風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
命を懸けるに値するもの
耳障りな軋み音を立てて、ローブの背中から何か骨のようなモノが伸びた。骨から金属の翼が広がっていく。 
手にした剣から禍々しい紫色の光が上がった。光の向こうの景色が歪んで見える。 
小さな体から威圧感というか殺意というか、そういうなにかが吹き付けてきた。強い魔獣や魔族と相対する時に感じる空気だが……桁が違う。
思わず息が止まりそうになる。背筋が凍るような本能的な恐怖に肌が泡立った。 
ザブノク並みか……それ以上。 
離宮をもう一度見た。それなりに大きい建物のはずだが、はるか向こうに見える。
団長たちがここまでくるのは、多分難しい。俺たち二人でやるしかないが……勝てるのか? 
『最初に言っておきます。一人だけは助けてあげましょう』
「どういうことだ?」
『言葉通りです。死ぬのは1人だけ。一人は生かしてあげましょう。
生き延びたければ相手を差し出すもよし。愛するものに死んでほしくなければ自分の命を差し出してもかまいません。生き残るのは一人だけ』
  笑い声らしき声が頭の中に響いた。
『君達を殺すことなど容易いですが、そんなことをしても何の楽しみもない。
全ての力を出して尚及ばない絶望、死に瀕したときの絞り出すような願い、お互いを思いあう心が壊れる様、それを見るのが実に楽しいのです。君達には期待してますよ』 
なんというか、性格がねじ曲がってやがるな。
『ライエル、貴方には大事な身内がいるのでしょう?
テレーザの命を差し出すというなら、逃がしてあげましょう。それともテレーザのために彼女たちを見捨てますか【დაიმახსოვრე】』
黒魔法の詠唱が短く聞こえて、不意に目の前の景色が変わった。
此処は……王都の家の中庭だ。芝生に座っていたオードリーとメイの二人がいつも通りに笑って俺に手を振って駆け寄ってきたところで、その景色が掻き消えて、また元の草原に戻った。
幻覚とかそう言うのの類か。
これがこいつの能力なんだろうか。つくづく性格がねじ曲がってるな。恐らく宰相にもこんな仕掛けをしていたんだろう。
青ざめたテレーザが周りを見回して、俯いて唇をかんだ。 
「ねえ、ライエル」 
「なんだ?」 
「一緒に……死んでくれる?」 
◆
「なんだって?」 
「私は……一人ぼっちで生き残るより、貴方と一緒に死にたい。神様のところに行っても……私を守ってくれる?」 
 
「どういうことだ?」 
「これから使う魔法は私の本当の最大火力……すべてを吹き飛ばす、そのためだけの魔法」 
何を言いたいのかは分かった。周りを巻き込む魔法なんだろう……恐らく術者さえも。 
今までの魔法はなんだかんだで周りに配慮していたってことか。 
だが今は二人だけだ。 俺達以外への配慮は必要ない。
テレーザが静かに俺を見上げた。 
「でも……もし貴方が……あの」
 「いいさ、何でも唱えろよ、俺が守るから。
世界のためだの王国のためだのはわからんが、お前が戦うなら、そのためなら命を懸けよう」
そう言うとテレーザがこの場にそぐわないような幸せそうな微笑みを浮かべた。
「これがさっきの答えだな」
「ありがとう……ずっと守ってくれて」
「あと、俺は一緒に死ぬつもりはないぞ。勝って生き残る。
冒険者は諦めが悪いのが取り柄なんだ。お前もそのつもりで戦ってほしいね」
戦うしかないのなら、負けることを想像するのは意味がない。
勝つことを考えるだけだ。
「うん……そうだな。勝たねばな」
テレーザが俺に寄り添ってくる。
肩を抱き寄せると、甘える猫のように体を刷りつけてきた。
「終わったら……またしてね」
テレーザがいつも通りの表情に戻って、目を閉じて謡うように詠唱を始めた。
「我はテレーザ・シントラ・ファティマ・ヴァーレリアス。
司書たる我の名に置いて禁書の閲覧を認める。閉架の閂を外し封緘を断て。千年の叡智は今ここに紐解かれん」
杖がふわりとテレーザの前に浮いて周りに魔法陣が浮かびあがった。
「書架は極点、書名は摂理。五拾弐頁三節、私は口述する
