のところは誰かに仕えるって気分じゃないので断りました。でもここの食事はタダになりましたよ」
「……準騎士か。まあお前のしたことを考えれば……」
「馬鹿か、スミト?お前、今の状況がわかってんのか?」
アーロンさんが考え込んだ横で、リチャードが突然怒ったような声を上げた。
「何が?」
「お前な、宿とメシがタダになったって喜んでる場合じゃねえぞ。
お前が作り方を教えたあのれとると食品とかいうやつだがな、ガルフブルグではあの箱一つで300エキュトだぞ。ものによっては400エキュト以上だ。それが何千箱も運ばれてんだ。
化粧品とやらも飛ぶように売れてるらしいしな。
おかげでオルドネス公はホクホクよ」
300エキュトは45000円くらいか。
日本じゃ300円くらいのレトルトカレーとかが一袋で45000円とかぼったくりにもほどがある。高級フレンチのコースが食べれるぞ、僕は食べたことないけど。
「美味しいですものね……私はグリーンカレー、というのが不思議な味でよかったです」
「あたしはミートソース!お肉がいっぱい入ってるのが好き」
手持ちで部屋に少し残っていた分は売らずにアーロンさん達にふるまったから一応みんな日本のレトルト食品を一度は味わっている。
レインさんが何かを思い出すような顔をしている。グリーンカレーが好きって辺りは中々通だな。ユーカは子供だからか、ミートソースがお気に入りだ。
「そういえば、これは聞いた話だがな、オルドネス公がカレーを王に献上されたそうだ。
王はそれをとても気に入られて、先日の舞踏会の晩餐のメインディッシュとしてカレーシチューが出たらしい。
特別にあつらえた金の鋏で来賓の前で開封して供されたそうだぞ」
「しかもだ、レトルト食品を出すときは、客の目の前で開けること。開封には金か銀の鋏かナイフを使うように、と直々にお達しまで出てるんだぜ」
そこまで聞いてさすがに噴き出した。
豪華なシャンデリアとテーブルクロス、磨き抜かれた皿とナイフとフォーク、そして居並ぶ貴族様。
そこに静々とメイドとか正装した使用人がやってきてレトルトカレーを仰々しく金の鋏で開けて皿によそうとか……そりゃ面白すぎる。
「笑い事じゃねぇんだよ、まったく。お前全然わかってねぇぞ。
そもそもガルフブルグ四大公の直属の準騎士っていえばだな、下手な貴族より扱いが上なんだぜ。
カネもかわいこちゃんも向こうから寄ってくるってのに。お前は欲がなさすぎるんじゃねぇの?」
「……お言葉ですが、リチャード様」
黙って聞いていたセリエが口を開いた。
「ご主人様には私とお嬢様がお仕えしております。
他にかわいこちゃんなんて必要ないと思いますが」
あったかいスープが冷めるような、冷たい声だ。怖い。
「……スミト。お前の奴隷はなかなかおっかないぞ。刺されねぇようにな」
リチャードが僕の耳元で小声で言う。ソウデスネ。
「まあ、リチャードの話は置いておくがな。お前さんの存在というか、やったことはガルフブルグにいろいろと影響を与えているのは知っておけ。
準騎士の声がかかるのも不思議じゃないってことだ」
こっちにいて魔獣と戦ってばかりいると実感がないけど、そういうものか。そして準騎士にさそわれるってのが思ったより凄いことなのも分かった。
◆
食事を済ませて部屋に戻った。いつも通り風呂を沸かすのに管理者を使おうとしたところでいつもと違うことに気付いた。
「あれ?」
「どうしたのお兄ちゃん?」
タオルをもってバスルームに行こうとしていたユーカがこっちを向く。
管理者を使うときに頭に浮かぶ文字、それがいつもと少し違っていた。
「第二階層になってる」
今まで、第三階層 権限範囲、だったものが第二階層になっていた。レベルアップのファンファーレなんてものが響くわけでもないので全然気づかなかった。
「セリエ、スキルって成長したりするものなの?」
実は隠しパラメーターに経験値とか熟練度なんてものがあったりはしないと思うけど、スキルを使い続けていれば成長することもあるんだろうか。
「全部が全部というわけではありませんが……特殊スロットにセットするスキルは使い手の成長によって効果が強化されるものもあると聞いています」
「電源復旧と防災設備復旧が階層全域になってるよ」
表記を見る限りだと、このフロア全部の電気をつけることができるんだろうか。
「せっかくだからちょっと試してみようか」
人気のない廊下に出る。部屋の中からは話し声が聞こえてくるけど、コアクリスタルのランプと月明りだけの薄暗い廊下だ。
「さて、じゃあ。管理者、起動、電源復旧……フロア全域」
発動した瞬間、廊下にぱっと電気の明かりがともった。見慣れた電気の光で、よくあるビジネスホテルの廊下の風景になる。
