高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
彼らの目的は
「此処からは交換条件だ。俺の質問にも答えてもらう」
「なんだ?」
「君たちが門の向こうの異世界の知的生命体と接触していることは知っている。君が一緒に戦ったこともね。その彼らについての情報を教えてもらいたい
正式に欧州聖堂騎士団から情報の提供を求めたんだが、魔討士協会は情報を出さなくてね」
パトリスが言う。
何のことかと思ったけど……シューフェンやエルマルたちのことを言っているのか
「俺たちの目的はそれについての情報収集だ。君、それにミス檜村、それとルーファに接触してね」
「なるほどね」
パトリスが言う。
妙になれなれしいし魔討士のことを聞きたがると思ったけどそういうことか。仲良くなって情報を聞き出そうとしたのかな。
「最近、新宿に行った時も視線を感じたんだけど」
「ああ、やはり気づかれていたか、さすがだな」
パトリスがこともなげに言うけど。
いざとなったら……誰か一人を浚うつもりでいたのかもしれない、という気はした。
ただ、そこまでやったら大トラブルになりかねない。
日本の魔討士協会とEUの聖堂騎士団がどんな関係なのか、さっぱりわからないけど。そんな無茶を許すことは流石にないだろう
「なぜ今正直に話すんだ?」
「君のことを見た感じだと、変に駆け引きをして策を弄するより正直に言う方がいいと判断した」
前を向いたままパトリスが言う。
カタリーナがまた不満そうにパトリスに視線をやった。
どう答えるか。魔討士協会からは口外しない様に言われている。
でも……今はそれより大事なことがある。
「妹を助けられたら……僕が知ってることなら教えてもいい」
今話して戦いから降りられちゃかなわない。ここは最後まで付き合わせてやる。
パトリスはなんとなくそう言う事はしなさそうな気もするけど。
「アンタね……そんな条件を……」
カタリーナが言いかけるけど。
「それで構わない。どうせ俺達にとっても敵だ」
パトリスが遮るように言ってカタリーナが黙った。
何となく力関係はパトリスの方が上っぽいな。階級とかランクとかあるんだろうか。
「一つ警告しておく、大事なことだ」
「なんだ?」
「これから戦う相手は人間だ」
「……なんだって?」
「魔素文明の連中は我々より魔素の扱いに長けているが、それでも門を開けてこっちに来ることは簡単ではない」
それはシューフェン達もそうらしい。
僕等、地球の技術では彼らの世界への門を開けることはできないけど彼らにはできる。
だけど、時間も人手も掛かるって言ってたな。
「君達の言うルーンキューブやルーンスフィアは奴らの端末というかドローンのようなものだが、それ以外にあいつらは人を味方につけている。今回絵麻を浚ったのもそいつらだ」
「どういうこと?」
「勧誘するのヨ。そこまで素質がない奴をネ。
お前には素晴らしい力があるのに、愚かな世間がそれを理解していないのだ、間違った世界を糺すために我々がお前に力を与えてヤルってね。大抵はコロッと行くわ」
運転しながらカタリーナが言う。
「そいつらは意図的に人の姿を晒している。人への攻撃の忌避意識を分かっているんだ。それにそれを抜きにしても単純に手ごわい」
魔討士は人とは戦わない。エルマルやシューフェンと戦った時もやっぱりやりにくかった。
それを利用してくるのは……なんていうか嫌な相手だ。
「厄介ではあるが、切ってもそう簡単に致命傷にはならない。躊躇するな……と言っても難しいだろうが、覚悟は決めておけ」
◆
30分ほど走っただろうか。
パトリスがスマホとナビを見ながらカタリーナに指示を出している。
スマホにマップ表示のようなものが出ていた。たぶん欧州版の魔討士アプリか何かだろうな。
「そういえば、一つ聞きたい」
「なんだい?」
パトリスがスマホを見ながら答える。
「君らの能力を教えてくれ」
「何でヨ?」
とげとげしい口調でカタリーナが言うけど。
「一緒に戦うなら連携するために必要だ。それに、どうせ僕らのことは知ってるんだろ?」
「……そうだな」
パトリスが少し考え込んで、振り返って僕の方をちらりと見た。
「俺はさっきも見た通り弓が武器だ。少し間を開けた方が得意だが、矢をブレードのように使えるから一応接近戦になってもある程度戦える。
