風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
過ちと決断・下
「陛下?」
『なぜここに?』
宰相が愕然とした顔で王を見る。ヴェレファルが流石に驚いたような感じで言った。
俺としても予想外だ。なぜこの人が此処に?
赤いマントにはあちこちに傷があるのが見えた。
顔にも血がにじんでいて、赤い巻き毛もバサバサに乱れていた。戦いの後って感じだな。
「叔父上、あなたと直接話をしたくて来たのだ」
『いいところに来ましたね。
王よ、いいことを教えてあげましょう。彼は心の中で君が王位を継いだことを妬んでいたのです。そして私の力を望んだのです』
ヴェレファルが言うが王がそれを無視して宰相を見た。
「過ちを犯さぬ者はいない。叔父上」
『つまり、彼の願望が私を呼び出した。自分こそが王に……』
「黙れ!下郎!」
王が迫力ある声で一喝した。
「お前に話してはいない!弁えよ!」
ヴェレファルが気圧されたように沈黙する。
「俺は若輩の身だ。このあといくつもの過ちを犯すだろう。その時はあなたが俺を諫めよ。だが、あなたの過ちは今、俺が諫める」
『……すべて嘘ですよ。賢明な宰相よ、騙されてはいけない。貴方が歩み寄った時に王はあの剣を抜くつもりです。私にはわかります』
「あなたは私利をもって民を貴族を争いに巻き込むような。そんな人ではないはずだ。宰相……いやジョアン叔父上。俺は貴方を赦す。何があったとしても」
『貴方から王の地位を奪ったものの言葉を信じてどうするのです。貴方が彼の立場ならどう思うか考えなさい。私だけが貴方の味方です』
「叔父上!俺を信じろ!」
『信じてはなりませんよ。今が好機ではありませんか。私の力があれば王を倒すことなど容易いことです。貴方の望んだものは目の前にある。自分に嘘をついてはなりません【მირაჟი】』
黒魔法の詠唱が聞こえたが……何が起きたか分からない。
宰相が頭を押さえてよろめいた。今の魔法は宰相への仕掛けか。
王が宰相を見る。ヴェレファルの手が促す用に宰相に近づいた。
宰相が王とヴェレファルを代わる代わるに見る。
『さあ、わが友よ、私の……』
ヴェレファルの言葉が終わるより早く、宰相が腰に挿していたレイピアを引き抜いて仮面を横凪ぎにした。
◆
仮面が二つに割れて硬い音を残して消えた。周りを取り巻いていた重苦しい空気が消える。
宰相が深く息を吐いてレイピアを床に落として、乾いた音を立ててレイピアが転がった。
王が宰相に近づいて、何事か言葉を交わす。
団長がサーベルを納めて歩み寄ってきた。
ローランも団長も消耗はした様子だが、大きなけがはなさそうだ。
「よくやった、ライエル、テレーザ」
「ところで、これは一体どういうことだったんです?」
「王が来られたのは偶々だ。話をされたかったようでな、途中でお助けした……結果的には好都合だったな」
団長が言う。
確かに。もし来てくれなかったら、俺達だけでは宰相を説得はできなかっただろう。
宰相があのヴェレファルなる魔族と手を組んだとしたら……何が起きたのか分からないが、ロクなことにはなってないだろう。
「陛下、申し訳ございません」
「ふふ、叔父上殿。今後は今にも増して働いて頂きますよ。私たちの国のために」
宰相が深く頭を下げた。
あっちの方はまああれでいいんだが。
「そう言えば、あの魔族はどこへ行ったんだろうな」
さっきまでの重苦しい気配はかき消えている。
どこかに消えたのかどうなのか。テレーザに視線をやるが、首を振った。魔法とかで感知できないんだろうか。
ローランや王についてきた騎士たちも油断なく周りを見張っているが、あいつが現れる気配はない。
これで消えてくれれば申し分ないが……そこまで甘くはないだろう。
ザブノク級なら、師団と合流して全員で討伐したいところだが。
『今少しであったのに、まったく君達はよくもやってくれましたね』
耳元で不意にさっきの声が聞こえた。
テレーザが顔を上げて俺を見るが、団長やローランが無反応だ。俺達だけにしか聞こえてないのか?
『【გასასვლელი კარიბჭე】』
風を使うより早く黒魔法の詠唱が聞こえて目の前が白くなった
◆
目を開けると草原が広がっていた。はるか遠くの方に離宮が見える。 
テレーザだけが横にいた。
テレーザが何が起きたのかわからないように周りを見回すが……何らかの魔法か何かで俺達だけここまで連れてこられたらしい。 
  目の前には濁った白いローブを着てフードをかぶった奴が立っていた。
人間位の背丈で地味なローブの袖からは装飾を施した籠手のような手が見えている。
その手にはこれまた地味な片手剣が握られていた。 
これがさっきの魔族、ヴェレファルなんだろうか。 
  そいつが顔を上げた。 
フードの奥、顔にあたる部分には、右半分がさかさまの顔、左半分が横顔のような、二つの顔を組み合わせたような奇妙な仮面があった。
拘束具を思わせるような武骨な仮面だ。 
『今少しであったのに……まったくあなたたちは余計なことをしてくれましたね。
躊躇しながら迷いながら血を流しあい、愛情が憎しみに変わっていくのがおもしろいというのに……それなりに時間も掛けたのですよ。私の苦労をなんだと思っているのですか』
硝子を擦れ合わせるような不快な声が耳に直接飛び込んでくるように聞こえた。
テレーザが顔をしかめる。
『代わりに君たちで遊ぶことにしましょう』
『なぜここに?』
宰相が愕然とした顔で王を見る。ヴェレファルが流石に驚いたような感じで言った。
俺としても予想外だ。なぜこの人が此処に?
