高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
異世界からの予期せぬ来客・下
あとは二人で、という一昔前のドラマとかのお見合いシーンのセリフのようなことを言って、シューフェンと宗片さんが何処かへ行ってしまった。
二人きりで広い道場に取り残される。フェンウェイが静かに僕を見た。
……この状況で何を話せというんだろう。
美女に言い寄られる、という状況はとても美味しい風に言われることが多いけど。
実際にそうなってみると、困るぞ。
「あー……なんというか」
「私のことがお気に召しませんでしょうか?」
困ったのを察したのか、フェンウェイが少し悲しそうな口調で言う。
獣耳が伏せられていた。
「いや……綺麗だと思いますよ」
「ほんとうですか?ありがとうございます」
フェンウェイの獣耳がぴょんと立ってスリットから覗く尻尾が揺れた。
シューフェンと同じように冷静な感じだけど、感情は分かりやすいな。
冷静そうにしてるだけなのかもしれない
「では、あの……婚儀の方も前向きに考えていただけるということでしょうか?」
そう言って、フェンウェイが顔を伏せた。
「あ……すみません、はしたないですね」
「そう言う問題じゃなくてですね。状況分かってますか?」
結婚するって結構重要なことだと思うんだけど。
しかも初対面の人となんて普通は抵抗を感じるものじゃないだろうか。
「勿論理解しております。
あなたの傍にお仕えできれば、私も女としての務めが果たせます
戦士として戦うのが男の務め。それをお支えするのが女の務めです」
フェンウェイが言う。
シューフェンが似たようなことを言って風鞍さんと険悪になってたな。
「はあ……」
「カタオカサマの世界は私たちソルヴェリアとかなり異なることは兄からお聞きしました……私はこの世界の方のようにお傍で戦うことはできません。
ですが、戦場に出ないからと言ってそれを恥じる鍛冶師はおりません。私は戦えませんが、カタオカサマの御傍にいても恥ずかしくないと自負しております」
フェンウェイが真剣な口調で言う。
「そうじゃなくて、そんなんでいいんですか?あなたの意思は?」
なんか役割とかそう言うのばかりで彼女の意志が見えてこないんだけど。
ソルヴェリアは政略結婚が当たり前の世界なのかもしれないけど、それに付き合うのは嫌だぞ。
「剣がそれにふさわしい鞘を選ぶように、鞘も良き剣を収めたいと望んでいます。
選ぶのは殿方だけの権利ではありません」
きっぱりとフェンウェイが言って真剣な顔で僕を見た。
「我が兄、シューフェンは若くして皇陛下に認められたソルヴェリア屈指の戦士です。兄が認めた戦士であるカタオカサマの御傍に居られることは喜びです……あの、それに」
そう言ってフェンウェイが言葉を切る。
ちょっと頬を染めて僕を見上げた。
「あの、申し上げてよろしいでしょうか?」
「……いいけど?」
「……正直申し上げて、あの……もっと熊人のような大きくて猛々しくて恐ろし気な方を想像しておりました。
ですが、あの……実際にお会いすると、とても見目麗しくて、凛々しいお方で……」
そう言ってフェンウェイさんが袖で隠すようにして顔をそむけた。
「なんというか……でも、ほかに奥さんがいるなんて嫌でしょ?」
男も女も二股掛けられてたら嫌なもんだと思うけど。好きな人には自分を見てほしいと思う者じゃないだろうか。
でも、フェンウェイが首を振った。
「その道士の方については存じませんが……私とその方は果たすべき役処が違います。ですから気にはなりません」
「というと?」
「私はその方の様に貴方様と共に戦うことはできません……私の務めは貴方のために家をお守りすることです。
剣に手入れが必要なように、戦士にも英気を養う場が必要です。カタオカサマがお戻りになる家を守るのも戦働きと同じくらい大事な勤めと存じます」
ソルヴェリアはやっぱり男女の役割がはっきり分かれている世界っぽいな。
あの蟲とかほかの国との戦争がありふれた世界っぽいからなのかどうかは分からないけど。
「ですが……家におられる時は私の方を愛でて頂きたいと思います。私は戦場ではご一緒できませんから。
勿論、そうして頂けるように努めます……ただ、あの」
フェンウェイが言いよどんだ。頬を染めてフェンウェンがまた俯く。
「なに?」
「あの……閨事は、まだ拙いと思いますが、そこはお許し頂きたいです」
小声でフェンウェイが言う。
こっちもなかなかに文化の違いを感じるけど、どうも適当にはぐらかせる相手じゃなさそうなのは分かった。
……閨事という言葉は聞いたことが無いから後で調べることにしよう。
◆
とりあえず、即答はできない、と言ってその場は何とか乗り切ったけど。
次に会った時どうするか、真面目に考えておかないと不味そうだ。
その後、シューフェン達はすぐソルヴェリアに帰って行った。
どうも今回の門は簡易的なものらしく長持ちはしないんだそうだ。
僕等の世界と異世界との交流は色々とハードルが高そうだけど……今回は助かった。
「でも……困ったな」
ああいう風に言われても、ハイ嬉しいですなんて言えるわけじゃない。
美少女なのは間違いないんだけど。
本部から新宿駅に向けて歩く。
まだ夕方だけど、この辺は新宿ダンジョンの発生のせいでオフィスも撤退が多くて人通りもまばらな地区になってしまった。今も人通りはない。
長い道のわきには高層ビルのフェンスがそそり立っていて、植え込みと等間隔で立つ街灯のポールだけが並んでいる。
遠くから車のエンジン音とクラクションが聞こえた。
ふと足が止まった。
なんとなく視線を感じる。まさかフェンウェイやシューフェンが見ているなんてことは無いと思うけど。
振り返って周りを見るけど、誰も動く気配はない。