君たち魔討士でいうところの甲類だ。6位か5位くらいと思ってくれればいい」
僕が言うのもなんだけど、5位といえばそれなりに上位だ。本当にそこまで強いんだろうかと思ったけど。
わざわざヨーロッパから送られてきたんだから、それなりの実力者と考えるべきだろうな。
「カタリーナは身体能力の向上と銃の弾や武器に魔素を乗せることができる。弾が切れると厳しいから配慮してやってほしい」
「ちょっと!あのさぁ!」
カタリーナが抗議するように声をあげた。
あれは本当の銃なのか。どうやって持ち込んだのかは聞かないでおこう。
「いくらなんでもねぇ!パトリス!」
「彼の言う通り、お互いの能力を知って連携する方が合理的だ。それに騎士の端くれたるものフェアにあるべきだ……今更だがね」
パトリスが自嘲するように言う。カタリーナが舌打ちして前を向きなおった。
◆
車がどこを走っているのか分からないけど、段々車どおりが少なくなっているのが分かる。
スマホを出して地図を確かめる。湾岸の倉庫街か。
広い道のわきには朱い街灯が光っていた。薄暗い中にコンテナのようなものが積み上げられているのがわかる。
窓の外を見るけど、人通りが全くない。
「いやな場所だな」
パトリスが言う
例えば渋谷とかなら周りに沢山の人がいて、その中には魔討士もいるから援護も期待できる。
でも……窓の外を見るけど、明かりがついている倉庫はいくつもあるけど、魔討士が居るとは思えない。
ここだと厳しい。
車が倉庫街の外れの駐車場に入って止まった。
ドアを開けると冷たい夜風が吹き込んできて、遠くからサイレンのような音が響いてくる。
檜村さんが不安げに周りを見回して深呼吸した。
カタリーナが車のトランクを開けてベルトのようなものを取り出す。
「ちょっと、あっち向いてナヨ」
カタリーナが言ってセーターを脱いだ。白い肌が見えて慌てて目をそらす。
しばらくして振り返ると、濃い青と黒の迷彩服に着替えていた。完全に軍人スタイルだな。
カタリーナが長い髪をキャップの中に収めて、ベルトを手際よく体に巻き付けていく。
ベルトには映画で見るようなホルスターが取り付けられていて、黒い銃が差し込んであるのが見えた。
腰の後ろには短めの剣まで挿している。
最後にこれまたアクション映画のような長い突撃銃を取り出してストラップを首からかけた。
なんか現実感がない光景だ。
車にしても銃にしても、持ち込むルートというか組織をすでに持っているんだろうな。
弾倉を差し込んでレバーを引くと、金属音が静かな倉庫街に響いた。
立ち居振る舞いに伊勢田さんと同じような雰囲気を感じる。軍隊で訓練を受けた、というのは嘘じゃないらしい。
スコープを覗いて周りを見回す。
「誰もいないわネ」
「奴らは……あそこだな」
スマホを見ながらパトリスが灰色の壁の倉庫を指さした。
「じゃあ行くワヨ。静かにツイテきな、学生サン」
カタリーナがとげのある口調で言うと、銃を構えて先行するように歩き出した。
ダンジョンの外のこの状況だと僕もパトリスも武器を出せないし、檜村さんも魔法は使えない。
カタリーナが一番の戦力になるってことか
一度動き始めるとさっきまでの不満そうな感じはない。
隙のない動きで歩を進めて僕等に早く来いと言わんばかりに手招きした。
どうやっていいか分からないけど、なるべく足音を立てないように倉庫に近づく。
暗さと静けさ。それにそそり立つ大きな倉庫は黒い壁のように見える。
言い知れぬ緊張感で重苦しい。怪奇スポットにでも来ているようだ。倉庫までの距離が長く感じた。
コンクリートの壁までたどり着いたところでため息が出る。
檜村さんも疲れたようなように息を吐いた。
僕は師匠にことあるごとにしごかれてるけど、魔法使いである檜村さんはあまり体を動かす訓練はしてないはずだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、心配ないよ」
「奇襲できるか?」
「サア……出来たら楽なんだけどネ」
カタリーナとパトリスが言葉を交わす。
冷たいコンクリートの壁になんとなく耳を当ててみた時、ふいにスマホが震えた。
◆
パトリスがスマホを見て、カタリーナが舌打ちした。
倉庫の壁が赤いタイルに覆われる。ヒビだらけのコンクリートに赤い光が波のように走った。
