風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
過ちと決断・上
人を連れて長く飛ぶのは難しい。
一番手近なバルコニーに下りたしがみついたままのテレーザが床に足を付けて安心したようにため息をつく。
風で飛び回るのは今は慣れたが、地面に足がついてないのは結構不安なのはわかる。
「行くぞ」
声を掛けると、テレーザが表情を引き締めて頷いた。
バルコニーからカーテンをくぐって部屋に入る。部屋は青と白の落ち着いた色の調度品が置いてあった。
広い窓から夕陽が差し込んできて部屋の中に長い影が伸びている。
外からは人外の悲鳴と氷が地面を割る音と、断続的に爆発音が聞こえてくる。団長達だろう。
だが、部屋の中も廊下からも何かが動く気配は感じない。
慎重にドアを開けて探知の風を飛ばすが、長い廊下には人の気配は全くない。
こういう屋敷には召使やメイド、衛兵がいるはずだが、全くいない。
廊下に出る。豪華な壁紙が貼られた廊下にはところどころに絵が掛けられていたり飾りの鎧が置かれている。
だが、まったく人の気配はない。豪華な分だけ空虚な感じだ。
ただ、重苦しい、魔族と戦っているときのような空気が満ちていた。
何もいない廊下の向こうから何かが飛び掛かってくるような感覚というか、魔獣の巣や群れに飛び込んだような感覚だ。
何かがいるのは間違いない……なんだかは分からないが。
「方向は分かるか?」
テレーザが口の中で小さく何かつぶやいて目を閉じた。
「……上だな」
テレーザが緊張した口調で言う。
手近にある綺麗に飾り付けられた螺旋階段を上るが相変わらず誰もいないが、長い廊下の奥の部屋から声が聞こえた。
一つは宰相の声だが……もう一人いる。
◆
「……どういうことだ。我が師団がなぜアルコネアになど!」
『私が命じておきました。あなたの代わりにね』
「なんのつもりだ」
『何を怒っているのですか宰相殿。貴方の望むようにしてあげたというのに。私は貴方の背を押しているのですよ』
「ふざけるな。こんなこと私は望んではいない」
『私の前で誤魔化す必要はありませんよ。貴方のことなら何でも分かっています。
貴方は王になりたかったのでしょう』
ダンスホールのような広い部屋だ。まえの王城の舞踏会場に似ているがよ少し狭い。
赤い絨毯が敷き詰められて壁には絵やタペストリーが飾られている。
部屋の真ん中には宰相がいた。
そしてその前には銀色の仮面のようなものが浮かんでいる。
「私は……お前たちを倒すためにあの師団を編成したのだ」
『そう、その通り。貴方は私を見ていち早く私を倒すためにあの師団を編成したのでしょう。分かりますよ。そして、彼らは実によく戦った。私の筋書き通りにね。
魔族を討ち倒す彼らと、貴方の卓越した先見性を見て、皆はこう思ったでしょう。王に相応しい見識を持つものは宰相である、と』
「……まさか」
『貴方の名を上げてあげたのですよ。これも貴方のため、友のためです。宰相殿』
今まで戦っていたのもこの誰かの思惑の内だったって言うのか。
「宰相殿!」
もう少し聞いて状況を把握したかったが……テレーザが叫んで部屋に入っていった。
宰相とその仮面がこっちを向く。
「君たちは……ライエルとテレーザか。なぜここに?」
『ほほう……君達はあの師団のものですね』
大袈裟な感じで仮面が声を発した。
白色の陶器のようにも見える。道化の様な笑うような曲線を描いた目。口の部分がケタケタと笑う様に動いていた。
『実に意外な行動だ……これは面白い』
「その割にはあんまり驚いてるって感じじゃないな」
『私からすれば、君達の行動はそよ風が少し吹いたという程度に過ぎません。君達人間の表現を借りるなら、予想外の展開もちょっとしたスパイスのようなものですよ』
仮面が楽し気な口調で言った。
「一体何者だ、貴様」
テレーザが鋭い口調で聞く。
『これは失礼しました。私はヴェレファル。宰相殿のお呼びにより参上した、宰相殿の友人です』
「違う!!」
『彼の望みはこの国の王だったんですよ。自分が王になるはずだったのに、なぜあの若輩者が自分を押しのけて王になったのだ。理不尽ではないか……そう思ったのです。その望みが私を呼び出した。
そして、私は彼の願いのために尽くしているのですよ、友人としてね』
ヴェレファルが滔々と言葉を紡ぐ。
