高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
予期せぬ客
こっちを見た外人さんの集団の内、子供がずかずかとこっちに近づいていた。
「えっと……初めまして?」
「おい。ここはなんなんだ?」
挨拶もなくその子が言う。でも言葉は完璧な日本語だった。
着ているものは、なんというか手作りのブレザーみたいで変な感じだけど。
「ここが、お前の属するマトウシとやらの訓練施設か?」
「つーか、君、誰?」
今度こそ誰だかわからない。外人さんの知り合いはいない。
その子が油断なくって感じで周りを見回す。
ちょっと長めのくせっ毛の金髪に可愛い顔立ちなんだけど、その分目つきが悪いのが目立ってるな。
「戦士にしてはどいつもこいつも緩んだ面していて緊張感がさなすぎるぞ。今日は収穫祭かなにかなのか?」
「口を慎め、我が息子。無礼であろうが」
重たげな口調で後ろの男の人が声を掛けて男の子が固まった
「愚息が失礼した。カタオカ殿。牛頭を退ける剣士に会えて光栄だ」
そう言って男の人が頭を下げてくれる。
背の高さもあるけど……立ち姿勢や短い話し言葉になんとも迫力がある。師匠のようだ。
「私はイズクラ・バートリー。サンマレア・ヴェルージャの龍の位階、二席を務めている」
バートリーって……まさか。男の子の方を見ると、ジロリと睨み返された。
「君、エルマル?」
「気づかなかったのか?……まったく。しかもこの僕を呼び捨てにするとは、無礼も」
「黙れ」
イズクラさんがまたそれを遮った。
「ていうか、君、前は仮面付けてたでしょうが」
顔はあの時見てないんだから、気づくのは無理だ。
それは兎も角として……そもそも、なんでこいつらがここに?
「お前の風の魔剣の魔力を追ってきたんだ。宮廷魔導士団全員で一月もかかったぞ」
エルマルが先回りするように教えてくれた。
◆
流石に立ち話をするにはあまりに問題ありな相手なので、たまたま開いている教室に引っ張って行った。
ガランとした教室には昼下がりの太陽が差し込んでいる。
エルマルと、そのお父さんらしきイズクラさん。
もう一人の外人さん、というか異世界人の人はオルヴァン・ティサさん。本人の申告によれば梟の位階の三席。
確か梟は魔法使いだったような。
そしてもう一人は……
「あなたは多分日本人ですよね」
「ああ、そうだよ。小田桐泉だ。よろしくな」
気さくな口調でその人が答えてくれた。
通訳風の最後の一人はあからさまに見た目が違っていたけど、やっぱり日本人か。
多分30歳前くらいっぽい。
無精ひげに長く伸ばした、というか伸びた黒髪は金髪碧眼の三人とは全く違う。
「なんで異世界人の人と一緒にいるんです?」
「……そのスマホで俺のことを検索してみてくれ」
小田桐さんが言うので検索してみると、3か月ほど前のローカルニュースが引っかかった。
キャンプ場のお客さんが行方不明。名前は小田桐泉さん、神奈川の会社員、28歳。
顔写真とくらべて髪と髭が全然違うけど、面影はある。
「キャンプ場でダンジョンに遭遇してね。逃げ回っているうちにあっちに飛ばされた」
「なるほど、それは……災難でしたね」
野良ダンジョンは出る時は何処にでも出るらしい。
町中なら居合わせた魔討士が討伐して、そこにいた人を逃がしたり助けたりするけど。山奥だとそうもいかない。
なので、山奥には時々いつの間にか定着したダンジョンができることもある。
「全くだよ。本当に。聞いてくれるか、聞くも涙、語るも涙の物語がだな」
しみじみと小田桐さんが頷いて、キャンプ場でダンジョンに巻き込まれゴブリンと狼に追い回されて逃げ回り、異世界に飛ばされてからはどれだけ苦労して生き延びたか、異世界の生活環境の大変さを朗々と語ってくれたけど。
放っておくと30分くらいになりそうだったし、エルマルが露骨に早く終われって顔をしていたので途中で切り上げてもらった。
「まあ、本当にしんどかったよ。まったく」
そう言って小田桐さんがため息をつく。
しかし、結構このニュースは危険な気がするぞ。異世界に行って戻って来ましたなんて知られたら偉いことだ。
さっきの話だとそう簡単にできる行き来できるもんではないようだけど。
「……なんというか、戻れて良かったですね」
まあでもそれはそれとして、他人事ながら無事に戻ってこれてよかったと思う。
そういうと、小田桐さんがちょっと気まずそうに顔をそらした。
「ああ……まあ、でも俺は向こうに戻るつもりなんだけどな」
「はい?」
さっき大変だとか言ってなかったか?