同時にスマホが警告を発した。
『ダンジョン発生!』
「なんだ?」
「君たちが門の向こうの異世界の知的生命体と接触していることは知っている。君が一緒に戦ったこともね。その彼らについての情報を教えてもらいたい
正式に欧州聖堂騎士団から情報の提供を求めたんだが、魔討士協会は情報を出さなくてね」
パトリスが言う。
何のことかと思ったけど……シューフェンやエルマルたちのことを言っているのか
「俺たちの目的はそれについての情報収集だ。君、それにミス檜村、それとルーファに接触してね」
「なるほどね」
パトリスが言う。
妙になれなれしいし魔討士のことを聞きたがると思ったけどそういうことか。仲良くなって情報を聞き出そうとしたのかな。
「最近、新宿に行った時も視線を感じたんだけど」
「ああ、やはり気づかれていたか、さすがだな」
パトリスがこともなげに言うけど。
いざとなったら……誰か一人を浚うつもりでいたのかもしれない、という気はした。
ただ、そこまでやったら大トラブルになりかねない。
日本の魔討士協会とEUの聖堂騎士団がどんな関係なのか、さっぱりわからないけど。そんな無茶を許すことは流石にないだろう
「なぜ今正直に話すんだ?」
「君のことを見た感じだと、変に駆け引きをして策を弄するより正直に言う方がいいと判断した」
前を向いたままパトリスが言う。
カタリーナがまた不満そうにパトリスに視線をやった。
どう答えるか。魔討士協会からは口外しない様に言われている。
でも……今はそれより大事なことがある。
「妹を助けられたら……僕が知ってることなら教えてもいい」
今話して戦いから降りられちゃかなわない。ここは最後まで付き合わせてやる。
パトリスはなんとなくそう言う事はしなさそうな気もするけど。
「アンタね……そんな条件を……」
カタリーナが言いかけるけど。
「それで構わない。どうせ俺達にとっても敵だ」
パトリスが遮るように言ってカタリーナが黙った。
何となく力関係はパトリスの方が上っぽいな。階級とかランクとかあるんだろうか。
「一つ警告しておく、大事なことだ」
「なんだ?」
「これから戦う相手は人間だ」
「……なんだって?」
「魔素文明の連中は我々より魔素の扱いに長けているが、それでも門を開けてこっちに来ることは簡単ではない」
それはシューフェン達もそうらしい。
僕等、地球の技術では彼らの世界への門を開けることはできないけど彼らにはできる。
だけど、時間も人手も掛かるって言ってたな。
「君達の言うルーンキューブやルーンスフィアは奴らの端末というかドローンのようなものだが、それ以外にあいつらは人を味方につけている。今回絵麻を浚ったのもそいつらだ」
「どういうこと?」
「勧誘するのヨ。そこまで素質がない奴をネ。
お前には素晴らしい力があるのに、愚かな世間がそれを理解していないのだ、間違った世界を糺すために我々がお前に力を与えてヤルってね。大抵はコロッと行くわ」
運転しながらカタリーナが言う。
「そいつらは意図的に人の姿を晒している。人への攻撃の忌避意識を分かっているんだ。それにそれを抜きにしても単純に手ごわい」
魔討士は人とは戦わない。エルマルやシューフェンと戦った時もやっぱりやりにくかった。
それを利用してくるのは……なんていうか嫌な相手だ。
「厄介ではあるが、切ってもそう簡単に致命傷にはならない。躊躇するな……と言っても難しいだろうが、覚悟は決めておけ」
◆
30分ほど走っただろうか。
パトリスがスマホとナビを見ながらカタリーナに指示を出している。
スマホにマップ表示のようなものが出ていた。たぶん欧州版の魔討士アプリか何かだろうな。
「そういえば、一つ聞きたい」
「なんだい?」
パトリスがスマホを見ながら答える。
「君らの能力を教えてくれ」
「何でヨ?」
とげとげしい口調でカタリーナが言うけど。
「一緒に戦うなら連携するために必要だ。それに、どうせ僕らのことは知ってるんだろ?」
「……そうだな」
パトリスが少し考え込んで、振り返って僕の方をちらりと見た。
「俺はさっきも見た通り弓が武器だ。少し間を開けた方が得意だが、矢をブレードのように使えるから一応接近戦になってもある程度戦える。
君たち魔討士でいうところの甲類だ。6位か5位くらいと思ってくれればいい」