サブノクもだが、意思の疎通が完璧にできている。あいつと同じ、別格の魔族なんだろう。
「違う!そんなことはない!」
『さあ、宰相殿。今頃、君の頼みの師団は北に向かって移動中です。
そして、王都では君を支持する貴族たちが貴方のために戦っているでしょう。もはや王との戦いは避けられません』
「そんなことはありません!」
あの出立の時の感じをを思い出す。
少なくとも、国王派と宰相派が衝突するようなことはないと思う。
『こと、ここに至ってはもはや道は二つです。王と戦って望みを果たすか、反逆者として処刑されるかです。ならば選ぶ道は一つしかないでしょう。
それに、あの王もこう思っていますよ。いい機会だ、目障りな老人を排除してしまえ、とね』
ヴェレファルが言って宰相の表情が硬くなった。
仮面の口が笑う様に吊り上がる。
『そうです。王は貴方を処刑するでしょう。貴方に味方したすべての者もね。名誉は失われ、逆賊として貴方の首は晒されるのです。このように【დიდი ილუზია】』
畳みかけるようにヴェレファルが言って、広間に不意の景色が変わった。
王都の広場らしきところに設置された処刑台。そこに引きずり出される宰相や貴族たち。石畳に転がる首が映って、その景色がまた不意に消えた。
今のは幻影、というかこいつの黒魔法か。
「あの方はそんなことはされません、宰相殿!」
テレーザが叫ぶが。
『王陛下本人ならともかく、このような無関係な者の無責任な言葉が何の保証になるというのですか。
もう引き返すことはできないのですよ。ですが、安心してください。私だけは貴方を支えましょう。私だけが貴方の味方です。さあ、私の手を取りなさい』
仮面の下に籠手のようなものが浮かんでそれが宰相の前に差し出された。
「ふざけるなよ!風司の53番【風は姿なき者と侮る勿れ、集えば破城槌のごとく、高き城壁も砕く】」
刀を振り下ろす。
風の塊が刀に先から飛ぶが……籠手の前で吹き消されるように消えた。
仮面がこっちを向いた。
『宰相殿の決断の時なのですよ、ライエル。無粋はいけない。彼の決断を見守りなさい』
仮面が気取った口調で言う。
結界のようなものが貼られているのか……俺の風では届かない。
『躊躇う必要はないでしょう。貴方が本来受けるべきだった栄誉、地位を取り戻すのです。簒奪者の若造からね。貴方にはその権利があるのですよ』
宰相がこちらを見て、ヴェレファルの方を見る。
どうにか止めないと。
テレーザが詠唱を始めようとしたが、その前に部屋の一角から轟音が響いた。
◆
壁が砕けて白い破片が飛び散る。壁に飾られていた剣や絵が床に落ちる。巨大な氷の塊が壁をぶち破っていた。
氷の塊が砕けて団長とローランが部屋に入ってくる。
「無事のようだな、ライエル、テレーザ……宰相殿もおられるか」
『おやおや、団長殿までお越しとは。命令に犬の様に従うと思っていましたが、これもまた意外な行動ですね』
ヴェレファルが楽し気にいう。
『せっかくですから筋書きの変更をしましょうか……魔導士団の団長以下、ライエル、テレーザが姿を消した。
これは宰相の謀で、北に向かうように見せかけて何か企んでいるのでは……という噂を広めるのはどうでしょうかね。救国の英雄が一転追われる身になる。これもなかなか面白い』
噂を広める……異常な速さで遠征の話が拡散した理由が分からなかったが……こいつはそう言う黒魔法でも持っているんだろうか。
『さあ、宰相殿。貴方の状況は何も変わっていませんよ。
起死回生の援軍がきたとは考えない方がいい。この4人を殺す程度わけもないことです』
ヴェレファルが言う。同時に仮面が放つ気配が一変した。まるで空気の重みが増したような圧力。
団長が気圧されたように一歩下がる。こいつは……確かに強い。
仮面が薄笑いを浮かべるように動いて、宰相の方を向く。
『貴方の取る道は二つしかない。つまり、私と共に望みを果たすか、それとも、逆臣として処刑されるかです。どちらを選ぶべきかは……』
「浅ましい謀り事だな。魔族よ」
ヴェレファルの声を遮るように、よく通る声がホールに飛び込んできた。
「……だが無駄なことだ。卑しきものの小細工が通る例などありはしない」
団長が開けた壁の穴から何人かの鎧に身に固めた騎士が何人か部屋に入ってくる。そいつらが一糸乱れぬ礼をした。
その後ろから姿を現したのは、前にもみた赤いマントを纏った国王ジョシュア3世だった。