『我は語り部。神代の時代、忘れられた時の果てにある、誰も語ることなき歴史をいま語ろう』」 
ヴェレファルの方を向き直る。 
右に4枚、左に3枚の金属細工のような巨大な翼が広がっていた。刃のように羽根の先がとがっていて、赤黒く光っている。 
浮いたローブの裾に映るように見慣れない景色が垣間見えた。あれは魔族の世界なのかどうなのか。 
ザブノクと同等かそれ以上の相手なのは間違いないが、恐怖とか迷いとか、そういうものが不思議なくらいに感じない。 
昔、剣の師匠が言っていた明鏡止水の心持というのはこういう気持ちなのかもな。
「そう、そうでなくてはいけない。その思いあう気持ちが無くては面白くない。楽しめそうですね」
ヴェレファルが剣を一振りする。 
切っ先から紫色の光の軌道が伸びた。見た目より間合いは長いとみるべきだな。
 
「戦う前に一つ聞いていいか?」 
「なんですか?」 
「お前ら魔族は国とかそういうのがあるのか?」 
「なぜそんなことを聞くのです?」 
ヴェレファルが少し首を傾げる。 
「いやね……お前みたいなドブ川みたいなクズばかりしかいない国を治めるのはさぞかし大変だろうと思ってな。 
年がら年中いがみ合いが絶えなさそうだな。全く大変だ。魔王とかいるのか?居るなら同情するよ」 
金属の仮面には表情はないが、わずかに空気が変わった。 
知性がある分、腹を立てたりする感情はあるらしい。  
「人間風情が口が減らないですね。ですが、死に瀕すればだれもが本性を現す。その心がへし折れて哀れに命乞いをするさまを楽しませてもらいましょう」 
これでこっちに矛先が向くといいんだが。 
こいつがどういう黒魔法を使うのか知らないが、テレーザが先に狙われたら一瞬で敗北が確定してしまう。 
詠唱完了までの時間をどう稼ぐか。
ただ、どうせこいつの能力は分からない。分からないものを想像するのは意味がない。
こっちのやれることは最大火力をぶつけること。強敵相手に出し惜しみをする奴はバカだ。
今は帰り道の心配をする意味がない。こいつを倒すか死ぬかの二つだけだ。
刀を抜いて意識を集中する。これを使うのは5年ぶりくらいか。
「風司の1番【天頂に座す風の主よ、その手にしたる剣を我に与えよ。風は遍く世界に満ちるものにして全なるものなれば、断てぬもの無し】」 
刀に風が纏わりついた。
空間に真空の断層を穿つ、俺が使える攻撃系の風の練成術の最上位。
普通の魔獣相手だと無駄に高火力な上に20数えるくらいしか持たないほど消耗が激しいから、討伐任務では使う機会がなかった。
久しぶりに使うが、前と同じ。全身の魔力が刀に吸われる感じだ
ただ、前に使った時はほぼ一瞬で意識が飛びかけたから、その時に比べれば成長したのか。
ポーチの魔力回復のポーションに手を触れる。
4本持ってきてたはずだ。詠唱が終わる前にこれが尽きたらこっちの負けだな。
「行くぞ!」
手にした剣から禍々しい紫色の光が上がった。光の向こうの景色が歪んで見える。 
小さな体から威圧感というか殺意というか、そういうなにかが吹き付けてきた。強い魔獣や魔族と相対する時に感じる空気だが……桁が違う。
思わず息が止まりそうになる。背筋が凍るような本能的な恐怖に肌が泡立った。 
ザブノク並みか……それ以上。 
離宮をもう一度見た。それなりに大きい建物のはずだが、はるか向こうに見える。
団長たちがここまでくるのは、多分難しい。俺たち二人でやるしかないが……勝てるのか? 
『最初に言っておきます。一人だけは助けてあげましょう』
「どういうことだ?」
『言葉通りです。死ぬのは1人だけ。一人は生かしてあげましょう。
生き延びたければ相手を差し出すもよし。愛するものに死んでほしくなければ自分の命を差し出してもかまいません。生き残るのは一人だけ』
  笑い声らしき声が頭の中に響いた。
『君達を殺すことなど容易いですが、そんなことをしても何の楽しみもない。
全ての力を出して尚及ばない絶望、死に瀕したときの絞り出すような願い、お互いを思いあう心が壊れる様、それを見るのが実に楽しいのです。君達には期待してますよ』 
なんというか、性格がねじ曲がってやがるな。
『ライエル、貴方には大事な身内がいるのでしょう?