「あっちにも良いところはあるんだ。景色は綺麗で雄大で見飽きないし案外飯も美味いし、温泉もあるし……それにまあ……その、向こうには待ってる女がだな」
小田桐さんが口ごもる。
……なんというか適応が早い人だな。
「もういいかな、オダギリ」
「失礼しました、イズクラ卿」
そう言って小田桐さんが席を立った。
イズクラさん達のスーツもどきのような服は多分、この人がデザインを教えたんだろうなって気がする。
「改めて会えて光栄だ。カタオカ殿」
そういうとイザクラさんが大きな体を折り曲げるように恭しく礼をしてくれた。
がっしりした岩のような体つきで見た目は厳ついけど、口調は穏やかだな。
「こちらこそ初めまして」
……と答えてみたものの、この対応でいいのかよくないのかわからない。
改めて正面から顔を見た。
長めのバサバサした金髪に縁どられた顔のあちこちにうっすら刀傷のようなものがある。ごつごつした手はいかにも歴戦の戦士って感じで何かのタコができているのがわかった。
ただ、目線がなんとも穏やかで怖い雰囲気とかは無い。
「一つ訊きたいのだが、カタオカ殿。いいかね?」
「僕でこたえられることなら、まあ」
「失礼ながら、君の序列はどの程度かな、師団長までは行かないだろうが、100人隊長くらいの地位と見るが……そのマトウシなる兵団の中では」
「真ん中位ですね」
ランク的には5位は中位ではある。というか、こう考えるとまだ真ん中なんだよな、という気もするな。
ランクが上に行けば行くほど人は減っていくから、人数的には多分もう少し上位だとは思うけど。
「エルマルと互角に戦えた君程の者がまだ半分だというのか、信じがたいな。余程強力な兵団組織なのか。だが有難い」
イザクラさんが首を振って僕を見た。
「単刀直入に言おう。我々は君達に協力を求めたい」
◆
イザクラさんが重々しい口調で言った。
「協力?」
「我々は今二つの敵と対峙している。その戦いへの協力だ。
我々の国は小さく戦力には乏しい。君達のような使い手が一人でもいてほしい」
「ちょっと待ってください。僕にはそんなこと決められませんよ。高校生なんだから」
流石にそこまで話が大きくなると僕がどうこう言える状況じゃなくなるぞ。
「……君たちのこの文明は、オダギリが言うところのデンキとやらを使っていると聞く。確かにここはマナが希薄だな」
イザクラさんが周りを見回しながら言う。
「素晴らしい魔法文明だが、君たちは空間転移の術式まではもっていない。そうだろう?オダギリ」
「ええ。そういうのがあれば旅行もしやすいんですがね」
小田桐さんが後ろから答えてくる。
この人たちがここに居る、ということは彼らはダンジョンのような空間の断層というか門のようなものを作れるんだろう。
「君たちの協力を貰えれば、無論見返りを用意する。こちらからは情報を提供しよう。
恐らく……君たちも今後矛を交えることになる相手だ。無益ではないはず」
そう言ってイズクラさんが僕の返事を待つように黙った。
「魔討士協会……というか、僕等の騎士団の団長に話をしてもらえますか?僕にはさすがに返事はできません」
「エルマルから君のことを聞いた。騎士の心根を持つ男だと。君の判断にまかせるよ」
……とりあえず一人で聞くにはしんどい話だし檜村さんにも同席してほしいんだけど。
さっき打ったメールには返事が来ていない。
いずれにせよ、魔討士協会に連絡をしてもっと偉い人と話をしてもらわないと。
電話帳をスクロールして木次谷さんの電話番号を探す。
通話アイコンを押そうとした瞬間、スマホが震えて画面が切り替わった。
見慣れた赤い警告表示が出て、警告音が鳴る。
「ダンジョン発生!」
「えっと……初めまして?」
「おい。ここはなんなんだ?」
挨拶もなくその子が言う。でも言葉は完璧な日本語だった。
着ているものは、なんというか手作りのブレザーみたいで変な感じだけど。
「ここが、お前の属するマトウシとやらの訓練施設か?」
「つーか、君、誰?」