一番手近なバルコニーに下りたしがみついたままのテレーザが床に足を付けて安心したようにため息をつく。
風で飛び回るのは今は慣れたが、地面に足がついてないのは結構不安なのはわかる。
「行くぞ」
声を掛けると、テレーザが表情を引き締めて頷いた。
バルコニーからカーテンをくぐって部屋に入る。部屋は青と白の落ち着いた色の調度品が置いてあった。
広い窓から夕陽が差し込んできて部屋の中に長い影が伸びている。
外からは人外の悲鳴と氷が地面を割る音と、断続的に爆発音が聞こえてくる。団長達だろう。
だが、部屋の中も廊下からも何かが動く気配は感じない。
慎重にドアを開けて探知の風を飛ばすが、長い廊下には人の気配は全くない。
こういう屋敷には召使やメイド、衛兵がいるはずだが、全くいない。
廊下に出る。豪華な壁紙が貼られた廊下にはところどころに絵が掛けられていたり飾りの鎧が置かれている。
だが、まったく人の気配はない。豪華な分だけ空虚な感じだ。
ただ、重苦しい、魔族と戦っているときのような空気が満ちていた。
何もいない廊下の向こうから何かが飛び掛かってくるような感覚というか、魔獣の巣や群れに飛び込んだような感覚だ。
何かがいるのは間違いない……なんだかは分からないが。
「方向は分かるか?」
テレーザが口の中で小さく何かつぶやいて目を閉じた。
「……上だな」
テレーザが緊張した口調で言う。
手近にある綺麗に飾り付けられた螺旋階段を上るが相変わらず誰もいないが、長い廊下の奥の部屋から声が聞こえた。
一つは宰相の声だが……もう一人いる。
◆
「……どういうことだ。我が師団がなぜアルコネアになど!」
『私が命じておきました。あなたの代わりにね』
「なんのつもりだ」
『何を怒っているのですか宰相殿。貴方の望むようにしてあげたというのに。私は貴方の背を押しているのですよ』
「ふざけるな。こんなこと私は望んではいない」
『私の前で誤魔化す必要はありませんよ。貴方のことなら何でも分かっています。
貴方は王になりたかったのでしょう』
ダンスホールのような広い部屋だ。まえの王城の舞踏会場に似ているがよ少し狭い。
赤い絨毯が敷き詰められて壁には絵やタペストリーが飾られている。
部屋の真ん中には宰相がいた。
そしてその前には銀色の仮面のようなものが浮かんでいる。
「私は……お前たちを倒すためにあの師団を編成したのだ」
『そう、その通り。貴方は私を見ていち早く私を倒すためにあの師団を編成したのでしょう。分かりますよ。そして、彼らは実によく戦った。私の筋書き通りにね。
魔族を討ち倒す彼らと、貴方の卓越した先見性を見て、皆はこう思ったでしょう。王に相応しい見識を持つものは宰相である、と』
「……まさか」
『貴方の名を上げてあげたのですよ。これも貴方のため、友のためです。宰相殿』
今まで戦っていたのもこの誰かの思惑の内だったって言うのか。
「宰相殿!」
もう少し聞いて状況を把握したかったが……テレーザが叫んで部屋に入っていった。
宰相とその仮面がこっちを向く。
「君たちは……ライエルとテレーザか。なぜここに?」
『ほほう……君達はあの師団のものですね』
大袈裟な感じで仮面が声を発した。
白色の陶器のようにも見える。道化の様な笑うような曲線を描いた目。口の部分がケタケタと笑う様に動いていた。
『実に意外な行動だ……これは面白い』
「その割にはあんまり驚いてるって感じじゃないな」
『私からすれば、君達の行動はそよ風が少し吹いたという程度に過ぎません。君達人間の表現を借りるなら、予想外の展開もちょっとしたスパイスのようなものですよ』
仮面が楽し気な口調で言った。
「一体何者だ、貴様」
テレーザが鋭い口調で聞く。
『これは失礼しました。私はヴェレファル。宰相殿のお呼びにより参上した、宰相殿の友人です』
「違う!!」
『彼の望みはこの国の王だったんですよ。自分が王になるはずだったのに、なぜあの若輩者が自分を押しのけて王になったのだ。理不尽ではないか……そう思ったのです。その望みが私を呼び出した。
そして、私は彼の願いのために尽くしているのですよ、友人としてね』
ヴェレファルが滔々と言葉を紡ぐ。
サブノクもだが、意思の疎通が完璧にできている。あいつと同じ、別格の魔族なんだろう。
「違う!そんなことはない!」
