高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

4番目の来訪者・上

 風がぶち当たった芝生が爆発したように土が飛び散った。
 風を切って横を何かが通り過ぎる。横を抜かれた。
 振り返るとシューフェンの派手な着物の背中が檜村さんの間近にいるのが見えた。
 速い


「させるか!一刀、薪風!裾払!」


 振り向きざまに刀を振る。芝生を揺らして風が足元を凪いでシューフェンの体が浮いた。
 空中で身を捻ってシューフェンが着地する。


「一刀!破矢風!」


 シューフェンが飛びのいた。
 風の刃がシューフェンと檜村さんの間を切り裂く。地面がえぐれて校舎の壁に刀傷が入った。
 檜村さんがまた僕の後ろに立つ。


「大丈夫ですか?」
「ああ……ありがとう」


 硬い口調で檜村さんが答えてくれる。
 踏み出した瞬間が全く見えなかった。恐ろしい速さ、そして檜村さんをまっすぐ狙ってきた。


 ……獣耳つきとはいえど人間だから傷つけないように、なんて考えるのは止めだ。
 切って無力化する。刀を握りなおす。


「これが女を連れて戦うということだ、理解したか、カタオカよ」


 シューフェンが言って僕を改めて見る。


「少しはましな顔になったようだ。大きな口を叩いたのだ、守って見せるがいい」


 シューフェンがまっすぐ踏み込んできて、手でマントを翻した。
 迎撃しようかと思ったけど、一瞬嫌な予感がして足が止まる。
 胸の焼けるような痛みが走った。何か確かめる間もなく、マントの陰から剣の切っ先が飛んでくる。


 刀でそれを受け止めた。金属音がなって火花が散る。
 半歩下がってシューフェンがまたマントを大きく翻した。
 切っ先を隠すためかと思ったけど違う。裾に刃物が植え込まれてるっぽい。踏み込んだ居たら危なかった。


 小さな気合の声と共に、今度は肩を狙って切っ先が突き出された。受けにくいところを狙ってきているのか。切っ先を辛うじて払う。
 速い。
 重さは無いけど、速さだけなら宗片さん並みだ。
 フェンシングのように突きが来たかと思ったら、上下から切り上げるように剣が変幻自在に動く。


「どうやら強い風を使うには間が必要なようだな。まだ未熟」


 これだけ早いと強い風は使えない。でも受けに徹すれば捌くだけならなんとななる。
 この距離なら横は抜かせない。
 それに本命は僕じゃない。


「【影と人はただ対なるものにして主従に非ず。常に共に在りて分かち難し。人が留まるとき影が動くこと能わなれば逆も真なり。留まる影は人のくびきとなり人を縛らん】術式解放!」


 檜村さんの詠唱が終わってシューフェンが突然硬直するように固まった。





 影に何かが突き刺さっている。動きを封じるタイプの術か


「今だ!」


 切りつけようとしたけど、何かがはじけるような音がしてシューフェンの剣が刀を払った。
 シューフェンが身を沈めてマントをひるがえす。とっさに足を踏ん張った。
 風切り音を立ててマントの裾が目の前を横切って行く。


「私の動きを一瞬でも止めるとは。手練れだ。非常に喜ばしい」


 シューフェンがくるりと一回転して体制を整える。また剣を構え直した。
 見た感じ、魔法とか特殊な武器を使うタイプじゃない。手の内を隠しているのかもしれないけど。


 ただ、純粋に速い。
 切っ先もそうだけど体の動きも速い。次のまた横を抜かれたら檜村さんが危ない。


 どう攻略するか。
 距離を取った方がいいのか、接近戦の方がいいのか。
 考えを巡らしているところで、不意に校舎の方から悲鳴が上がった。
 何かと思ったけど。大きな走る足音がして、中庭にイズクラさんが飛び込んできた。





 動きにくそうなスーツっぽいものは脱ぎ捨てて白いシャツ姿になっている。
 手には重たげな黒い長剣バスタードソードが握られていた。黒い炎のようなものが刀身の周りで揺らめいている。
 あんなもの持ってなかったと思うから、僕の刀みたいに空間に仕舞うことができるんだろうか


 シューフェンを見てイズクラさんが険しい表情になる。


「ソルヴェリア!貴様ら!ここでも無法を為すつもりか」
「サンマレア・ヴェルージャの騎士、イズクラ・バートリー……マナを追跡してみたが、やはりお前たちか」


 シューフェンがイズクラさんを一瞥した。



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