今度こそ誰だかわからない。外人さんの知り合いはいない。
その子が油断なくって感じで周りを見回す。
ちょっと長めのくせっ毛の金髪に可愛い顔立ちなんだけど、その分目つきが悪いのが目立ってるな。
「戦士にしてはどいつもこいつも緩んだ面していて緊張感がさなすぎるぞ。今日は収穫祭かなにかなのか?」
「口を慎め、我が息子。無礼であろうが」
重たげな口調で後ろの男の人が声を掛けて男の子が固まった
「愚息が失礼した。カタオカ殿。牛頭を退ける剣士に会えて光栄だ」
そう言って男の人が頭を下げてくれる。
背の高さもあるけど……立ち姿勢や短い話し言葉になんとも迫力がある。師匠のようだ。
「私はイズクラ・バートリー。サンマレア・ヴェルージャの龍の位階、二席を務めている」
バートリーって……まさか。男の子の方を見ると、ジロリと睨み返された。
「君、エルマル?」
「気づかなかったのか?……まったく。しかもこの僕を呼び捨てにするとは、無礼も」
「黙れ」
イズクラさんがまたそれを遮った。
「ていうか、君、前は仮面付けてたでしょうが」
顔はあの時見てないんだから、気づくのは無理だ。
それは兎も角として……そもそも、なんでこいつらがここに?
「お前の風の魔剣の魔力を追ってきたんだ。宮廷魔導士団全員で一月もかかったぞ」
エルマルが先回りするように教えてくれた。
◆
流石に立ち話をするにはあまりに問題ありな相手なので、たまたま開いている教室に引っ張って行った。
ガランとした教室には昼下がりの太陽が差し込んでいる。
エルマルと、そのお父さんらしきイズクラさん。
もう一人の外人さん、というか異世界人の人はオルヴァン・ティサさん。本人の申告によれば梟の位階の三席。
確か梟は魔法使いだったような。
そしてもう一人は……
「あなたは多分日本人ですよね」
「ああ、そうだよ。小田桐泉だ。よろしくな」
気さくな口調でその人が答えてくれた。
通訳風の最後の一人はあからさまに見た目が違っていたけど、やっぱり日本人か。
多分30歳前くらいっぽい。
無精ひげに長く伸ばした、というか伸びた黒髪は金髪碧眼の三人とは全く違う。
「なんで異世界人の人と一緒にいるんです?」
「……そのスマホで俺のことを検索してみてくれ」
小田桐さんが言うので検索してみると、3か月ほど前のローカルニュースが引っかかった。
キャンプ場のお客さんが行方不明。名前は小田桐泉さん、神奈川の会社員、28歳。
顔写真とくらべて髪と髭が全然違うけど、面影はある。
「キャンプ場でダンジョンに遭遇してね。逃げ回っているうちにあっちに飛ばされた」
「なるほど、それは……災難でしたね」
野良ダンジョンは出る時は何処にでも出るらしい。
町中なら居合わせた魔討士が討伐して、そこにいた人を逃がしたり助けたりするけど。山奥だとそうもいかない。
なので、山奥には時々いつの間にか定着したダンジョンができることもある。
「全くだよ。本当に。聞いてくれるか、聞くも涙、語るも涙の物語がだな」
しみじみと小田桐さんが頷いて、キャンプ場でダンジョンに巻き込まれゴブリンと狼に追い回されて逃げ回り、異世界に飛ばされてからはどれだけ苦労して生き延びたか、異世界の生活環境の大変さを朗々と語ってくれたけど。
放っておくと30分くらいになりそうだったし、エルマルが露骨に早く終われって顔をしていたので途中で切り上げてもらった。
「まあ、本当にしんどかったよ。まったく」
そう言って小田桐さんがため息をつく。
しかし、結構このニュースは危険な気がするぞ。異世界に行って戻って来ましたなんて知られたら偉いことだ。
さっきの話だとそう簡単にできる行き来できるもんではないようだけど。
「……なんというか、戻れて良かったですね」
まあでもそれはそれとして、他人事ながら無事に戻ってこれてよかったと思う。
そういうと、小田桐さんがちょっと気まずそうに顔をそらした。
「ああ……まあ、でも俺は向こうに戻るつもりなんだけどな」
「はい?」
さっき大変だとか言ってなかったか?