テレーザの命を差し出すというなら、逃がしてあげましょう。それともテレーザのために彼女たちを見捨てますか【დაიმახსოვრე】』
黒魔法の詠唱が短く聞こえて、不意に目の前の景色が変わった。
此処は……王都の家の中庭だ。芝生に座っていたオードリーとメイの二人がいつも通りに笑って俺に手を振って駆け寄ってきたところで、その景色が掻き消えて、また元の草原に戻った。
幻覚とかそう言うのの類か。
これがこいつの能力なんだろうか。つくづく性格がねじ曲がってるな。恐らく宰相にもこんな仕掛けをしていたんだろう。
青ざめたテレーザが周りを見回して、俯いて唇をかんだ。 
「ねえ、ライエル」 
「なんだ?」 
「一緒に……死んでくれる?」 
◆
「なんだって?」 
「私は……一人ぼっちで生き残るより、貴方と一緒に死にたい。神様のところに行っても……私を守ってくれる?」 
 
「どういうことだ?」 
「これから使う魔法は私の本当の最大火力……すべてを吹き飛ばす、そのためだけの魔法」 
何を言いたいのかは分かった。周りを巻き込む魔法なんだろう……恐らく術者さえも。 
今までの魔法はなんだかんだで周りに配慮していたってことか。 
だが今は二人だけだ。 俺達以外への配慮は必要ない。
テレーザが静かに俺を見上げた。 
「でも……もし貴方が……あの」
 「いいさ、何でも唱えろよ、俺が守るから。
世界のためだの王国のためだのはわからんが、お前が戦うなら、そのためなら命を懸けよう」
そう言うとテレーザがこの場にそぐわないような幸せそうな微笑みを浮かべた。
「これがさっきの答えだな」
「ありがとう……ずっと守ってくれて」
「あと、俺は一緒に死ぬつもりはないぞ。勝って生き残る。
冒険者は諦めが悪いのが取り柄なんだ。お前もそのつもりで戦ってほしいね」
戦うしかないのなら、負けることを想像するのは意味がない。
勝つことを考えるだけだ。
「うん……そうだな。勝たねばな」
テレーザが俺に寄り添ってくる。
肩を抱き寄せると、甘える猫のように体を刷りつけてきた。
「終わったら……またしてね」
テレーザがいつも通りの表情に戻って、目を閉じて謡うように詠唱を始めた。
「我はテレーザ・シントラ・ファティマ・ヴァーレリアス。
司書たる我の名に置いて禁書の閲覧を認める。閉架の閂を外し封緘を断て。千年の叡智は今ここに紐解かれん」
杖がふわりとテレーザの前に浮いて周りに魔法陣が浮かびあがった。
「書架は極点、書名は摂理。五拾弐頁三節、私は口述する
『我は語り部。神代の時代、忘れられた時の果てにある、誰も語ることなき歴史をいま語ろう』」 
ヴェレファルの方を向き直る。 
右に4枚、左に3枚の金属細工のような巨大な翼が広がっていた。刃のように羽根の先がとがっていて、赤黒く光っている。 
浮いたローブの裾に映るように見慣れない景色が垣間見えた。あれは魔族の世界なのかどうなのか。 
ザブノクと同等かそれ以上の相手なのは間違いないが、恐怖とか迷いとか、そういうものが不思議なくらいに感じない。 
昔、剣の師匠が言っていた明鏡止水の心持というのはこういう気持ちなのかもな。
「そう、そうでなくてはいけない。その思いあう気持ちが無くては面白くない。楽しめそうですね」
ヴェレファルが剣を一振りする。 
切っ先から紫色の光の軌道が伸びた。見た目より間合いは長いとみるべきだな。
 
「戦う前に一つ聞いていいか?」 
「なんですか?」 
「お前ら魔族は国とかそういうのがあるのか?」 
「なぜそんなことを聞くのです?」 
ヴェレファルが少し首を傾げる。 
「いやね……お前みたいなドブ川みたいなクズばかりしかいない国を治めるのはさぞかし大変だろうと思ってな。 
年がら年中いがみ合いが絶えなさそうだな。全く大変だ。魔王とかいるのか?居るなら同情するよ」 
金属の仮面には表情はないが、わずかに空気が変わった。 
知性がある分、腹を立てたりする感情はあるらしい。  
「人間風情が口が減らないですね。ですが、死に瀕すればだれもが本性を現す。その心がへし折れて哀れに命乞いをするさまを楽しませてもらいましょう」 
これでこっちに矛先が向くといいんだが。 
こいつがどういう黒魔法を使うのか知らないが、テレーザが先に狙われたら一瞬で敗北が確定してしまう。 
詠唱完了までの時間をどう稼ぐか。
ただ、どうせこいつの能力は分からない。分からないものを想像するのは意味がない。
こっちのやれることは最大火力をぶつけること。強敵相手に出し惜しみをする奴はバカだ。
今は帰り道の心配をする意味がない。こいつを倒すか死ぬかの二つだけだ。
刀を抜いて意識を集中する。これを使うのは5年ぶりくらいか。
「風司の1番【天頂に座す風の主よ、その手にしたる剣を我に与えよ。風は遍く世界に満ちるものにして全なるものなれば、断てぬもの無し】」 
刀に風が纏わりついた。
空間に真空の断層を穿つ、俺が使える攻撃系の風の練成術の最上位。
普通の魔獣相手だと無駄に高火力な上に20数えるくらいしか持たないほど消耗が激しいから、討伐任務では使う機会がなかった。
久しぶりに使うが、前と同じ。全身の魔力が刀に吸われる感じだ
ただ、前に使った時はほぼ一瞬で意識が飛びかけたから、その時に比べれば成長したのか。
ポーチの魔力回復のポーションに手を触れる。
4本持ってきてたはずだ。詠唱が終わる前にこれが尽きたらこっちの負けだな。
「行くぞ!」
「風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
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