おお、凄い、などと思ったと同時に一気に力が抜けた。貧血を起こした時のように足から力がぬけて膝をつく。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「うわっ、なんだこれ」
「おい、誰か明かりの魔法をつけたのか」
「なんだ、敵か!」
部屋の中から驚いた声がして、ドアが次々と音を立てて開いた。
中から普段着姿に剣をもった男が出てくる。驚かして申し訳ない。なんというか、いたずらで非常ベルを鳴らした時のような気まずさだ。
「おい、天井のガラスの玉に明かりがついているぞ。これはいったいなんだ」
「どうした、大丈夫か?何があった?」
がっくり膝をついている僕を隣の部屋の探索者の剣士が見下ろしてくる。
「いえ、何でもないです、大丈夫」
「ご主人様……」
セリエが肩を貸してくれて立ち上がった。気を失うほど、というほどではないけど、使った時の消耗感が今までと比較にならない。
RPGじゃないけど、新しく覚えた高レベルの魔法はMP消費が激しいってことだろう。効果範囲が広がったのはいいけど使いどころは相当難しいということが身に染みた。
◆
「あの…ご主人様……」
「うわっ」
夜に目が覚めて突然目の前に顔があると、かなりびっくりする。それが犬耳のかわいい獣人であっても。
「眠れないので…あの……」
「眠れないので?」
「あの……口づけしていただけたらと」
最近、時々セリエがキス魔になる。
今はジェレミー代官のお陰で続きの部屋を借りて片方は僕、もう一方はセリエとユーカが使っている。
普段は相変わらずのツンとしたそぶりだけど、夜は時々僕のベッドに潜りこんで、キスをねだってくる。本人曰く、怖い夢を見た時にそういう気分になるらしい。
最初は普通にキスしていたけど、最近は焦らすとかわいいとこがわかったのでそうしている。
とりあえず目を見つめる。
「あの…ご主人様、意地悪しないで……」
ほおっておくと舌をだしてくる。この辺の仕草は犬っぽい。
この時は舌の先端だけ触れてやる。
「あの…そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
コアクリスタルのランプの薄明りでも頬が染まっているのがわかる。
恥ずかしそうに目を伏せるのがかわいい。
「前にしてくださったみたいに舌を入れて……優しく……して…ください……」
普段が取り澄ましているだけに、このおねだりは猛烈にかわいい。僕は実はサドなのかって気分になる。
ただし、これ以上焦らすと怒られる。前は首筋に歯を立てられて一週間ほど痕が残った。ユーカに真顔で心配され、リチャードには散々からかわれたので、もうあれはやめておきたい。
抱きよせてあげると安心したような顔をして目をつぶる。
セリエはうなじや獣耳をなでられるのがお気に入りらしい。なので、なでてなるべく優しくしてあげながら舌をちょっと強めに吸うと体がきゅっと強張って、そのあと力が抜けて僕に覆いかぶさってくる。
「……申し訳ありません、ご主人様……」
「なにが?」
「ご主人さまに口づけをお願いするなんて……はしたない奴隷で……」
「いや、べつにいいよ、そんなこと」
むしろ僕得な状況だし。こちらからお願いしたいくらいだ。
「ご主人様の口づけ…優しくって……愛されてるって感じがして…とっても幸せです。
ありがとうございます」
僕はよく知らないけど、奴隷だったころ、色々あったんだろうなって思う。幸せそうな顔を見ると僕もうれしい……うれしいんだけど。それで帰ってしまうのは……。
なんというか、奴隷の主って、かわいい奴隷にやりたい放題だ、とかとは言わなくても「ご主人様、ご奉仕します」とかいわれて、あれやこれやとできる…と思わなかったといえばウソになる。
セリエのスレンダーな体は僕の好みのどストライクだし、キスするときに当たる胸とか……それなのに、ああ、もう。これじゃ満足してるのはセリエだけじゃないか。
なんか…僕は本当にご主人様なんでしょうか?と時々思うのであった。
……あとユーカにバレてないか心配です。
これまたいつも通りスクランブル交差点下の食堂に夕飯を食べに行く。
アーロンさんやリチャード、レインさんもいつも通りにここで夕食を食べている。今日は支払いをしなくていい、と思うと少し気が楽だ。
食事代はタダになったとはいえ、食べ放題だからといってここぞとばかりに高いものを頼むのも気が引ける。
いつも通りのスープにソーセージ、焼いた野菜と目玉焼のように焼かれた卵あたりを注文して席に着いた。