僕が言うのもなんだけど、5位といえばそれなりに上位だ。本当にそこまで強いんだろうかと思ったけど。
わざわざヨーロッパから送られてきたんだから、それなりの実力者と考えるべきだろうな。
「カタリーナは身体能力の向上と銃の弾や武器に魔素を乗せることができる。弾が切れると厳しいから配慮してやってほしい」
「ちょっと!あのさぁ!」
カタリーナが抗議するように声をあげた。
あれは本当の銃なのか。どうやって持ち込んだのかは聞かないでおこう。
「いくらなんでもねぇ!パトリス!」
「彼の言う通り、お互いの能力を知って連携する方が合理的だ。それに騎士の端くれたるものフェアにあるべきだ……今更だがね」
パトリスが自嘲するように言う。カタリーナが舌打ちして前を向きなおった。
◆
車がどこを走っているのか分からないけど、段々車どおりが少なくなっているのが分かる。
スマホを出して地図を確かめる。湾岸の倉庫街か。
広い道のわきには朱い街灯が光っていた。薄暗い中にコンテナのようなものが積み上げられているのがわかる。
窓の外を見るけど、人通りが全くない。
「いやな場所だな」
パトリスが言う
例えば渋谷とかなら周りに沢山の人がいて、その中には魔討士もいるから援護も期待できる。
でも……窓の外を見るけど、明かりがついている倉庫はいくつもあるけど、魔討士が居るとは思えない。
ここだと厳しい。
車が倉庫街の外れの駐車場に入って止まった。
ドアを開けると冷たい夜風が吹き込んできて、遠くからサイレンのような音が響いてくる。
檜村さんが不安げに周りを見回して深呼吸した。
カタリーナが車のトランクを開けてベルトのようなものを取り出す。
「ちょっと、あっち向いてナヨ」
カタリーナが言ってセーターを脱いだ。白い肌が見えて慌てて目をそらす。
しばらくして振り返ると、濃い青と黒の迷彩服に着替えていた。完全に軍人スタイルだな。
カタリーナが長い髪をキャップの中に収めて、ベルトを手際よく体に巻き付けていく。
ベルトには映画で見るようなホルスターが取り付けられていて、黒い銃が差し込んであるのが見えた。
腰の後ろには短めの剣まで挿している。
最後にこれまたアクション映画のような長い突撃銃を取り出してストラップを首からかけた。
なんか現実感がない光景だ。
車にしても銃にしても、持ち込むルートというか組織をすでに持っているんだろうな。
弾倉を差し込んでレバーを引くと、金属音が静かな倉庫街に響いた。
立ち居振る舞いに伊勢田さんと同じような雰囲気を感じる。軍隊で訓練を受けた、というのは嘘じゃないらしい。
スコープを覗いて周りを見回す。
「誰もいないわネ」
「奴らは……あそこだな」
スマホを見ながらパトリスが灰色の壁の倉庫を指さした。
「じゃあ行くワヨ。静かにツイテきな、学生サン」
カタリーナがとげのある口調で言うと、銃を構えて先行するように歩き出した。
ダンジョンの外のこの状況だと僕もパトリスも武器を出せないし、檜村さんも魔法は使えない。
カタリーナが一番の戦力になるってことか
一度動き始めるとさっきまでの不満そうな感じはない。
隙のない動きで歩を進めて僕等に早く来いと言わんばかりに手招きした。
どうやっていいか分からないけど、なるべく足音を立てないように倉庫に近づく。
暗さと静けさ。それにそそり立つ大きな倉庫は黒い壁のように見える。
言い知れぬ緊張感で重苦しい。怪奇スポットにでも来ているようだ。倉庫までの距離が長く感じた。
コンクリートの壁までたどり着いたところでため息が出る。
檜村さんも疲れたようなように息を吐いた。
僕は師匠にことあるごとにしごかれてるけど、魔法使いである檜村さんはあまり体を動かす訓練はしてないはずだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、心配ないよ」
「奇襲できるか?」
「サア……出来たら楽なんだけどネ」
カタリーナとパトリスが言葉を交わす。
冷たいコンクリートの壁になんとなく耳を当ててみた時、ふいにスマホが震えた。
◆
パトリスがスマホを見て、カタリーナが舌打ちした。
倉庫の壁が赤いタイルに覆われる。ヒビだらけのコンクリートに赤い光が波のように走った。
同時にスマホが警告を発した。
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