『さあ、宰相殿。今頃、君の頼みの師団は北に向かって移動中です。
そして、王都では君を支持する貴族たちが貴方のために戦っているでしょう。もはや王との戦いは避けられません』
「そんなことはありません!」
あの出立の時の感じをを思い出す。
少なくとも、国王派と宰相派が衝突するようなことはないと思う。
『こと、ここに至ってはもはや道は二つです。王と戦って望みを果たすか、反逆者として処刑されるかです。ならば選ぶ道は一つしかないでしょう。
それに、あの王もこう思っていますよ。いい機会だ、目障りな老人を排除してしまえ、とね』
ヴェレファルが言って宰相の表情が硬くなった。
仮面の口が笑う様に吊り上がる。
『そうです。王は貴方を処刑するでしょう。貴方に味方したすべての者もね。名誉は失われ、逆賊として貴方の首は晒されるのです。このように【დიდი ილუზია】』
畳みかけるようにヴェレファルが言って、広間に不意の景色が変わった。
王都の広場らしきところに設置された処刑台。そこに引きずり出される宰相や貴族たち。石畳に転がる首が映って、その景色がまた不意に消えた。
今のは幻影、というかこいつの黒魔法か。
「あの方はそんなことはされません、宰相殿!」
テレーザが叫ぶが。
『王陛下本人ならともかく、このような無関係な者の無責任な言葉が何の保証になるというのですか。
もう引き返すことはできないのですよ。ですが、安心してください。私だけは貴方を支えましょう。私だけが貴方の味方です。さあ、私の手を取りなさい』
仮面の下に籠手のようなものが浮かんでそれが宰相の前に差し出された。
「ふざけるなよ!風司の53番【風は姿なき者と侮る勿れ、集えば破城槌のごとく、高き城壁も砕く】」
刀を振り下ろす。
風の塊が刀に先から飛ぶが……籠手の前で吹き消されるように消えた。
仮面がこっちを向いた。
『宰相殿の決断の時なのですよ、ライエル。無粋はいけない。彼の決断を見守りなさい』
仮面が気取った口調で言う。
結界のようなものが貼られているのか……俺の風では届かない。
『躊躇う必要はないでしょう。貴方が本来受けるべきだった栄誉、地位を取り戻すのです。簒奪者の若造からね。貴方にはその権利があるのですよ』
宰相がこちらを見て、ヴェレファルの方を見る。
どうにか止めないと。
テレーザが詠唱を始めようとしたが、その前に部屋の一角から轟音が響いた。
◆
壁が砕けて白い破片が飛び散る。壁に飾られていた剣や絵が床に落ちる。巨大な氷の塊が壁をぶち破っていた。
氷の塊が砕けて団長とローランが部屋に入ってくる。
「無事のようだな、ライエル、テレーザ……宰相殿もおられるか」
『おやおや、団長殿までお越しとは。命令に犬の様に従うと思っていましたが、これもまた意外な行動ですね』
ヴェレファルが楽し気にいう。
『せっかくですから筋書きの変更をしましょうか……魔導士団の団長以下、ライエル、テレーザが姿を消した。
これは宰相の謀で、北に向かうように見せかけて何か企んでいるのでは……という噂を広めるのはどうでしょうかね。救国の英雄が一転追われる身になる。これもなかなか面白い』
噂を広める……異常な速さで遠征の話が拡散した理由が分からなかったが……こいつはそう言う黒魔法でも持っているんだろうか。
『さあ、宰相殿。貴方の状況は何も変わっていませんよ。
起死回生の援軍がきたとは考えない方がいい。この4人を殺す程度わけもないことです』
ヴェレファルが言う。同時に仮面が放つ気配が一変した。まるで空気の重みが増したような圧力。
団長が気圧されたように一歩下がる。こいつは……確かに強い。
仮面が薄笑いを浮かべるように動いて、宰相の方を向く。
『貴方の取る道は二つしかない。つまり、私と共に望みを果たすか、それとも、逆臣として処刑されるかです。どちらを選ぶべきかは……』
「浅ましい謀り事だな。魔族よ」
ヴェレファルの声を遮るように、よく通る声がホールに飛び込んできた。
「……だが無駄なことだ。卑しきものの小細工が通る例などありはしない」
団長が開けた壁の穴から何人かの鎧に身に固めた騎士が何人か部屋に入ってくる。そいつらが一糸乱れぬ礼をした。
その後ろから姿を現したのは、前にもみた赤いマントを纏った国王ジョシュア3世だった。
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