片側の二車線の広い車道には一台黒いワゴンが停まっているだけだ。
……気のせいかな。
二人きりで広い道場に取り残される。フェンウェイが静かに僕を見た。
……この状況で何を話せというんだろう。
美女に言い寄られる、という状況はとても美味しい風に言われることが多いけど。
実際にそうなってみると、困るぞ。
「あー……なんというか」
「私のことがお気に召しませんでしょうか?」
困ったのを察したのか、フェンウェイが少し悲しそうな口調で言う。
獣耳が伏せられていた。
「いや……綺麗だと思いますよ」
「ほんとうですか?ありがとうございます」
フェンウェイの獣耳がぴょんと立ってスリットから覗く尻尾が揺れた。
シューフェンと同じように冷静な感じだけど、感情は分かりやすいな。
冷静そうにしてるだけなのかもしれない
「では、あの……婚儀の方も前向きに考えていただけるということでしょうか?」
そう言って、フェンウェイが顔を伏せた。
「あ……すみません、はしたないですね」
「そう言う問題じゃなくてですね。状況分かってますか?」
結婚するって結構重要なことだと思うんだけど。
しかも初対面の人となんて普通は抵抗を感じるものじゃないだろうか。
「勿論理解しております。
あなたの傍にお仕えできれば、私も女としての務めが果たせます
戦士として戦うのが男の務め。それをお支えするのが女の務めです」
フェンウェイが言う。
シューフェンが似たようなことを言って風鞍さんと険悪になってたな。
「はあ……」
「カタオカサマの世界は私たちソルヴェリアとかなり異なることは兄からお聞きしました……私はこの世界の方のようにお傍で戦うことはできません。
ですが、戦場に出ないからと言ってそれを恥じる鍛冶師はおりません。私は戦えませんが、カタオカサマの御傍にいても恥ずかしくないと自負しております」
フェンウェイが真剣な口調で言う。
「そうじゃなくて、そんなんでいいんですか?あなたの意思は?」
なんか役割とかそう言うのばかりで彼女の意志が見えてこないんだけど。
ソルヴェリアは政略結婚が当たり前の世界なのかもしれないけど、それに付き合うのは嫌だぞ。
「剣がそれにふさわしい鞘を選ぶように、鞘も良き剣を収めたいと望んでいます。
選ぶのは殿方だけの権利ではありません」
きっぱりとフェンウェイが言って真剣な顔で僕を見た。
「我が兄、シューフェンは若くして皇陛下に認められたソルヴェリア屈指の戦士です。兄が認めた戦士であるカタオカサマの御傍に居られることは喜びです……あの、それに」
そう言ってフェンウェイが言葉を切る。
ちょっと頬を染めて僕を見上げた。
「あの、申し上げてよろしいでしょうか?」
「……いいけど?」
「……正直申し上げて、あの……もっと熊人のような大きくて猛々しくて恐ろし気な方を想像しておりました。
ですが、あの……実際にお会いすると、とても見目麗しくて、凛々しいお方で……」
そう言ってフェンウェイさんが袖で隠すようにして顔をそむけた。
「なんというか……でも、ほかに奥さんがいるなんて嫌でしょ?」
男も女も二股掛けられてたら嫌なもんだと思うけど。好きな人には自分を見てほしいと思う者じゃないだろうか。
でも、フェンウェイが首を振った。
「その道士の方については存じませんが……私とその方は果たすべき役処が違います。ですから気にはなりません」
「というと?」
「私はその方の様に貴方様と共に戦うことはできません……私の務めは貴方のために家をお守りすることです。
剣に手入れが必要なように、戦士にも英気を養う場が必要です。カタオカサマがお戻りになる家を守るのも戦働きと同じくらい大事な勤めと存じます」
ソルヴェリアはやっぱり男女の役割がはっきり分かれている世界っぽいな。
あの蟲とかほかの国との戦争がありふれた世界っぽいからなのかどうかは分からないけど。
「ですが……家におられる時は私の方を愛でて頂きたいと思います。私は戦場ではご一緒できませんから。
勿論、そうして頂けるように努めます……ただ、あの」
フェンウェイが言いよどんだ。頬を染めてフェンウェンがまた俯く。
「なに?」
「あの……閨事は、まだ拙いと思いますが、そこはお許し頂きたいです」
小声でフェンウェイが言う。
こっちもなかなかに文化の違いを感じるけど、どうも適当にはぐらかせる相手じゃなさそうなのは分かった。
……閨事という言葉は聞いたことが無いから後で調べることにしよう。
◆
とりあえず、即答はできない、と言ってその場は何とか乗り切ったけど。
次に会った時どうするか、真面目に考えておかないと不味そうだ。
その後、シューフェン達はすぐソルヴェリアに帰って行った。
どうも今回の門は簡易的なものらしく長持ちはしないんだそうだ。
僕等の世界と異世界との交流は色々とハードルが高そうだけど……今回は助かった。
「でも……困ったな」
ああいう風に言われても、ハイ嬉しいですなんて言えるわけじゃない。
美少女なのは間違いないんだけど。
本部から新宿駅に向けて歩く。
まだ夕方だけど、この辺は新宿ダンジョンの発生のせいでオフィスも撤退が多くて人通りもまばらな地区になってしまった。今も人通りはない。
長い道のわきには高層ビルのフェンスがそそり立っていて、植え込みと等間隔で立つ街灯のポールだけが並んでいる。
遠くから車のエンジン音とクラクションが聞こえた。
ふと足が止まった。
なんとなく視線を感じる。まさかフェンウェイやシューフェンが見ているなんてことは無いと思うけど。
振り返って周りを見るけど、誰も動く気配はない。
片側の二車線の広い車道には一台黒いワゴンが停まっているだけだ。
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