赤いマントにはあちこちに傷があるのが見えた。
顔にも血がにじんでいて、赤い巻き毛もバサバサに乱れていた。戦いの後って感じだな。
「叔父上、あなたと直接話をしたくて来たのだ」
『いいところに来ましたね。
王よ、いいことを教えてあげましょう。彼は心の中で君が王位を継いだことを妬んでいたのです。そして私の力を望んだのです』
ヴェレファルが言うが王がそれを無視して宰相を見た。
「過ちを犯さぬ者はいない。叔父上」
『つまり、彼の願望が私を呼び出した。自分こそが王に……』
「黙れ!下郎!」
王が迫力ある声で一喝した。
「お前に話してはいない!弁えよ!」
ヴェレファルが気圧されたように沈黙する。
「俺は若輩の身だ。このあといくつもの過ちを犯すだろう。その時はあなたが俺を諫めよ。だが、あなたの過ちは今、俺が諫める」
『……すべて嘘ですよ。賢明な宰相よ、騙されてはいけない。貴方が歩み寄った時に王はあの剣を抜くつもりです。私にはわかります』
「あなたは私利をもって民を貴族を争いに巻き込むような。そんな人ではないはずだ。宰相……いやジョアン叔父上。俺は貴方を赦す。何があったとしても」
『貴方から王の地位を奪ったものの言葉を信じてどうするのです。貴方が彼の立場ならどう思うか考えなさい。私だけが貴方の味方です』
「叔父上!俺を信じろ!」
『信じてはなりませんよ。今が好機ではありませんか。私の力があれば王を倒すことなど容易いことです。貴方の望んだものは目の前にある。自分に嘘をついてはなりません【მირაჟი】』
黒魔法の詠唱が聞こえたが……何が起きたか分からない。
宰相が頭を押さえてよろめいた。今の魔法は宰相への仕掛けか。
王が宰相を見る。ヴェレファルの手が促す用に宰相に近づいた。
宰相が王とヴェレファルを代わる代わるに見る。
『さあ、わが友よ、私の……』
ヴェレファルの言葉が終わるより早く、宰相が腰に挿していたレイピアを引き抜いて仮面を横凪ぎにした。
◆
仮面が二つに割れて硬い音を残して消えた。周りを取り巻いていた重苦しい空気が消える。
宰相が深く息を吐いてレイピアを床に落として、乾いた音を立ててレイピアが転がった。
王が宰相に近づいて、何事か言葉を交わす。
団長がサーベルを納めて歩み寄ってきた。
ローランも団長も消耗はした様子だが、大きなけがはなさそうだ。
「よくやった、ライエル、テレーザ」
「ところで、これは一体どういうことだったんです?」
「王が来られたのは偶々だ。話をされたかったようでな、途中でお助けした……結果的には好都合だったな」
団長が言う。
確かに。もし来てくれなかったら、俺達だけでは宰相を説得はできなかっただろう。
宰相があのヴェレファルなる魔族と手を組んだとしたら……何が起きたのか分からないが、ロクなことにはなってないだろう。
「陛下、申し訳ございません」
「ふふ、叔父上殿。今後は今にも増して働いて頂きますよ。私たちの国のために」
宰相が深く頭を下げた。
あっちの方はまああれでいいんだが。
「そう言えば、あの魔族はどこへ行ったんだろうな」
さっきまでの重苦しい気配はかき消えている。
どこかに消えたのかどうなのか。テレーザに視線をやるが、首を振った。魔法とかで感知できないんだろうか。
ローランや王についてきた騎士たちも油断なく周りを見張っているが、あいつが現れる気配はない。
これで消えてくれれば申し分ないが……そこまで甘くはないだろう。
ザブノク級なら、師団と合流して全員で討伐したいところだが。
『今少しであったのに、まったく君達はよくもやってくれましたね』
耳元で不意にさっきの声が聞こえた。
テレーザが顔を上げて俺を見るが、団長やローランが無反応だ。俺達だけにしか聞こえてないのか?
『【გასასვლელი კარიბჭე】』
風を使うより早く黒魔法の詠唱が聞こえて目の前が白くなった
◆
目を開けると草原が広がっていた。はるか遠くの方に離宮が見える。 
テレーザだけが横にいた。
テレーザが何が起きたのかわからないように周りを見回すが……何らかの魔法か何かで俺達だけここまで連れてこられたらしい。 
  目の前には濁った白いローブを着てフードをかぶった奴が立っていた。
人間位の背丈で地味なローブの袖からは装飾を施した籠手のような手が見えている。
その手にはこれまた地味な片手剣が握られていた。 
これがさっきの魔族、ヴェレファルなんだろうか。 
  そいつが顔を上げた。 
フードの奥、顔にあたる部分には、右半分がさかさまの顔、左半分が横顔のような、二つの顔を組み合わせたような奇妙な仮面があった。
拘束具を思わせるような武骨な仮面だ。 
『今少しであったのに……まったくあなたたちは余計なことをしてくれましたね。
躊躇しながら迷いながら血を流しあい、愛情が憎しみに変わっていくのがおもしろいというのに……それなりに時間も掛けたのですよ。私の苦労をなんだと思っているのですか』
硝子を擦れ合わせるような不快な声が耳に直接飛び込んでくるように聞こえた。
テレーザが顔をしかめる。
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