高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

異世界側の事情を垣間見る

 とりあえずエルマルとイズクラさん達と合流して、シューフェン達の異世界組は全員屋上に連れて行つて鍵をかけた。
 さすがにこの辺は存在が知れ渡るといろいろと問題ありだろうし。


 ルーファさんと三田ケ谷、それにシューフェン達を見た斎会君と鏑木さんも合流してもらう。


 ルーファさんとエルマルたちとの間は微妙な空気が流れているし、イズクラさんとシューフェン達との空気は控えめに言っても穏便とは言い難い。
 小田桐さん曰く、彼らの世界はどうやらアイディール・スラヴァーネというらしいけど……争いの絶えない場所らしいな。


 屋上から見下ろすと、校庭のほうでは救急車とか警察とかマスコミが来ている。かなり大きな戦いになったからまあ当然だとは思うけど。
 木次谷さんには連絡がついてすぐ来てくれた。





「なるほど。事情は……分かったような分からない様なという感じですかね」


 木次谷さんが頭を抱えながら言う。
 小田桐さんとイズクラさん、それにシューフェンがそれぞれの立場で話した話はなかなかこんがらがっていて大変だった。
 まあ簡単に分かる話じゃないだろうな。


 僕だって一緒に戦ったから何となくこんなもんかと受け入れているけど、突然この話をされても困るだろうし。
 話を聞いている感じ、シューフェン達はあの蟲との戦いのためにソルヴェリアに従うことを要求していて、サンマレア・ヴェルージャ側は独立を守るために断固拒否って感じのようだ。


 ルーファさんは殆ど話には口を挟まなかった。
 三田ケ谷が心配そうな顔をしていたのは、ルーファさんが帰りたいと言い出すことを懸念してたんだろうけど。
 何か話したら安心した顔になっていた。前にも言っていたけど、本当に帰るつもりはないんだろう。


「纏めるとですね。
サンマレア・ヴェルージャの皆さんの要望としては、奥多摩系の魔獣の情報を提供する代わりに援軍を派遣してほしいと、これでいいですか」
「その通りだ。理解が早いな。君は王に近しい軍師か宰相かなにかであろうか」


 どうやら話が終わったらしい。イズクラさんが感心したように言う。
 あのこんがらがった話をまとめたんだから、有能な交渉役だな


「で、ソルヴェリアの皆さんの要望としては、ソルヴェリアに従ってあれと戦え、と」
「その通りだ。個々に戦うより一つの旗のもとに敵に当たる方が良策であることは明らか」


 シューフェンがきっぱりと言う。木次谷さんが首を振った。


「まずはそちらにお答えしますが……指揮系統を纏めるのがいいというのは兎も角、我々はソルヴェリアに従うことはありません」


 木次谷さんが答える。そりゃそうだろうな。


「愚かな。やはり力で思い知らせねばならんか?」
「ですが、貴方たちの国がこちらに軍隊を送り込むことはできないでしょう?」


 シューフェンは黙ったまま答えなかった。図星なんだろう。
 こっちの世界に来る門を開けれると言っても相当に制約があるんだろうな。
 大規模な軍を送り込むことはできないだろうし、仮に軍隊を送り込んできても自衛隊に返り討ちにされるだろう。


「かといって、個人で来ても我が国を制圧は不可能です。どれだけ強くてもね。
片岡君は勿論、あちらの風鞍さんより上の戦士や魔法使いが沢山いますよ」


 木次谷さんが風鞍さんを指さした。
 風鞍さんが不敵に笑って手を振る。シューフェンの端正な顔がわずかに歪んだ。


 沢山は吹きすぎだと思うけど……ただ、乙類以外にも、丁類の魔法使いや甲類の上位層だっているのは確かだ。
 こう考えると日本は結構戦力の層は厚い。


「ですが、同盟や協定なら考慮の余地はあります。私の権限外なので勝手なことは言えませんが」
「むう」


「それに、僕等と戦ってる場合じゃないでしょ?」


 口を挟むとシューフェンがまた渋い顔をした。
 あの蟲と戦う前に人間同士で戦って戦力を消耗しているなんて無駄もいいところだ。


「致し方ない。レイフォン」


 レイフォンが一礼して豪華な巻物と腰に付けた飾り紐、それに旗を木次谷さんに差しだした。
 旗は近くで見るときめ細かい旗に恐ろしく繊細な刺繍が施されてる。
 複雑な文様に、図案化された丸い紋章。そして吠える銀色の狼。


 改めて見ると黒い旗竿にも彫刻がされていて、旗の先はライオンの顔っぽい。
 ちょっとした芸術品だな。レイフォンが旗を差し出すと、お香のようなにおいがした。


「これは受け取ってもらう。我が皇帝から君たちの王への親書だ」
「ええ、その位なら」   


 そう言って木次谷さんが旗と巻物を受け取った。
 あれ、読めるんだろうか。そして誰に渡すんだろうか。  


「そして、サンマレア・ヴェルージャの皆さん。申し訳ないのですが、これも今ははっきりしたことは言えません。
我が国の魔討士は兵士とは違いますからね」


 そもそも魔討士協会の規定はかなり緩くて、どう戦うかはかなり個人任せになっている
 軍隊的組織じゃないから魔討士達を纏めて援軍を出すなんてことはできないだろう。


「なので、誰かを送るにしても希望者を募ってということになります」
「募兵する、ということか?君たちが命じればよいのではないのか?」


 そういうと理解しがたいって顔でイズクラさんが首をひねった。
 というか、聞いている感じ恐らくソルヴェリアもサンマレアヴェルージャも中国とか中世ヨーロッパの王様とか皇帝がいる国っぽい。軍隊もあるんだろう。
 日本とは政治システムとかいろんなものが違い過ぎるな。


「ところで門はいつでも開けれるんですか?」
「4人が通れる門の準備に……そうだな。2週間はかかる」


「我々ならもっと早い。7日程度だ」


 木次谷さんの問いにシューフェンが口をはさんでイズクラさんが嫌そうな顔をした。


「それで、あとどの位いられるんです?」
「半日程度だな」
「こちらもだ」


 シューフェンとイズクラさんが答える。
 彼らはそれぞれ独自の門を開けてきているけど、それでも長居は出来ないらしい。


 一度門を開けるのに数日から2週間ほどは準備が必要で、こっちにこれるのも数人程度。
 門の維持も半日程度だから、気軽に異世界旅行ってわけにはいかないだろうな


「なるほど。では連絡の取り方を協議しましょう。時間があれば食事でもどうですか?」
「ありがたく頂こう」


 そう言ってイズクラさんとシューフェン、それと木次谷さんが話し始めた





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