「あっちにも良いところはあるんだ。景色は綺麗で雄大で見飽きないし案外飯も美味いし、温泉もあるし……それにまあ……その、向こうには待ってる女がだな」
小田桐さんが口ごもる。
……なんというか適応が早い人だな。
「もういいかな、オダギリ」
「失礼しました、イズクラ卿」
そう言って小田桐さんが席を立った。
イズクラさん達のスーツもどきのような服は多分、この人がデザインを教えたんだろうなって気がする。
「改めて会えて光栄だ。カタオカ殿」
そういうとイザクラさんが大きな体を折り曲げるように恭しく礼をしてくれた。
がっしりした岩のような体つきで見た目は厳ついけど、口調は穏やかだな。
「こちらこそ初めまして」
……と答えてみたものの、この対応でいいのかよくないのかわからない。
改めて正面から顔を見た。
長めのバサバサした金髪に縁どられた顔のあちこちにうっすら刀傷のようなものがある。ごつごつした手はいかにも歴戦の戦士って感じで何かのタコができているのがわかった。
ただ、目線がなんとも穏やかで怖い雰囲気とかは無い。
「一つ訊きたいのだが、カタオカ殿。いいかね?」
「僕でこたえられることなら、まあ」
「失礼ながら、君の序列はどの程度かな、師団長までは行かないだろうが、100人隊長くらいの地位と見るが……そのマトウシなる兵団の中では」
「真ん中位ですね」
ランク的には5位は中位ではある。というか、こう考えるとまだ真ん中なんだよな、という気もするな。
ランクが上に行けば行くほど人は減っていくから、人数的には多分もう少し上位だとは思うけど。
「エルマルと互角に戦えた君程の者がまだ半分だというのか、信じがたいな。余程強力な兵団組織なのか。だが有難い」
イザクラさんが首を振って僕を見た。
「単刀直入に言おう。我々は君達に協力を求めたい」
◆
イザクラさんが重々しい口調で言った。
「協力?」
「我々は今二つの敵と対峙している。その戦いへの協力だ。
我々の国は小さく戦力には乏しい。君達のような使い手が一人でもいてほしい」
「ちょっと待ってください。僕にはそんなこと決められませんよ。高校生なんだから」
流石にそこまで話が大きくなると僕がどうこう言える状況じゃなくなるぞ。
「……君たちのこの文明は、オダギリが言うところのデンキとやらを使っていると聞く。確かにここはマナが希薄だな」
イザクラさんが周りを見回しながら言う。
「素晴らしい魔法文明だが、君たちは空間転移の術式まではもっていない。そうだろう?オダギリ」
「ええ。そういうのがあれば旅行もしやすいんですがね」
小田桐さんが後ろから答えてくる。
この人たちがここに居る、ということは彼らはダンジョンのような空間の断層というか門のようなものを作れるんだろう。
「君たちの協力を貰えれば、無論見返りを用意する。こちらからは情報を提供しよう。
恐らく……君たちも今後矛を交えることになる相手だ。無益ではないはず」
そう言ってイズクラさんが僕の返事を待つように黙った。
「魔討士協会……というか、僕等の騎士団の団長に話をしてもらえますか?僕にはさすがに返事はできません」
「エルマルから君のことを聞いた。騎士の心根を持つ男だと。君の判断にまかせるよ」
……とりあえず一人で聞くにはしんどい話だし檜村さんにも同席してほしいんだけど。
さっき打ったメールには返事が来ていない。
いずれにせよ、魔討士協会に連絡をしてもっと偉い人と話をしてもらわないと。
電話帳をスクロールして木次谷さんの電話番号を探す。
通話アイコンを押そうとした瞬間、スマホが震えて画面が切り替わった。
見慣れた赤い警告表示が出て、警告音が鳴る。
「ダンジョン発生!」
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