久しぶりに刺身が食べたいけど、ここでそれを望むのは無理なのが残念だ。以前は居酒屋に入ればすぐに食べられたんだけど。
「お、スミト。昨日はジェレミー公との晩餐だったよな。どうだった?」
アーロンさんがワインを飲みながら聞いてくる。
「料理はおいしかったですよ。あ、オルドネス公の準騎士ってのに誘われました」
「準騎士だと?」
「マジかよ?で、どうしたんだ?」
「今のところは誰かに仕えるって気分じゃないので断りました。でもここの食事はタダになりましたよ」
「……準騎士か。まあお前のしたことを考えれば……」
「馬鹿か、スミト?お前、今の状況がわかってんのか?」
アーロンさんが考え込んだ横で、リチャードが突然怒ったような声を上げた。
「何が?」
「お前な、宿とメシがタダになったって喜んでる場合じゃねえぞ。
お前が作り方を教えたあのれとると食品とかいうやつだがな、ガルフブルグではあの箱一つで300エキュトだぞ。ものによっては400エキュト以上だ。それが何千箱も運ばれてんだ。
化粧品とやらも飛ぶように売れてるらしいしな。
おかげでオルドネス公はホクホクよ」
300エキュトは45000円くらいか。
日本じゃ300円くらいのレトルトカレーとかが一袋で45000円とかぼったくりにもほどがある。高級フレンチのコースが食べれるぞ、僕は食べたことないけど。
「美味しいですものね……私はグリーンカレー、というのが不思議な味でよかったです」
「あたしはミートソース!お肉がいっぱい入ってるのが好き」
手持ちで部屋に少し残っていた分は売らずにアーロンさん達にふるまったから一応みんな日本のレトルト食品を一度は味わっている。
レインさんが何かを思い出すような顔をしている。グリーンカレーが好きって辺りは中々通だな。ユーカは子供だからか、ミートソースがお気に入りだ。
「そういえば、これは聞いた話だがな、オルドネス公がカレーを王に献上されたそうだ。
王はそれをとても気に入られて、先日の舞踏会の晩餐のメインディッシュとしてカレーシチューが出たらしい。
特別にあつらえた金の鋏で来賓の前で開封して供されたそうだぞ」
「しかもだ、レトルト食品を出すときは、客の目の前で開けること。開封には金か銀の鋏かナイフを使うように、と直々にお達しまで出てるんだぜ」
そこまで聞いてさすがに噴き出した。
豪華なシャンデリアとテーブルクロス、磨き抜かれた皿とナイフとフォーク、そして居並ぶ貴族様。
そこに静々とメイドとか正装した使用人がやってきてレトルトカレーを仰々しく金の鋏で開けて皿によそうとか……そりゃ面白すぎる。
「笑い事じゃねぇんだよ、まったく。お前全然わかってねぇぞ。
そもそもガルフブルグ四大公の直属の準騎士っていえばだな、下手な貴族より扱いが上なんだぜ。
カネもかわいこちゃんも向こうから寄ってくるってのに。お前は欲がなさすぎるんじゃねぇの?」
「……お言葉ですが、リチャード様」
黙って聞いていたセリエが口を開いた。
「ご主人様には私とお嬢様がお仕えしております。
他にかわいこちゃんなんて必要ないと思いますが」
あったかいスープが冷めるような、冷たい声だ。怖い。
「……スミト。お前の奴隷はなかなかおっかないぞ。刺されねぇようにな」
リチャードが僕の耳元で小声で言う。ソウデスネ。
「まあ、リチャードの話は置いておくがな。お前さんの存在というか、やったことはガルフブルグにいろいろと影響を与えているのは知っておけ。
準騎士の声がかかるのも不思議じゃないってことだ」
こっちにいて魔獣と戦ってばかりいると実感がないけど、そういうものか。そして準騎士にさそわれるってのが思ったより凄いことなのも分かった。
◆
食事を済ませて部屋に戻った。いつも通り風呂を沸かすのに管理者を使おうとしたところでいつもと違うことに気付いた。
「あれ?」
「どうしたのお兄ちゃん?」
タオルをもってバスルームに行こうとしていたユーカがこっちを向く。
管理者を使うときに頭に浮かぶ文字、それがいつもと少し違っていた。
「第二階層になってる」
今まで、第三階層 権限範囲、だったものが第二階層になっていた。レベルアップのファンファーレなんてものが響くわけでもないので全然気づかなかった。
「セリエ、スキルって成長したりするものなの?」
実は隠しパラメーターに経験値とか熟練度なんてものがあったりはしないと思うけど、スキルを使い続けていれば成長することもあるんだろうか。
「全部が全部というわけではありませんが……特殊スロットにセットするスキルは使い手の成長によって効果が強化されるものもあると聞いています」
「電源復旧と防災設備復旧が階層全域になってるよ」
表記を見る限りだと、このフロア全部の電気をつけることができるんだろうか。
「せっかくだからちょっと試してみようか」
人気のない廊下に出る。部屋の中からは話し声が聞こえてくるけど、コアクリスタルのランプと月明りだけの薄暗い廊下だ。
「さて、じゃあ。管理者、起動、電源復旧……フロア全域」
発動した瞬間、廊下にぱっと電気の明かりがともった。見慣れた電気の光で、よくあるビジネスホテルの廊下の風景になる。
おお、凄い、などと思ったと同時に一気に力が抜けた。貧血を起こした時のように足から力がぬけて膝をつく。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「うわっ、なんだこれ」
「おい、誰か明かりの魔法をつけたのか」
「なんだ、敵か!」
部屋の中から驚いた声がして、ドアが次々と音を立てて開いた。
中から普段着姿に剣をもった男が出てくる。驚かして申し訳ない。なんというか、いたずらで非常ベルを鳴らした時のような気まずさだ。
「おい、天井のガラスの玉に明かりがついているぞ。これはいったいなんだ」
「どうした、大丈夫か?何があった?」
がっくり膝をついている僕を隣の部屋の探索者の剣士が見下ろしてくる。
「いえ、何でもないです、大丈夫」
「ご主人様……」
セリエが肩を貸してくれて立ち上がった。気を失うほど、というほどではないけど、使った時の消耗感が今までと比較にならない。
RPGじゃないけど、新しく覚えた高レベルの魔法はMP消費が激しいってことだろう。効果範囲が広がったのはいいけど使いどころは相当難しいということが身に染みた。
◆
「あの…ご主人様……」
「うわっ」
夜に目が覚めて突然目の前に顔があると、かなりびっくりする。それが犬耳のかわいい獣人であっても。
「眠れないので…あの……」
「眠れないので?」
「あの……口づけしていただけたらと」
最近、時々セリエがキス魔になる。
今はジェレミー代官のお陰で続きの部屋を借りて片方は僕、もう一方はセリエとユーカが使っている。
普段は相変わらずのツンとしたそぶりだけど、夜は時々僕のベッドに潜りこんで、キスをねだってくる。本人曰く、怖い夢を見た時にそういう気分になるらしい。
最初は普通にキスしていたけど、最近は焦らすとかわいいとこがわかったのでそうしている。
とりあえず目を見つめる。
「あの…ご主人様、意地悪しないで……」
ほおっておくと舌をだしてくる。この辺の仕草は犬っぽい。
この時は舌の先端だけ触れてやる。
「あの…そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
コアクリスタルのランプの薄明りでも頬が染まっているのがわかる。
恥ずかしそうに目を伏せるのがかわいい。
「前にしてくださったみたいに舌を入れて……優しく……して…ください……」
普段が取り澄ましているだけに、このおねだりは猛烈にかわいい。僕は実はサドなのかって気分になる。
ただし、これ以上焦らすと怒られる。前は首筋に歯を立てられて一週間ほど痕が残った。ユーカに真顔で心配され、リチャードには散々からかわれたので、もうあれはやめておきたい。
抱きよせてあげると安心したような顔をして目をつぶる。
セリエはうなじや獣耳をなでられるのがお気に入りらしい。なので、なでてなるべく優しくしてあげながら舌をちょっと強めに吸うと体がきゅっと強張って、そのあと力が抜けて僕に覆いかぶさってくる。
「……申し訳ありません、ご主人様……」
「なにが?」
「ご主人さまに口づけをお願いするなんて……はしたない奴隷で……」
「いや、べつにいいよ、そんなこと」
むしろ僕得な状況だし。こちらからお願いしたいくらいだ。
「ご主人様の口づけ…優しくって……愛されてるって感じがして…とっても幸せです。
ありがとうございます」
僕はよく知らないけど、奴隷だったころ、色々あったんだろうなって思う。幸せそうな顔を見ると僕もうれしい……うれしいんだけど。それで帰ってしまうのは……。
なんというか、奴隷の主って、かわいい奴隷にやりたい放題だ、とかとは言わなくても「ご主人様、ご奉仕します」とかいわれて、あれやこれやとできる…と思わなかったといえばウソになる。
セリエのスレンダーな体は僕の好みのどストライクだし、キスするときに当たる胸とか……それなのに、ああ、もう。これじゃ満足してるのはセリエだけじゃないか。
なんか…僕は本当にご主人様なんでしょうか?と時々思うのであった。
……あとユーカにバレてないか心配です。
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